GLIM SPANKYインタビュー|全方位に鳴らす試行錯誤のロック (2/2)

誰かの生きる力になっていることを実感できた

──例えば野宮さんのために書いた「HEY MY GIRL FRIEND!!」や、DISH//に提供した「未完成なドラマ」は、もともとGLIM SPANKYで歌うことを想定していなかったからこそ冒険や実験ができた部分もある?

松尾 ありますね。提供曲として書く場合、GLIMでは絶対に使わないようなメロディや言葉を楽しんで入れているところがあって。そうしているうちに、「これってGLIM SPANKYでやってみても面白いかも」と思えるようになり、GLIM SPANKYの歌はこうあるべきという固定観念がいい意味で崩れていった気がします。

亀本 今までになかった曲が出てくるかもしれないね。

松尾 例えば「形ないもの」のメロディは、自分の中のリミッターが少し外れたからこそ出てきたと思う。というのも、できるだけ多くの風景を見せられるようにメロを切り貼りしているんです。結果、今まで自分が作ってきた曲の中で最も展開の多い楽曲になりましたね。

亀本 今の時代のJ-POPって、1つの曲の中に入っている情報量がめちゃめちゃ多いじゃないですか。それに対して洋楽は、ちょっとしたリフやコード進行を延々と繰り返したり、膨らませたりして1曲に仕上げていく。今までGLIM SPANKYは後者のような曲を作ってきたと思うんですけど、より多くの人に届けるように前者のような曲作りを試しているところなんです。

──「形ないもの」は先日の野音で初披露して、歌詞についてのこだわりも話していましたね(参照:GLIM SPANKY、多彩なロックサウンドで魅せた5年ぶり野音ワンマン)。

松尾 コロナ禍になって以降、ファンの方からメッセージがたくさん届くようになったんです。「学校の行事がなくなってしまい、このまま卒業するのがつらい」「行きつけのお店がなくなってしまった」「お気に入りのライブハウスが閉店してしまった」とか。私自身も同じように悲しい体験をしてきました。そんな中で、たとえ形はなくても心に残っている大切なものってあるんじゃないかと思ったんです。

──なるほど。

松尾 この曲は、浅川マキさんの「それはスポットライトではない」の歌詞にもインスピレーションを受けています。ステージ上で照らされる特別な光だけがスポットライトではなくて、日常の至るところにスポットライトの当たる場所があるんじゃないかと。思えばたくさんのものを失い悲しい気持ちはあるけど、「それでも私たちの周りにスポットライトが当たる場所はいくらでもあるよ」と歌いたかったんですよね。

松尾レミ(Vo, G)

松尾レミ(Vo, G)

──「平凡な特別を抱きしめていたいよ ずっと壊されない様な 形ないものを」という部分ですよね。松尾さんは2019年にリリースした「Tiny Bird」で、「真面目に働く平凡なこの暮らしにさよなら 読めない明日の方が命は喜ぶよ」と歌っていました。“平凡”や“日常”に対する意識が、この頃と今ではかなり違ってきているように思います。

松尾 そこは、かなりコロナ禍の影響があると思います。あと、これはどこにも言ってないことなんですけど(笑)、昔自分が書いた曲のアンサーソングみたいなものを、勝手に書くという遊びをしていて。

亀本 そうなの?

松尾 そう。歌詞を書いていると、「この言葉、以前の曲でも使ったことがあるな」と思うときがあって。その場合はあえて視点を変えてみるんです。物事って見方によって変わるし、それに気付けることが生きやすくなるコツなんじゃないかと。コロナ禍になって、当たり前だと思っていたことが、こんなにも大事なことだったと本当に気付きましたね。

──コロナ禍で、自分たちの音楽が必要とされていると感じることも増えましたか?

松尾 私自身が「音楽がないと生きられない」というか。音楽に支えられてきたし、今までの人生で背中を押してくれたのも音楽。同じようにリスナーの気持ちで考えてみたとき、例えば好きなミュージシャンがライブをしてくれたり、曲をリリースしたりしてくれると、それだけで「明日もがんばれる」と思える。自分たちも誰かの生きる力になっていることを、より実感できたのがコロナ禍だったんだなって。そう思うようになってから、より多くの人に届けたいという気持ちが芽生えて、メロディや歌詞を試行錯誤したのが「形ないもの」でした。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──「Sugar/Plum/Fairy」は、The Beatlesファンには有名なフレーズです(「A Day in The Life」のレコーディング時に、ジョン・レノンがカウントの代わりに発したもの)。

松尾 そう、いつか絶対にこの言葉を使いたいと思ってスマホのメモアプリにストックしていました(笑)。ワン、ツー、スリー、フォーという、なんてことないカウントを「Sugar/Plum/Fairy」(金平糖の妖精)なんて言い換えるジョンのユーモア精神は、何気ない日常を彩る力も持っているし、この世界を生きていくうえでとても大切だと思ったんです。生真面目な人ほどコロナ禍で不安になったり悩んだりするかもしれないけど、「気楽にいこう」と自分にも言い聞かせた歌詞なんですよね。ちなみにメロディやアレンジは、The Pretty Thingsの「S.F. Sorrow Is Born」やTomorrowの「My White Bicycle」を下敷きにしています。

──この曲はポエトリーリーディングで終わるのもいいですよね。

松尾 本当はパティ・スミスみたいにしたかったんですけど、マネしてやってみたら怖い感じになっちゃって(笑)。もうちょっと明るく終わらせたいなと。カフェに座って外の風景を見ながら心の中で呟いているみたいな、そんなテンションで録音してみました。

GLIM SPANKY
GLIM SPANKY

ロック警察になって気付いたこと

──亀本さんは、コロナ禍になってどんな変化がありましたか?

亀本 僕の中でちょっと価値観が変わったなと思ったのは、ロックに対するこだわりの部分ですかね。自分は“ロック警察”というか(笑)、好きだからこそロック系の曲にはめっちゃ厳しくなっちゃうんです。ついつい、「これは全然ロックじゃない!」「こいつはロックをわかってねえ!」と言ってしまうし。

松尾 「このリフはダメだな」とかね(笑)。

亀本 そうなんですよ(笑)。要するにロックをすごく狭い視点で見すぎてしまう。例えば僕はThe Black Keysが大好きで、彼らの音楽って地味に聞こえるけどとてつもないこだわりが詰まったサウンドだと思うんです。昔のアンプやペダル、コンソールを使って歪みを作ってる。そういうところによさを見出してしまって、例えばモダンなアンプで鳴らされたわかりやすいギターの歪みは「面白くない!」みたいな(笑)。それって自分の視野を狭めている気がしてきたんですよね。

──なるほど。

亀本 先日、配信で「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」(オリヴィア・ロドリゴのドキュメンタリー)を観ていたら、ライブのシーンでめっちゃわかりやすい、「いかにもロックのライブ!」みたいなベタな演出があったんですよ。今までの自分の価値観だったら、そういうのって「ちょっとなあ」と思ったはずなんですけど、なんかそれがカッコよく見えたりして。この間も「ストレンジャー・シングス」の最後のほうのシーンで、ノースリーブのGジャンを着た登場人物が、Metallicaの「Master of Puppets」を演奏するこれまたベタなシーンがあって、そういうのももはや「カッコいい!」と感じるようになってきたんですよね。

──めちゃくちゃこだわったThe Black Keysも、オリヴィア・ロドリゴのベタベタな演出も、「ストレンジャー・シングス」のMetallicaも、引きで見ればどれもロックだと。

亀本 そうなんです。なので、ラウドロックのようなモダンな歪みとか、最近は自分の中で“あり”になってきて。そういう感覚が染み付いてくると、今度はトム・モレロ(Rage Against the Machine)のソロアルバムに入っている「Let's Get The Party Started」とか、キャッチーだしBring Me The Horizonが客演してるし「めちゃいい!」ってなる。ビリー・アイリッシュや(sic)boyも、めちゃめちゃロックをやろうとしている曲があって、そういう“ロック側にいない人たち”が作るロックサウンドって、ロックを狭い定義で見てる人には到底敵わない大胆さがあると思うんですよ。そこの価値観が変わったのは自分の中で大きかった。

亀本寛貴(G)

亀本寛貴(G)

──しかも今回、打ち込みも多用していますし。

亀本 最近Imagine Dragonsがすごく好きで。彼らは生バンドですが、ドラムもキックやスネア、ハットなどパーツで録音してめちゃめちゃ分離のいい、打ち込みのように緻密なサウンドにしてるんですよ。そういうサウンドプロダクションは、今回のアルバムにもめちゃめちゃ影響を与えていますね。

松尾 私も亀に負けないくらい“ロック警察”なんですけど(笑)、亀が柔軟に音楽を取り入れている姿勢はすごく素晴らしいと思うし、できることなら私もそのくらいの気持ちになれたら、こんなに生きづらくないのにって思うときもあるんですよね。

──あははは。

松尾 でもまあ、自分なりのこだわりは捨てたくないし、そういうこだわりがGLIM SPANKYのサウンドとして、いい塩梅になっているんじゃないかなとも思っています(笑)。自分の中にもやっぱり「これはOK」「これはアウト」みたいな基準があるんですよ。そのOKの範囲をできる限り理解し広げることで、自分のこだわりと亀のこだわりをうまく合わせられたら、という気持ちが今回は特に強くありました。

──そのせめぎ合いが、GLIM SPANKYの類稀なるオリジナリティになっていると僕も思います。本作を携えた全国ツアー「Into The Time Hole Tour 2022」が11月より開催されますね。

亀本 今話してきたように、今作は打ち込みを大々的に導入したりコーラスを多用したり、レコーディングだからこそできることをいろいろ試しているので、それをライブでどう再現したらいいかをこれから考えつつ、自分のプレイヤビリティも向上させるようにしっかり準備したいと思っています。

──そういえば野音ライブには、10代後半や20代前半の若い子から、ロック好きの中高年まで幅広い年齢層のファンが集結していました。譲れないところは頑なに守りつつ、J-POPのフィールドで活躍するGLIM SPANKYの絶妙なバランス感覚が、ファン層にもしっかり反映されていて感慨深いものがありました。

松尾 ありがとうございます。本当、この時代にやるロックってどう表現すればいいんだろう?といつも考えています。例えばメジャーアーティストだとかそういうのは関係なく、どの時代にもインディにはカッコよくてマニアックな音楽はたくさん存在するし、それはそれで素晴らしいと思うんです。でも、やっぱり自分はいろんな人に曲を聴いてもらいたいし、誰が聴いたとしても楽しんでもらえるようなクオリティは保ちつつ、“ロック警察”としてはディテールにもこだわりたい(笑)。そのバランスってめっちゃ難しくて……。

亀本 生きづらいですね、松尾さん(笑)。

松尾 (笑)。でも、いつもそういうことを2人で話し合っているんだよね。そのバランス感覚を保ちながら、ファッションやアートワーク、サウンドプロダクションなどブレずに挑戦し続けている姿を伝えていきたいと思っています。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

ツアー情報

Into The Time Hole Tour 2022

  • 2022年11月2日(水)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2022年11月4日(金)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2022年11月5日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2022年11月11日(金)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2022年11月23日(水・祝)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年11月25日(金)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2022年11月27日(日)長野県 ホクト文化ホール
  • 2022年12月3日(土)愛知県 名古屋市公会堂 大ホール
  • 2022年12月11日(日)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年12月20日(火)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
  • 2022年12月21日(水)東京都 昭和女子大学人見記念講堂

プロフィール

GLIM SPANKY(グリムスパンキー)

松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、その歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月には1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリースした。2018年1月に映画「不能犯」の主題歌をリードトラックとするシングル「愚か者たち」を発表し、5月には初の東京・日本武道館でのワンマンライブを開催。2020年10月に5thアルバム「Walking On Fire」、2022年8月に6thアルバム「Into The Time Hole」をリリースした。

※記事初出時、アーティスト名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

2022年8月4日更新