LUNA SEA特集|前代未聞のリバイバルツアーを音楽ライター3名が徹底解説 (3/3)

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA SHINING BRIGHTLY」解説

文 / 西廣智一

メンバーがそれぞれソロ活動に注力した1年間の充電期間を経て、1998年よりバンドとして活動再開したLUNA SEA。RYUICHIが河村隆一名義でソロヒットを連発したことも大きく、LUNA SEAが1998年にリリースしたシングル3作(「STORM」「SHINE」「I for You」)はどれも大ヒットを記録し、同年発表されたオリジナルアルバム「SHINE」はミリオンセールスという、彼らのオリジナルアルバムとしては最大のヒット作となった。

そんな1枚を携え、同年9月から全国26カ所33公演を行い、計15万人を動員したのが「SHINING BRIGHTLY」と題されたツアーだ。音源としてクオリティの高い楽曲群のそろったアルバム「SHINE」だったが、若干ソフトさが伝わるテイストだったこともあり、これらの楽曲がツアーを通してどこまで生々しさを帯び進化していくのか。また、それぞれがソロ活動から持ち帰った経験がバンドとしてどんな化学反応を生み出すのか。LUNA SEA第2章を占うという意味でも、非常に重要なツアーだったことは間違いない。

当時の筆者は「SHINE」という作品集に対してポジティブな評価を下せずにいたが、このツアーを生と映像の両方で体験し、ライブでどんどん育っていく新曲たちを前に「やっぱりこのバンドはすごい! この楽曲たちは最高だ!」と再認識させられたことを、昨日のことのように強く記憶している。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA SHINING BRIGHTLY」大宮ソニックシティ公演の様子。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA SHINING BRIGHTLY」大宮ソニックシティ公演の様子。

この「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA」というツアーが発表された際、個人的にもっとも注目したのが「SHINING BRIGHTLY」だった。2024年のLUNA SEAが「SHINE」の収録曲をどう表現するのか、そしてバンドの大きな転換期と重なるツアー「SHINING BRIGHTLY」が26年の時を経た2024年にどのように再現されるのか。バンドとして、ミュージシャンとしてより脂が乗った今の彼らだからこそ一番観てみたかったのが、この「SHINING BRIGHTLY」だったのだ。

実際、アルバム同様に秒針の音とJの歪んだベースフレーズがオープニングを飾る「Time Has Come」から、とてつもなくシリアスな空気が会場を包んでいく。埼玉・大宮ソニックシティというオーディエンスとの距離感が程よい環境も相まって、ステージ上の5人が放つヒリヒリする緊張感は何物にも変え難い特別なものがあり、Jと真矢が生み出すタイトなグルーヴに、SUGIZOとINORANがそれぞれ役割の異なるギタープレイで楽曲に彩りを加えていく流れは圧巻だ。RYUICHIのボーカルはまだ完全体に至っていないものの、随所で鬼気迫る歌声が響く。まさにミュージシャンとしての生き様がダイレクトに表現されたこのオープニングは、過去にLUNA SEAが行ってきたツアーの中でもベストアクトの1つだと断言したい。

真矢(Dr)

真矢(Dr)

J(B)

J(B)

SUGIZO(G)

SUGIZO(G)

開放感の強いアッパーチューン「Déjàvu」で会場の雰囲気が一変すると、以降は「SHINE」収録曲を軸に、緩急に富んだステージを展開。RYUICHIが歌わないことで曲中にぽつぽつと空いた隙間を、ほかのメンバーやSLAVEたちが歌や声援など思い思いの形で埋めていく様も、実に今のLUNA SEAらしい。1音1音に重みと深みが加わったことで、「Unlikelihood」や「MILLENNIUM」といったアッパーチューンは攻撃力を増し、「VELVET」や「BREATHE」のようにムーディな楽曲はかつてないほどのディープさを醸し出す。さらに、「Providence」からの流れで奏でられるプログレッシブな「ANOTHER」では、1998年当時に彼らが表現したかった音楽を2024年の技術とテクノロジーで完成へと導くという、その奇跡の瞬間を目の当たりにすることができる。特にこの曲でのRYUICHIのボーカルは、今の彼だからこその悲痛な叫びのようにも響き、何度も鳥肌が立った。そんな濃厚な瞬間があるからこそ、ライブ後半に固められた代表曲の数々や「SHINE」からのヒットシングルとの対比がより際立ち、ラストで演奏される「UP TO YOU」のポジティブなパワーがこれ以上ないほど輝かしい未来を予感させてくれる。

1998年当時以上にメリハリの効いた演奏とパフォーマンスからは、結成35周年という大きな節目を経てもなお進化を続けるLUNA SEAの“今”を再認識できることだろう。そんな本映像作品は、筆者のようにあの頃「SHINE」という作品に対して不信感を覚えたリスナーにこそ触れていただきたい。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA BRAND NEW CHAOS」解説

文 / 西廣智一

アルバム「SHINE」の大ヒット、同作を携えた全国ツアー「SHINING BRIGHTLY」と3年ぶり、かつ初の2DAYSで実施された東京ドーム公演の開催、初めての「NHK紅白歌合戦」出場と、再始動した1998年を最良の形で終えたLUNA SEA。翌1999年は初のアジアツアー(1月開催)や東京・東京ビッグサイトで実施された伝説の10万ライブ「LUNA SEA 10TH ANNIVERSARY GIG [NEVER SOLD OUT] CAPACITY ∞」(5月開催)、東京ドームで行われたGLAYとの対バンライブ(12月開催)とライブ活動が続く中、彼らは約1年というバンド史上最長の制作期間をかけてアルバム作りに臨んだ。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA BRAND NEW CHAOS」大宮ソニックシティ公演の様子。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA BRAND NEW CHAOS」大宮ソニックシティ公演の様子。

こうして2000年7月に日の目を見たのが、通算7枚目のオリジナルアルバム「LUNACY」だ。1曲1曲の完成度の高さはもちろん、バラエティの豊かさも前作「SHINE」を軽く凌駕するなど、早くも第2の絶頂期に突入したことが伺える同作を引っさげ、バンドは「BRAND NEW CHAOS」と題したツアーをスタートさせる。従来の代表曲やライブ定番曲を控えめに、アルバム「LUNACY」と同作からのシングルのみに収録されたカップリング曲を中心に展開された攻めのセットリストは、新作に対するバンドの強い自信が伺えたが、同年11月にLUNA SEAは“終幕”を発表。翌12月の東京ドーム2DAYS公演をもって約11年にわたる活動に一度終止符を打つことになる。

初期のダーク&ゴシックなテイストとは異なる、2000年という時代性やその当時の音楽シーンと向き合った現在進行形のサウンドで勝負したこの頃のツアーは、旧来のLUNA SEAのイメージを塗り替えながらさらに前進していくという、バンドとしての矜持がひしひしと伝わるものだった、と筆者は記憶している。ある意味では実験的とも受け取ることができたこのツアーの先に、どんな未来が待っているのか、その点に期待していただけに終幕は残念でならなかったが、2000年当時の試みを今のLUNA SEAだったらどう調理するのかも、“REBOOT”以降は常に気になっていた。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA」のピースの1つとして現在によみがえった「BRAND NEW CHAOS」では、今のLUNA SEAらしさと2000年当時のLUNA SEAが絶妙なさじ加減でリンクし、筆者の美化された過去の記憶を見事に上塗りしてくれた。

RYUICHI(Vo)

RYUICHI(Vo)

INORAN(G)

INORAN(G)

前ツアー「SHINING BRIGHTLY」(ここでは前日の大宮ソニックシティ公演)のラストを飾った「UP TO YOU」で予感させた輝かしい未来を具現化させたような「Be Awake」で始まる本ライブ。華やかさ際立つオープニングからアルバム同様にグルーヴィなヘビーチューン「Sweetest Coma Again」に突入し、以降も艶やかなミドルナンバー「KISS」や「FEEL」、前のめりなアッパーチューン「My Lover」、独特の浮遊感で聴き手を異世界へと誘う名曲「gravity」など、常に時代と戦い続けてきたLUNA SEAというバンドのチャレンジャーとしての姿勢と、35周年を迎えた王者の余裕が混在するステージをたっぷり楽しむことができる。原曲以上に重々しかったり軽やかだったりと変幻自在なビートを繰り出す真矢、そのリズムに歌うようなベースラインを絡ませていくJ、攻撃的な演奏の中に宇宙を感じさせるフレーズを織り混ぜるSUGIZO、存在感の強いアルペジオやギターストロークで異彩を放つINORANと、楽器隊の円熟味もさることながら、前日の「SHINING BRIGHTLY」での疲れをまったく感じさせない、今の状態で最良のパフォーマンスを叩き付けるRYUICHIのボーカルも圧巻のひと言。ささくれ立った棘と木綿のような心地よさ、濃密な世界へと誘う深みとさまざまな歌声を使い分けることで、アルバム「LUNACY」期の楽曲群の最新形を見事に具現化させていく。中でも、10分近くにおよぶ大作「VIRGIN MARY」での“表現者RYUICHI”の生き様がダイレクトに反映された迫真のボーカルと、彼に負けず劣らずのエモーショナルさで各々の音を鳴らす楽器隊の“静かなバトル”は、本公演のハイライトではないだろうか。

2000年当時はアルバム「LUNACY」およびツアー「BRAND NEW CHAOS」の“先”は決して見ることができないと思っていただけに、そこから24年後に「BRAND NEW CHAOS」の再現ライブを観ることができるなんて、あの頃は想像もできていなかった。2010年の“REBOOT”以降も新作やツアーを通して、その輝きを未来につなげ続けている今のLUNA SEAだからこそできる、時代と時代をつなぐ(=ERA TO ERA)このライブ映像。現在につながるJ-ROCKの礎なのはもちろんのこと、結成40周年という新たな節目へ向けて歩き出そうとしているLUNA SEAの未来を占ううえでも重要な作品になることだろう。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA BRAND NEW CHAOS」大宮ソニックシティ公演の様子。

「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA BRAND NEW CHAOS」大宮ソニックシティ公演の様子。

プロフィール

LUNA SEA(ルナシー)

RYUICHI(Vo)、SUGIZO(G, Violin)、INORAN(G)、J(B)、真矢(Dr)からなるロックバンド。1989年に現編成での活動を開始し、1991年にYOSHIKI(X JAPAN)主宰の「Extasy Records」から1stアルバム「LUNA SEA」をリリースする。翌1992年に2ndアルバム「IMAGE」でメジャーデビューを果たした。1994年のシングル「ROSIER」がロングヒットを記録し、東京ドームや横浜スタジアムなどでライブを行うなど日本を代表するロックバンドへと成長する。しかし2000年11月に“終幕”を発表し、同年12月26、27日に行われた東京ドーム公演をもってバンドの歴史に幕を下ろした。終幕以降も各メンバーはソロアーティストとしてのキャリアを重ね、精力的な音楽活動を展開。2007年12月24日に東京ドームで一夜限りの復活ライブを行い、このライブをきっかけに2010年8月に“REBOOT”と称して本格的な再始動を発表した。結成25周年を迎えた2014年5月29日には国立代々木競技場第一体育館でスペシャルライブ「LUNA SEA 25th ANNIVERSARY LIVE -The Unfinished MOON-」を実施。2015年6月には主催フェス「LUNATIC FEST.」を千葉・幕張メッセで行い大成功を収める。2018年6月に2回目の「LUNATIC FEST.」を開催。12月には埼玉・さいたまスーパーアリーナでメジャーデビューアルバム「IMAGE」と、メジャー第2弾にして通算3枚目のアルバム「EDEN」をフィーチャーした内容の2DAYS公演を行った。2023年10月より過去のツアーを再現する「DUAL ARENA TOUR」をスタート。結成35周年を迎えた2024年には、再び過去のツアーを再現するツアー「ERA TO ERA」シリーズを展開した。2025年2月にアニバーサリーイヤーを締めくくる東京ドーム公演を行った。