Ken Yokoyamaが9月20日にニューシングル「My One Wish」をCDリリースした。
2023年第2弾シングルとなる「My One Wish」には、疾走感あふれるカラッとしたパンクチューン「My One Wish」、エッジの効いた重たいリフが印象的な「Time Waits For No One」、ミュージカル「アニー」のテーマソング「Tomorrow」のカバーが収められている。音楽ナタリーでは今作の発売を記念し、横山健(Vo, G)と、「Tomorrow」にゲストボーカルとして参加した木村カエラの対談を実施。2人が思うパンク / ロックンロールの現在地について、精神的なつながりを感じる話など、心の奥底にある2人の思いにも話題がおよんだ。横山、木村が思う「幸せ」とは?
取材・文 / 矢島由佳子撮影 / 西槇太一
“木村カエラがボーカリストのKen Band“
横山健 配信ライブ(2021年10月4日開催の「Bored? Take A Breath」)でご一緒する前からずっと「なんか一緒にやりたい」と言っていてね。ライブなのか、音源なのか、ほかの活動なのかわからないけど、「何かやりたいね」っていう話で、「YouTubeでもやろうか」みたいな話にもなって。それがたぶん、もう5年くらい前だと思うんですよ。
木村カエラ 私は健さんの音楽を聴いて育っているので、もし一緒に何かできるのだったらそれはもう「夢が叶う」くらいにうれしいことで。
横山 配信ライブのあとに思ったんですよ。カエラさんをボーカルにして、僕たち(Ken Yokoyama)が演奏して、5人のバンドとしてミニアルバムでも作りたいなと。あの配信ライブではそれくらいの手応えがあったんですね。
木村 おお!
横山 あれ、言わなかったっけ?(笑)
木村 そこまでは聞いてないですね(笑)。
横山 夢はいつも大きいんです(笑)。カエラさんとは、ものすごくノリが合うんですよ。LINEとかで会話していると、“こっち側”だなっていうのをすごく感じるんですね。「あっち」「こっち」で分けるつもりはないですけど、あえて言うならね。
木村 ああ(笑)。
横山 この前はゲップについての話がなぜか盛り上がっちゃって。ゲップの話があんなに続くことないよね(笑)。
木村 でも本当、そのレベルの話が広がっていくことが多いですよね(笑)。
横山 だから2人で話している分には、なんでもできそうな気がするんですよ。なんだけど、何日か経って冷静になると、周りの人のことを考えるわけですね。カエラさんにはカエラさんのレコード会社や事務所があって、彼らに迷惑がかかるんじゃないかとか、そういうことを考え始めるとだんだん僕の中でアイデアが小さくなっていっちゃうんです。やっぱり木村カエラというアーティストはそれだけ大きいアーティストなんですよ。それで今回は1曲のみ参加というところで。あと「本当にやりたいことかな?」とか。ほら、先輩に頼まれて断れないこととかあるでしょ?
木村 そういうときは「それはちょっと……」って言います(笑)。
横山 あれ、そうなの? “憧れていたミュージシャン”って実は一番厄介でね。こちらがそれを真に受けてどっぷり一緒にやっちゃうと、本当は先に進みたいのに「また引き戻されちゃった」「またこの空気を出さなきゃいけない」というふうに思わせちゃうんじゃないかなと。そんなふうに意外と真面目に考えちゃって、遠慮しちゃう自分がいるんですよ。繰り返しになっちゃいますけど、大きいアーティストさんなんでね。
木村 健さんこそめちゃくちゃ大きいアーティストだと思いますし、私でよかったらいくらでも使ってください。参加できるだけで私はうれしいので。健さんと話していることは、私も同じようにやりたいと思っていることなんです。
横山 ……やっときゃよかったなあ(笑)。
木村 私も、健さんの周りのことを考えると、あまりわがままは言えないなと思って、健さんの発言を待ってみたりしちゃいました。
横山 なるほど。なんか、お互い背負うものが大きいんだね。……カッケえ!(笑)
木村 (笑)。
横山 音楽的な相性もすごくいいと思うんですよ。カエラさんくらいの歌唱力があったらいろんなタイプのサウンドに乗せて歌うことができるけど、もともとはパンクガールだと僕は思ってるんです。だから僕らみたいなサウンドに乗せて歌うのが一番なはずだって思ってるんですね。
木村 そうです。私はもともとパンクが好きで、バンドが好きで、健さんたちがやっている音楽を聴いて「自分もこういうふうになりたい」って思いながら、高校の学校帰りに制服のままインディーズバンドのライブに行って、下北沢に入り浸っていたので。スタートはそこなんですよね。デビューして最初はロックを貫いてやってきて、でもやればやるほど、周りのこととかをいろいろ気にし始めて……。
横山 背負うものが多いんですよ!(笑)
木村 (笑)。だから曲の幅がだんだん広がっていきつつも、自分の原点はそこにあるので、今回一緒にレコーディングをしたときはものすごい安心感と、自分の中で「あ、そう。必要なのはこれです」みたいな感覚がすごくありました。「自分の居場所だな」みたいな。だからすごく元気になったし、うれしかったです。
横山 ああよかった。普段真面目な話をしないので、今初めて聞きました(笑)。
木村 真面目な話、本当にしないですもんね。照れくさくて(笑)。
レコーディング時期は2023年2月
──「Tomorrow」のレコーディングはいつ頃されたんですか?
横山 今年の2月です。
──と言うと、2月14日(Hi-STANDARD・恒岡章の命日)の前には終わっていたということですか?
横山 いや、そのあとですね。まるでなかったことかのようにレコーディングして、終わったあと、カエラさんが僕にひと声かけてくれたんですよ。「大丈夫?」という感じで。お通夜にも来てくれたので、「この前はありがとう」という話だけ最初にして。
木村 だから今この歌を歌うということも、すごいタイミングだなって。きっと何か意味があることだと思いながらレコーディングしていました。
横山 「(恒岡に)聴いてほしかったね」なんて言ってね。
木村 ねえ、本当に。そんなことを話しながら、自分にできることを全力でやれるといいなと思っていました。そう思いつつも、“いつも通り”という感じでしたけど。
横山 うん。あえて言葉にすると「ネガティブなこと」というか、ネガティブに陥りがちなことに、レコーディングのときは引っ張られる必要ないですからね。そこは僕もすごく割り切ってやっていたので。むしろレコーディングがあってよかったくらいの感じでした、僕は。
木村 この曲を聴くと、私にとってはパンクが原点だということもあって、バッと魂に火が点く感じがするんですよ。無条件に元気になる祭り!というか、神輿担いで「ヨッシャ」みたいな(笑)。
横山 今、ふんどし姿の俺が浮かんじゃった(笑)。
木村 (笑)。曲を聴いたときにはそういう感覚になったので、歌うときも同じというか。声が枯れてもいいっていう状態で歌いました。
「すごく幸せそうに歌うんですよ」
──この曲を聴きながら、カエラさんの歌は「いい明日」を本当に連れてきてくれるイメージがある、と思ったんですよね。カエラさんは太陽に照らされている場所からこちらを誘うように歌っていて。健さんの歌は最初こそ「いい日をつかみにいくぞ」というガムシャラさがあるんだけど、曲の中でカエラさんが少しずつ引っ張っていって、最後には一緒に太陽の下から歌って呼び込んでくれている。そういった曲の流れを感じたんです。
横山 もしかしたら聴いた人はそう思うかもなって、今自然と思えちゃいました。カエラさんってそういう星の下に生まれた人だと思うんですよ。本人はいろいろ大変なことや苦しいことがあるだろうけど、天真爛漫ですごく明るいキャラクターで。この人、すごく幸せそうに歌うんですよ。本人にとっては当たり前なことだから気が付いてないと思うし、多分周りの人も見慣れちゃってると思うんですけど、幸せそうに自分に対して歌う。周りに対して歌う、というよりも。歌うことが好きとか、そういう感じでもないんだよなあ。なんかねえ、すっごく幸せそうなの、歌うとき。
木村 幸せです!
横山 それがカッコいいなと思いました。すごくいい雰囲気なんです。とても特殊、特別な人なんだと思います。だから見ているととにかく心地いいんですよ。
木村 初めて言われました。うれしいですね。今の言葉はきっと死ぬまで忘れないです。
横山 だから、歌ってるときの立ち姿がものすごくバチンとくるんですよね。この人は、望む望まないにかかわらず、このために生まれてきたんだなと思って。
木村 でもそれは健さんもですよね? 健さんもこのために生まれてきてる。
横山 俺? Um...Not really.
木村 え!(笑)
横山 僕はね、凡人ががんばってやってるのよ。カエラさんのそれは、生まれ持ったものという気がします。
木村 いやいや! 健さんこそ神様みたいな感じですよ。だから今回のレコーディングも、邪魔にならないように、健さんのファンのみんなにも「なんで木村が来たんだよ」と思われないように、ちゃんとしなきゃなと思ってました。健さんの世界観を絶対に崩してはいけないから、1つでもズレが生じたらダメで。健さんが弾いているギターに乗せて歌える、こんなにありがたいことはないな、しっかりやらなきゃバチがあたるなって、私にとってはそういう感覚でした。だって、自分の狭い部屋で1人で聴いていた音楽を生み出した人が目の前にいて、その人が弾くギターに乗せて歌を歌っているって、自分にとってはありえないことなんですよ。自分に与えられているこの時間やチャンスは特別なものだから、後悔しないようにやらなきゃなって。
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「どうせ聴かれないなら、出す意味あんのかな?」