ナタリー PowerPush - Ken Yokoyama
バンド&ソロインタビューで明かす 傑作「Best Wishes」完成までの軌跡
歌詞についてはMinamiと相当議論した
──「Best Wishes」の収録時間は今までの作品と比べると短いですよね。30分を切ってますし。各曲バラエティに富んでいて、一見バラバラなようなのに聴き終わったときに感じる統一感は今まで以上でした。
横山 自分で言うのも変だけど、本当にそのとおりだと思います。楽曲の整合性を超えた何か1つ別の整合性が存在するんだと思うんですよね。それは結局、震災を捉えてるのか捉えてないのかっていうところなんじゃないかと。作ってるときは正直言って、そこに対してすごく無自覚だったし、こんな形で着地するとは自分たちでも思ってなかったんです。
──全12曲中9曲が2分台なのに1曲1曲が今まで以上に濃密ですし。
横山 7曲目の「Everybody's Fighting」が一番短い曲なんですけど……あれ何秒ぐらいだっけ?
松浦 20秒ぐらい。
横山 短い曲だけど、歌詞については相当議論したんですよ。歌詞はMinamiと一緒に書いてるんですけど、今回は僕が日本語でガーッと書いてそれを彼に送って英詞にしてもらって。彼は10歳までアメリカで過ごしてるので簡単に……いや簡単にじゃないけど、僕の世界観を崩さないよう英詞にしてくれたんです。どうしたら本気な感じを出しつつもジョークをにじませることができるのか、そういったこともちゃんと2人で議論できたので、濃さはこのバンドならではのものになってると思いますね。
──Minamiさんは今回、Kenさんから受け取った日本語詞を英詞にする際、今までとの違いは感じましたか?
Minami 今回は特に難しかったですね。まず日本語の歌詞を読んで2日くらい頭抱えて……手を着ける前になんかこう……日本語の表現がすごく直球だし、伝えてることもすごく直球だから。これをこのまま英語にしても歌詞にはならないっていうか、英訳はできるけど歌詞にはならないからどうしようと思って。で、変に省くと……。
横山 肝の部分が損なわれちゃったりとかね。
Minami そう。だからすごく難しかったですね。もうちょっとくだけた歌詞だったら、それっぽい別の表現に変えたり、アメリカ人だったらこう言うよみたいなことを入れたりできたけど。特に「Ricky Punks III」が一番苦労しましたね。
横山 アメリカ人ならこう言うよっていうことが通用しなかったのって、やっぱり日本で震災があってそのことを歌ってるからだろうね。
Minami 本当にそうだと思うよ。
横山 表現のさ、替えが効かないんだよね。だから今回は意外と悩んでるなっていうのは僕もすごく感じてましたね。僕もあのMinamiほどじゃないですけど「英語ペラペ」ぐらいなので(笑)、じゃあまるまる1曲自分で書いてみようと思って英詞を書いたら、それも手直しされました。「文法は合ってるけど歌詞じゃない」ってやっぱり言われて。
Minami なんかこう、微妙に違うんですよ。僕は元々歌詞を書く人間じゃないし、健さんと比べたら素人に近い。前作「Four」での経験があったからだいぶ慣れてきてましたけど、苦労はしましたね。
新作ができて自分をちゃんとアップデートできた
──松浦さんにとっては本作がKen Bandでの初レコーディングでしたけど、実際にやってみてどうでした?
松浦 今まで関わってきた制作の中で一番テンションが高いというか、なんか大変だなって思いました。みんなこうやって笑って話してますけど、健さんのアイデアの出方がハンパなくて。そこに難なくこの2人(Jun、Minami)がついていくんですよ。でもみんなにとってはそれが普通みたいで。
横山 考えてみたらね、新メンバーが入ったらちょっとはなじむ時間が必要だったはずなのに、震災があってそれうやむやになって、すぐ人前に出ていくようになって。もうちょっとクッション期間があったほうが本人に余裕が生まれたのかな。でも一生のうちで一度体験するかしないかみたいな切羽詰まった感じを体験できてよかったのかなとも思いますけどね。それがレコーディングした楽曲にテンションの高さとして端的に表れていると思いますし。
──こうやってお話を聞いて改めて、今のKen Bandって本当に4人で作ってるバンドなんだなと実感できました。1stアルバム「The Cost Of My Freedom」はKenさんのソロとして始まったわけですけど、以降ライブ活動や作品のリリースを重ねることで、バンドに成長していったんだなってことが今回お話を聞いて納得できました。
横山 ライブを観てもらえれば本当によくわかるんですけどね。そりゃフロントマンとして僕が一番でしゃばってますけど、完全にバンドなので。だから今回の「Best Wishes」はずっと聴いてくれてる人にはいつも以上にすんなり受け入れてもらえるアルバムなのかなっていう気はしますね。内容はさておきその感触というか、成り立ちであったり世界観……うまい表現が見つからないけど、このアルバムを聴けばKen Yokoyamaが僕のソロじゃなく4人の集団なんだっていうことがちゃんと響くはず。「はず」って言ったらおかしいか。響かないなんておかしいと思うな、うん。
──「今、これがやりたいことなんだ、言いたいことなんだ」っていうことがはっきり提示されていると思いました。入り込みやすさという意味でも、今作はこれまでの作品でダントツなんじゃないかという気がします。リリース後には新作を携えたツアーも始まるし、その部分はさらにリスナーに広まっていくんじゃないかと思います。
横山 そうですね。7月からまたライブを再開させることができたんですけど、この作品をちゃんとレコーディングして仕上げてからは僕自身ライブの感じがまた変わってきて、すごくいいんですよ。自分をちゃんとアップデートできた気がしていて、やっと……うん、1本1本全部いいですね。今のところ。
──新しい編成になって新曲がないっていうことに対して、以前はちょっと引け目というかモヤッとした気持ちがあった?
横山 うん、せっかくメンバーも変わったんだから新曲も欲しかったし、ちゃんと震災後の自分たちを語った曲があったほうがもっといいだろうなとは去年の段階で気付いていたんで。でもまあ……なにしろ曲ができないことで相当焦ってましたけどね。
──そんな待望の新曲を聴いた人たちはどういう反応を示すんでしょうね?
横山 でもこのアルバムを聴いてくれた人がどう思うかは、以前ほど気にならないかな。今のバンドの在り方としても間違ったことをやってないと思うんで。あんまり言いたくないことなんですけど、自信はあるんですよ、うん。自分たちが納得いくことをやってるっていう自信があるからね。
収録曲
- We Are Fuckin' One
- You And I, Against The World
- Soul Survivors
- Not A Day Goes By ※
- This Is Your Land
- Ricky Punks III
- Everybody's Fighting
- Sold My Soul To Rock'N Roll
- I Can't Be There
- Good Bye For A While
- Save Us
- If You Love Me (Really Love Me) ※
※カバー曲
Ken Yokoyama(けんよこやま)
Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。
2012年11月29日更新