オーイシマサヨシ|音楽と生きる、音楽で生きる 自分の適正はやってみないとわからない 遅咲きエンタテイナーが見つけた突破口

悔しいけど、オタクが推し

──アニソンの世界に飛び込んで戸惑ったことはありますか?

それまでは楽器を持たずにステージに立ったことがなかったんですよ。自分でギターを奏でながら歌うことがミュージシャンシップだと思い続けてきたんですけど、アニソンシンガーになるとカラオケを流して歌うことになる。これは、ともすれば恥ずかしいことなんじゃないかと思って。

──「そんなやつ、ライブハウスであんまり見たことないぞ?」と。

そうそう。そういう凝り固まった固定観念があって不安だったんですけど、やってみたらステージ上の僕よりもパフォーマンスしてるオタクの皆さんが客席にいて(笑)。「みんなが楽しんでくれてるんだから、俺も負けてらんねえ」という、楽器を置いたことで相乗効果が生まれたと思います。

──客席との距離感も変わったと思うんです。

ものすごく近くなりましたね。雲の上のカリスマというよりは、神輿を担いでくれるアニソンのお兄ちゃんっていう(笑)。そっちのほうが時代にフィットしてるし、みんなに楽しんでいただけますよね。

オーイシマサヨシ

──オーイシさんがステージに登場すると「帰れ!」コールが飛んでくるのも、それまでは考えられなかったでしょうし。

あれはね、毎回ちゃんと傷ついてますよ(笑)。バッチリ1時間メイクして、スタイリストさんにカッコいいおべべ着させてもろたのに、「帰れ! 帰れ!」ってなんでやねん!と(笑)。でもそういう皆さんもね、僕がハケるときには「帰るな!」って言ってくれるので。オタクの情緒おかしいっすよ(笑)。面白いですね。

──いわゆる「アーティストとリスナー」の関係性とは違いますよね。

僕のことインターネットのお友達だと思ってるんじゃないかという(笑)。でもね、最近「推し活」という言葉が流行ってるから、いろいろなところで「オーイシさんの推しは誰ですか?」と聞かれるので深く考えてみたら、僕はオタクの皆さんのファンなんだって気付いたんです。オタクの行動原理を知りたくて研究し始めたら、みんなのことが好きになっちゃったんですよね。「君じゃなきゃダメみたい」(2014年に「オーイシマサヨシ」名義で発表された初のシングル。テレビ東京系アニメ「月刊少女野崎くん」オープニングテーマ)のタイトルにある「君」も、目の前のオタクのことなんです。最近はそういうふうに歌っちゃってますね。悔しいけど(笑)。

──アニソンシンガーとして手応えを感じたのはいつ頃ですか?

まず最初は「ダイヤのA」のイベント(2014年開催の「ダイヤのAオールスターゲーム」)で、明治神宮野球場で主題歌を歌わせていただいたとき。確か2万人くらいお客さんがいたんですよ。そんな大人数の目の前で歌うのは初めてだったので、なんてキラキラした世界なんだと。「俺はここにいてもいいんだ」みたいな、許可証をもらった感じでした。その後「君じゃなきゃダメみたい」でデビューしたときも、「月刊少女野崎くん」が話題になったおかげでヒットして。一発目からヒット作に恵まれたのはすごく大きかったですね。アニメファンの皆さんに愛される主題歌になって、どこで歌っても「あの曲キター!」みたいな雰囲気になるんですよ。お客さんの目の色が変わるというのは、今までにない感覚でしたね。第3の手応えは、やっぱり「けものフレンズ」に提供した「ようこそジャパリパークへ」ですね。作家としてたくさんの方々に名前を知ってもらったので。地元の同級生が「子供の運動会でかかってたよ」と教えてくれたり、甲子園でブラスバンドが演奏してくれたり、1つの到達点だなと。「俺の曲ってこんなところまで届いてるのか」と意識が変わった瞬間でしたね。

──オーディションにしてもライブパフォーマンスにしても、どんどん枷が外れて自由になっているように見えます。バンド時代にはダンスパフォーマンスバージョンのミュージックビデオを発表するとは思っていなかったでしょうし。

ホンマですよ。監督さんがそれを提案してきたら、次の日から一緒に仕事しなかったと思う(笑)。ロックスピリットあふれる青年だったので。

──音楽以外にも、ラジオパーソナリティやバラエティのMC、俳優などさまざまなジャンルに挑戦されていますが、「今だからこそこだわっている」ことはありますか?

「好きこそものの上手なれ」だと思うんですよ。例えばアニメの主題歌を作るにしても、その作品を好きにならないと書き始められません。作品のファンにならないと主題歌は薄っぺらいものになっちゃうし、チープな歌詞しか浮かんでこない。オタクの皆さんはそれを見抜くスカウターを持ってるので、すぐバレます。だから、好きになる要素が見つかるまでその作品を掘り下げるのがポリシーですね。それは主題歌だけじゃなく、番組でもそうです。好きになるまでスタッフさんや出演者の皆さんと話したり。楽しい現場がやっぱり好きなんですよ。好きがあふれる空気感や、環境作りにはこだわってるかもしれないですね。

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「濃い身内ノリ」がヒットを生む

──2ndアルバム「ユニバース」も、歌詞に関しては作品に寄り添っているワードが満載ですよね。

アニソンの書き方は2種類あると思ってて。今のJ-ROCKやJ-POPのアーティストさんのような自分たちらしさを全面に押し出したアニソンの書き方は1つの正解だし、めちゃくちゃいいですよね。一方、僕らアニソンシンガーは、深夜アニメの文脈とか歴史とかを踏まえた作り方をしてるんです。最近「もっと“濃いアニソン”を聴きたい!」とテレビでも話題になってましたけど、それが「濃い」ということなんじゃないかなと。

──それこそオタクが聴いたら「わかってる!」となる部分ですよね。

アニソンシンガーとオタクのあうんの呼吸というか。僕はよく例に出すんですけど、J-ROCK、J-POPのアーティストさんは「ロウきゅーぶ!」(2011年と2013年にTOKYO MXほかで放送された蒼山サグ原作のアニメ。バスケ好きの高校生が、コーチを引き受けた小学校の女子バスケ部の部員たちに翻弄される“爽やかローリング・スポコメディ”)のような萌え要素全開の主題歌は歌えないと思うんですよ。深夜帯に放送されるような濃いアニメになればなるほど僕らの出番になるはずで。以前「踊る!さんま御殿!!」に出たときに「アーティストさんに席を奪われて、アニソンシンガーは絶滅危惧種になってます」と話したんです。でも、あれから時も流れて、アニソンが世界中でバズったりしてる状況だと、逆に僕らの仕事は増えてるんですね。お茶の間まで届くようなビッグバジェットの大作がアニメ業界全体を照らすことで、それとは違った自分たちのやれることにも光が当たっているというか。

──全体のパイが増えることでディープな部分も活性化していると。

そうですね。より専門的な需要が高まって、「このコンテンツはオーイシに頼もう」と思ってもらえる機会が増えてると思います。

──一方、アルバムのサウンド面は、いわゆる「アニソンらしさ」より“オーイシマサヨシ色”が前面に出ていると思います。リズム的な仕掛けも多彩ですし。

ありがたいことに、アニメの音楽制作ディレクターさんと一緒にイチから作らせてもらう機会が増えたんです。アニメのテーマを尊重しつつ、僕の音楽的な趣味をプレゼンできるようになって。いいものを届けたいという気持ちももちろん常々あるんで、このアルバムに並んでる12曲はどれも全力投球した、かなり濃いラインナップになりました。

──それぞれが個性的な作品の主題歌なので、1枚のアルバムにまとめるのも大変ですよね。

どの言葉をタイトルにしたらいいんだろうと考えたときに、アニメのスタッフを含めた僕たちの頭の中にあるユニバースが形になったものだから、それでいこうと。1曲目の「uni-verse」は劇場版「グリッドマンユニバース」の主題歌で、この作品のテーマは「ヒーローを愛した気持ちを忘れずにいこう、大人になっても恥ずかしがらずに想像 / 創造していこう」ということだと思うんです。これは自分の創作にもがっちりリンクすることだし、改めてアルバムのタイトルにぴったりだなと。

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──作品の世界観によって楽曲の作り方は変わりますか? それとも、共通する「ヒットするアニソンを作る秘訣」のようなものがあるんでしょうか?

僕らはどこまでいってもアニメ作品に依存してて、作品が日の目を見ることによって主題歌もスポットライトを浴びると思うんです。その瞬間に初めて「この曲すごいじゃん」とか「作品の解像度が高い!」とか、我々の努力を聴いてもらえる。なので、秘訣はとにかく真摯であれと。泥臭いですけどね。実は、アニソンは納期がどんどん早まってるんですよ。今は全世界で同時配信されたりするので、各国で監査を受けないといけなかったりするから、下手すると公開の1年前に作曲しないといけないんです。1年後の音楽シーンの動向を予想して曲を書くなんて、神の所業じゃないですか。そんなことできるわけないから、打算なく作ったほうがいいと思うんですよ。ちゃんと自分の「好き」という主観を反映させて、身内ノリでもちゃんと熱量が高いフレーズをパワーワードとして持ってくるとか。ほかの作家さんは違う考え方かもしれないですけど、僕はそういうふうに思ってます。

──アニメが全世界で配信されることによって、楽曲が海外で聴かれることも増えているのでは?

海外でヒットしたアニメの主題歌はすごく聴かれています。異世界系アニメ「陰の実力者になりたくて!」の主題歌「HIGHEST」とか。サブスクだと、世界のどこで聴かれてるかわかるじゃないですか。今回のアルバムにも入ってる「死んだ!」(2023年にTOKYO MXほかで放送されたアニメ「勇者が死んだ!」オープニング主題歌)は、横浜市よりもインドのデリーのほうがリスナーが多いみたいです(笑)。でも、最近よくスタッフの間でも話題に上がるのは、「海外を視野に入れて英語詞にするのはやめよう」ということ。日本語話者じゃない人にとっては、日本語の発音自体がエキゾチックで魅力的なわけで。現代的なサウンド感だったり、世界水準のトラックメイクだったりは前提として、無理にグローバルになる必要はないと思いますね。

JASRACは正義のヒーローだとわかってほしい

──アニソンの仕事をするようになって、音楽著作権を扱うJASRACと関わる機会も多くなったのでは?

アニソンは二次使用料が発生する機会がめちゃくちゃ多いんですよ。テレビ放映、CDや配信でのリリース、映像のDVDやBlu-ray化やサブスク配信。パチンコで使われることもありますから。こうやって多岐に渡って自分の楽曲が使用されているのを見ると、単純にうれしいし、音楽を続ける理由になりますよね。クリエイターとしての寿命が延びていくような感じもあります。音楽を聴いたり利用したりする手段が無数にある時代なので、ミュージシャン自身がどこでどのくらい聴かれているのか把握して1つひとつマネタイズするのは無理ですよね。JASRACさんが僕らの権利を守る最後の番人であり戦士だと思うんですよ。多様性の時代だからこそ、こうやって法律的なことも含めて守ってくれる人がいないと、僕らも音楽を続けられなくなっちゃうかもしれないので。

──キャリアを重ねる中で、権利に対する意識の変化はありましたか?

バンドでデビューした当時は漠然としてました。「なんか知らないけど数カ月に1回振り込まれてラッキー」みたいな(笑)。そこには著作権使用料を回収してくれたり分配してくれたりする人がいて、ようやく守られている権利だということは、もう少し大人になってから気付きましたね。特にアニソンを作り始めてから顕著に感じるようになりました。JASRACさんは海外で聴かれている分も徴収してくれますから、今まで日本の1億2000万人に向けて作っていたものが、全世界80億人に広がったことも大きいです。

オーイシマサヨシ

──「JASRACはもっとこうなったらいいのに」と思うことはありますか?

SNSとかだと賛否両論あるじゃないですか。悪いイメージを払拭するための活動をされていると思いますし、このインタビューもその一環ですよね。JASRACさんのYouTubeチャンネルも拝見しましたけど、知り合いのプロデューサーさんとか劇伴作家さんとかが出ていて「みんなちゃんと勉強していて賢いなあ」と思ったんですけど(笑)。やっぱりクリエイターの味方ですから、僕も含めて「JASRACは正義のヒーローなんだよ」と世の中に訴求していけたらいいなと思いますね。

──今日はJASRACの方も同席しているので、直接聞きたいことがあればこの機会にぜひ。

サブスクって新しい権利のあり方じゃないですか。分配される使用料の計算方式は、確定しているものなんですか? 時代とともにアップデートされるんですか?

JASRACスタッフ 世界的にはアーティストが表に立って、その配分について声を上げています。日本ではそこまで議論になっていないのが現状です。

そうですよね。新しいカルチャーなのでしっかり議論されたらいいなと思いつつ、システムを整えるほうも大変だろうなと。サブスクで聴いてもらうというのがリスニングの主流になっているので、僕らとしても死活問題でもありますし。あと、X(Twitter)はなんでJASRACさんと包括許諾契約(※JASRACの全管理作品の利用を一括して許諾する方式)しないんですか? 僕はSNSの中でXが一番フォロワーさんが多いんですけど、楽曲を自由に使えないからプロモーションもしづらいし、カバー曲もアップできないですよね。

JASRACスタッフ UGCを生み出すほかのSNSと同様に、包括契約の働きかけはしてきています。ただXは、権利者から著作権侵害の連絡を受けて削除すれば免責される、という法制度を根拠にしていて、なかなか難しいのが実情ですね。

なるほど。TikTokやYouTube、Instagramのリール機能とかは、包括契約がユーザーの獲得にポジティブに働いていると思うので、Xもそうなってほしいなと思いますね。

──そのほうがアーティストにもリスナーにも有益ですよね。最後に、3月2日に行われる初の日本武道館公演はどんなライブになりそうですか?

芸歴23年目で初めて武道館ワンマンやるというのは、夢があると思ってて。何度も挫折して心折れた瞬間もたくさんあったけど、長い長いマラソンの末にようやくアニソンをきっかけにしてたどり着いた夢の舞台だからこそ、ファンのみんなと一緒に楽しみたいですね。一緒にゴールテープを切りたい。その気持ちが通じたのか会場のチケットはソールドアウトしてるんですけど、配信チケットは1000円で販売中なので、ぜひ皆さんに観ていただきたいです!

オーイシマサヨシ

ライブ情報

オーイシ武道館 ~オーイシマサヨシ ワンマンライブ at 日本武道館~

2024年3月2日(土)東京都 日本武道館 ※チケット完売

プロフィール

オーイシマサヨシ

愛媛県宇和島市出身。大学の軽音楽部の仲間である川原洋二、沖裕志と共に結成したSound Scheduleでボーカル&ギターを担当する。2006年にSound Scheduleが解散してから、2008年にシングル「ほのかてらす」で「大石昌良」としてソロデビュー。2011年にはSound Scheduleの再結成でも話題を呼んだ。2014年にアニメ・ゲームコンテンツ向けの名義「オーイシマサヨシ」での活動を開始し、8月に「君じゃなきゃダメみたい」でデビュー。これまで多数のアニメで主題歌歌唱や楽曲提供を行っており、2017年7月にはアニメ「けものフレンズ」オープニングテーマ「ようこそジャパリパークへ」のセルフカバーなどを収めたアルバム「仮歌」をリリースした。2024年2月に2ndアルバム「ユニバース」を発売。3月2日に東京・日本武道館公演を開催する。


2024年3月28日更新