折坂悠太が考えるフェスの自由さ、音楽の在り方|「FUJI & SUN '25」開催記念特集 (2/2)

「私のライブは盛り上がらない」

──ライブハウスやホールでのワンマンと、野外フェスのステージに立つのとでは、あらゆる面で違いがあると思いますが、折坂さんは特にどのようなところに違いを感じますか?

観ている人の自由度の高さがやっぱり違うなと思います。野外フェスは、“移動してる途中の人がいる”というのが、私は何より好きなところで。観るのも離脱するのも自由だし、集中して観てもいいし、どこかへ向かう道すがらに聴いてもいい。そういう自由さがすごくいいなと思います。もちろんライブハウスやホールで全員が集中して聴いている状態もそれはそれでよさがあるけど、音楽の在り方として自然なのは、もしかしたら野外フェスのような形なのかもしれないと思うんです。吸い寄せられるように来て、立ち尽くして、自分のタイミングで離れて、また戻って来て、みたいなことを自由にできる状態こそ、音楽の在り方、ひいては表現の在り方として自然な気がするし、私はそういう空間が好きなんですよね。自分のやり方で楽しめること、自分の在り方でそこにいられること、各々が違う踊りを踊れること。それがフェスのいいところだなって。まったく目当てじゃない人たちの音楽が、どこかに行く途中で聴こえてきたり、いろんな音が少しずつ混ざり合っていたり、そういう自由さが私はとても好きですね。

折坂悠太

──なるほど。オーディエンスの自由度の高さは、演者のパフォーマンスにも影響してくるものなのでしょうか?

影響してくるというよりは、そっちのほうが自然に感じられるという感覚ですね。音楽を届ける対象としてイメージしているものと、より近い感覚があるというか。もちろん自分のライブを観に来てくれることはすごくありがたいけど、そういう人だけではなくて、その向こうにいる人たちにも自分の音楽が届いたらいいなと、私は思っていて。その人のその日の体験の中で、自分の音楽が遠くでふわっと鳴っているような、そういう状態の一端を担えれば、別に私のライブを覚えていなくたっていい。演者とお客さんが向き合って、相思相愛でいるのも1つの理想ではあるけれど、その外側にいる人や、向こう側にある生活に向けても、私は歌を書いているような気がするんです。それを自然な形で体現できるのは、野外フェスのいいところだなと思います。

──ワンマンであれば、その場にいる全員が折坂さんの音楽を聴きに来ているけれど、フェスはそうではないですもんね。なんとなくステージに来て、なんとなく聴いている人もたくさんいるはずで。

はじめましての人もたくさんいるし、1人ひとりの体験がまったく違うというのもいいですよね。何を食べたかとか、どこで観たかとか、そういうことによってその日の体験が全然変わる。自分の体験を自分でプロデュースしやすいというのはフェスのよさの1つだなと思います。

──全員が自分の音楽を聴きに来ているわけではない以上、セットリストの組み方もまた変わってきますよね。フェスでのセットリストを組むときはどういうことを意識していますか?

私はセットリストを考えるうえで、毎回悩むことがあって。これはもう音楽を始めたときからぶち当たってる壁なんですけど……私のライブは盛り上がらないんですよ(笑)。

折坂悠太

──いやいや、そんなことはないと思いますよ。

でも、例えばハナレグミ先輩のライブなんかを観ていると、「なんでこんなに違うんだろう」と本気で思うんです。「同じ人間なのに、なぜこうも違うんだろう」って(笑)。それは、曲のBPMが高いとか、音楽性がどうこうとか、そういう問題じゃないんですよ。おそらく“人間”の違いなんですよね。目の前の人としゃべるときのテンションって、如実にステージに表れると思っていて。むしろ、その人が話しているときの空気とライブでのテンションが違ったら「嘘だろ」とさえ思ってしまう。それくらい、人が1対1で話しているときと、ステージでお客さんに対峙しているときの雰囲気は、ものすごく密接につながっていると、私は思っているんです。で、自分の場合はどうかと言うと、どちらもあまり盛り上がらない(笑)。人としゃべっていても「え?」みたいな空気になることがよくありますからね。最近は「別にそういう人がいてもいいか」と思っているけど、とは言えフェスだから「盛り上がってほしい」という欲も消えなくて。なのでセットリストを考えるときは「ここで盛り上がってもらえたら」というのを自分なりに考えてます。でも、結局ライブをやると「こういう会話の仕方が合っているよね、私たちには」というのを実感させられるんですよね。

──なるほど。今のお話を踏まえると、今年の折坂さんのステージがどのような時間になるのか、ますます楽しみです。

「盛り上がらねえな」と思いつつ声を上げてもらえると(笑)。意外と私はみんなの声を望んでいるので(笑)。

バキバキ“make some noise”で

──ライブの話に関連して、先日折坂さんが行われたワンマンライブ「のこされた者のワルツ」(参照:折坂悠太が自身最大11人編成で奏でた“のこされた者のワルツ”「これは私の救いです」)のお話もお伺いしたいです。この公演では、過去最大となる11人編成でライブを披露されました。

自分はロックをはじめとしたバンド音楽を聴いて育ってきたので、いわゆるバンドサウンドみたいなものに対する思いが元来強いタイプなんですよ。でもここ数年バンド編成でやってきて、それが徐々に熟成してきたからこそ、1回そこから離れてみようと思ったんです。例えばsenoo rickyさんのドラムがあって、宮田あずみさんのベースがあって、山内弘太さんのギターがあって……みたいなところから一度離れて、「まずこの楽曲があって、歌があって、そこに対してどういう音を重ねていけるか」ということを、このライブでは考えたかった。それによって、普段の表現よりも焦点が絞られたというか、自分の歌や楽曲を一番いい形で捉えることができたのかなと。総勢11人編成ではあるけれど、今までで一番音数の少ないアレンジで披露した曲もあったりしたし、表現のレンジの広さみたいなものをよく見せることができたんじゃないかなと思っています。ただ、このライブは自分の中でまだ消化し切れていないところもけっこうあって……。

──というと?

自分の中ではライブ以上の意味を持つ公演だったというか、1つの儀式みたいなものだったんですよね。あるとき、自分の曲を振り返ってみたら「もうここにいない人とか、もうない場所に対して歌っている曲が多いな」と感じて。であれば、それをライブの1つの軸として設けてみてもいいんじゃないかなと思って、「のこされた者のワルツ」というタイトルにしたんです。そういう背景も相まって、私の中では、ライブであると同時に“自分の人生において必要な儀礼”みたいな感覚もあったんですよ。ライブではあるけどライブを超えているというか。そういう存在の公演でしたね、自分の中では。

折坂悠太

──先日リリースされた最新EP「Straße」(参照:折坂悠太「Straße」レビュー|生々しく刻まれた折坂悠太の“道中”)のお話もお聞かせください。このEPはベルリンで一発録りされた作品ですが、ベルリンでのレコーディングはいかがでしたか?

ベルリンの宿に着いてすぐギターを弾いてみたんですけど、1音出した瞬間に感動しちゃって。「国が変わると、音の響きや生きている感覚がこうも変わるんだ」と感じたんです。「Straße」は、その感動をそのまま録音したみたいな作品で。あのときベルリンで感じた感動がちゃんと音源に収まっているというのは、奇跡のようなことだと思っています。今回エンジニアを担当してくれた大城真さんは、音源の捉え方が平面的じゃなくて、そこが本当に素晴らしいんですよね。LRだけじゃなく奥行きまでしっかりあって、再生した瞬間に領域展開する感じ(笑)。ものすごく迫力があるとかそういうことではなく、当たり前のようにそこに空間が現れる。大城さんにベルリンの空気を収めてもらえて、本当にいい音源になったなと思っています。

──ベルリンの空気がパッケージされているものの、「梅水晶」「北綾瀬」など極めて日本的ないしはローカルな言葉が出てくるのも興味深いなと思いました。

ありがとうございます。タイトルに付けた「Straße」は「通り」という意味の言葉なんですけど、ベルリンを散歩しているときに「どの通りもつながっているんだな」と感じたんですよ。もちろん日本と違うところもあるけど、逆に変わらないものもあるというか。どこまで行っても世界は続いていて、自分がいさえすればそこは地元と変わらない、みたいな変な感覚があるんです。当たり前だけど、日本でベルリンのことを想像するより、実際に行ったベルリンは自分と近くて。一度行っただけなのに、もうベルリンが自分の人生の一部になっている。そういうことを考えながら「Straße」という言葉をタイトルに付けたし、地元に近い場所の地名や日本ならではの居酒屋のメニューを歌詞に落とし込みました。自分の地元もベルリンも、1つの通りでつながっているんだなと思って。

──「FUJI & SUN」の話に戻りますが、今年はどんなパフォーマンスを見せたいとお考えでしょうか?

それはもう、バキバキ“make some noise”で。アゲアゲでいきたいですね(笑)。これは冗談でもなく、さっきは「こんな人間だから盛り上がらない」みたいなネガティブなこと言っちゃいましたけど、やっぱりあきらめずにいたい気持ちはあるので。楽しいライブにしたいですし、自分も楽しめたらなと思います。

折坂悠太

公演情報

FUJI & SUN '25

「FUJI & SUN'25」ロゴ

2025年5月31日(土)静岡県 富士山こどもの国

<出演者>
折坂悠太(band) / 君島大空(独奏) / くるり / 柴田聡子 / トリプルファイヤー / どんぐりず / 野口文 / HAPPY / HAL / んoon / 堀込泰行 / MONO NO AWARE / やけのはら / 吉原祇園太鼓セッションズ feat. モッチェ永井


2025年6月1日(日)静岡県 富士山こどもの国

<出演者>
井上園子 / MFS / Sam Wilkes Quartet feat. 中村佳穂 / SAMO / 鎮座DOPENESS / 七尾旅人 / ハナレグミ / ハンバート ハンバート / betcover!! / 森山直太朗 / U-zhaan

公式サイト

プロフィール

折坂悠太(オリサカユウタ)

平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年にギターの弾き語りでライブ活動を開始。2014年に自主制作のミニアルバム「あけぼの」を発表する。2015年に「のろしレコード」の立ち上げに参加。2016年には1stアルバム「たむけ」をリリースする。2018年10月に2ndアルバム「平成」を発表し、民謡やジャズ、ラテンなどさまざまな要素を取り入れた音楽性で、高い評価を得る。2024年6月に4thアルバム「呪文」を発表し、翌2025年4月にホールワンマン「のこされた者のワルツ」を東京と大阪で実施。5月にドイツ・ベルリンで一発録りしたEP「Straße」を発表した。