横山健は言った「パンクロックは生きるためのアイデンティティ」

Ken Yokoyamaが10月16日に1990年代のパンクを中心としたカバーアルバム「The Golden Age Of Punk Rock」をリリースした。

通算“8.5枚目”のアルバムという位置付けとなる今作には、横山健(Vo, G)と南英紀(G)が各楽曲に対する思いや解説をつづった1万8000字におよぶライナーノーツが付属する。音楽ナタリーではアルバム収録曲の詳細をライナーノーツに託し、それとは違った切り口で横山と南にインタビューを行った。ここでは今作が「青春時代の興奮をもう一度」といった懐古主義的な趣きではなく、ルーツを知ることの奥深さをリスナーに提供したいという意図があることがわかった。

また横山は「あんまり言いたかないですけど」と照れくさそうに前置きしつつ、ファンに対する感情や、10月1日で55歳になった今、どんな思いで“ライブ”と向き合っているのかについても語ってくれた。

取材・文 / 西廣智一

“僕らだからできる”カバーアルバム

──今回のカバーアルバム「The Golden Age Of Punk Rock」は、今年1月に発表したアルバム「Indian Burn」の制作中にアイデアを思いついたそうですが、なぜこのタイミングにパンクのカバーアルバムを作ろうと思ったのでしょうか?

横山健(Vo, G) 単に思いついたからやるっきゃないって感じですね。「Indian Burn」(2024年1月発売のオリジナルアルバム)と制作のタイミングが近くなるのもわかっていたし、それによって自分たちが忙しくなったり、精神的に追い詰められたりするのもわかってました。もっと言えば、メロディックパンクとか90'sパンクがもう世の中であまり聴かれていないことも感じていたけど、とにかく急いで出したくて。発想をなるべく早く形にしたいという、まずはその一心でした。それこそライナーノーツにも書いたように、THE STAR CLUBのパンクカバーアルバム(1987年発売の「GOD SAVE THE PUNK ROCK」)が僕の中には引き金としてありました。でも今のシーンを見渡してみても、こういうパンクに特化したカバーアルバムってなかなかないと思うんですよ。

──南さんは、健さんからこのお話を聞いたときは率直にどう思いましたか?

南英紀(G) 楽しそうだなと思いましたよ。「これだったらできる」というか、単純に面白いなと。

横山 僕自身は「僕らだからできる」と、しっかりと自信を持ってました。若手がこういうことをやると「お前ら、もっとほかにやることあるだろ」って言われてしまうし、僕らのような大ベテランの域にいる、最前線に残っているバンドが……最前線に残ってるのかな?(笑)

 最前線にしがみついてるような?(笑)

横山 うん、しがみつこうと意識してやっている者がやらないと説得力が出ないだろうなと。しかも僕と南ちゃんは90'sパンクシーンから出てきた人間なので、もしかしたら自分たちが予想もしないような、もっと強い説得力が出るかもしれないぐらいに思ってました。

90'sパンクロック入門=今作

──音楽的ルーツとしてもっと古い年代の楽曲をピックアップすることもできたはずなのに、自分たちと同時代に同じシーンにいたバンドの楽曲を取り上げた。しかも、今作の収録曲はどれもKen Yokoyamaの曲のように響くからより不思議なんです。

横山 それがまた面白いところで。原曲と僕たちのバージョンを聴き比べるとテンポは僕らのほうがちょっと速いし、音の歪みが少ないんですよ。だけど、不思議と違和感なく自分たちのサウンドとして出せている。そんなカバーアルバムに仕上がりましたね。

──本作を聴き終えたあと、原曲で構成されたプレイリストを作ってみたんですけど、唯一Snuffだけサブスクになかったんです。

 そうそう。CDでしか聴けないんですよね。

──そうなんです。そうやって原曲に触れて「そうそう、このイメージだよな」と再確認したあとに、再びKen Yokoyamaの音源を聴くとKen Yokoyama以外の何者でもない。不思議な感覚でした。

横山 ちょっと話が変わっちゃいますけど……そうやってプレイリストですでに楽しんでいる方もいらっしゃると思うんです。でも全曲オリジナルで聴ける人はこの盤を聴かなくてもいいんですよ(笑)。これは別に斜に構えて言っているわけではなくて、ほぼ原曲と近いので原曲を全部知っている方はそれでいいんです。むしろ今回はこの先90'sパンクロックを聴き始めるであろう人を念頭に置いて作ったものなので。

──若い世代に知ってもらうっていうことがまず1つ大きな目的だと思いますし、加えて現在ライブハウスに足しげく通っている若いリスナーの中には洋楽に一切触れず、国内の音楽だけ完結してしまっている人も少なくない。そういう人たちに向けても、本作は新たな扉になり得る1枚なのかなと。

横山 なるほど。国内のバンドに影響を受けた国産バンドが人気あるのはすごくうれしいことだし、そこに需要が発生することは健康的で誰もが望んだ通りじゃないかと思うんです。でも、同時に僕たちみたいなパンクバンドだったり、ラウド系のバンドだったりのサウンドとかアティチュードというものは、だいたいが海外のバンドにルーツがある。そこにお客さんたちがリーチしようとしないのは、僕は寂しいなと思うんです。なので、それを誘発したくて。

──うんうん。

横山 もちろん、Hi-STANDARDやKEMURIのルーツは90'sパンクではない。なぜなら、僕らが90'sパンクを作ってきた人間だから。でも、バンドとしてのKen Yokoyamaのルーツは90'sパンクだと思っているんです。なのでこのアルバムを聴いた結果、原曲である海外のバンドも聴いてみようと思ってもらえればうれしいですよね。もっと言えば、僕たちとルーツの違うラウド系のバンドだったら「SiMはどういうバンドに影響を受けたんだろう?」とか「HEY-SMITHのルーツは?」とか、そういった行為につながっていけばいいなと、個人的には思っています。国内バンドの間だけでキャッチボールするのがお客さんの望みだったらそれでいいんですけど、やっぱりどのバンドも何かに影響を受けてやっているわけで、それってロックの歴史の中では連綿と続いてきたことじゃないですか。そこを掘ることって音楽ファンとしてはすごく大事だよっていうことを、こうやって盤にして僕たちが提示することで伝えたかったんです。結局はインタビューとかで言葉にしないと補足はできないんですけどね。

 ぶっちゃけ、バンドに限らずですけど海外の音楽ってすごくいいんですよ。日本の音楽はレベルが低いとかそういう意味ではないですよ? 演奏面で言えばNOFXよりも上手なバンドは日本にもいっぱいいると思うけど、それでもNOFXには絶対に勝てない何かがあるんですよね。このアルバムを聴いてそういう部分を理解してもらえるかはわからないけど、NOFXの曲を聴いて「何かが違うな」とか気付いてくれたらそれでいいかなと。なぜ僕らがパンクロックに惹かれたのかを、このアルバムから感じてもらえたらうれしいですね。

Ken Yokoyama(Photo by Yasumasa Handa)

Ken Yokoyama(Photo by Yasumasa Handa)

──原曲を知らない人からすると、このアルバムは「Ken Yokoyamaのオリジナルニューアルバム」と同等な内容だと思うんです。

横山 16曲中12曲は僕たちの新曲に聞こえますよね(笑)。

 で、4、5曲はカバーかなという感じがするというか。でも、選曲する時点で「これはKen Yokoyamaでもやれそうだよね」という感覚で選んでいるので、そういう意味ではより新曲っぽく聞こえるのかもしれませんね。中には1度やってみて「これは違うよね」とボツになった曲もあったので、より一層そう聞こえるのかな。

横山 それはすごくもっともな話で、僕と南ちゃんは90年代にそれぞれHi-STANDARDとKEMURIで活動してきて、90年代からちょっと歳をとってバンドも変わったけど、今も同じような気持ちで音楽と向き合ってるし、見ている風景は変わらない。作曲方法は90年代当時のパンクバンドと同じなわけですよ。だから、僕たちの新曲に聞こえて当然と言えば当然なんです。原曲を生み出した彼らと音楽的バックグラウンドも近いし、好きなサウンドも似ているわけだし。だから「じゃあ、Descendentsは何を聴いてこうなったのか」とか、このアルバムを通じてそこからもう一歩先に行くのも面白いかもしれないですよね。そうやってルーツをたどるというのは、特に音楽をやっていこうとする人にはマストだし、リスナーとして楽しむうえでも面白いですよね。

収録曲の多くは“若い音楽”

──本作に収録されている楽曲をリリース当時、ご自身で弾いたことはあったんですか?

 Bad Religionはカバーバンドの遊びとしてやった記憶がありますけど、ほかは特にないですね。

横山 僕は半分ぐらい歌ったり弾いたりしたことがあるかな。残り半分は何万回と聴いてきたのに、初めてカバーしました。で、いざ弾いてみて「ここのコードはこうなってたんだ!」とか「このコーラス、曲のキーに合ってないけど味が出てるよな」とか、そういう発見がありましたね。

──リスナーとプレイヤーとで意識が変わってくるところがあるんでしょうかね。そういう意味での新たな発見もあったと。

横山 そうなんですよ。ここに収められている楽曲の多くは、それぞれのバンドが10代後半から20代前半に作ったものですよね。だから、音楽的に練られていない部分がたくさんあるんです。メジャーとマイナーの整合性が取れていないとか、リズム的にドラムと弦楽器がやってることが違うとか、コーラスの取り方が本来この音ではないよねとか。でも、それが全部いい味になっている。で、そこを僕らのバージョンでは補正しているのもあれば、そのまま意識的に残しているものもあります。特に「Soothing」のイントロなんて、ベースラインがすごいじゃないですか。あれ、ギターのコードと合ってないんですよ。

──そのちょっとした違和感が個性につながっていたんでしょうね。

横山 そういう発見はたくさんありました。だから、音楽って理屈じゃないし数値でもないし、音楽は音楽でしかあり得ないんだなと思いましたね。