ナタリー PowerPush - 細野晴臣

「歌うのが好きになってきた」ソロ活動40年を振り返る

ビル・ラズウェルが「自分はアンビエントだ」って

──アンビエントに傾倒するきっかけとして、やはりブライアン・イーノの存在が大きかったのでしょうか?

いや、ブライアン・イーノはすでに、Obscure Recordsっていうレーベルから素晴らしいアンビエントの作品を出していて。この頃は、ロンドンのクラブでハウスミュージックが面白くなってきていたんですね。これが新鮮だったんです。TB-303っていうローランドのシンセベースを面白い使い方をして曲を作っているのを聴いて、「こういう使い方があるんだ」って思って。

──DJたちが安価で出回ったTB-303を、正攻法とは違う使い方をして生み出したというアシッドハウスですね。

細野晴臣

うん。僕がハマったアンビエントは、そういったハウスミュージックと結びついていた「アンビエントハウス」っていうもので。さらに同時期にニューヨークはニューヨークで、アフリカ・バンバータたちがローランドのTR-808っていうリズムマシンを使って面白い音楽を作っていて。そんな時代でしたね。

──アンビエントハウスは、クラブで踊り疲れるくらいの時間に流される音楽から派生して生まれたジャンルとして知られています。

そうそう。「チルアウト」とも言われている。このアンビエントにもいろんなタイプがあったんですけど、自分が興味があることが別なところでも同時期に盛り上がっていたので、それでまた興奮したんですね。

──シンパシーみたいなものですか?

シンパシーというか、自分がやっていることが周りでも起こっているという面白さ。今だってそうです。今回作った「Heavenly Music」はカバーアルバムだけど、周りを見るとエリック・クラプトンもカバーをやっているし、ポール・マッカートニーもスタンダードのカバーをやっている……だから、僕はミーハーなのかもしれませんね(笑)。

──でも、細野さんはクラプトンやポールがカバーをやっているから、自分もカバーをやろうと思ったわけじゃないですよね?

うん。ふと見るとそうなっている。結果的に。ルートは違えど、なんとなくそういうことをやってしまうような流れがあるのかもしれない。まあ、そんなわけで当時はアンビエントに潜り込んでいったんです。そのアンビエントというのがまた、ヨーロッパ全土でCDがいっぱい出回っていたんです。メディアで紹介されないようなものもたくさんあったんですけど、その中にも素晴らしいものがたくさんあって。で、音を聴くと、“ああ、この人アンビエントだな”“この人はアンビエントのフリをしている人だな”ってすぐわかるわけです。

──「アンビエントのフリ」というのは、サウンド的にはアンビエントの体をとっているものの、“これはアンビエントじゃないな”と感覚的に思う感じですか?

そう(笑)。出ちゃうんですよ。わかっちゃう。音楽は嘘がつけない。

──「それ、ロックだね」みたいな話ですね(笑)。

細野晴臣

そうそう(笑)。で、僕がアンビエントに深く入り込んだ頃は、アメリカにはまだそういうことをやる人が誰もいない時代だったんですね。でも、ある日ビル・ラズウェルが東京に来たときに彼に呼び出されたことがあって、のっけに彼が何を言ったかというと……「自分はアンビエントだ」って(笑)。カミングアウトしたんです(笑)。

──細野さんは1995年にビル・ラズウェルと「N. D. E」という作品を共作していますけど、ビルのカミングアウトはその前の話ですか?

うん。でもそのとき「ああ、アンビエントだったら一緒にやれるな」って思って。ヒップホップでもラップでもない、アンビエントなら一緒にできるって。

──ここまでの話を整理すると、1990年代に入って「メディスン・コンピレーション」をリリースして、その頃からアンビエントに傾倒していったという。

うん。その頃僕はロングヘアーで、それをネイティブアメリカンみたいに束ねていて、老人のフリをしたりね……変な時代でした。

──それくらい、精神的にもいろいろと影響を受けていた時代だったんですね。

そう。いろいろ深く入っていってね。勉強になった時代でした。

ニューアルバム「Heavenly Music」 / 2013年5月22日発売 / 3150円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64031
ニューアルバム「Heavenly Music」
収録曲
  1. Close to You
  2. Something Stupid
  3. Tip Toe Thru The Tulips with Me
  4. My Bank Account Is Gone
  5. Cow Cow Boogie
  6. All La Glory
  7. The Song Is Ended
  8. When I Paint My Masterpiece
  9. The House of Blue Lights
  10. ラムはお好き? part 2
  11. I Love How You Love Me
  12. Radio Activity
細野晴臣(ほそのはるおみ)

1947年生まれ、東京出身の男性アーティスト / プロデューサー。エイプリル・フールのベーシストとしてデビュー。1969年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とバレンタイン・ブルーを結成し、翌年バンド名をはっぴいえんどに改名する。はっぴいえんど解散後はソロ活動と並行し、林立夫、松任谷正隆らとキャラメル・ママを結成。荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースを行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。YMO「散開」後は、映画のサントラを手がけるほか、松田聖子や山下久美子へ楽曲を提供しヒットメイカーとしてもその名を知らしめる。2000年代に入ると、高橋幸宏とのユニットSKETCH SHOW、忌野清志郎、坂本冬美と結成したHIS、SKETCH SHOWに坂本龍一を迎え結成したHuman Audio Spongeなど、さまざまなユニットで音源を発表。還暦を迎える2007年にはHARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS名義で「FLYING SAUCER 1947」をリリースしてソロ活動を再開。さまざまなライブイベントに出演する一方で、2013年5月に往年のスタンダードナンバーをカバーした「Heavenly Music」を発売した。