Ken Yokoyamaにとって2023年は挑戦の1年だった。ライブハウスツアー「Feel The Vibes Tour」、東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブ「DEAD AT MEGA CITY」、夏のショートツアー「Summer Dude Tour 2023」、初のホールツアー「My One Wish Tour」──これらが相次いで開催され、大小さまざまな規模の会場でライブバンドとしての実力と矜持を見せつけるような熱演を繰り広げた。
さらにKen Yokoyamaは5月に約8年ぶりのシングル「Better Left Unsaid」をリリースし、これを皮切りに1年を通してシングル3部作を発表。その最終章にあたるのが、11月29日にリリースされた「These Magic Words」だ。誰もが認めるベテランバンドでありながら、なぜ彼らは慌ただしく動き続けているのか。2024年リリース予定のニューアルバムに向けた布石でもあるという「These Magic Words」には、どんな思いが込められているのか。音楽ナタリーでは横山健(Vo, G)とEKKUN(Dr)の2人に話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 福本和洋
なんとか前線にとどまりたい
──2023年のKen Yokoyamaはシングルを3枚リリースと、かなり精力的に活動してきましたね。
横山健(Vo, G) 僕のキャリアの中でも一番忙しい1年になっちゃいました。
──ある意味、時代に逆行しているといいますか。
横山 いやいや、時代に沿おうとした結果こうなってしまったんです(笑)。例えば最近のアイドルグループは作品をどんどん出していて、その結果、人目につくし露出する機会も多いじゃないですか。それを僕らもやってみたかったんです。作品を作ってリリースすると、こういう取材の場も設けられて、露出の機会も増える。今年はそういう出目を増やして、人前にたくさん出ていきたいという狙いがあったんです。そうしないとどんどん情報が流れていってしまう。このリリースに関するトピックも同じかもしれないけど、何も出さないよりはいいんじゃないかと。去年かな、曲作りをしながらそう考えていたんです。シングル3枚分、計8曲の音源自体は今年2月くらいにまとめて録ったんですよ。
EKKUN(Dr) アルバム単位だとどうしてもリリース間隔が空いちゃうし、10数曲聴いてもらって、そこからツアーで曲を浸透させていくとなると、また変に時間がかかってしまう。今年みたいなリリースペースなら1曲1曲をちゃんと聴いてもらえるのかなと思ったんです。
──確かに、2023年はこういったメディアへの露出の機会が定期的にありましたし、常にアクティブな状態であることが伝わってきました。
横山 なので、これは僕たちなりの実験でもあるんです。僕たちがこうやって1年にシングルを3枚出したらどうなるのか。検証結果としてはもしかしたら何も残らないかもしれないし、逆に大きいものを得られるかもしれない。現状はこうやってインタビューで話す機会が増えたし、ライブでやれる曲もどんどん足されていくわけですよね。
──そういうフットワークの軽い活動を、来年で20周年を迎えるKen Yokoyamaが実施したこと自体が、僕は痛快だなと思うんです。
横山 攻めたくても攻められない時期や、どうしても体が動かない時期もありますけど、ロックシーンがちっちゃくなっていく今の世の中で、それでもなんとか前線にとどまりたいんです。もうベテランだからそんなことしなくてもいいんだよとか、俺たちには俺たちのやり方があるんだよとか、そういう考えを全部取っ払ってみようと。自分のキャリアの上にあぐらをかかず、今までやっていないことをやってみようというコンセプトのもと活動してみました。
──EKKUNさんが加入して今の体制になってから、もちろん山あり谷ありだったと思いますけど、リリースにしろバンドの見せ方にしろ、大御所感というよりも、僕の中では1周回って「新人バンドです、攻めます」みたいなフレッシュ感が強くて。
EKKUN ……ですよねえ(笑)。
横山 (笑)。
EKKUN 俺もそう思ってました(笑)。まあ、それこそ俺がこのKEN BANDに入る意味の1つでもあったはずなので。入ったところで何も変わらないんじゃ意味がないので、そう感じてもらえてすごくうれしいです。
横山 と、うちのフレッシュ担当が言ってます(笑)。
「大丈夫」という言葉の絶対的な安心感
──では、ここからはシングル「These Magic Words」の収録曲3曲について、じっくりお話を伺っていきたいと思います。まずは、タイトルトラックの「These Magic Words」ですが、タイトルといいサビの「Oh yeah, it's alright. It's gonna be OK(オーイェー 大丈夫さ / そのうち オッケーになる)」というフレーズといい、シンプルですが強い言葉が並びます。
横山 まさか自分が「オーイェー 大丈夫さ」っていう、こんなにも大風呂敷を広げたようなフレーズを歌うことになるとは昔は思わなかったですね(笑)。
──リスナーとしても、さすがにこのフレーズにはびっくりしましたよ。
横山 僕らはだいたい曲から作って、そこに歌詞を付けていくんですけど、この「These Magic Words」ができたときはすごくいい曲ができたと思ったんです。歌詞についてもすごく強くて大きな、普遍的で誰もが共感できるテーマを乗せたいなと考えてたらこの歌詞がポンと出てきたんです。
──この「オーイェー 大丈夫さ」はこれまでにいろんな方が叫んできた、本当に使い古されたフレーズですし、人によっては逃げでこういうフレーズを使うこともあると思うんです。
横山 わかります。僕、この歌詞を書いたときの原風景がしっかりあるんですよ。今、僕には子供が3人いるんですけど、3人目がまだ3歳にもなっていないんですね。要するに、子育て中なんです。この歌詞を書いたのは去年の頭ぐらいだから、本当にまだちっちゃな赤ちゃんがうちにいた時期。子供ってすぐ泣くじゃないですか。当然ですよね、何も知らなくて泣くことしかできないんだから。で、怖がるしときにはケガもする。それを母親が「大丈夫、大丈夫」と言って抱っこして慰めるんですよ。僕、その光景を見たときに三つ子の魂百までじゃないですけど、この先この子がいろんな経験したとしても、親にそうやって言われたことは絶対に心の中に残るなと思って。そういう、すごく美しい場面に見えて、それでこういう歌詞を書いてみようと考えたんです。
──なるほど。
横山 まあ、うちの奥さんは「オーイェー」とは言いませんけどね(笑)。でも、「大丈夫大丈夫、パパもママもいるよ」と言うんですよ。で、それは赤ちゃんじゃなくても、正直僕も何かあったときに言われたいし。「俺がいるからさ」っていう、無責任な感じでもいいんですよ。責任の有無を超えた愛情を、この言葉が内包しているんじゃないかなと。そういう意味で「大丈夫」はこの曲にすごく合っている、今一番言いたい言葉なのかなと思いました。
──「自分も何かあったときに言われたい」とのことですが、このフレーズって実はこの数年を生き抜いてきた人たちにとって一番言ってほしい言葉なのかもしれませんよね。
横山 うんうん。
──小さい頃は身近にいる人がこういう言葉で励ましてくれたけど、大人になるにつれてそういう機会がどんどん減っていきますし。
横山 そうなんですよね。大人でもそういう言葉をかけられたい。大人になると「何が大丈夫なんだ?」という問いも生まれるけど、姿勢として言われたいよなって。と同時に、僕も人にそういう声をかけられる人間でありたいなと思うんです。
EKKUN 歌詞を読んでいるときって、後押ししてくれるようなフレーズを探しちゃうんですよね。今回は本当に「オーイェー 大丈夫さ」ってフレーズに背中を押されてます。
横山 完全に横山ファンだね(笑)。
EKKUN そう、勝手に勇気付けられて、サビで「オーイェー 大丈夫さ」ってなってます(笑)。俺もいろいろ考えたりする時期があったので。大丈夫じゃないときって、視野が狭まってしまう。大丈夫じゃないところばかりを見ちゃうから、第三者にこの言葉をかけられるのはすごく大事なことだなと思う。そういう、つらくて大丈夫じゃないところから解放してくれる歌詞ですよね。
横山 今話していて気が付いたんですけど、これって母性の感覚ですよね。
──ああ、確かに。
横山 例えば、EKKUNが大丈夫じゃなくて視野狭窄になっているときに、男ってバカだから一緒に解決策を見出そうとするんですよ。具体的に「これだからこうなんじゃない? もっとこうすればいいんじゃない?」とか。でも、女性は「大丈夫、そんなの」っていう絶対的な安心感を与えてくれる。それってすごくデカいですよね。男はそこがバカなんだよね。
EKKUN 大人になるとそうなりがちですよね。何が大丈夫なんだとか、中身の問題を考えてしまう。うん、それって本質だなと思います。
横山 そういうことに関しては、きっと男性より女性のほうが生き物として出来がいいんだろうな。
──男性って変なところでプライドの高さが邪魔してしまうこともありますし。でも、この曲ではそこを捨ててでも「大丈夫だよ」って訴えかけてくるものがある。それを歌で届けられる今の健さんは、すごい境地に到達しているんじゃないでしょうか。
横山 そうかもしれないですね。この歌詞は自分でも書けてうれしかったし、なんなら僕もこれからこの歌詞に励まされるかもしれないですね。
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ひさしぶりに頭1つ抜けた曲ができた