GLAY「Only One, Only You」特集 JIROソロインタビュー|ベーシストとしての自我に目覚めた今、プレイヤーとして目指す新たな境地

今年、結成35年目という節目を迎えたGLAY。彼らは多くの人が知る通り、一度も活動休止期間を挟むことなく、自分たちのサウンドや発するメッセージをアップデートしながら音楽シーンの第一線を走り続けている。

そんな彼らが通算60枚目のシングル「Only One, Only You」をリリースした。今回のシングルに収録されているのはTAKURO(G)作詞作曲による、現代の世相や自分たちのモードを反映した全4曲。それぞれベクトルは違えど、GLAYが今表現したい音楽性やリアルな感情が刻まれている。

音楽ナタリーでは本作のリリースを記念してJIRO(B)にインタビュー。コロナ禍に入ってからベースを弾くことに目覚めたという彼に、プレイヤーとしてのスタンスや新曲のレコーディングにまつわるエピソード、そして自身が描くこれからのビジョンを聞いた。

取材・文 / 中野明子撮影 / 映美

今、「HOWEVER」を弾くのが面白い

──まずは7月に行われたファンクラブツアーのお話をお伺いできれば(参照:2024年にフェス開催宣言も!GLAY、ファンクラブ25周年ツアーでレア曲&新曲連発)。終わって1カ月経った今、振り返っていかがですか?(取材は8月下旬に実施)

純粋に演奏をしていて楽しかったんですよね。今まではベースを弾くこと以外にファンの人たちとの距離感をどう縮めていこうかとかいろいろ意識していたんですけど、ツアーが始まる前からベースを弾くことにハマってて。だったら、その楽しさや充実度を見せるのもありなのかなと思いながらステージに立ってました。

──過去の曲を今のサウンドで披露するというのも今回のツアーのポイントでしたが、その観点からJIROさんの中で印象深い曲はありましたか?

TERUが作った「月の夜に」はわりとゆったりしたビートの曲で、レコーディングした当時は「この解釈でいいのかな?」と思いながらベースを弾いていたんです。でも、最近ブラックミュージックやディスコミュージックにハマってから、16ビートのグルーヴの作り方を追求していて。そのグルーヴの出し方と「月の夜に」の相性がいいことがわかって取り入れてみたんです。ただ、いざ実演するとなるとけっこう大変で。リハーサルで試して、家に帰ってからその音源を聴いて、次のリハに向けて修正していく作業が面白かったですね。少しずつグルーヴを自分のものにすることができて。

JIRO(B)

──新しいニュアンスを付け加えていくことができた?

そうですね。ほかにも「HOWEVER」は指弾きのほうが自分の理想のサウンドになるんじゃないかと思って練習していたので試してみたものの、ピックで弾いているときのニュアンスのよさが損なわれちゃったんです。で、改めてピックを使ってみたら、曲の持つ16ビートのグルーヴを敏感に感じられるようになった。それで、ここにきて「HOWEVER」を弾くのが面白い!って(笑)。

──もうこれまで何百回も弾いてきたのに!

ホントに(笑)。ベースに対する意識が以前と比べてすいぶん変わりましたね。GLAYの曲って大半が8ビートなんで、今練習していることの1割も反映されていないんですが(笑)。ただ、自分がプレイヤーとして新しい扉を開こうとしている、そのことが大事だと思うんです。

オールリクエストは好きじゃない

──1年前にインタビューした際にお話していた人体実験が続いているわけですね(参照:GLAY「エンターテイメントの逆襲」の現在地とは?TAKURO&JIROソロインタビューでそのスタンスに迫る)。ツアーのセットリストはメンバーの皆さんがやりたい曲を持ち寄ったと聞きました。

そうですね。ファンクラブ公演なのでリクエストを募ることもできるんですけど、僕はちょっとその形が好きじゃなくて。リクエストから漏れてしまった曲が好きな人もいるし、「私の知っているGLAYはこれじゃない」と思われても嫌なので、オールリクエストは好きじゃないんですよね。でも、「この曲よりあの曲のほうが聴きたかったけど、GLAYのメンバーが選んだならそこは折り合いをつけよう」みたいな人もいるだろうから、今回は4人で好きな曲を数曲出して、そこに新曲や定番曲を入れて僕が並びを調整した感じです。

──JIROさんは「My Private "Jealousy"」と「ゆるぎない者達」を推したとか。

「ゆるぎない者達」は昔から好きな曲で。隙あらばセットリストに入れたいと思ってたんですけど、なかなかそういうタイミングがなかったんですよね。「ゆるぎない者達」が収録されていた「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」(2002年9月発売の7thアルバム)と同時期に作ったアルバム「ONE LOVE」のツアー以来ほとんどやってなかったんじゃないかな。なので、僕の中では必ず入れたいなと。「My Private "Jealousy"」は直感です。実は「Apologize」と「JUSTICE [from] GUILTY」も挙げてたんだけど、セットリストを組み立てたときに、BPMの被りがあったのでそこを踏まえて削ったりね。

JIRO(B)
JIRO(B)

──メンバーがそれぞれ好きな曲を持ち寄るとなると、コンセプトやテーマ決めが難航しそうですが、その点はいかがでした?

全員の候補曲を見たとき、普段のツアーでは選ばれないような曲が挙がっていて、これはかなりマニアックな内容になるなと思いました。ファンクラブのお客さんだけだったらそれでもいいけど、今回はチケットを一般発売したので、TAKUROが「HOWEVER」を選んでいたり、僕が「ピーク果てしなく ソウル限りなく」を入れたり。そのうえで全体的には、今まで何回もGLAYのライブに足を運んでくれた人たちも「この曲来たか! え、次の曲もマジで!?」と楽しんでもらえるような着地点を考えたつもりです。

──声出し禁止ではありましたが、イントロが鳴った瞬間にファンの方が驚いている様子を目の当たりにしました。ファンクラブ公演らしい演出と言えば、「あなたはどっち派?」と銘打ったコーナー(※メンバーが出した2択の質問に対して、観客が赤と青のボードを掲げて回答した)もありましたね。公演ごとに異なる質問が飛び出して、ファンの方のいろんな意見が可視化されて面白かったです。最終日の幕張公演ではHISASHIさんが「GLAYがフェスに出ます」「GLAYがフェスをやります」の2択を提示して。圧倒的に後者の意見が多かったのが印象的でした。

そうですね。

──JIROさんは8年前にピエール中野さんとの対談で(参照:GLAY「MUSIC LIFE」特集 JIRO×ピエール中野(凛として時雨)対談)、「GLAYがフェスに出るとなると考えすぎちゃうと思う」とおっしゃってたんですよ。8年が経って、フェスに対する考え方は変わりましたか?

変わりましたね。FM802主催の「RADIO CRAZY」や「VISUAL JAPAN SUMMIT」、「LUNATIC FEST.」に参加してから、タイミングさえあれば出るというスタンスにはなりました。面白そうなら出ようという。以前より柔軟性が出てきたと思います。コロナの影響で中止になっちゃいましたが、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」にGLAYとして出るという話もあったんですよ。

──そうでしたか。では、バンドとしてフェスをやるとなるとどうですか?

もう誰が責任を持って、どんなアーティストを集めて、どう形にするのか、という話でしょうね。

──となると責任を担うのは言い出しっぺのHISASHIさんですかね? 2024年という具体的な時期まで明言されていましたが。

やると言ったからには、やるんじゃないですかね(笑)。GLAYはメンバーの誰かがやりたいと言うなら、その言葉に全力で乗るだけなんです。

JIRO(B)

「Into the Wild」を継承した「クロムノワール」

──続いてニューシングルについてのお話を。表題曲「Only One, Only You」と「クロムノワール」はどちらもテンポが緩やかですが、サウンドアプローチは重めでシリアスなメッセージが込められています。作詞作曲はどちらもTAKUROさんです。

「Only One, Only You」はある程度デモができあがってから聴いたんですが、サビにつながっていく「ドッタン、ドドタン」っていうリズムの感じが洋楽っぽいなと思ったんですよね。最近僕が聴いているR&B系の曲ってAメロからサビまで全部同じコード進行で、メロディだけが違うような作り方が多くて。それに近いなと。そういう音に戦争に対するメッセージを乗せる感じが、大衆音楽を意識してなくていいなと思いました。

──TAKUROさんは楽曲制作にあたってはジャーナリスティックでありたい、今を映し出したいとおっしゃってますが、サウンドにしても歌詞についてもそれが反映されていると。レコーディングはスムーズでしたか?

いや、レコーディングが一度終わってミックス作業をしていたときに、TAKUROが「もっとドシッと重たい音にしたい」と言い出して。この曲はリズムが打ち込みなので、TAKUROが考えるローをさらに出すにはベースを録り直すしかないなと。それでミックス作業を一度バラして、ベースだけ弾き直したんですよ。これまでだったらお互い折り合いをつけて、すでにある音で仕上げていたと思うんですけど、TAKUROのこだわりが今までにない感じだったんです。

JIRO(B)

──その思いを汲んだ結果なのかもしれませんが、重いけれど丸みのある豊かな音色のベースで、JIROさんがコロナ禍に入ってから試していたという指弾きのニュアンスが生きていると感じました。そして重厚さでいくと「クロムノワール」のほうがよりヘビーな印象を受けました。

TAKUROが「とことん重くいきたい」と言って亀田さんにアレンジしてもらったんですよ。演歌か「ゴッドファーザー」みたいな映画のサントラさながらの重厚なイントロで(笑)。こういった重いトーンは「Into the Wild」から継承されている感じですね。

──「Into the Wild」がリリースされた当初、いわゆる従来のGLAYっぽさから離れた曲の展開や音像が注目されましたよね。それが今では1つの指標となって新しい曲が生まれるきっかけになっていると。

そうですね。この曲は極端にリズムが少ないので、ベースが際立つんです。だから、ライブで披露するときにめちゃくちゃ緊張感があったんですけど、それがいい効果を生んだんですよね。