海の香りや夏を想起させる、シンプルで温もりのあるアコースティックサウンドが支持を集め、昨年リリースした2枚のアルバム「Life is Beautiful」「Love is Beautiful」がどちらも大ヒットを記録するなど、現在注目を集めるシンガーソングライター、平井大。そのハートウォーミングなサウンドは、幅広い層のリスナーから絶大な支持を獲得しており、アルバム「Life is Beautiful」はiTunes / Apple Musicスタッフが選んだ2016年ベストアルバムに選出された。
本特集では彼を支持するさまざまな関係者に対し、それぞれが独自の視点で思う“平井大の魅力”について取材。集まった証言を基に、完成したばかりのアルバム「ON THE ROAD」の聴きどころを読み解いていく。
文 / 松永尚久
- 平井大「ON THE ROAD」
- 2017年7月5日発売 / avex trax
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CD+DVD
4860円 / AVCD-93699/B -
CD
2700円 / AVCD-93700
- CD収録曲
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- Story of Our Life
- Moonlight Satellite
- Ordinary People
- Three Two, One
- On the Road
- Life Song
- Sunshine and Rainbows
- By the Bonfire
- Blowin' in the Wind
- Cradle of Love
- Home
- DVD収録内容
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- Story of Our Life(Music video)
- Live Tour 2017 ~LOCALS ONLY~ at TOKYO DOME CITY HALL
虹の向こう / Faraway / Slow & Easy / The Light ~青い空~ / Beautiful / 祈り花 / Thinking of You / A Good Day / Any day / Summer Queen / Kiss Me Baby / Life is Beautiful
- 平井大「ON THE ROAD HIRAIDAI」
- 2017年7月27日発売 / エイ出版社
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[書籍]
2160円
平井の人気に火を着けた“歌詞動画”という文化
サーフミュージックシーンの中で着実に人気と実力を磨き、昨年発表した「Life is Beautiful」がCMソングに起用されたことなどをきっかけに、今では幅広い音楽リスナーから親しまれるシンガーソングライターになった平井大。彼の楽曲について、フジテレビ系で放送中の人気リアリティショー「テラスハウス ALOHA STATE」に出演したモデルのNikiはこう語る。
「平井さんの楽曲は、私の大好きな海を連想させる世界観、そして歌詞とメロディがとても好きです! 聴いていると、ハワイで暮らしていた日々がよみがえってきます。特に大好きな1曲は……『tonight』。思い出の1曲なので」
「tonight」は番組においてNikiの重要なシーンで挿入歌として流れた楽曲だ。このように「テラスハウス ALOHA STATE」では平井の楽曲が効果的に使用され、自身の感情と真摯に向き合うことの大切さを伝える彼の楽曲は、今ではムードを盛り上げるBGMとして恋人たちを中心に支持されるように。また動画コミュニティサイト「MixChannel」のチーフディレクターを担当する株式会社Donutsの金子健人氏は、SNSで彼の楽曲をモチーフにした映像などが多数アップされ絶大な人気を獲得していると語る。
「MixChannelではもともと、好きな楽曲の歌詞に合わせて自分たちの思い出の写真やムービーを編集して1本の動画にする“歌詞動画”という文化がありました。その中で、昨年夏より楽曲の歌詞をプリントシール機に書いて動画にする“歌詞プリ”が流行し始め、平井さんの楽曲『Slow & Easy』の夏の情景をストレートに描いた歌詞がユーザーの共感を呼び、歌詞プリによく使用されるようになりました。結果、MixChannelのユーザーの中に“歌詞プリ=『Slow & Easy』”というイメージが根付き、現在この曲はMixChannel内において総再生回数1200万回と絶大な支持を得るほどになりました」
“ポップスター”の可能性を持つ大衆性と、常にアップデートされる表現方法
「不特定多数の人々が耳にするラジオ番組でも、彼の楽曲はニーズが高い」。そう証言するのは、株式会社FM802・802編成部の主任である北一平氏だ。
「24時間オンエアしているラジオ番組において、早朝から深夜までさまざまな時間で流せ、さらにお休みの方の多い土曜や日曜、少し特別な祝日など、多様なシチュエーションにマッチする楽曲が多いのが、平井さんの魅力。それぞれの人にとって重要な時間、場所にBGMとして溶け込む音楽になっているのではないのでしょうか」
ウクレレやアコースティックギターなどのシンプルなサウンドに乗せる彼の音楽スタイルは、何かと情報の多い現代社会の中で新鮮に響いたのかもしれない。そして日常の中で見失っていた「自分らしさとは何か?」を考えさせるきっかけをもたらし、SNSやテレビ、ラジオなど幅広いメディアで、季節や時間、世代を問わずに愛されている理由なのだろう。またライブに関しても「ほかのアーティストのステージでは体感することができない一体感やおだやかさを味わえる」と、彼が出演するフェスには多くの人が詰めかけ、単独公演のチケットはすぐに完売してしまうほどの人気になっている。
「大さんのファンの顔ぶれは、すごく幅広いです。サーフガールから、ライブハウスへ初めて来たような方、音楽に詳しそうなダンディな男性……老若男女問わない間口の広さを感じます。そんな大衆性の高さに、彼の“ポップスター”としての可能性を感じずにはいられません。音楽に特段詳しくなくても入りやすく、また日本人離れした洒落た感覚は、洋楽ファンをも納得させるパワーがありますね」
そう語るのは、関西を中心にライブを企画制作する株式会社サウンドクリエイターのイベントプロモーター・八木香奈子氏。平井のステージには、ほかにも人々を惹き付ける理由があると言う。
「大さんのライブは表現方法が常にアップデートされていて、何が起こるかわからないサプライズ感が満載。二度と同じ演奏をする夜はありません。バンドメンバーもそんな彼と相性ピッタリ。多くの場を重ねてきた凄腕たちなので『次はどうなるんだろう?』なんてワクワクすることもあります。その自由さを支えるのは、なんといっても大さんのパフォーマンス力の高さです。ギターも自在に弾きこなしますが、見どころはウクレレ。あたかもギターのように鳴りの硬いカッコいい音で弾き、アンプにつないで歪ませたりなど、ロックなウクレレで魅せてくれます」
一切の抜かりがないスタイルは、さながら“歌うビンテージスタイル図鑑”
さらにステージで平井は、音だけではなく空間にもこだわりを表現していると、八木氏は続ける。
「ステージには、ダメージ加工の施されたフラッグやムードを高めるラグなどが飾られ、すごくいい雰囲気が作られています。そういった小道具類はすべてスタッフのハンドメイドだそうで、ショーを演出する役割だけでなく、大さんがリラックスした気持ちでライブに挑むための大事な空間にもなっています」
さりげなく自分をどう見せていくのかにこだわる平井の姿勢には、男性向けファッション雑誌「CLUTCH Magazine」「Lightning」の松島睦編集長も一目置いている様子だ。
「本人と、持ち物の話をしたことはあまりない。しかし、彼が本物志向で、ストーリーのあるものを探し求めてきたことは一目瞭然です。オールドアメリカンスタイルのトータルコーディネイトは爪先から頭のてっぺんまで、一切の抜かりはない。雑誌編集者的視点で言うならば、どのアイテムにもキャッチフレーズと数百ワードのキャプションを書けてしまうのです。いつだって平井大は“歌うビンテージスタイル図鑑”。そんなミュージシャンには出会ったことがなかった」
一見するとピースフルで気さくな印象が強い彼であるが、芯には1mmも揺るがないこだわりがあるようだ。確かに、彼の音楽にじっくり向き合ってみるとそれを感じることができる。このたび完成した「ON THE ROAD」においても、自由な音があふれていながらも、自分の信じる道をまっすぐに歩み続ける彼の確固な意思が、鮮やかに伝わる。ここからは「ON THE ROAD」の収録曲を紹介しながら、その具体的な例を挙げていこう。
アルバム「ON THE ROAD」から感じる平井の進化
ウクレレと口笛の音に波音を交えて始まるイントロで、瞬く間に夏のビーチにいるような気分にさせてくれる「Story of Our Life」で、今回のアルバムはスタートする。
徐々にバンドサウンドが加わって、物語が広がっていくようにドラマチックなアレンジへと変わるこの曲は、さまざまな人々との出会いについてや、自分の信じる道をひたすら歩み続けようという思いがまっすぐに歌詞でつづられ、平井が曲に込めたメッセージがストレートに伝わってくる1曲である。
続く「Moonlight Satellite」で平井は、今回のアルバム「ON THE ROAD」の世界観が以前の作品とは異なるものになるだろうとリスナーに予感させる。平井大の音楽と言えば、ブルースやフォークなどに根ざしたアコースティックサウンドを思い浮かべる人が多いかもしれないが、この楽曲では1960年代のサザンロックやモータウンサウンド、1980年代のAORやシティポップなどの要素も感じることができるからだ。ビーチと言うよりも、都会の夜を車でナイトクルーズしているような気分にさせるサウンド。しかしアーバンな雰囲気でありながらも、彼の特徴である流麗なメロディラインや、舞台が都会であっても自然の風景を思い起こさせるような全編英語の歌詞など“平井大らしさ”も伝わってくる。そういう点でも彼にとって進化を果たした1曲と言えよう。
以降、忙しない時間の流れから解き放ってくれそうな穏やかなナンバー「Ordinary People」、独特のハスキーなボーカルが印象的に響く「Three Two, One」、ウクレレの甘美な音色でリスナーを酔わせるインスト曲「On the Road」と、心地よい夏の風を感じられるアコースティックチューンが並ぶ。そして後半に入ると、「Life Song」ではレゲエのリズムを取り入れ、続く「Sunshine and Rainbows」はバート・バカラックなど古きよき時代のポップソングを連想させるような美しいメロディを展開。インストのインタルード「By the Bonfire」を挟んで、ボブ・ディランが1963年に発表した名曲「Blowin' in the Wind」のカバーが収録されている。これまでも平井は、例えば前作「Love is Beautiful」ではドノヴァン・フランケンレイターの「It don't matter」を本人とのセッションで披露するなど、さまざまな楽曲を独自のフィルターを通してカバーしてきた。
「ロックもジャズもカントリーも、全部平井大カラーに染め上げて披露してくれます。何より興味深いのが、それをカバーだと気付いていないお客さんもいること。原曲へのリスペクトたっぷりに、チャレンジングなアレンジで聴かせるので、新鮮です」
彼のカバー曲の魅力をサウンドクリエイターの八木氏はそう語っているのだが、今回の「Blowin' in the Wind」においても、原曲が持つ叙情感を失うことなく、オリジナルにはないタイプの“風”を感じさせることに成功している。
ほかのライブでは味わえない、平井ならではのライブの魅力
カバー曲に続く「Cradle of Love」は、失った愛の大きさについてつづったセンチメンタルな楽曲。そして、アルバム1枚を通してさまざまな旅を経験し自分の居場所に戻ってきたかのように、ホッとした気分を描いたカントリーテイストの「Home」でアルバムは幕を閉じる。
「少しかすれた味のある声で語りかけるような歌唱と、絶妙な落ち着いた音の空間作りで人の心を埋めるような音。邦楽を好むリスナーだけでなく、洋楽を好むリスナーにも好かれる稀有なアーティストだと思います」
このように、彼の音楽の魅力について語ってくれた北氏。「ON THE ROAD」は過去の作品以上に、さまざまな感情や音色を取り入れ、より多くの音楽リスナーの心の隙間を満たしていくようなアルバムになるだろう。そして平井大の音楽の世界が、より幅広い人々に受け入れられるきっかけを与える作品になるのではないか。
また同時に、間もなくスタートする全国ツアー「LIVE TOUR 2017 ON THE ROAD」において、どんな“旅”を我々に経験させてくれるのかを楽しみにさせるアルバムでもある。八木氏も、彼のライブに大きな期待を寄せている1人だ。
「確固たるパフォーマンス力と、ソングライターとしての表現の豊かさ。平井大の魅力を最大限に感じられるのがライブだと思います。また、言葉では照れて伝えられないようなこともまっすぐに歌う、ストレートな愛や前を進んでいけるような勇気をくれる素敵な言葉たちは、思わず口ずさんでしまうほど。大さんを中心に一緒に歌えるハートフルなムードは、ほかのライブでは決して味わえないものでしょう」
平井大の作り出す音の波で、今年の夏は多くの音楽ファンが心地よい時間を過ごすことができそうだ。
- OTODAMA SEA STUDIO 2017
「平井大 ニューアルバム ON THE ROAD発売記念ミニライブ」 -
2017年7月9日(日)神奈川県 音霊 OTODAMA SEA STUDIO
- 平井大「LIVE TOUR 2017 ON THE ROAD」
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- 2017年7月16日(日)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年7月17日(月・祝)大阪府 Zepp Namba
- 2017年8月26日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年9月8日(金)京都府 KBSホール
- 2017年9月9日(土)静岡県 SOUND SHOWER ark
- 2017年9月16日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2017年9月29日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年10月7日(土)宮崎県 MIYAZAKI WEATHERKING
- 2017年10月8日(日)福岡県 福岡市民会館
- 2017年10月14日(土)沖縄県 ミュージックタウン音市場
- 2017年10月20日(金)兵庫県 Harbor Studio
- 2017年10月22日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2017年10月29日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 平井大(ヒライダイ)
- 1991年5月3日東京都生まれ。3歳のときに祖母からもらったウクレレがきっかけで音楽に興味を持つ。2011年には自身の楽曲「ONE LOVE ~Pacific Harmony~」がイベント「ホノルルフェスティバル」の公式イメージソングに抜擢され注目を集め、2011年5月にはデビューミニアルバム「OHANA」を発表。「SUMMER SONIC」「ALOHA YOKOHAMA」などさまざまな大型フェスに出演を果たした。2013年にはミニアルバム「Dream」でメジャーデビューし、翌2014年にはメジャー移籍後初のフルアルバム「ALOOOOHANA!!」をリリース。2016年6月にオリジナルアルバム「Life is Beautiful」、同年11月に洋楽カバーを中心としたミニアルバム「Love is Beautiful」を発表し、「Life is Beautiful」はiTunes / Apple Musicスタッフが選んだ2016年ベストアルバムに選出された。2017年7月にニューアルバム「ON THE ROAD」をリリースする。