「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA IMAGE or REAL」解説
文 / 森朋之
「LUNA SEA 35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA -EPISODE 2- "IMAGE or REAL"」。1992年に開催された“IMAGE or REAL”を2024年のLUNA SEAが表現したライブ(2024年8月24日の東京・東京ガーデンシアター公演)を完全収録した映像作品だ。
1992年のLUNA SEAはメジャーデビュー直後。2作目のオリジナルアルバム「IMAGE」とともに、さらに広いフィールドへと突き進もうとしていた時期だ。メンバーは20代前半だった。それまでよりもいい環境で制作できる体制が整い、メンバー全員が持てるものすべて注ぎ込んで生み出された「IMAGE」は、30年以上経った現在においても驚くほどに刺激的な作品である。ヘヴィメタル、ニューウェイブ、パンクなど幅広い要素を取り入れながら、耽美にして激しいロックミュージックへと結実させる。そのトライアルは結果として、アンダーグランドとメジャーシーンの架橋的な役割を果たしていると思う。
「IMAGE or REAL」は2018年にも再現ライブが行われたが、2024年版は1stアルバム「LUNA SEA」と「IMAGE」の楽曲だけで構成。初期の楽曲を今の5人──30数年分の技術、センス、経験を積み重ねて、研鑽を続けているLUNA SEAがパフォーマンスする、超レアなステージが実現したというわけだ。
初期から現在に至るまで、LUNA SEAのライブアンセムの1つとして知られる「Déjàvu」で幕を開ける本作。まず印象的だったのは、アルバム「IMAGE」の音像がさらに高い精度で体感できたこと。それを象徴しているのが、2曲目に演奏された「MECHANICAL DANCE」。インディーズ時代から存在していたというこの曲は、初期のLUNA SEAの特長でもあった“歪んだ美しさ”をダイレクトに体現している。さらに向上した演奏スキル、サウンドメイク、音響システムによって、激しくも耽美的な世界観が広がるシーンは、本作の最初のハイライトだろう。「Image」のアンサンブルも素晴らしい。サウンドの基調を担っているのは、INORANのアコースティックギターの響き。Jのベース、真矢のドラムはストイックに楽曲のボトムを支え、SUGIZOがドラマチックなギターソロを奏でる。壮大な退廃性と称すべきアンサンブルを全身で感じながら、目を閉じて「IMAGE or REAL」のリフレインを描き出すRYUICHIの姿も心に残る。
人気曲「WALL」のエンディングでは、SUGIZOがギターをバイオリンに持ち替え、クラシカルな旋律を響かせる。このスタイルもまたLUNA SEAのオリジナリティであり、我々は当たり前のように堪能しているわけだが、“メジャーデビュー直後からバイオリンをバンドに取り入れていた”という事実はやはり驚きに値する。当初から彼らは、既存のロックバンドのフォーマットを超えようとしていたし、果敢なトライ&エラーを繰り返してきたからこそ、現在においても確固たる独創性を生み出し続けているのだ。
ライブ前半でもう1つ記しておきたいのは、「VAMPIRE'S TALK」におけるRYUICHIのボーカルだ。濃密な感情表現と高いテクニックの両方を求められるこの曲を彼は、全身全霊で熱唱。2022年に声帯の手術を受けたRYUICHIは、その後のライブを通し、確実に快復の道をたどっている。そのことを改めて実感することができた。
ライブ後半では、「CHESS」「TIME IS DEAD」など1stデモテープ「LUNACY」の楽曲が続けざまに披露された。ビートが速く、ギターが激しくかき鳴らされるアッパーチューンが中心でありつつ、ここでも彼らは奥深いアンサンブルを響かせていた。20代前半の頃は性急で刹那的なイメージもあったLUNA SEAだが、現在はそうではなく、速い曲、ラウドな曲の中にもどこか豊かさが感じられるのだ。その根底にあるのは、メンバー同士の精神的なつながり。本編ラストの「PRECIOUS…」における、RYUICHI、SUGIZO、J、INORANがステージの中央に集まる瞬間は、そのことを明確に証明していると思う。
アンコール1曲目の「MOON」では、青と白のレーザーが舞台を照らし出し、まさに月夜を想起させる雰囲気を作り出す。壮大で深遠、どこかミステリアスな手触りを備えた音像、静寂ないイメージから少しずつ高揚感を増してく演奏も素晴らしい。照明や演出、メンバーのパフォーマンスが有機的に結び付き、LUNA SEAならではの世界観を体現する。そのクオリティは言うまでもなく、30数年の時を経て、さらなる進化を遂げている。もちろん彼ら自身も、初期の楽曲を“今”の自分たちの手でよみがえらせることに大きな喜びを感じていたはずだ。
「過去に行ったら、未来があったんだよ。当時の俺たちの楽曲、アルバムツアーって、すべてが新しかったんだなって、再確認して。“ああ、時代が追い付いたぞ”みたいなね」
ライブのMCの中で、そう誇らしげに語ったRYUICHI。この言葉通り、アルバム「IMAGE」の時期のLUNA SEAは極めて先進的、革新的だった。「今だったらわかるだろ? このアルバムのすごさが」。ライブ映像を介して、彼らにそう言われてるような気がした。
「35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA SEARCH FOR MY EDEN」解説
文 / 森朋之
「変わらないものと、進化して必ず突き抜けていくものがLUNA SEAにあったことを今日は確信しました」
2024年8月25日に行われた「LUNA SEA 35th ANNIVERSARY TOUR 2024 ERA TO ERA『SEARCH FOR MY EDEN』」東京ガーデンシアター公演の最後に、RYUICHIはこう語った。LUNA SEAというバンドの在り方、そして、このライブを読み解くにあたって、大きな鍵になる言葉だと思う。
「ERA TO ERA SEARCH FOR MY EDEN」は、1993年に行われたツアーを現在のLUNA SEAが表現した公演だ。メジャー2作目、通算3作目のアルバム「EDEN」(1993年リリース)には、シングル「BELIEVE」「IN MY DREAM (WITH SHIVER)」を含む11曲を収録。このアルバムから作詞、作曲、編曲のクレジットが「LUNA SEA」に統一されたことからもわかるように、SUGIZO、J、INORANが提示した原曲をメンバー全員で形作った本作は、「IMAGE」(1992年リリース)以上の音楽的クオリティが追求されている。大ブレイク直前のエナジーと創造性が凝縮された本作は、古参ファンからも高い評価を獲得した。このアルバムを現在のLUNA SEAが再解釈しアップデートさせたのが、映像化された東京ガーデンシアタ—公演であり、その成果は本公演のすべてをシューティングした映像作品で体感できる。
ライブはアルバム「EDEN」の1曲目に収められた「JESUS」で始まる。ミラーボールが放つまばゆい光の中、ステージに立つ5人。「Jesus don't you love me」というRYUICHIのシャウト、爆発力と推進力を兼ね備えた真矢のドラム、そして、空間を切り裂くSUGIZOのギターリフ。さらにJのグルーヴィなベースラインとINORANの鮮烈なギターフレーズが絡み合い、強靭にして華やかなLUNA SEAのサウンドが出現する。1993年と2024年を直結させ、時空を超えたロックミュージックを生み出す──。冒頭から5人は、このライブのコンセプトを明確に提示してみせた。
緻密性とダイナミズムを併せ持ったアンサンブルをリアルに追体験できるのも、本作の大きな魅力だ。ストイックにビートを刻むドラム、自由に躍動するベース、歪みを効かせたカッティングギター、色彩豊かなギターフレーズが有機的に結び付く「ANUBIS」(コーラスワークも素晴らしい!)。LUNA SEAには珍しいシャッフル系のリズムとSUGIZOのフレットレスギターの音色を軸にした「STEAL」(SUGIZOのピッチが抜群!)、Jのベースリフを中心に据え、甘美なメロディとコーラス、個性的なツインギターの絡みによって「キミは硝子の中で」「生まれ死にゆくのか」という歌詞の世界を際立たせる「LAMENTABLE」。そしてひさしぶりにステージで披露された浮遊感あふれるバラード「RECALL」ではINORANがアコースティックギターを響かせ、RYUICHIが切なくも優しい旋律をエモーショナルに歌い上げる。楽曲によって世界観やアレンジの方向性がまったく違うのだが、どの曲もLUNA SEAでしかありえない確固たるオリジナリティがみなぎっている。20代前半でこんなにも多彩なアルバムを作り上げていたのか……と改めて驚かされると同時に、今の彼らだからこそ、「EDEN」の世界をここまで高いクオリティで表現できたのだと心を揺さぶられてしまう。
長らくライブの定番曲として浸透してきた「Providence」もまた、「EDEN」を象徴する楽曲の1つ。ノイジーな手触りをたたえたSUGIZOのバイオリン独奏で始まり、ワルツのリズムに乗って耽美なボーカルライン、クラシカルなアコギの音色が渦巻いていくこの曲は、当時のLUNA SEAのダークな側面を示している。
そして「Claustrophobia」も本作の大きな見どころだ。シングル「BELIVE」のカップリング曲として発表されたこの曲は、「EDEN」には収められていないものの、この時期の彼らのクリエイティビティの鋭さが刻み込まれている。閉所恐怖症を意味する曲名とリンクした音像、旋律、演奏、パフォーマンスが高いレベルで融合し、まるで演劇を見ているような感覚に包まれていく。中心を担っているのはRYUICHIの歌。フードを被り、「壊して」と絶叫するシーンからは、ボーカリスト / 表現者としての強い覚悟が伝わってきた。
ライブ後半ではギターポップ風の軽快な「STAY」、ファンネームの由来となった「SLAVE」などを披露。RYUICHIの「もういっちょ行こうか!」というシャウトに導かれた「BELIEVE」では一切の無駄を削ぎ落としたサウンドとともに観客の大合唱が生まれた。さらにアンコール1曲目の「IN MY DREAM (WITH SHIVER)」ではINORANのギターリフを中心に心地よい解放感を演出。アルバム「EDEN」が持つエンタテイメント的なパワーを証明してみせた。
冒頭で引用させてもらったRYUICHIのコメント通り、このライブで5人はアルバム「EDEN」を通し、“変わらないLUNA SEA”と“変化し続けるLUNA SEA”をスリリングなステージングとともに示してみせた。そう、この両面のバランスこそが彼らの原動力なのだと思う。