ナタリー PowerPush - Ken Yokoyama
バンド&ソロインタビューで明かす 傑作「Best Wishes」完成までの軌跡
ライブ活動を止めることに悲壮感を感じた
──Ken Bandは昨年の12月までライブ活動を続けて、今年に入って制作期間ということで半年くらいライブ活動を止めました。この4人で新曲を制作するのは初めてだったと思いますが、それ以前と今回とで何か違いは感じましたか?
Jun ないっちゃあないかな。ただ健が曲ができなくてスランプっぽいっていう話を聞かされてたから、どういう曲を持ってくるのかなっていう。
松浦 待ってたっていうか。
Jun うん。
横山 メンバーにはしょっちゅう言ってたんですよ、「曲できないわ」「どこから手を着けていいんだかわかんないわ」って。で、僕は練習の帰りにいつもMinamiと一緒に車で帰るんですね。そのときも「俺、次はメタリックなものにしようかと思う」って言って、その2週間後には「なんかソウルフルな曲をやりてえな」って言ってたくらいで(笑)。
一同 あははは(笑)。
横山 そういうやり取りをしょっちゅうしてるんで、それを全部ひっくるめて普通のことなのかもしれないですね、彼らからしたら。
──できないものはできないし、できあがるまで待とうみたいな感じ?
Minami そうですね。
Jun 特に不安もなかったし。いずれできるだろうとは思ってたけど、俺なんかはやっぱりライブがすごく好きだから、「ライブをやれないストレスが溜まって待ってるんだから、早く曲を持ってこいよお前」とは思ったかな(笑)。でも新曲を作り上げないことにはライブ活動に戻れないわけだから。
──この4人による作品をまず作って、それを持って全国を回りたかったと。
Jun そうなんです。結局活動を止めたのは半年だったけど、別に半年間活動を止めようねって言ってたわけじゃないからね。それは3カ月だったかもしれないし、1年だったかもしれないし。
横山 GUNS N' ROSESみたいにアルバム1枚作るのに15年くらいかけちゃってた可能性もあるしね(笑)。
──確かに期間については一切触れてなかったですもんね。正直、これは相当待たなきゃいけないんだろうなと思ってましたし。
横山 ライブ活動を止めて曲作りをすることに対して、個人的には悲壮感みたいなものを感じていて。僕はデモテープを作ってバンドに渡すタイプじゃなくて、例えばリフやフレーズを思い付いたら「これをちょっと一緒に鳴らしてくれる?」って言って、コード進行とかリズムとかを提案してもらうアナログな作り方をしてるんです。そうしないとバンドマジックも生まれないし、彼らが作品に参加する必要がなくなってきちゃうから。そういうやり方だからすごく時間がかかることもわかってたし、同時にバンドとしてすごくいい時間を過ごせたんじゃないかとも思うんです。
結局、曲のタイトルを揃えるところから始めた
──健さんは今回の制作以前にも曲作りでスランプに陥ったことはあるんですか?
横山 まあちょこっとしたものはありましたけど、ここまでブレて、どこからどう手を着けていいかわからなくなることはなかったですね。それだけ自分が次に何を提示したいのかがわからなくなっちゃってたんです。
Jun やっぱり震災があったっつうのはデカいんじゃない?
横山 そうだね。
Jun 震災がなければ、新メンバーが入ってさあ新作を作ろうっていうときに、いつもどおりの感じでいけてたのかもしれないけど。震災があったことで、絶対にそれを踏まえたアルバムになるよねっていう話はしてたし、コンセプトアルバムじゃないけど今までとは違う感じの作品になるとは俺も思ってたし。結局さ、いろいろ考え過ぎて作れなくなっちゃったんじゃないのかね。
──音楽の表現としてあえて震災に触れずに歌う方法もあったと思うんです。
横山 そういう人もいっぱいいますよね。
──エンタテインメントとしてそういう手段もあるけど、Ken Yokoyamaとして、Ken Bandとしてはそうではないよねっていう考えが頭の中にあった?
横山 でも実はそこも明確にはなかったですね。いつもだったら曲を作ってから歌詞を付けるんですけど、その曲作りの段階で右に行ったり左に行ったりして。それでメンバーとの雑談で震災のことや原発のこと、いろんなことを日常的に話しながら、音楽性の部分を探ってたんですけど、そんなんじゃできるわけないですよね。結局、曲のタイトルを揃えるところから始めたら、音楽の方向性なんて問題じゃないんだってことにやっと気付いて。そこから少しずつできていった感じです。
──過去4作と比べてここまでストレートな内容になったのも、そういった迷いを振り切ったからこそなんでしょうか。
横山 そうかもしれないですね。うん。必要な迷いだったのかもしれないです。
僕が今Ken Bandで人前に出て言いたいことってこれでしょ?
──最初の1曲が完成したのはいつ頃でしたか?
横山 実際に曲作りを始めたのが12月の終わりぐらいからだったんですけど、最初の1カ月はああでもないこうでもないって悩んで。曲のタイトルがぽんって浮かんで、これで進められるぞと思ったのは1月末ぐらい。最初にできたのはアルバムの2曲目に入ってる「You And I, Against The World」でした。「僕が今Ken Bandで人前に出て言いたいことってこれでしょ?」っていう1行がポーンと出てきたから、詞の世界観をなんとなく自分の頭の中で作って。それとは別にこういう曲をネタとして持ってるよっていうのをバンドで合わせてみたら、すごく合点がいったんです。
──なるほど。
横山 でもまだ「本当にアルバムの方向はそれでいいのか?」って自分の中では疑問で。1曲できたけどこれでアルバムを全て作れるという保証はないわけだから、その後も探り探りやっていった感じですね。で、2曲目にできたのが全然方向性の違う「This Is Your Land」。あのときのスタジオ内の雰囲気をよく覚えてるんですけど、戸惑いがあったもんね(笑)。マイナーでBPMが240くらいの「You And I, Against The World」の次に、80年代の日本のインディーズ調パンクロックのテイストは何?みたいな。
Jun そうだよね。そういう意味で言うとあんまりメロディックパンクっぽくないし。
横山 今までは全体の整合性って自分の中ですごく大事だったんですけど、なかなか曲もできないし、もうそれを放棄せざるを得なかったんですよね。「This Is Your Land」も「You And I, Against The World」みたいな作り方で、タイトルと曲調が自分の頭の中でマッチして、それをバンドに持っていって説明したんです。
Jun ただね、一貫して歌詞より先にタイトルができてたんだよね。「You And I, Against The World」なんて最初にタイトルを聞いたとき「長くね?」と思って。「これ全部歌いたいの? 『Against The World』じゃダメなの?」「ダメだ」とかやり取りしたし(笑)。
横山 そうだったっけ?
Jun 「いや、『You And I』が必要なんだ」って返されて(笑)。
横山 前作「Four」まではそういう作り方じゃなかったけど、今回に限っては音楽性ありきで進めるのは嫌だって思ってしまって。そこに気付くまでに相当時間がかかりましたね。
収録曲
- We Are Fuckin' One
- You And I, Against The World
- Soul Survivors
- Not A Day Goes By ※
- This Is Your Land
- Ricky Punks III
- Everybody's Fighting
- Sold My Soul To Rock'N Roll
- I Can't Be There
- Good Bye For A While
- Save Us
- If You Love Me (Really Love Me) ※
※カバー曲
Ken Yokoyama(けんよこやま)
Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。
2012年11月29日更新