マカロニえんぴつインタビュー|リアルを届けるロックバンドの良好すぎる関係

マカロニえんぴつがメジャー1stフルアルバム「ハッピーエンドへの期待は」をリリースした。

このアルバムには各ストリーミングサイトで大ヒット中の「なんでもないよ、」や、映画「明け方の若者たち」の主題歌である表題曲「ハッピーエンドへの期待は」、TBS系の報道番組「news23」のエンディングテーマ「ワルツのレター」といった多数のタイアップ曲、田辺由明(G, Cho)の好きなサウナやハードロックの要素が歌詞やサウンドに詰め込まれた「TONTTU」、はっとり(Vo, G)が提供したDISH//「僕らが強く。」のセルフカバーなどバラエティに富んだ全14曲が収録されている。

アルバムの制作エピソードについてメンバーに話を聞くと、収録曲へのこだわりだけでなく、ロックバンドとしての誇りや、今年結成10周年を迎える4人の良好な関係性も見えてきた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / YURIE PEPE

遊びで音楽をやるんじゃなくて、遊び心のある音楽を追求できる場所

──「ハッピーエンドへの期待は」をまず聴かせていただいて感じたのは、このアルバムには、バンドにしか生み出しえない空間や時間が色濃くパッケージングされているということでした。なので、まずお一人ずつ伺いたいのは、ご自身の人生や生活の中にマカロニえんぴつというバンドがあるということは、皆さんに何をもたらしていますか?

はっとり(Vo, G) 僕にとってマカロニえんぴつは、中にあるというより、外側に存在するものという感じですね。本当の意味で自分が抱えている情熱を、曲を作る段階では独り占めしたい。でも、それを放出しようと思えるのは、マカロニえんぴつという安心して表現を委ねられるチームがあるから。僕はそこにあぐらをかいている感じだと思います。もし、自分の内側にバンドがあったら、今のように音楽活動はできていないかな。バンドとの、ある程度の距離が僕にはあるんですよ。それはメンバーとの心理的距離というよりは、バンドそのものとの距離。やっぱり、支配しているんじゃなくて、参加していたいんですよね。最初は支配したいと思っていたけど、それじゃあうまく回らないことに気が付いた。

田辺由明(G, Cho) 僕の場合、音楽を始めたきっかけが、バンドに所属しているギターヒーローに憧れたからなので。「マイケル・シェンカーになりたい」と思ってギターを弾いてきたし、「バンドの中にいるギターヒーローになりたい」という思いがずっとあった。僕は今も、自分のことをハードロックギタリストだと思っているし、今回のアルバムでも、ハードロックライクなことはできている。そう考えると、マカロニえんぴつは、自分らしくいられる場所なんですよね。みんなのおかげで、僕はありのままでいられる環境を作れているなと思います。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

高野賢也(B, Cho) 僕は、親や知り合いにもよく言われるんですけど、私生活の僕と、音楽をやっているときのキャラって、全然違うんです。そう考えると、僕にとってマカロニえんぴつはもう1つのキャラでいられる、伸び伸びとしていられる場所なんだと思います。生活では息苦しいこともあるけど、マカロニえんぴつではそういう圧迫感から解放されて真剣に遊べる。遊びで音楽をやるんじゃなくて、遊び心のある音楽を追求できる唯一の環境なんですよね。フラストレーションを感じない環境だなと思うし、それが、気付いたら10年経っていた。あっという間の10年だったけど、すごく居心地のいい仲間とやれていて、幸せですね。

長谷川大喜(Key, Cho) 僕にとってマカロニえんぴつは、音を研究する楽しさを知った場所ですね。加入した当初の僕は、そこまで1つひとつの音にこだわっていなかったんですよ。音の作り込み方も知らなかったし、マカロニえんぴつに入って5年くらいは、ずっと同じ機材を使っていて。当時の僕はピアノの音を歪ませることがいいことだとは思っていなかったし、素音が一番いいと思っていた。でも、みんなが機材を変えたりしながら音を楽しんでいる姿に憧れて、僕も機材を買ってみたんです。自分以外の3人は音作りオタクだから(笑)。その境地にはまだ及んでいないんだけど、音を作り込む楽しさを知ることのできる研究所みたいなところなんですよね、僕にとってのマカロニえんぴつは。サウンドメイキングやフレーズの1つひとつに、楽しさを発見できる。このバンドに入って、「音楽に正解はない」という言葉の意味を知った気がします。

はっとりの監視がなくなった

──「ハッピーエンドへの期待は」は、前作「hope」から1年8カ月ぶりのフルアルバムとなりますが(参照:マカロニえんぴつ「hope」特集 はっとり(Vo, G)×奥田民生対談)、この期間を経て、マカロニえんぴつはどんなバンドになったと思いますか?

はっとり 僕らは、もともと何者でもないんです。だからこそ、制作をしているときは「こういうアプローチをしてみよう」とか、「ああいうバンドみたいなことをやってみよう」とか、そういうことばかり話をしている。僕らがやっていることって、「カッコいいロックバンドでいたい」ということでしかないと思うんですよ。ただ、今のチャートを見ると、本当にロックバンドがいないんですよね。ランキングに入ってこないし、名前があったとしても、僕にとってはマネしたいロックバンドじゃない。でも、もしも14才の自分が今回の俺たちのアルバムを聴いたときに、「すげえカッコいいロックバンドだ」と思う気がするんですよ。ちゃんとギターをうまく使っているし、楽器すべてがいい仕事をしている。純粋に、軽音楽の限界をまだ模索し続けているのが、マカロニえんぴつだと思います。その探求心は先人たちにもあったもので、憧れに少しずつ近付いているかなって。なので、僕らはほかのアーティストと比較して、特別なことをしているわけでも、新しいことをしているわけでもないんです。どちらかというと、先人の教えを守ったり、ちょっと変えたりしているだけ。このアルバムを出すにあたって「hope」を改めて聴いたんですけど、比べてみるともちろん、サウンド的には進化している一方で、ちょっとやりすぎた曲もある(笑)。

──どの曲かはわかります(笑)。

はっとり まあでも、それは今の僕らのモードだから(笑)。今出したものが、一番いいと思うし、前よりダサくなってなけりゃいいかなという感じですね。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

──それこそ、「生きるをする」や「メレンゲ」「はしりがき」「トマソン」のようなシングル曲は、アルバムに収録されることで新鮮な響き方をしているなと思いました。それに、これらの楽曲はタイアップ曲でもありますが、どの曲も改めて聴くとすごく挑戦的な曲だし、生き様や思考の変遷が生々しく歌われている曲が多い。メジャーデビュー以降のマカロニえんぴつは、世の中から求められるものに対して、「マカロニえんぴつであること」を守り通した期間でもあったのかなと思いました。

はっとり 「自分らしくいよう」って円陣を組んで、言い聞かせたわけではないんです。どちらかと言えば、注目されているうちに全部やっちゃおうっていう(笑)。僕らはなかなか世間に相手にしてもらえない期間があったので、期待されていること自体がうれしいんです。それに、聴いている人にとって、出会ったタイミングの俺たちがその人にとってのマカロニえんぴつのすべてなら、こっちを向いてくれているうちに全部を出しておかないといけない。なので、この1年はたくさんタイアップをいただいて、要望によっては真っ当なJ-POPを作るべきタイミングもあったのかもしれないけど、曲の2番以降であえてプログレッシブにしてみたり、あえて楽器を多く使ってみたり……それは、できることをひけらかしたいのもあるし、ポップネスにバランスよく曲をパッケージングできることも証明したかったっていうのもあるし、何よりレコーディングに入ったら面白いことをしたいんですよ。音作りでいえば、安定感のあるものを繰り返し作っても刺激がないですから。歌詞に関しては僕のパーソナルなものなので、その都度、心情の変化はあると思うし、そういう意味での生々しさはあると思いますね。

──「hope」を聴き返されたということですけど、当時と比べて歌詞に変化を感じることはありますか?

はっとり 大きくは変わっていないです。自分のスタイルって、25歳くらいの頃に大枠ができちゃっているから。それは、実は悲しいことなのかもしれないけどね。ただ、「なんでもないよ、」や「キスをしよう」では、人のことを信じられている気がする。それは変化かもしれないですね。「hope」の中だと、例えば「たしかなことは」なんて、好きな相手のことを疑っているんですよね。「hope」の頃は、疑って、「それでも、いいや」と割り切っている主人公が多かったかもしれない。でも「なんでもないよ、」「キスをしよう」だと、完全に信じている。そうやって主人公が甘えられるようになっているのかなって思います。歌詞の中の人間の心が、完全に丸くはなっていないけど、柔らかくはなっているのかもしれない。

田辺 確かに、前は第三者が俯瞰で見ているような歌詞が多かった気がしていたけど、「なんでもないよ、」とか「キスをしよう」は、目の前に人がいることが想像できる歌詞だよね。

高野 はっとり自身、前は「こうなりたい」とか、「こうでなくちゃダメだ」っていうスタンスだったのが、「これでもいいんじゃない?」という考え方に変わってきたような。こだわりをあまり強く持たなくなっているのかなと思います。柔らかさっていうのも、跳ね返さない柔らかさじゃなくて、ぽんっと受け止めて弾ませるような柔らかさというか。歌詞も、改めて読むと昔と変わっているなと感じるし。レコーディングも、昔はずっと張り付いて見ていたけど……。

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

はっとり 昔は監視していたからね(笑)。

田辺 「昨日と音、変わっただろ?」みたいな(笑)。

長谷川 「hope」の前くらいまでは特に、レコーディングもはっとりくんの正解に近付けていく側面もあったからね。

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

高野 でも、最近は1回録り終えたものを確認してもらうっていう流れだし、バンド内でのプレッシャーがなくなったというか、気が楽になりました(笑)。

はっとり もう、リーダーの座を賢也に譲ったからね。