平井大、躍動の2020年を語る|今を大切に、感じたままに

「Stand by me, Stand by you.」は草案ができるまで20分

──7月には「僕が君に出来ること」を発表されました。平井さんの日常、そして飾りのない愛がストレートに伝わってくる楽曲になっていますね。

ステイホームで、家にいる時間が必然的に増えた中での自分のライフスタイルを素直に表現することで、多くの人に共感してもらえるのではないかと思って制作した楽曲です。

──この楽曲はソーシャルメディアでのユーザーの動画投稿をきっかけに、息の長いヒットにつながりました。

純粋にうれしい出来事でしたね。多くの人がこの楽曲に共感してくださったからこそ生まれたムーブメントだと思うので。音楽って、聴いてくださる人の反応をいただかないと、ただの自己満足だけで終わってしまう。でもこの楽曲は、多くの方々がそれぞれの生活に取り入れてくださったおかげで、大きな変化をもたらしてくれました。この状況を本当にうれしく思っています。

──しかも、飾りのない表情を描いた楽曲が受け入れられるのって、素晴らしいことだと思うんですよ。

最近は多くの人が音楽にピュアさを求めているのかなって肌で感じるんですよね。SNSが普及したことによって複雑になったと考える人もいると思うのですが、そこで鮮度の高いピュアなものを皆さんが探しているのかなという印象があります。また、それが伝わるものだったら、お金をかけなくても自然と拡散されていくものだと思います。

──SNS受けする音楽を制作しようと考えることはありますか?

キャリアを積み重ねていくと、多くの人に好きになってもらえる楽曲とそうでないものの違いが徐々にわかってくる。僕らは、音楽を聴いていただかないと成り立たないので、皆さんの生活の中でどう響くのかを必然的に考えますよね。でも、これを使えば必ず拡散されるという確証はどこにもありません。ただ、「こういういい音があるよ」とシェアしたくなるような音を作ろうと、日々研究をしている部分はありますね。

──これはあとで質問しようと思ったのですが、話の流れで。9月にリリースされた「Stand by me, Stand by you.」は、思わずシェアしたくなるようなほっこりするフレーズがちりばめられた楽曲ですよね。これは「僕が君に出来ること」に続く拡散を意識した部分はありますか?

本当はこのタイミングで(後に11月に配信された)「Holiday」を発表する方向で進んでいたんですけど、この楽曲がドラマ主題歌に起用されることが突然決定して、それに合わせてリリース時期を遅らせることが判明したので、急いで制作したんです。だから、ソーシャルでの反響とか考える余裕なんてありませんでしたよ(笑)。ただ生活の中で起こったことを素直に楽曲にしただけです。

──実際、どれくらいの期間で完成させたんですか?

草案ができるまで20分くらい(笑)。自分の中でも相当短い制作期間ですよ。2週間に1曲というペースを守るためのデッドラインがすぐだったので、眠い目を擦りながら完成させましたね。

──でも、それがストリーミングでトータル6000万におよぶ再生数を誇る大ヒットに繋がるわけですよね。

時間をじっくりかけて完成させた楽曲だけが心に響くものではない。特に僕の場合は、その瞬間に感じたことをストレートに音に表現したほうが、多くの人に届くのかもしれないですね。

──こちらもSNSで多く取り上げられ、さらにシンガーの方々もカバー動画を次々とアップされるなど、さらに大きな社会現象を引き起こしています。

皆さんに聴いていただくことで、音楽の価値が上がっていくと思う。だから、いろんなメディアで取り上げられたり、カバーしていただくことはミュージシャン冥利に尽きるのかなって。

リスナーから影響を受けて制作した「Sayonara」

──これだけ多くの反響を見ていると、平井さんの音楽はSNS全盛の現代にとてもフィットするものなのかなと思いますが、ご自身の中で親和性を感じていますか?

それはあまりないですね。むしろ僕はアナログ派な人間なので(笑)。中高生の頃はCDショップに足を運んでいろんな音楽を漁っていた世代ですから。特に輸入盤CDが好きだったんです。作品によって変わるケースの状態とか、ブックレットから漂うインクや紙の独特の匂いとか。そこに青春が詰まっている気がします。そんなアナログな人間が、デジタルを中心に聴かれている状況は、とても面白いことだなって。

──逆に、それらの放つ不思議な匂いに影響を受けた音楽が、CD全盛当時を知らない世代にとっては新鮮に響くのかもしれないですね。

そうなのかもしれないですね。

──またソーシャルメディアでのファンとのやり取りによって、曲のアイデアが浮かぶこともありますか?

それは大きくありますね。Instagramにはよく「次はこういう楽曲を作ってほしい」というリクエストが届いていて、2020年はそれにできるだけ応じようと心がけていたというか。多くのリスナーの方々の反響を大切に制作していたので、影響を受けていたのは確かです。

──特にリスナーの方々の声に影響を受けて完成した楽曲はありますか?

9月に発表した「Sayonara」ですかね。リスナーの皆さんから「別れの楽曲が聴きたい」というリクエストがあったので、それをきっかけに生まれたものになります。また、「秋」をテーマにし、雨音を取り入れた音など、今まであまりしていなかったことも取り入れることができた。皆さんの声をきっかけに新しいことに挑戦することができた思い出深い1曲です。

──でも、やはり平井さんの音楽といえば“夏”や“ビーチ”といった言葉が思い浮かびます。時を戻しますが、夏の時期にリリースした楽曲は、これまで同様のリラックスした雰囲気がありながらも、レゲトンのビートを取り入れた「Lonely Beachy Story」など、ひと味違う空気を感じる楽曲がそろっていた印象がします。

これは、僕のバンドメンバーでアグレッシブな人がいまして(笑)、その方の夏の思い出を取り込みながら、ちょっとセクシーな雰囲気を感じる楽曲にしようと思って完成させたものですね。

──また夏にはインスト集「"summer2020" instrumentals」を発表されていますね。

これは夏休みがどうしても欲しくて、その空白期間で皆さんにどう楽しんでいただけばいいのか、考えた末に出た苦肉の策でして(笑)。でも、こういう作品を発表しておくと、ファンの方もよりカバーしやすくなるというか。僕の音楽をドライブ中に聴く方が多くいらっしゃるみたいで、そこで歌えるようなものがあったら、夏の思い出をさらに盛り上げるものになるのかなという思いもあって発表したものです。