藤原さくら|mabanuaと二人三脚で突き詰めた色

「若おかみは小学生!」から生まれた
「また明日」と「NEW DAY」

──2曲目「また明日」と3曲目「NEW DAY」は、「若おかみは小学生!」という人気アニメーションの主題歌です。藤原さんは作品のどういう部分に惹かれました?

やっぱり、おっこちゃん(関織子)という主人公のキャラクターですね。小学校6年生の女の子で、両親を交通事故で一度に亡くし、おばあちゃんのもとで若おかみ修行を始めるお話なんですけど、実は大人にとっても学ぶべきところがいっぱいあって……。普通ならひねくれちゃいそうなところを、周囲の人に支えられながらひたむきに生きていく様子がすごく丁寧に描かれています。あと、自分の小学生時代を思い出すこともたくさんありました。

──例えばどういったことを?

12歳って実はけっこう悩みも抱えてる年頃だと思うんです。家族や親友とケンカもするし、恋だってする。「また明日」は劇場版「若おかみは小学生!」の主題歌で、主人公のおっこちゃん目線で歌詞を考えていったんですけど、あまり幼い雰囲気にしたくなかった。むしろ聴いた方が「子供なりに、いろいろあったよなあ」と記憶をよみがえらせてくれればいいなと。そんなことも考えながら作った曲ですね。

──ゆったりしたテンポと、ノスタルジックな旋律が印象的でした。藤原さんが畳の上に寝っ転がって、うちわを使ってるMVもよかった。夏の日って感じで。

ありがとうございます(笑)。切ない曲調は、映画版の描かれ方に影響された部分も大きいと思うんです。もちろん家族で楽しめる作品なんですが、高坂(希太郎)監督はおっこちゃんの心の内側にも深く迫っていて……。大切な人とのお別れを経験した主人公が、どんな心持ちで明日に進んでいくのかが、大切なテーマになっていました。そこは誰しもが、自分の経験と重ねられる部分だと思いましたので。

藤原さくら

──ああ、なるほど。

さよならって、悲しいですよね。もう二度と会えない感じがして。でも、永遠の別れだとしても、その人がいたから今の自分が存在しているわけですし。自分が忘れない限り、その人はずっと心に生き続けるとも言えます。それは私自身、自分の大切な人をなくしたりする中で、少しずつわかってきた感情なのかなと思います。

──チャラン・ポ・ランタンの小春さんが弾くアコーディオンがまた切なくていいですよね。歌メロにそっと寄り添っている感じがして。

まだデビュー前に、ライブハウスでチャラン・ポ・ランタンの演奏を見て、めちゃくちゃ感動したんです。それ以来ずっとファンだったので、レコーディングの日はホントに幸せでした。小春さん、うますぎて一瞬でレコーディングが終わっちゃったんですけど(笑)。ちなみにあのアコーディオンの旋律もmabanuaさんがベースを考えて、「こういうのはどうでしょう?」って小春さんに提案したものなんですよ。

──即興みたいに聞こえて、実は細かく構築されている。

mabanuaさん、短いフレーズで感情を伝えるのがすごくうまいんですね。ほかの収録曲でも、さりげないギターやピアノの断片が、ほとんど主メロを食ってるじゃないかというレベルで素晴らしかったりして(笑)。真のメロディメーカーとはこういう人のことを言うんだなって思いました。

──続く「NEW DAY」は、テレビ版「若おかみは小学生!」の主題歌ですね。

こちらは日曜日の朝に放送されている番組なので、小さい子供でも歌いやすいように、できるだけ難しい言葉を使わないように心がけました。メロディの部分でも、これまで自分の曲にはなかった童謡っぽいポップさを意識してたので。mabanuaさんから最初にアレンジがあがってきたときは、「めちゃくちゃかわいいー!」って感動しちゃった。

音楽の可能性って無限大

藤原さくら

──5曲目「うたっても」は、本作でもとりわけ簡潔なアレンジで……。

実はこれ、今回の作品で唯一、「green」のときに書いていた曲なんです。最後にもう1曲、何をレコーディングしようかって話になったとき、mabanuaさんが「ぜひこれを入れたい」と言ってくださって。ほかのオケが実はしっかり構築されている中、こういう隙間の多いアレンジもいいよねと。

──構成要素の少なさが逆に、歌い手の孤独な心情を際立たせてもいます。

「うたっても」の歌詞は、ほとんど等身大の私と言うか……それこそ歌っても歌っても届かない気がすることって、日々活動していると必ずあるんですよね。当たり前だけど、楽しいことだけじゃないし。自分が思ったのはと全然違う捉えられ方をすることもあります。それでも曲を作っているのは、やっぱ音楽が好きなんだろうなってことだと思うんですね。そういう気持ちを、そのまんま曲にしました。だから日本語が多少おかしくても、この曲だけは構わないと思うんです。

──イントロのオルガンが印象的な6曲目「クラクション」は、歌詞同様にサウンドから恋人に対して素直になれないもどかしさが伝わってきました。

曲の最後も、「だから嫌いだ」ってフレーズで終わってますしね(笑)。ほら、自分にとって大切で近しい人ほど、普段はウザッたく感じちゃうことってあるじゃないですか。家族にしても、恋人にしても。でも遠く離れると、そういう相手ほど愛おしく、かけがえない存在だということもわかってくるんです。私自身、福岡の実家を出てから、そう感じることがすごく増えた気がします。なのでこの曲では、「好きだ」とか「愛してる」という言葉はあえて使わずに、そういう気持ちを表現してみたかったんです。

──オルガンを演奏しているのは別所和洋さんで、ユーフォニアムとフリューゲルホルンを奏でているのはMETAFIVEやpupaのメンバーでもある権藤知彦さんです。

はい。別所さんはずっと、私のピアノの先生でもあるんです。私のライブでもキーボードを弾いていただいたことがあります。

藤原さくら

──ゲストの数は多くないけれど、音楽好きにはたまらない人選ですよね。「green」に参加されていたトランペッターの類家心平さんもそうですけど、藤原さんの周りには、日本の音楽シーンでももっとも先鋭的なミュージシャンたちが集まっている印象が強いです。こういう状況を、藤原さん自身はどんなふうに捉えています?

もう、ありがたいの一言ですね。Ovallの3人はもちろん、「green」でmabanuaさんが紹介してくださったmitsu the beatsさんもそうです。自分の行動範囲では決して出会えない人と少しずつつながって、一緒に音楽を作れるというのは、本当に幸せだと思います。と同時に、こんなにも次々とカッコいい人たちと会うと、悔しくてたまらない瞬間もいっぱい出てくるんですよ。

──藤原さん、それは毎回常に言ってますもんね。

ですね(笑)。でも本当に、心底そう思います。国内、海外を問わず、私より年下の世代にもカッコいい音楽を作ってる子たちはたくさんいますし。音楽の可能性って本当に無限大だなと。そう感じさせてくれる人が近くにいてくれることが、一番うれしい。

──9月末から全国9都市を回るホールツアー「Sakura Fujiwara tour 2018 yellow」が始まりますね。これで緑、赤、黄色と、信号カラーがそろいますが(笑)。

はい。緑と赤の光を重ねると、黄色になるんですよね。同じように「green」と「red」という2枚のミニアルバムが、ライブという場で一緒になれば、きっとまた違う色が生まれるはず。自分でもそれがとっても楽しみなんです。

──何か見せ方の新機軸のようなものも考えていますか?

これまでの全国ツアーでは、演出にもけっこう凝ってたんですね。特に前作「PLAY」は誰かを演じることがアルバムのコンセプトだったりしたので……物語仕立てのセットを考案したり、いろいろ工夫も凝らしたりしました。でも「green」と「red」は今まで以上にどっぷり音楽に浸かった作品になったので。演出で魅せるというよりはむしろ、演奏そのものがストレートに伝わる構成にしたいと思っています。新しいメンバーも入りますし、過去の楽曲もまた新鮮なかたちで届けられるんじゃないかなと。そう思ってます。

ツアー情報
Sakura Fujiwara tour 2018 yellow
  • 2018年9月29日(土) 埼玉県 戸田市文化会館
  • 2018年10月5日(金) 愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2018年10月14日(日) 奈良県 なら100年会館 大ホール
  • 2018年10月19日(金) 北海道 道新ホール
  • 2018年10月21日(日) 東京都 中野サンプラザホール
  • 2018年10月27日(土) 静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2018年11月2日(金) 大阪府 オリックス劇場
  • 2018年11月4日(日) 新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
  • 2018年11月10日(土) 福岡県 福岡市民会館 大ホール
ひとりぼっちでもさみしくnight at 宮城
  • 2018年10月24日(水) 宮城県 retro Backpage
ひとりぼっちでもさみしくnight at 山形
  • 2018年10月25日(木) 山形県 文翔館議場ホール