ナタリー PowerPush - Ken Yokoyama
バンド&ソロインタビューで明かす 傑作「Best Wishes」完成までの軌跡
パンクロックの意味が3・11で変わった
──ここからはアルバム「Best Wishes」についてさらに詳しく訊いていきたいと思います。正直ここまでストレートにパンクロックを表現した内容になるとは思ってもみませんでした。
パンクロックの意味って3・11で変わったと思っていて。3・11以前のパンクロックって拒絶性が魅力になってたんです。僕自身もそうだったと思う。例えばすごく大きな場所でライブしても、何かしらの矛盾を感じていたり。自分で自分のこと客観的に見るとやっぱりこう……自分がパンクだと自負してるんだったら、愛されてることを認めちゃいけないと思ったりもしたんですね。他者に、お客さんに愛されることを認めちゃいけない。その拒絶性をいろんな人に聴いてもらうために世に出ていくけど、賛同されると「違うんだよ!」と言ってしまう、矛盾してる感じがパンクロックそのものだったんです。その矛盾が可能性を生んでいたと思うんですね。でも3・11以降、その拒絶性が“Unite(ひとつになること)”に自分の中で変わった。今は結託できてるんですよ。結託“してる”んじゃなくて“できてる”んです。それは馴れ合いではなく、国難を前にどうするかっていう姿勢としての結託なわけで、新しい可能性だと思うんですよ。いずれその効力がなくなるということもなんとなくはわかってるんですけど、今はその新しい可能性で行けるとこまで行きたいですね。
──“Unite”という言葉はこの1年半、それこそAIR JAMなどさまざまな場面でみんなが肌で感じたと思いますし、「You And I, Against The World」からもその流れは感じられます。
3・11以前だったら「俺とお前で世の中に立ち向かっていこう」なんてことはちゃんちゃらおかしくて言えなかったですよ。でもそれを今言おうとしてる自分がいる。そして納得がいっている、これだと思っている。そこはものすごい手応えがありましたね。
周りが思ってるほど“Unite”を信じてなかった
──震災チャリティTシャツのデザインにもなっていた「We Are Fuckin' One」という言葉も、“Unite”に通じますよね。「We Are Fuckin' One」はアルバムオープニングナンバーのタイトルにも用いられましたが。
そうですね。震災後のツアータイトルとして掲げてきたんですけれども、震災前はやっぱり「We Are Fuckin' One」だなんて言えなかった。「何が“One”だ、俺たちはひとつなんかじゃねーよ!」っていう感じだったんです。でも震災があって、「俺たちひとつになるしかないだろう」「俺たちはひとつなんだ」って言わなければならない状況になった。お互い憎み合ったり、けなしたり、距離を取ったりできる時期なんだったらそうすればいい。でも自分だけのことじゃなく、少しでもいいから他者のことを考える時期ってものがあるじゃないか。そして今がその時期なんじゃないか。2年後、3年後はどうなるかわからないけど、確実に今しか言えないことだと思うんです。だったらもう言うしかない、それについて歌うしかないと。
──例えば震災以前のライブでも、ライブ会場がひとつになって“Unite”を感じさせる瞬間はたくさんあったと思います。そういうライブをやりながら、曲を作りながらも“Unite”という部分にはあまり意識的ではなかったんですか?
そうですね。もしかしたら周りが思ってるほど“Unite”、例えば団結だったり結託だったり、そういったものを信じてなかったのかもしれない。
──それは目の前で広がる光景を見ていても?
はい。3・11以前にも人の数だけいろんな困難があったわけですよ。で、そういうものを乗り越えて、音楽っていう場でひとつになる、音楽という場でつながれる。そういったものはありましたけども、自分がその対象になると、愛されてる自分とか、その中心である自分っていうものにどうしても矛盾を感じてしまっていたんです。でも今は絶対違う。なんでかっていうと、3・11でみんな怖い思いをした。そのあとの“Unite”ですから、震災以前とは意味が違うと思うんです。
──なるほど。
もちろん東北はひどいダメージを受けたけど、東京にいた僕もあの日体験した地震はものすごく怖かったですもん。今まで体験したことのない自然の脅威を前に、人間っていう動物がいかにちっぽけなものなのか、っていう恐怖ですよね。その恐怖を東北に限らず、揺れてない地域の人も含めて日本人は等しく体験したと思うんです。そこにもうひとつ出てくるのが原発の問題。やっぱり3・11以降すごく考えさせられてることですね。
──「You And I, Against The World」の「World」って、それこそ政府や原発の問題を含む現状を表してるのかなと思いました。僕たち日本人はその現実と向き合って、これからもずっと戦っていかなきゃいけないわけだし。
おそらく自分たちが死んでもなお戦っていかなきゃいけない問題ですよね。だったらなるべく、責任持てるうちに……責任ある形に落とし込むのは今生きてる人たちの役目なんじゃないかなって思います。そういう意味で、このアルバムでは希望について歌いたかった。たとえ悲しい歌を歌っていても、たとえ寂しい歌を歌っていても、まず先立つものは希望であってほしかった。結局は自分が今感じてることを心の中にガッと手を入れて捕まえて、取り出すしかなかったですね。
「Ricky」を通じて震災後に体験したことを歌った
──恒例となった「Ricky Punks」シリーズも今回パート3が収録されていますが、今回は特に歌詞の内容で驚かされる人が多いと思います。
そうですよね。「Ricky Punks」こそ自分で書いてビックリしましたし。ご存知かとは思いますけども、Ken Bandには「Ricky Punks」っていうシリーズ曲がありまして。パート1でもパート2でもカッコ悪いパンクスを揶揄した内容だったんですね。で、今回はその「Ricky」っていうキャラクターを通じて、震災後に僕たちのようなバンドマンが体験したことを歌ってみようと。Twitterとかで文字情報としてはいろいろ目にしていたかもしれないけど、歌に乗せたものはなかったし、この曲を通じて僕らが感じたことを知ってもらえたらと思ったんです。そうして歌詞を書いていたら、いつの間にか自分の半生を振り返るというか、震災以前の自分がどうだったかってことも表現しなきゃいけなくなってきて。
──まさに今まで訊かせていただいたお話を、そのままストーリーとしてまとめたと。
そうですね、はい。
──「涙が止まらなかった」というフレーズの繰り返しで終わるところも、今までと違うものを感じるし。1曲のストーリーとしては完結せずに終わってるんじゃないかと思うんです。まだまだここから現実が続いていくんでしょうし、例えば日常の中で何かアクションを起こすのかもしれない。そういった原風景をそのままつづった歌を「Ricky Punks」という題材で表現したことが意外でした。
まあ僕も自分で書いておきながらビックリしましたけど、メンバーもビックリしてましたね(笑)。
収録曲
- We Are Fuckin' One
- You And I, Against The World
- Soul Survivors
- Not A Day Goes By ※
- This Is Your Land
- Ricky Punks III
- Everybody's Fighting
- Sold My Soul To Rock'N Roll
- I Can't Be There
- Good Bye For A While
- Save Us
- If You Love Me (Really Love Me) ※
※カバー曲
Ken Yokoyama(けんよこやま)
Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。
2012年11月29日更新