ヒトリエ「Friend Chord」インタビュー|アニバーサリーイヤーの最後を飾る充実のニューアルバム (3/3)

「バンドらしいアルバム」に逆行した「Shadowpray」

──ゆーまおさん作曲の「Shadowpray」は打ち込みの楽曲です。これもめちゃくちゃ個性が出てますね。

ゆーまお さっきシノダが「バンドらしいアルバム」みたいなことを言ってましたけど、僕は逆行してたというか(笑)。打ち込みの曲ばっかり作ってたんですよ。

シノダ 俺のモードと入れ替わった感じだね(笑)。

ゆーまお いくつか作った中で、この曲はアルバムの雰囲気にも合うんじゃないかと思ったし、シノダも気に入ってくれて。あと、デモの段階から自分で歌詞を書いてたんですよ。納得がいかない一節や、腑に落ちてなかった部分はシノダに手を入れてもらって。

シノダ ゆーまおが歌詞を書いてきたこと自体、「マジか」という感じだったんですよ。なるべく原型を崩さず、歌モノとしていいものにするためのバランスを考えながら歌詞を添削したというか。Aメロの畳みかけるような歌詞は僕からは出てこないし、いい曲だなと思ってます。

イガラシ こういうハウスみたいな曲って、ベースだけ生だったりするじゃないですか。そのニュアンスを再現するのも面白いかもなと思って、「今のシーンの最先端ってどうなんだろう?」といろいろ聴いてみたら、けっこうカッコよくて。聴いてて楽しかったですね。

シノダ 今のハウスを聴いたら楽しかった、と(笑)。

イガラシ 曲の中でのベースのあり方はあまり変わってなかったけどね。あとはレコーディングのとき、パッシブのジャズベースを3本持っていって、「どれが一番それっぽいですか?」ってスタッフに聞いてました。

シノダ ほんのわずかな差ですけどね。

ゆーまお そういう作業も多かったんですよ、今回。例えば同じライドシンバルを3枚くらい持っていって「どれがいい?」とか。それは今までと違うレコーディング時間の使い方だったかもしれないですね。

ゆーまお(Dr)

ゆーまお(Dr)

──これまで以上にディテールにこだわった、と。このアルバムには「NOTOK」の新バージョンも収録されています。シングルバージョンはwowakaさんのボーカル音源を使っていましたが、アルバムバージョンはシノダさんがボーカルを担っています。

シノダ ライブでも歌ってましたからね。「NOTOK(Album version)」のレコーディングがアルバム制作の終盤だったので、自分の歌もだいぶホットな状態で録音できたのかなと。歌っている中で「こっちのほうがカッコいいかな」みたいなことも思いつくんですよ。「NOTOK」に関しては、できる限りのアプローチを試せたと思ってます。

──2024年はwowakaさんの楽曲と改めて向かい合った1年だったと思います。その中で新たに気付くこともあったのでは?

イガラシ wowakaの曲を演奏する専用の技術、専用の体が必要なんだなと思いましたね。3人で作った曲もあるし、ライブを重ねて演奏経験を積んだとしても、wowakaの曲にはそれがあまり生かせないというか。

ゆーまお wowakaの曲はディテールが細かいんですよ。(歌詞を見ながら)「この文字とこの文字の空間をこれくらいの距離にしなくちゃいけないんだ」みたいな感じで。相対的に見るというより、1行ずつ詰めていくというのかな。

シノダ 点だね。

ゆーまお そう、点で攻めてくるんです。すべてにロジックがあるし、意味を持ってしまっていて。「NOTOK」の制作のときに、そのことを思い出しました。

シノダ wowakaの曲は……歌いづらいです。本人も言ってましたからね、「自分の曲は歌いづらい」って。ライブやってても「次はリーダーの曲か……」みたいな感じになりますから。

ゆーまお なるね(笑)。

ここから先、まだまだ見れるものがある

──さっきも話に出ていましたが、「おやすみなさい」は心地よい酩酊感を誘うような楽曲で。まさにオルタナ的な音像と美しいメロディが溶け合う素晴らしい曲だと思います。

シノダ ありがとうございます。アルバムのラスト2曲「おやすみなさい」「ブルースプリングパンク」は完全に僕の自我と言いますか。「おやすみなさい」は6分以上ある尺を含めて、会心の出来ですね。伝わるといいなと思ってます。

──もともとはどんな曲想で始まったんですか?

シノダ こういうタイプの曲は以前からちょこちょこ試していたんですよ。例えば「REAMP」に入ってる「うつつ」もそうですけど、ずっとこういう感じの曲を作ってみたくて。「おやすみなさい」は弾き語りツアー(「シノ鉄」)のときに書きました。ツアーの途中から「毎公演、新曲を披露する」ということを始めて、その中の1曲ですね。リハから本番までの時間で書いたんですけど(笑)、バンドで演奏するためにコード感や歌詞を整理して。あとはとにかくフェティッシュな曲にしようと思ってました。

イガラシ いい曲だけど、「こんな趣味みたいな曲が入るんだ」と思いましたね。

シノダ そうだよね(笑)。

──そしてバスドラの大きさもポイントだった、と。

ゆーまお そうです。26inchのバスドラですけど、ずっと音が消えないんですよ。

シノダ 音量がデカいからね。

ゆーまお 音がなかなか減衰しないし、ずっと一番手前にいるというか。

シノダ レコーディングというのは、音の存在の記録なんだなと思いました。本当に理想的な形にできたし、美しい曲になりましたね。

──「ブルースプリングパンク」は鋭い疾走感に貫かれたアッパーチューンです。

シノダ この曲は「絶対、アルバムの最後に入れたい」と思ってました。これも「シノ鉄」で歌ってたんですよ。最初からずっと歌いっぱなしで、最後ギターソロで終わるという。そもそも僕、速い曲を作るのが苦手で。自分が好きな感じにはできないと思ってたんですけど、「ブルースプリングパンク」は好きな曲になりました。

──「さよなら、血まみれのデイジー」「あの娘に噛まれた喉笛」という歌詞もすごいインパクトでした。めっちゃ血まみれですね。

ゆーまお 血が流れてますからね。

シノダ こういう歌詞って、意味がわからなくてもハッとするじゃないですか。グロテスクな表現も昔からずっと好きだし、その濃度も上げていこうかなと。

──本当にやりたいことが具現化されたアルバムなんですね。

シノダ そうだと思います。最後の2曲に関しては、この2人の演奏をスカッと録れたと思っていて。「おやすみなさい」のゆーまおのドラムは本当にすごいし、「ブルースプリングパンク」はイガラシくんに「なんとか全部ダウンピッキングでいけないかな」とお願いして。

イガラシ 余裕っす。

──カッコいい!

シノダ ダウンピッキングじゃないと出せない疾走感があるし、それをイガラシくんが会得してくれてよかったです。

──アルバム「Friend Chord」のリリース後は、本作を携えた全国ツアー「Freaky Friendship Tour 2025」が開催されます。10周年を経て、次の活動ビジョンをどう描いていますか?

シノダ バンドとしては中堅くらいのキャリアになってきましたが、10周年の「10-NEN-SAI」であまりにも新しい景色が見えすぎて。ここから先、まだまだ見れるものがあるんだろうなと感じたし、見られる限りのものは見たいなと思ってます。

イガラシ 2024年はライブがめっちゃ多かったので、経験を積んで演奏の質を上げることはできたと思っていて。それとは別に、根本的な楽器の演奏技術で新しい何かを会得したいですね。ちょっと飽きてきたんですよ、自分に。2025年は練習したいし、新しい何かができるようになりたいです。

ゆーまお めっちゃわかる。「自分に飽きた」ってうまい言い方だし、インプットがないと不安になるんですよ。自分自身のモチベーションにつながるようなことをしないとマズイなと思ってます。あとは対バンをやりたいですね。対バンとかイベントにあまり呼ばれないので。

シノダ 呼ばれないね。

ゆーまお バンドの調子がいいからこそ、ほかのバンドと交わる現場がもっとあってもいいのかなと。そこで得られるものもあると思うんですよね。

公演情報

ヒトリエ Freaky Friendship Tour 2025

  • 2025年3月16日(日)宮城県 仙台MACANA
  • 2025年3月21日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2025年3月23日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3
  • 2025年3月30日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2025年4月13日(日)石川県 Kanazawa AZ
  • 2025年4月27日(日)北海道 BESSIE HALL
  • 2025年5月5日(月・祝)奈良県 奈良NEVER LAND
  • 2025年5月6日(火・振休)大阪府 BIGCAT
  • 2025年5月10日(土)滋賀県 B-FLAT
  • 2025年5月11日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2025年5月16日(金)広島県 SIX ONE Live STAR
  • 2025年5月18日(日)香川県 DiME
  • 2025年6月22日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI

プロフィール

ヒトリエ

wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人により結成されたバンド。ボカロPとして高い評価を集めていたwowakaがネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年に活動をスタートさせた。2013年11月に開催したワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。その後も精力的なリリースとライブ活動を展開するが、2019年4月にwowakaが急逝。残るメンバーは3名体制で同年9月より全国ツアーを行った。2021年2月に新体制で初のフルアルバム「REAMP」を発表し、2022年6月には新体制アルバム第2弾「PHARMACY」をリリース。2024年6月にメンバー4人それぞれが作曲を手がけた楽曲を収録したシングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」をリリースし、9月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブを行った。11月にwowakaが作曲した楽曲4曲を収録したシングル「NOTOK」をリリース。2025年1月にニューアルバム「Friend Chord」をリリースし、本作を携えた全国ツアーを3月より開催する。