先日結成35周年を締めくくる東京・東京ドーム公演「LUNATIC TOKYO2025」を成功裏に終えたことでも記憶に新しいLUNA SEA。大きな節目を飾るライブを終えたばかりの彼らだが、SLAVE(LUNA SEAファンの呼称)を喜ばせる活動は続く。その第1弾となるのが、2月26日、3月12日、3月26日にリリースされる、リバイバルツアー「DUAL ARENA TOUR」および「ERA TO ERA」映像作品のリリースだ。
2023年10月にスタートした「DUAL ARENA TOUR」、2024年5月にスタートした「ERA TO ERA」は、LUNA SEAが2000年12月の“終幕”前に発表したアルバムのリリースツアーを、今の彼らが再現するという前代未聞のリバイバルツアー。過去と現在のLUNA SEAをつなぎ、同時にメンバーの現役ぶりを証明するその内容は、過去を知るSLAVEはもちろん、“終幕”後に生まれたであろう若いSLAVEたちをも熱狂させた。音楽ナタリーでは一連のリリースに合わせて連載特集を展開。第1弾として計6タイトルの映像作品を、LUNA SEAへのインタビュー経験もある後藤寛子氏、森朋之氏、西廣智一氏という3名の音楽ライターが解説する。
「DUAL ARENA TOUR 2023 MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」解説
文 / 後藤寛子
始まりは、2018年12月に埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催された「IMAGE」「EDEN」の再現ライブだった。ただ過去を振り返るだけでなく、当時と現在をリンクさせながらバンドの進むべき道を見出す。その刺激に手応えを感じた5人は、再録と全国アリーナツアーという本気の態勢でモンスターアルバム「MOTHER」「STYLE」と向き合うことを選んだ。
1994年に発表された4thアルバム「MOTHER」は、ライブで欠かせないキラーチューン「ROSIER」や、タイアップなしでオリコンチャート初登場1位を獲得した「TRUE BLUE」など、今なお愛され続ける名曲がそろった歴史的名盤だ。本作を起爆剤にLUNA SEAはシーンを駆け上がり、アルバムツアーは最終的に初の東京ドーム公演「LUNATIC TOKYO」にたどり着く。バンドの歴史の中でも激動の時期だったと言っていいだろう。
当時の自分たちと対峙して2023年に生み出された再録アルバム「MOTHER」は、渦巻くエネルギーを核に、“終幕”と“REBOOT(再始動)”、コロナ禍、さらにRYUICHI(Vo)の活動休止からの復活などを通して強靱に進化したLUNA SEAの覚悟と情熱が燃えたぎる作品となった。そして、1995年にホールツアーとして行われた「MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」を、全国アリーナツアーにスケールアップして再現し、「STYLE」と合わせて全国5都市を駆け抜けた。「DUAL ARENA TOUR 2023 MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」には、12月30日に大阪城ホールで開催された「MOTHER」のファイナル公演が収録されている。
ライブの幕開けは、もちろん「LOVELESS」だ。イントロとともに下からぐるりと照明が立ち上がり、オーロラ色に染まるステージにトリプルネックギターを持ったSUGIZO(G)のシルエットが浮かび上がる。そのままSUGIZOのロングトーン、INORAN(G)の12弦ギターのアルペジオと真矢(Dr)のバスドラ、J(B)のベースライン、そしてRYUICHIの歌声が重なり、鉄壁の五角形が完成する瞬間の昂揚感は幾度経験してもたまらない。このオープニングの演出は、「MOTHER」ツアーのみならず、多くのメモリアルなライブを彩ってきた。アウトロの残響を断ち切るように2曲目にアグレッシヴな「PRECIOUS...」「JESUS」へとつなぎ、SUGIZO、J、INORANがステージ端へ駆け出していく──という流れもLUNA SEAのライブではおなじみの光景。「MOTHER」はアルバムとしてLUNA SEAの金字塔であるとともに、本作を携えてのライブはのちの“LUNA SEAらしさ”を象徴するものを多く形作った。
例えば「FACE TO FACE」のヘビーかつ驚異的なグルーヴ。5人の力がバチバチに拮抗し、今にも爆発しそうな緊張感を持って会場ごと宇宙にトリップするような感覚はLUNA SEAのライブの醍醐味だ。その気迫は年月を重ねた分だけ強まり、大阪城ホールでの「FACE TO FACE」はツアー初日と比べても確実に進化していた。映像で観ると、メンバーがどんな表情でステージに渦巻くグルーヴを体感しながら1音1音を奏でているのかがわかるので、一瞬たりとも見逃せない。
そこからスピードチューン「CIVILIZE」、浮遊感あふれる「RAIN」を経て、壮大な長尺曲「GENESIS OF MIND ~夢の彼方へ~」がライブの核を担う。再びトリプルネックギターを持ったSUGIZOに息を合わせるようにINORANが音色を重ね、胸で十字を切ってベースを弾き始めたJとともに真矢がビートを巧みに操る。RYUICHIは、ひざまずいたり腕で目隠しをしたりながら自らの世界に没頭して歌う。どこを切り取ってもドラマチックだ。この曲は1994年当時RYUICHIが亡き親友に向けて詞を書いたということもあり、近年経験した別れを思い返した人も多かっただろう。特に2023年12月というタイミングにおいては、メンバーを含め、会場にいる多くの人が抱えたどうしようもない哀しみに共鳴し、言葉で形容しがたい力をはらんでいた。あの空間が、こうして映像作品に残されたことがうれしい。
恒例の「真矢!」コールで会場がひとつになるドラムソロを挟み、後半戦はLUNA SEAのアグレッシブサイドが全開になっていく。インディーズ時代の楽曲「FATE」ではステージ上のカメラがメンバーを至近距離で捉え、「IN FUTURE」「BLUE TRANSPARENCY 限りなく透明に近いブルー」では「LUNATIC TOKYO」の映像がクロスオーバーする演出も。SUGIZOのエナメルパンツやJの白シャツ&ベストというスタイリングが当時とシンクロしエモーショナルになると同時に、変わらぬメンバーのシルエットに驚かされる。そのまま「TIME IS DEAD」「ROSIER」とボルテージを上げ続け、アンコールに突入。少しラフなモードになったメンバー同士の絡みや笑顔が増え、一瞬一瞬が名シーンの連続だ。
ラストは、タイトルナンバーにして不朽のバラード「MOTHER」。1996年の神奈川・横浜スタジアムライブ「真冬の野外」のオマージュか、全員が白い衣装で統一し、ひときわ荘厳な空気になる。そもそも20代でこの楽曲を生み出したセンスと技術もすさまじいのだが、50代のメンバーが演奏するうえで味わえる深みと説得力は今ならではのもの。研ぎ澄まされた美しさだけでなく、LUNA SEAの歴史をまるごと包み込むような愛にあふれたバンドアンサンブルが心に染みわたった。
終演を迎えた5人は晴れやかな表情で、再現ツアーという挑戦の手応えを噛み締めているように見えた。キャリア2度目の「MOTHER」ツアーファイナルは、再びバンドの起爆剤となったに違いない。
「DUAL ARENA TOUR 2023UN ENDING STYLE」解説
文 / 後藤寛子
2023年は「DUAL ARENA TOUR 2023」と銘打って、初日は「MOTHER」、2日目は「STYLE」を再現するというスケジュールで全国を回ったLUNA SEA。「MOTHER」とともによみがえった5thアルバム「STYLE」は、「MOTHER」での大ブレイクを経て、文字通りLUNA SEAだけのスタイル=美学を突き詰めた作品だ。本作を引っさげた1996年のツアー「UN ENDING STYLE」のファイナルとなった横浜スタジアムライブ「真冬の野外」で、LUNA SEAは1年間の活動休止を宣言することになる。一度立ち止まることを余儀なくされるほど、当時のすべてを注ぎ込んだアルバムなのだ。
それゆえオリジナル盤は全体的に緊迫感が漂っているが、2023年の再録盤では、楽曲の世界観がより深く濃く熟成された印象がある。オリジナル盤がひとつの完成形であることは前提として、現在のメンバーのキャリアとスキルを反映する音楽的余白が「MOTHER」よりもやや大きかったのかもしれない。その化学反応はライブでも起き続け、ツアーを通してどんどん進化していた。
「DUAL ARENA TOUR 2023 UN ENDING STYLE」に収録されているツアーファイナルの大阪城ホール公演は、カウントダウンライブとして2023年12月31日に開催された。翌2024年にLUNA SEAが41本もの全国ツアーを行うことをまだ知らない観客は、LUNA SEAが2023年をどう締めくくり、どんな2024年を迎えるのかという期待を胸に会場に集まっている。カウントダウンライブの開催が13年ぶりということもあり、一夜限りのエネルギーが渦巻くライブとなった。
「STYLE」は、レコードノイズとザラついた音像が印象的なラブソング「WITH LOVE」で幕を開ける。ロックバンドのアルバム1曲目としてはかなり意表をつくオープニングだが(そこがLUNA SEAらしくもある)、ライブで聴くとまったく違うよさがある。「せめて…」で始まるRYUCHIの歌から、特に現在のLUNA SEAの音にかなりマッチし、赤い緞帳を模した背景映像も相まって、まるでジャズバーかのような雰囲気だ。その余韻に酔いしれていると、急転直下でアグレッシヴな「G.」になだれ込むギャップもたまらない。ここから、LUNA SEAの野性が剥き出しになっていく。
開演時点で22時という時間帯のせいか、「我がメンバーたちよ、飛ばしていくぞ!」と、RYUICHIも語気が荒い。高まるテンションは、ハードコアナンバー「1999」を挟んでディープな闇へと方向転換し、ミディアムバラード「Ray」からの「RA-SE-N」へ。1996年のツアーや「真冬の野外」はもちろん、2007年の一夜限りの再結成ライブ「One Night Dejavu」などでもハイライトシーンを作ってきた名曲が、2023年のツアーを通してさらにネクストレベルへと“覚醒”していた。
淡々と空間を支配する真矢とJのリズム、正確無比なINORANのリフ、自由自在に暴れるSUGIZOのギター。その中央で、内なる狂気を声に宿すRYUICHI。喉の手術を経て万全の状態ではないからこそ一声一声にこもる気迫がすさまじく、特にSUGIZOの前に膝を付いてギターソロと呼応するように叫ぶシーンは何度観ても心を鷲づかみにされてしまう。「もっと傷ついても もっと強く傷ついても」「ありのままに果てる日まで」──挑戦を続け、自分たちのスタイルを貫く。1996年から2023年、そして今現在に至ってもなお変わらないLUNA SEAの信念が突き刺さる。
INORANのコーラスが加わって新たな魅力が開花した「SELVES」や、1996年より格段にパワーアップした真矢とJのリズムセッション「BACK LINE BEAST」、「今夜、伝説を越えていこうぜ!」とRYUICHIが叫んでなだれ込んだ鬼気迫る「HURT」、2024年の幕開けとともに銀テープが降り注いだ「WISH」など、名シーンを挙げればキリがないのだが、やはり「FOREVER & EVER」に触れないわけにはいかない。1996年のツアーでもラストに披露され、「真冬の野外」では活動休止を告げたあとにライブの締めくくりとして届けられた1曲だ。
「最後に俺たち5人から、魂を込めて、次の曲を贈りたいと思います」とRYUICHIが告げて曲が始まった瞬間、背景のビジョンには「真冬の野外」の映像が。それだけでもエモーショナルなところ、両サイドのビジョンにはリアルタイムの映像が流れ、両者の画角がシンクロするという演出で過去と現在が交差していく。あの頃の彼らは何を思い、活動休止を選んだのか。今の彼らは何を思い、進み続けるのか。壮大なサウンドに身を委ねながら思いを馳せた。
時代の流れは止めることはできない。永遠に変わらないものはない。それは残酷な事実であると同時に、「いつか再び出会える」という希望でもあるのかもしれない。ただひとつ確かなのは、「FOREVER & EVER」という曲は、重ねた思いの数だけ、重ねた時間の数だけ、輝きを増すということ。真矢のマーチングビートに祈りのようなJの語り、INORANのアルペジオが寄り添い、SUGIZOのギターソロとRYUICHIの絶唱がすべての感情を昇華して解き放つ。演奏を終え、真っ白な光に包まれたステージに立つ5人はまっすぐ未来を見据えていた。
大きな確信とともに2024年の扉を開いたLUNA SEA。過去と現在を行き交う彼らの旅は、“終幕”前のすべてのアルバムを巡る「35th ANNIVERSARY TOUR ERA TO ERA」につながっていくことになる。