藤原さくら|mabanuaと二人三脚で突き詰めた色

mabanuaはある種のヘンタイ

──ちなみに先日、mabanuaさんにインタビューする機会がありまして(参照:mabanua「Blurred」インタビュー)。

ホントですか! 「Blurred」、ずっと聴いてますよ。mabanuaさん、私用に手作りのパッケージも送ってくださって……(と、包みからCDを取り出す)。

藤原さくら

──おお、すごい! アートワークのイラストが、通常の男女2人ではなく、藤原さんのシルエットになっているんですね。

これ、ついさっき届いたところなんですよ。めっちゃ感動しちゃいました。

──mabanuaさんは取材でお話しすると穏やかで物腰も柔らかい方ですが、現場ではどういうキャラクターなんですか?

うーん……ある種のヘンタイ?

──はははは(笑)。

まあ、ヘンタイというのは冗談ですけど(笑)。でも、mabanuaさんが当たり前にやられている仕事は、世間一般のレベルでは当たり前じゃないと思うんです。打ち込みの作業って、正解があるわけじゃないとも思っていまして。 普通は適当なところで折り合いを付ける気がするんですけど、mabanuaさんは細かいところをどこまでも突き詰めていかれるんですよね。しかも、そういう終わりの見えない作業がまったく苦じゃないと言うか。

──ご本人もソロアルバムの取材で同じ話をされていました。歌とサウンドのミックス具合とか、ちょっとしたビートのずらし方とか、際限なく試してしまうんだと。

完璧主義者なんでしょうね、きっと。人にはあんなに優しいのに(笑)。実は最近、私もGarageBandで簡単なデモを作る練習をしてるんですけど、質問したらなんでも丁寧に教えてくださるし。機材についてもびっくりするくらい詳しいんです。私にとっては、そういう面でも先生ですね。

藤原さくら

放っておくとシャッフル系に

──今作のオープニングを飾る「Lovely Night」では、ギター、ベース、鍵盤、ドラムスなど全パートをmabanuaさんが手がけて。藤原さんはボーカルに専念していますね。

そうなんです。それこそ、サウンドの隅々までラブリーと言うか。今、自分でも一番お気に入りって言いたいくらい好きな曲です。

──曲作りにあたって、何か個人的なテーマみたいなものはあったんですか?

自分の中で、いつもと違うリズムを試してみたいというのはありました。よくスタッフさんからも指摘されるんですけど、私、放っておくとシャッフル系の曲ばかり作っちゃうんですね(笑)。今回の「red」だと、2曲目の「また明日」もそうだし。初期の曲だと「Walking on the clouds」なんかがけっこう典型的で。とにかくリズムが「ズッチャ、ズッチャチャ」と跳ねてる曲が多いんです。

──面白いですね。そういうビートが身体に染み込んでいるとか?

たぶんギターの弾き方も関係してるんだと思います。普段はアルペジオでメロディを探しながら曲を作ることが多いんですけど、その際、つい親指で5弦と6弦のベース音をはじいちゃうんですね。それで無意識に、シャッフルっぽいビートに近付きがちなんじゃないかなと。で、mabanuaさんとディレクターさんから、別のリズムを試してみたらと課題をもらって書いてみたのがこの「Lovely Night」と、4曲目「Dear my dear」で。なぜかどちらも、自然と英語の歌詞になったんです。

──「Lovely Night」は、ビートの頭にアクセントが置かれていますね。あと興味深いのは、全編に鳴っているトイピアノみたいな可愛い音と、ドラムのビートがほんの少し、微妙にズレている印象があって……。

うんうん、そうなんですよね!

──曲調はポップなのに、どこかドープなヒップホップ感がある。

私自身、mabanuaさんから戻ってきたオケの音源を聴いて驚きました。こういう気持ちいい歪みって、まさにmabanuaさんの魅力と言うか……。「Blurred」を聴いていても感じることだけど、基本となるビートからちょっとズレた位置でいろんな音が鳴ってたりするんですよね。私自身は子供の頃からロックやワールドミュージックを聴いてきて、ヒップホップはほとんど通ってこなかった。だけど最近、mabanuaさんやOvallと接する中で、興味を持っていろいろ聴くようになりました。

──ビートのよれた感じがまた、ホロ酔い加減で好きな相手に電話しちゃうという英詞の内容と、うまくリンクしている感じがしました。

あ、まさにそんな感じが出したかったんです。お酒を飲むとどこか気持ちが解放されて、細かいことは気にならなくなったりするでしょう。 実は歌詞は切なかったりするんですけど。そういうフワーッとした、ラブリーな気分が表現できればいいなと思いました。

外国で歌いたいから英語詞の曲を

──ところで、英語と日本語の歌詞はどう書き分けているんですか?

言葉でうまく説明できないんですけど……たぶんメロディのグルーヴの感覚なのかな。1つ言えるのは、ギターを抱えて曲を作り始めた時点でもう、英語か日本語かは自分の中で決まってるんですね。例えめちゃくちゃでも、最初に英語が口から出てきたら、そのイメージをあとから動かすのはとっても難しい。

藤原さくら

──でも英語で詞を書くのって、それはそれで難しくないですか?

いやあ、めっちゃ大変です(笑)。最初は鼻歌っぽい感じで、適当な言葉をメロディに乗せていくんですけど、海外で暮らしていたわけでもないし、ボキャブラリーも乏しいので。今回ありがたかったのは、mabanuaさんと同じorigami PRODUCTIONS所属のマイケル・カネコさんが、英語のアドバイザーとして付いてくださったんですね。「green」と「red」両方で。

──それは心強いですね。

私にとっては昔から、超憧れのシンガーソングライターですし。マイキーさん(マイケル・カネコの愛称)は英語も日本語も完璧な方なので。例えば「あそこの表現は、日本語だとこういうニュアンスに聞こえちゃうよ」とか、「このラインとこっちのラインで韻を踏んだらもっとよくなると思う」とか具体的に添削してもらえて、本当に助かりました。指摘してもらった箇所はその場ですぐ歌ってみるんです。

──英語の曲は、これからも作っていきたい?

はい。大変だし、この先どう変わっていくかはわからないけれど……少なくとも今はそう思っています。外国で歌いたいって気持ちも強いですし。大切にしていきたいです。

──マイケルさんは4曲目の「Dear my dear」では、コーラスでも参加されています。ミディアムテンポの明るいロックナンバーに、透明感のある声がぴったりでした。

これはラッキーな偶然だったんですよ。もともとはmabanuaさんに下のパートを歌ってもらおうと思っていたんですけど、レコーディングの当日になって急に「いや、この曲は僕じゃないほうがいいと思う」って言われちゃいまして。たまたまマイキーさんが、英語の先生でスタジオにいらしてたんですね。で、mabanuaさんから「じゃあマイキーが歌えばいいじゃん」と軽いノリで振られてこうなった(笑)。なんか得しちゃいました。