ヒトリエ「Friend Chord」インタビュー|アニバーサリーイヤーの最後を飾る充実のニューアルバム (2/3)

リスナーとの「非常に友好的な関係」

──「Friend Chord」というタイトルはどのように決まったのでしょうか?

シノダ 曲が出そろってきたときに決めました。友達とやってるグループチャットがあって、その中の1人が「『スプラトゥーン』やろうぜ」と言い出して、フレンドコード(ニンテンドーアカウントと連携したユーザーに発行される番号)を公開したんです。僕は全然ゲームをやらないんだけど「“フレンドコード”って素敵な言葉だな」と思って、コードを和音(Chord)に変えてタイトルにしました。「みんなで1つになろうぜ」とか友情がどうのこうのとか、そういうことを歌うバンドではないんですよ、我々は。でも、4人から3人になって、10周年を迎えて。今年はいろんな場所でライブをやったし、言葉の選び方が難しいんですけど、俺らの音を聴きに来てくれる人たちとは、非常に友好的な関係であることは間違いないだろうと思ってて。「俺ら、友達だぜ」と言いたいわけではないんだけど、このアルバムでは“Friend”という言葉を使いたかったんですよね。

──コードには符号という意味もあるし、ヒトリエが発するものに反応している人たちが音楽を聴き、ライブに足を運ぶわけですからね。

シノダ 共鳴ですよね。そういう感じはすごくあります。「わかってるやつはわかってる」って言うと偉そうですけど。

シノダ(Vo, G)

シノダ(Vo, G)

イガラシ ライブというものに対しては、以前から「すごいな」と思っていて。「この日、この場所で何時から音を出します」と言えば、チケットを買ってきてくれる人たちがいるっていうのは、ちょっと異常な状況じゃないですか。

──そう言われたらそうですね。

イガラシ その関係性が一番大切というか。いまだにライブをやるたびに「すごいな」「なんで人が集まるんだろう」と思うんですけど、今回のタイトルは、シノダの中にあるそういう感覚に名前を付けたのかなと。

ゆーまお なるほどね。僕は普段からフレンドコードをよく使ってますけど、めちゃくちゃ気軽にやりとりしてるんですよ。シノダには「お客さんとの距離感もそれくらいの感覚じゃない?」と言ってて。ただ、今話を聞いてて「もうちょっとしっかりした意味があったんだな」って思いました(笑)。

「耽美歌」のような曲調のほうが筆が乗りやすい

──アルバムに収録された新録曲についても聞かせてください。まず1曲目の「耽美歌」。かなりダウナーな楽曲だし、この曲がアルバム全体のイメージにつながっているところもあるのかなと。

シノダ そうかもしれないですね。「耽美歌」は確か2023年のツアーのときに作ったんですよ。音源になるかどうかわからないけど、とにかく新曲を披露しようというモードで作って、1本のツアーを通してやり続けて。1年前のLIQUIDROOM公演でもやったし、映像(シングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」初回生産限定盤の付属Blu-ray)にも収録されてますけど、そのときは「耽美歌(仮)」という表記で。今回ようやく(仮)が取れました。

──ライブを通して、楽曲のよさを認識した?

シノダ そうですね。もともとの雛形は「REAMP」の頃からあったんですけど、スリーピースで鳴らすことを前提にブラッシュアップして。

イガラシ 最初のデモ音源を前任のマネージャーがすごく気に入っていたので、音源にできてよかったです。

シノダ その頃とはだいぶ歌詞が違うけどね。

──「悪い遊びをしよう、ほら」「焼け落ちるミラーボール」など、ライブを想起させるワードもあって。

シノダ 曲を作ったのがコロナ禍の真っ最中で、ライブ自体がめちゃくちゃ悪いものとして見られていて。その当時の感じが歌詞にも出てるんだと思います。

ゆーまお 「ライブだけでやる曲なのかな」と思ってたんだけど、収録することになって。「あ、入れるんだ」という感じでした。

シノダ 気が進まなかった?

ゆーまお そんなことないよ(笑)。アルバムの最初のほうに入れることも決まっていたので、全体のバランスはちょっと心配してましたけどね。「耽美歌」みたいなゆっくりした曲ばっかりになったらどうしよう?って。

シノダ そうか。

ゆーまお でもアルバムができあがってみたら、1曲目でよかったなと思いました。真ん中あたりに入ってたら印象に残りづらかったかもしれないし、最初で正解だなと。

シノダ こういう曲調のほうが筆が乗りやすかったりするんですよ、自分としては。

「Quadrilateral Vase」=“四角の花瓶”

──イガラシさんが作曲した「Quadrilateral Vase」も憂いが感じられる楽曲です。制作している段階ではどんなイメージがあったんでしょう?

イガラシ この曲は何も考えずに作りました。「こんな自分の趣味みたいな曲を入れて大丈夫なんですか?」という。シノダの歌い方もほかとはまったく違います。特に僕からは何も言わなかったんだけど、ちゃんと曲に合わせてくれて。

シノダ この曲もだいぶ前から存在してたんですよね。

イガラシ 2、3年前ですかね。ツアー中に「アルバムにどの曲を入れる?」という話になったときに、シノダが「シューゲな気がする」みたいなことを言ってて。「だったら、あの曲はどうでしょう?」という感じで提案したんだと思います。

イガラシ(B)

イガラシ(B)

──確かにシューゲイザーの要素はありますね。ちょっと耽美な雰囲気もあって。

イガラシ そうですね。すごいダウナーな状態で作っていたことは覚えてます。

──歌詞はシノダさんですが、イガラシさんとやりとりはあったんですか?

イガラシ ないですね。

シノダ まったくないです。仮タイトルが「Flash」だったので、「まぶしいんだな」とイメージして。まぶしいものって、見てるとしんどいじゃないですか。リアルにまぶしいものを見ると目に痛みを感じる人もいるだろうし。ちなみに「Quadrilateral Vase」は翻訳すると“四角の花瓶”という意味なんですけど、つまり“視覚過敏”という……シャレです(笑)。

──そうだったんですね(笑)。ゆーまおさんはこの曲にどんな印象がありますか?

ゆーまお イガラシはけっこうこういうタイプの曲を書くんですよ。だよね?

イガラシ うん。

ゆーまお 今まではアルバムの収録曲から外れることが多かったんだけど、こういう曲は自分も好きだし、収録できてうれしかったです。

シノダ 「Selfy charm」(シングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」収録)みたいな曲もあるし。いい曲を書くんですよ、イガラシは。