TAKUROとHISASHIに負けたくなかった
──「クロムノワール」はベースが際立つとのことですが、JIROさんはこの曲においてどういう役割を求められていると解釈しましたか?
際立つとは言っても、歌と一緒に歌う感じではないですね。「クロムノワール」のような曲はベースが目立ちすぎてもよくないというか、僕自身がそういうベースが好きじゃないんですよ。だから曲の世界観を陰ながら広げること、次への展開に結び付けるさりげなさを意識しました。今練習しているのも早弾きとかではなくて、1拍の空気感をどう表現するのかといったことで。そこに対しての興味がすごくあるんです。
──初期のGLAYにおけるプレイスタイルとはだいぶ違いますね。90年代のJIROさんのベースというと、音源でもライブでもギタリストさながらに前に出ているという印象だったので。
当時はギタリスト2人に負けたくないという意識があったんです(笑)。ステージパフォーマンスにしても音にしても。でも、佐久間正英さんと長いこと仕事をする中で考え方が変わった。例えば佐久間さんって、メンバーの音が全部入った音源にキーボードをさりげなく入れて、曲の世界を広げてくれたりしていたんです。そういう仕事ぶりを見ていて、僕もガツガツ前にいくよりも俯瞰してベースを弾いてみようと。
──具体的に意識が変わった時期や作品を覚えていますか?
「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」を作っていた頃かな。「HEAVY GAUGE」くらいまではバンドサウンドを重視していたけど、「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」は当時のTAKUROがやりたいことを忠実に形にするためのアプローチをしたんです。そのときに楽曲に合わせてシンプルなベースをがんばって弾いたんですが、ここまで削ぎ落としても“JIROのベース”になるという確信を持てたことが今のスタイルに影響しているでしょうね。
TAKUROのつぶやきを無視しました(笑)
──「Only One, Only You」と「クロムノワール」の2曲はかなりヘビーですが、カップリング曲「GALAXY」は80KIDZとのコラボレーションが実現したダンサブルなサウンドで、聴き心地は軽やかです。ファンクラブ公演では会場のテンションを上げる、いい起爆剤になっていました。
TERUのアイデアで80KIDZと一緒に作ることになったんです。僕も昔から80KIDZが好きで聴いてはいたんだけど、GLAYとコラボしてもらうことは考えたこともなくて。
──でも、実際はいい化学反応が生まれた。TERUさんは近年のGLAYに、いろんな新しい風を吹き込んでいますよね。
そう。完成した音源を聴いて、ギターロック調のサウンドと80KIDZのアレンジがうまいこと融合するんだなってびっくりしました。それと80KIDZはダンス畑の人なので、人がノレるテンポをかなり意識していると思うんですよね。僕らだけで「GALAXY」を作ったらもっとテンポが速くなっていると思うし、聴いたときの心地よさも違ったはず。
──シングルには「WE♡HAPPY SWING」のライブ音源が収録されています。この曲は20年前に発表された「HAPPY SWING」の続きという位置付けなんでしょうか?
いや、特に関係ないんじゃないですかね? この曲はファンクラブのスタッフから新しくテーマソングを作ってほしいと言われてTAKUROが作ったんです。リリースされるのはライブ音源ですが、レコーディングもしていて。曲を作っていた頃にブラックミュージックにハマっていたので、さりげなくベースにその要素を入れてみました。ただ、TAKUROが上げてきた「WE♡HAPPY SWING」のデモは、80年代のインディーロックテイストの超シンプルなサウンドだったんですよ。
──へえ! その方向性だと印象が変わりそうですね。
だからリハーサルスタジオでこの曲を合わせていたときに、TAKUROが「なんかこの曲みんな演奏うまいんだよな……もっとバカっぽくていいんだけど」とボソっとつぶやいていたんですけど、僕は無視しました(笑)。その結果がこれです。
影響されやすいJIRO
──GLAYの中で最年少でいらっしゃるJIROさんも、この秋50歳を迎えられます。節目を迎えられるにあたっての心境はいかがですか?
うーん、ライブをやって疲れるとかそういうのはないんで今のところ体力的には楽勝なんですけど、それでも年齢的に「いつまで自分は活動できるのかな」ということは考えたりしますね。昔のようにすごい濃い密度で活動して、疲れ果てて「いつまでできるんだろうな」と思ったときとは違いますよ(笑)。
──脱退も考えたという1999年の「HEAVY GAUGE」ツアーのときとは違うと。先ほどもおっしゃっていたように、去年からずっとベースに対する情熱は冷めず?
そうですね。コロナ禍になったときに時間ができたので、家でもっと完成度高いデモを作れるようにしようと思って機材をそろえてYouTubeを観ながら勉強していたんですけど……。
──2年前にそうおっしゃってましたね(参照:GLAY「G4・2020」ソロインタビュー)。
でも、YouTubeのオススメにベースのプレイ動画が出てきて、それが面白いもんだからベースを弾いちゃう。結局「ベースを追求するのが俺の仕事だな」というところに立ち返ったんです。それと、多田尚人さんというベーシストのプレイ動画に出会って、「50代でこんなベースを弾きたい」と思ったんです。
──どういうところに惹かれたんですか?
僕がこれまで影響されてきたロック的なベースではなくて、陰で静かに支えるタイプのプレイというか。彼の真似をしながら、ベースって面白いなと改めて感じたんですよね。あまりにも感動したので、マネージャーに連絡先を調べてもらってお会いしたんです。そうしたら多田さんは僕よりも10歳くらい下で、GLAYやその界隈の90年代に流行った音楽がきっかけで楽器を始めたと話していて。GLAYを聴いていた人が自分のスタイルを確立して、僕に影響を与えてくれたということに感銘を受けたんです。自分たちをきっかけにそういう人が育ってくれたから、次はこっちが影響されようかなと。わからないことがあったら教えてもらえるし(笑)。
──JIROさんは長いキャリアがあって、はたから見てもご自身のスタイルも確立されているわけで。自分より若い人に教えを乞うのにハードルを感じたりはしませんか? プライドが邪魔をしたりとか。
そういうのがないんですよね。影響されやすいんですよ、僕。佐久間さんにも、亀田誠治さんにもすぐ影響されたし。友達になるベーシストからも少なからず影響を受けるし。素直なのかな(笑)。それとレコーディングでもステージでも自分が弾けば、JIROのベースになるという確証があるからかもしれない。
──ちなみに過去にライバルだと思ったり、嫉妬したベーシストはいますか?
いないと思う。
──では、憧れたプレイヤーとか。
それも特にいなかったんですよ。憧れも特になく、たまたまバンドを組みたいと思ったときに手にした楽器がベースだっただけで、ベースで何かしようという意識はなかった。それが今になって弾いてみたい音が出てきた。
──50を前にベーシストとしての自我に目覚めた。すごく興味深いですし、勇気付けられます。
今、「こういうベースが弾きたい」と思うのは、まだ自分が弾けないからこそなんですよね。幸運なことにベーシストという職業なので弾く時間はたくさんあるし、オフの日でもどれくらい練習できるか……今はモチベーションを高く持ってベースに向き合ってるところです。
まだバンドとしての終わりを考える段階ではない
──以前から未来のことは考えられないし、今を生きているとおっしゃってるJIROさんですが……無粋を覚悟であえてお伺いします。これからのGLAYについてどんなビジョンを描いていますか?
GLAYの上にはさまざまな先輩たちがいるけど、活動の仕方はどの方も違うし、キャリアの終わり方に対する意識も違う。だからGLAYはGLAYで誰かの真似をするわけではなく、これからも自分たちらしい活動をしていくと思うんですけど、ほかのメンバーを見ていると30代、40代にできなかったことをやろうとしている気がするんですよね。例えばHISASHIが言い出した「GLAY fes」なんか、前だったら「誰に出演してもらう?」「そのバンド違くない?」とか意見が飛び交ったかもしれないけど、今は誰でもいいっていうか(笑)。HISASHIがやることに賛同してくれる人が出てくれるなら面白くなるだろうし、最終的にどんな形になってもまとめられる自信があるんです。
──キャリアを重ねるごとにGLAYはさらに自由になると。
そうですね。なので、TERUが6年前に「ファンクラブライブでベネチアに行くぞ!」と言ったときはどうなるのかなと思ったけど、今は純粋に楽しみなんですよ。ほかのメンバーが僕の想像していない角度から物事を見ていて、「こんなことをGLAYでやろうよ! 絶対面白くなるよ!」と言っている以上、まだバンドとしての終わりを考える段階ではないと思います。
──JIROさんがGLAYとしてこれからやってみたいことは何かありますか?
もっとほかのアーティストとコラボレーションをしたいですね。「MUSIC LIFE」(2014年リリースの13thアルバム)で曲ごとに違うドラマーと組みましたけど、ああいったことも今ならもっと気負いなくできそうな気がするんです。80KIDZと一緒に作った「GALAXY」もそうですけど、コラボレーションすることで曲も広がるだろうし、自分たちの思い出も増えるし。曲に付加価値が付いて世の中に残る……そんな曲が1つでも増えたらうれしいですね。
ライブ情報
GLAY Anthology presents -UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY 2022-
- 2022年10月9日(日)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 2022年10月10日(月・祝)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 2022年10月17日(月)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2022年10月19日(水)千葉県 市川市文化会館
- 2022年10月20日(木)千葉県 市川市文化会館
- 2022年10月24日(月)静岡県 アクトシティ浜松 中ホール
プロフィール
GLAY(グレイ)
北海道函館市出身の4人組ロックバンド。TAKURO(G)とTERU(Vo)を中心に1988年に活動を開始し、1989年にHISASHI(G)、1992年にJIRO(B)が加入して現在の体制となった。1994年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。1996年にはシングル「グロリアス」「BELOVED」が立て続けにヒットし、1997年に12枚目のシングル「HOWEVER」がミリオンセールスを記録したことでトップバンドの仲間入りを果たす。1999年7月には千葉・幕張メッセ駐車場特設会場にて20万人を動員するライブを開催し、当時有料の単独ライブとしては日本最多観客動員を記録する。2010年4月には自主レーベル「loversoul music & associates」(現:LSG)を設立。メジャーデビュー20周年となる2014年には宮城・ひとめぼれスタジアム宮城にて単独ライブ「GLAY EXPO 2014 TOHOKU」を行った。デビュー25周年を迎えた2019年より「GLAY DEMOCRACY」をテーマに精力的な活動を展開。10月にアルバム「NO DEMOCRACY」を、2020年3月にベストアルバム「REVIEW II -BEST OF GLAY-」をリリースした。2021年3月から6月にかけて配信ライブ企画「THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK」を開催。8月にシングル「BAD APPLE」を、10月に2年ぶりのオリジナルアルバム「FREEDOM ONLY」をリリースした。2022年9月には60枚目のシングル「Only One, Only You」を発表。10月にはホールツアー「GLAY Anthology presents -UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY 2022-」を行う。
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