藤原さくら|mabanuaと二人三脚で突き詰めた色

藤原さくらが6曲入りの新作CD「red」を9月19日にリリースした。

本作は、今年6月に発表された「green」に続きOvallのmabanuaをプロデューサーに迎えてレコーディングされた作品。全体にさわやかで高揚した雰囲気が漂っていた「green」とは違い、どこか温かさのある穏やかなトーンの内容に仕上がっている。

mabanuaと共に作った「red」「green」という2作を通して、藤原はどのようなものを見出したのか。「red」の楽曲解説を軸にしつつ語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 曽我美芽

新たな芽生えの「green」、温かくて懐かしい「red」

──本作「red」は、6月にリリースした「green」と2部作になる作品なんですね。緑と赤のミニアルバムを2つ合わせるとフルアルバムのボリュームになります。今回、どうしてこういう形態を選んだんですか?

藤原さくら

もともとは通常のアルバムを作るつもりだったんです。前作「PLAY」から1年経って、次はどうしようって考えたとき、普通に先行シングルを出して3rdアルバムにつなげる形も考えたんですが、それだと制作スケジュール的にちょっと難しい部分が出てきて……。だったら6曲入りくらいの作品を2枚、短い時間差で出したら面白いんじゃないかと考えまして。それで提案したらトントンと話が進みました。

──じゃあ「green」を出した時点で、もう2部作のアイデアは固まっていた?

はい。ただ「green」の制作期間中はもうそれだけに集中していたので。次の「red」の内容については何も決めてませんでした。ですから今回は「はい、時間ないよーっ!」って感じで(笑)。

──ははは(笑)。

曲作りとレコーディングも含め、2カ月ちょっとの期間で一気に録り切りました。大変でしたけど、作業そのものはすっごく楽しかったんです。結果的にその勢いみたいなものがいい意味で「green」とのコントラストを描いてくれた気がしています。

──プロデュースは「green」と同じOvallのmabanuaさん。シンプルで濃密な音作りは共通していますが、確かに“緑”と“赤”で質感はけっこう違いますね。

そうなんです。「green」ではmabanuaさんに打ち込みでリズムを組んでもらったり、スクラッチを入れてみたり、私としてはかなり尖ったアレンジに挑戦して。出そろった曲を聴くと、どこかポジティブでさわやかと言うか。新たな芽生えみたいなものを強く感じたんですね。あとはリリースタイミングが初夏ということもあって、エバーグリーンにも通じる題名にしたんですけど、今回の「red」は、mabanuaさんと二人三脚で作ってるところは同じでも、全体にしっとり系に仕上がったと思います。

──秋口に聴くにはぴったりのテイスト。

そうですね。温かくて懐かしくて、ちょっと哀愁も漂っていて。心の奥でポッと灯がともる感じの曲が多かったので。そこが「green」と対照的だなあと思い、秋をイメージさせる「red」というタイトルを選びました。

mabanuaプロデュースの“おかわり”をリクエスト

藤原さくら

──mabanuaさんはライブではドラムを叩いていますが「green」「red」の2枚ではほぼ全楽器を1人で演奏しています。2部作のサウンドプロデュースを彼にお願いするというプランも最初から決めていたんですか?

いえ、実は「green」が完成する前は、2部作のもう1枚は別のプロデューサーにお願いしようと考えてたんです。そのほうがテイストの違いがはっきり出て、いいのかなと。でも私にとっては「green」の制作過程があまりにも刺激的で、濃密な時間だったので。どうしても“おかわり”したくなっちゃったんです。

──2杯目もやっぱり、mabanuaさんでいただきたいと。

まさにそんな感じです(笑)。mabanuaさんご本人も「またやりたいなあ」みたいなことをポロッと口にされたので、すかさず「あ、ホントですねっ! 絶対ですよっ!」とお願いしまして。実際は、かなり大変だったと思うんです。再始動したOvallのツアーもあったり、ソロアルバムの制作と重なったりして、mabanuaさん自身がめちゃめちゃ忙しくされていたので……。特に「red」は、その隙間を縫う感じで作っていきました。

──従来のアルバムでは、楽曲ごとにさまざまなプロデューサーと組んでましたから、その意味でもかなり大きな方向転換だったのでは?

はい。これまでは、それこそデビューミニアルバムのタイトル通り“ア・ラ・カルト”っぽい方式で。聴いてくださる人に対して「いろんなテイストが入っているので、どうぞ好きなものをお選びください」的な部分があったと思うんです。そうやって同時並行でいろんなアーティストの方と作業をしてると、テイストって自然にばらけるじゃないですか。皆さん、ほかの曲がどんな感じで進んでいるのか、知らない状態でレコーディングをしてくださるので。いい意味でそれが、アレンジの幅につながってた部分もあったと思うんです。

──確かにそういうプラスの効果はありましたよね。

でも、レコーディングやライブをご一緒する中で、次回はどうしてもmabanuaさんと作りたいという思いが強まっていきました。実際、そうやってマンツーマンで向き合いながらレコーディングしたことで、意志の疎通も濃密になりましたし。何より今現在の自分の色がはっきり打ち出せた作品になったと思います。

藤原さくら

──これまでの手法を変えるのは、ちょっと怖くなかったですか?

それはなかったですかね。ライブを重ねる中で、mabanuaさんとはもうなんでも言い合える関係性を作れてましたし。作業に入る前にご本人が、「せっかく組むんだから、思いきり尖ったものにしたいね」と言ってくださったんですね。もしかしたら、これまでのファン全員には気に入ってもらえないかもしれない。でも逆に、一部の層には深く刺さったり、これまで藤原さくらを聴いてなかった人に「今回の作品はよかった」って言ってもらえる作品を目指そうって。それを聞いて、本当にそうだなと納得したんです。

──そういう心持ちの変化って、何かきっかけがあったんですか?

自分ではあまり意識してないけれど、年齢も重ねて、いろいろ自然に変わってきているのかもしれませんね。歌に対する向き合い方だって、当たり前だけど十代の頃とは違います。たまに昔の曲を歌うと、「こういうのもう絶対書けないな」って思いますし。

──あ、そうなんですね。

もちろん、十代でしか書けない強い言葉みたいなものもあります。でもやっぱり、若気の至りというか、「キャー、恥ずかしい」ってなることも多いですね(笑)。逆に言うと最近の曲は、ほんの少しずつですけど、言葉に説得力が出てきたようには感じます。

──だからこそ、誰か1人のプロデューサーと向き合い、アーティストとしてより自分を深掘りしたいと思ったのかもしれませんね。

そうだと思います。今までいろんなアーティストと出会って、自分なりに気付いたり学んだりした蓄積を「green」と「red」では出せた気がします。そういう意味では何1つ無駄にはなってないと思えましたし、仕上がりにも満足していますね。