ナタリー PowerPush - 堂島孝平

ポップでショックでクレイジーな最新型HARD CORE POP!

青さが浮き彫りになって「勝ったな」と思った

──ニューアルバム「A.C.E.」は、「サンキューミュージック」前後からの流れとは違う新たな領域に突入した、というのが第一印象です。サウンド面は如実に変化があって、リバーブの雰囲気や音数の少なさにはニューウェイブっぽさも感じます。

インタビュー風景

うんうん。でもそれは僕自身、レコーディングの最後のほうに気付いたんですよ。「これニューウェイブじゃねえか」って(笑)。音楽的なムードも、精神的にも、今はハイパーでリッチなもの作るというよりは「やんちゃする」方向に振り切りたくて。削ぎ落してった中に残るロマンティックさとか、野蛮な感じとか、そういうものをポップソングにしたい。そんなアルバムにしたいねって話はしてたんだけど、最後の1曲を録ってるぐらいのときに初めて「ニューウェイブじゃねえか」と(笑)。

──ニューウェイブ的な音像を目指して近付けていったわけではなく?

メンバーの共通意識として「今回はニューウェイブだ!」みたいな感じは全然なくて。自分も含め、放っておいても熟練させることができるメンバーだけど、今回はそういうんじゃない。「新しいことをやんなきゃ」ってどこか追い詰められるような気分で。結果的にニューウェイブとかポストパンク的な青さって言うんですかね、そんなムードが浮き彫りになったことが僕も結構驚きだったけど、その瞬間に「勝ったな」と思った。

──前作「VIVAP」(2010年7月)にも少し変化の予兆はあって、「BEST OF HARD CORE POP!」に新曲として収められた「ハヤテ」で明らかなモードチェンジを感じたんですよ。ただ、アルバム全編にわたってこれほど変化があるとは思っていませんでしたが。

逆に「ハヤテ」が一番シンプルで王道なポップソングに聴こえるぐらい(笑)。「ハヤテ」を作り始めたときは「ここまでやっちゃっていいのかな」みたいなこと言ってたんですけどね。というか「(ニューアルバムは)こっちにギア入れちゃっていいんだよね?」みたいな。完全に踏み込みましたね、今回は。

改めて音楽家として「君は何をするの?」って

──今作は「堂島孝平×A.C.E.」というバンドのアルバムとも言える作品で、参加メンバーは鹿島達也(B)さんと、NONA REEVESの小松シゲル(Dr)さん、奥田健介(G)さん。音数が絞られたニューウェイブっぽい音響ではあるんですけど、一筋縄ではいかない顔ぶれだけに、単純にジャンルでくくれない独特なサウンドになっていますよね。

みんなすげえ巧いんですけど、彼らにも自分自身にも要求したのは「巧くなりすぎない、饒舌すぎない」ってこと。そっちに転ばないようにするのが、楽しくも大変だった部分で。小松くんにシンバル叩かせないとか(笑)。ドラムで埋めないように、クレイジーなリズムパターンで音像を膨らませるような感じ。奥田くんなんかギターソロ1曲しか弾いてないですからね。おいしいリフの応酬で、かつ弾きすぎない。んで、コードも弾かせないみたいな(笑)。鹿島さんは個性的な“アク”を持ってる人で、リフで構築するセンスがずば抜けてる人なんです。前作に収録されている「6AM」のような曲は、あの人と出会ってなければ作れなかったと思う。そんな鹿島さんにすら「音数を減らしてくれ」とかガンガン要求して。

──このアルバムは堂島さんにとっても新機軸ですけど、結果的にメンバー3人にとっても、ほかでは聴けないプレイだらけのアルバムになっているという。

そもそもこの「堂島孝平×A.C.E.」というバンドを作ったのは、イノベーション、新機軸を見つけようというテーマがあったからなんです。ひとりのシンガーソングライターとしては「堂島孝平楽団」のような15人編成のビッグバンドをやって、「UNIRVANA」(2008年1月発売)と「VIVAP」というアルバムで個に立ち返るような作品を作って……さあ次は何をしよう、というタイミングでこの4人が集まって。みんなそれぞれ売れっ子で、ニーズに応える演奏がやれる人たちだけど、改めて音楽家として「君は何をするの?」って一から考えてみるみたいな。小松くんとオッケンはNONA REEVESとして確固とした世界を作っているけど、小松はTHE STREET SLIDERSが好きだったり、オッケンのアイドルはTHE ROLLING STONESだったり、僕も元々パンキッシュな音楽やロックンロールが好きだったりするので、鹿島先輩含め、いったんスタート地点に立ち返りたかった。そんな気分で4人でツアーを回ったんですけど、いざアルバムを作る段階になって、その気分をどうやって今の音として聴かせるかと考えたとき、さっき挙げたような制約、ルールを決めてやるという方法に行き着いたんです。

まさに「A Crazy Ensemble」

──そもそも今回はなぜこの4人が集まったんですか?

インタビュー風景

これがねえ、組み合わせの妙というかタイミングの妙というか。元々3人ともいろんなタイミングで僕の作品やライブに携わってくれてたんですね。一番長いのが小松くんで10年ぐらい。オッケンもちょいちょい手伝ってくれてたし、鹿島さんももう3、4年ぐらいの付き合い。僕はソロの割にはすごくライブの本数が多くてですね、ロックバンドに誘われるライブも多いから、そんなときは最小編成で強い音を出せるメンバーを揃えないと、相手にも申し訳ない。あるとき下北沢CLUB Queでツーマンをやることになって、ロックバンド編成でやるために集まってくれたのがこの3人だったんです。

──小松さんと奥田さんは長くかかわっているけど、2人一緒に参加するのは今回が初めてですよね。

ずっとね、ノーナの2人が揃っちゃうのは避けてたんですよ。郷太(西寺郷太 / NONA REEVES)にも、ノーナに対して申し訳ないというのがあって。そのQueのツーマンも別のギタリストにお願いする予定だったんだけど、どうしてもスケジュールの都合が付かなくて、それで急遽オッケンに頼んだんです。

──偶然のタイミングで揃った3人との演奏に、何か感じるものがあったのでしょうか。

根本的に、自分にかかわってくれてるミュージシャンはみんな僕と同じように、どこまで行っても満足できないというか、熟練の方を選ばない人ばかりで。中でもこの組み合わせだったら、自分の持っている熱い気持ちに応えてくれるし、演奏力や技術力を持った上での「やんちゃ」にも応えてくれるんですね。まさに「A.C.E.=A Crazy Ensemble」。「クレイジーな演奏で、粋に遊べるメンバー」ってことが大事なんです。

ニューアルバム「A.C.E.」 / 2012年3月21日発売 / 2500円(税込) / IMPERIAL RECORDS / TECI-1323

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CD収録曲
  1. ギミラ!ギミラ!ギミラ!
  2. ベランダでベルリラ
  3. あのコ猫かいな
  4. バスルーム・マーメイド
  5. センタッキ!
  6. A.C.E.
  7. マイ・シナモン・ガール
  8. 境/界/線
  9. 赤と白
  10. ハヤテ [A.C.E.MIX]
  11. いいさ、おやすみ
堂島孝平(どうじまこうへい)

アーティスト写真

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2011年12月には初のオールタイムベストアルバム「BEST OF HARD CORE POP!」をリリース。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」を発表する。