10月30日公開の映画「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」の主題歌をLiSAが担当。作曲にYOASOBIのコンポーザーとしても活動するAyaseを迎えた主題歌「往け」が、映画公開に先駆けて10月15日に配信リリースされた。
川原礫の小説を原作に、2012年放送のテレビアニメ「ソードアート・オンライン」《アインクラッド》編でアニメ作品としての歴史をスタートさせた「SAO」シリーズ。LiSAは《アインクラッド》編のオープニングテーマ「crossing field」を歌って以来、テレビアニメ、映画、ゲームと過去7作にわたって「SAO」のテーマソングを作り続けてきた。ソロデビュー10周年を迎えた今年、新たに制作された劇場版は壮大な「SAO」のストーリーの前日譚で、ヒロイン・アスナの視点からテレビアニメ第1弾《アインクラッド》編につながる軌跡が描かれている。LiSAはこのアスナの物語に彩りを与える主題歌を作るうえで、YOASOBIのコンポーザーとしても活動するAyaseをパートナーに選んだ。
「往け(ゆけ)」という印象的なタイトルが冠されたこの主題歌を、LiSAはどのような思いを持って作り上げたのか。Ayaseとタッグを組んだ理由、アレンジャー江口亮を迎えてAyaseの楽曲を生演奏で表現した意図、自作詞に込められたアスナへの愛情をLiSAのインタビューで紐解く。
取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 映美
「SAO」と一緒に走ってきた
──LiSAさんと「ソードアート・オンライン」(以下「SAO」)の歴史は2012年、テレビアニメ「ソードアート・オンライン」《アインクラッド》編のオープニングテーマ「crossing field」に始まって、新曲「往け」が8作目になります。デビュー間もない頃から10年間、「SAO」と並走してきたような感覚もあるのかなと。
そうですね。まず、同じ作品がこんなにも続いていて、ずっと関わり続けていること自体がほかにない経験ですし。「crossing field」の頃はとにかく目の前のことに必死で、「長い関係になるといいね」なんて思っていたはずもなくて(笑)。2ndシングルという、私にとっては本当に走り出しの、すごく大事な作品なんです。デビューシングルの「oath sign」(2011年11月発売。テレビアニメ「Fate/Zero」オープニングテーマ)では「Fate」シリーズという作品に出会って、同じく長い付き合いになっていますけど、どちらも作品と一緒に楽曲を愛してもらっていて。なんだろうな、背負わせてもらったというか。「ちゃんとこの楽曲を歌い続けていける自分でいなくては」という責任を持たせてもらえたことは、本当にありがたいことだなと思っています。
──いろんな作品に携わり続けてきた中でも、やはりシリーズで何度も関わっていると思い入れも強くなっていくでしょうし、向き合い方も変わってきますよね。
はい。私自身、10年活動することを目指して走っていたわけではないですし、目の前のことをひたすら一生懸命やっていたら愛してくれる皆さんが増えて、結果的に続けてこられた。同じように、アニメとして走り出した「SAO」が長くたくさんの方に愛されて、仲間が増えて続いてきたというのは……本当にここまでくると「一緒に走ってきたな」という実感がありますね。
──「SAO」楽曲を長く作り続けてきた中で、共通して込めているもの、あるいは図らずも“込められてしまったもの”はありますか?
1つひとつの楽曲を振り返ると、そのときそのときの自分にとっての新たな挑戦をさせてもらいながら、「SAO」という作品に注げるものを考えてやってきたつもりなんですけど、ただの楽しいゲームじゃないという「SAO」のリアルな感じ、ハッピーなだけじゃない要素が共通したエッセンスとして反映されているなと思います。私は中でも《マザーズ・ロザリオ》編に特別な思い入れがあって、ここで「シルシ」を歌わせてもらったときに、アスナ(「SAO」シリーズのメインヒロイン)に自分の気持ちを重ねてしまった、というか。ただの同級生だった子が仲よくなって内面を知るうちにすっかり親友になっちゃった、みたいな気持ち(笑)。そこからはより一層、仲間感というか……自分が守らなくちゃ、と言うとちょっと違うんですけど、自分の中に1歩深く入り込んできたような。作品への“大切度”が1つ増したような感じがありました。
──「SAO」でLiSAさんを知った、LiSAさんをきっかけに「SAO」を知ったという人も多いかと思います。
「crossing field」で作品と一緒に受け入れてもらえたことは私にとってすごく大きくて、「ちゃんと返しにいかなきゃ」という気持ちが強いんですね。走り続けてきた中で積み上げたお土産をしっかり渡していける、「SAO」に恩を返していける人にならなくちゃという気持ちがずっとあるので、実際にそういう声をもらうとすごくうれしいですね。
アスナのしなやかさと強さを表現するにはAyaseさん一択だった
──新曲「往け」を作曲したYOASOBIのコンポーザーとしても活動するAyaseさんが、まさにその「SAO」で初めてLiSAさんの音楽に触れた1人だそうで。どのようなきっかけで今回はAyaseさんとタッグを組むことになったのでしょうか。
まず《プログレッシブ》編の劇場版製作にあたって主題歌をお願いします、というお話をいただいたんです。それでアニメの制作プロデューサーさんにお話を伺ったところ、今回はアスナの成長物語だとおっしゃっていて。「だから《アインクラッド》編の『crossing field』で一緒に走り出してくれたLiSAにお願いしたいんだ」というプロデューサーさんの思いを聞いて、すごくうれしかった。私だけが一方的に家族だと思っていたわけじゃなかったんだなって。アスナの成長物語と全力で向き合うには、「crossing field」とはまた違う繊細さというか、女性らしさやしなやかさが欲しかった。アスナに対して感じていた、柔らかくて美しいんだけど筋の通った強さ。脚本を読んだときに改めてそれを感じたと同時に、変な言い方だけど「アスナも人間なんだな」と思ったんです(笑)。強く振る舞うのではない、強い芯を感じるような女性らしさを表現したいと考えて、思い浮かんだのがAyaseさん。Ayaseさんには去年Uruさんとのコラボ曲「再会(produced by Ayase) 」を作ってもらっていて。
──「再会(produced by Ayase)」は一発撮りパフォーマンス動画の「THE FIRST TAKE」で大きな話題を呼びました(参照:LiSA×Uru、Ayase書き下ろしのCM曲「再会(produced by Ayase)」をTHE FIRST TAKEでパフォーマンス)。
YOASOBIの楽曲はそれまでにも聴いていましたけど、「再会(produced by Ayase)」でAyaseさんのメロディを歌わせてもらったときに「なんてしなやかで切ないんだ」と感じたんですね。女性の歌が似合うしなやかなメロディを作る方だなと思っていたので、本当に一択でした。「Ayaseさんでお願いしたい」って。
──テーマを聞いて脚本を読んだ段階で、歌いたいことは明確に見えていた?
はい。「再会(produced by Ayase)」をきっかけにAyaseさんともいろいろお話させていただいて。彼もバンドが好きで、昔バンドをやっていた人だから、YOASOBIとはまた違ったアプローチでやってみても面白いかなと思っていたんです。今回はそれをやるのにいいタイミングかもしれない、って。この曲は「Ayaseさんの力を借りたかった」というよりも「Ayaseさんと一緒に作りたかった」が近いのかなと思います。Ayaseさんも「まさにタッグを組むような形で作らせていただきました」とコメントをくださってますけど(参照:「劇場版SAO」LiSAの主題歌収めた本予告、新キャラ・ミトとアスナの関係が明らかに - コミックナタリー)、私も同じような気持ちで。
「往け」に込められたニュアンス
──「こんな曲にしてほしい」というAyaseさんへのオーダーは?
ほとんどないです。楽曲に関しては、私が感じるアスナへの思いだったり、アニメと向き合うための私自身の気持ち、「SAO」に対する気持ちを伝えただけで。あとは私がどうしてAyaseさんと一緒にやりたいかという、ラブレターのような言葉をお伝えしただけです(笑)。それだけでAyaseさんがイメージを膨らませてくれて……本当にすぐできました。話をしたその日のうちに作り始めたと言ってましたね。
──メロディもキャッチーだし、LiSAさんの作詞による歌詞の乗せ方も抜群にキャッチーですね。そしてLiSAさんのアスナ愛が漏れ出ている印象です。
そうですね(笑)。
──サビには「いけ、わたしよ 行け!」とあり、タイトルは「往け」と、同じ「いけ / ゆけ」を表す言葉だけで3つの表記が混在しています。ここにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?
まず《プログレッシブ》編の物語を読んで、私はすごくうれしかったんですね。アスナの知らなかった部分を知れたことが。迷いや戸惑い、裏切り、悲しみ……そういうものを乗り越えて、アスナは強く生きていくための芯を自分で覚悟を持って作ったんだなって。私もアスナのように印象としては強い女性だと思われがちで。でも、そうじゃない部分も持っている。「いけ、わたしよ 行け!」は自分自身に対する呪文のような言葉でもあるんです。感情だけの「いけ」から、きちんと前に進む行進としての「行け」になり……と素直に書いていったときに、「アニメがシリーズを通して97話まで行ったからこそ今回の物語があって、だからこそアスナは今私たちにこの話をしてくれているんだな」と考えて、行って帰ってくるというニュアンスの「往け」がこの曲のタイトルにはふさわしいんじゃないかと思ったんです。帰ってくることを前提にした「往け」。私と「SAO」が歩んできた歴史も、彼女が歩んできた歴史も「往け」だなと。
──なるほど。そこにはLiSAさんの感情が大きく乗っていると思いますが、歌詞はすんなり書けましたか?
最初はメロディを解釈するのに時間がかかりました。Ayaseさんからは仮歌ではなくシンセで弾いたメロディをもらったんですけど、それは普段歌詞も書くAyaseさんが私に譲ってくれたんだと思うんですね。ほかの方だと仮歌詞で意味を持たない言葉が乗っていたりすることも多いんですけど。
──仮歌による発声でイメージを固定してしまわないようにと。
はい。Ayaseさんはメロディと言葉を大切にされる方なので、そこに乗る言葉も気になるだろうなと思って、このメロディをどう解釈するか、まずはそこに時間をかけました。流れるようなメロディのどこを切るべきか、どこにブレスを入れるべきかを考えて。最初に出てきたのが「いけ、わたしよ 行け!」というフレーズで、この1行が浮かんだときに「これしかない!」と思いました。そこを見つけてからは早かったです。歌いたいことは自分の中にあったので。
──「昔から弱虫のくせに 気づかないふりをしてきたね」のあたりはアスナに向けているようで、LiSAさん自身の感情と入り混じっているような、自分自身に向けて歌っているようにも聞こえました。
ここのフレーズはもう、自分に向けて書いているほうが強いと思います。
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Ayaseのシーケンスと生演奏の融合