ナタリー PowerPush - 堂島孝平

ポップでショックでクレイジーな最新型HARD CORE POP!

堂島孝平がおよそ1年8カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「A.C.E.」を完成させた。ポップメイカーとして高い評価を受ける彼だが、今作では鹿島達也(B)と、NONA REEVESの小松シゲル(Dr)&奥田健介(G)を迎えたバンド「A Crazy Ensemble=A.C.E.」の4人のみで、これまでとはひと味違ったストイックなサウンドを作り上げている。

ナタリーでは今作に感じられる大きな変化の理由を探るべく、堂島にロングインタビューを敢行。シンガーとして、またソングライターとして、彼がどのような姿勢で音楽に向き合っているのかをじっくりと訊いた。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 中西求

“攻め型”のポップミュージシャン

──僕は勝手に堂島さんのことを「いい曲しか書けない病気になった人」って呼んでるんです。

インタビュー風景

それは良いようにも悪いようにも取れますね(笑)。

──もちろん良いほうで(笑)。優れたソングライターの方には、ある曲をきっかけに突然何かをつかんだように名曲を量産する、“確変状態”に入る瞬間があると思うんですよ。僕個人の見解ですけど、例えば真心ブラザーズの桜井秀俊さんは「サマーヌード」を書いた後、完全に「いい曲しか書けない」状態に入ったような気がして。

ああ。桜井さんは僕の近しい先輩なんで、よくわかります。真心の確変期。

──堂島さんにも2000年代前半に同じものを感じたんですけど、病気治んないなあ、確変状態終わらないなあと(笑)。そんな状態になったとき、職業作家的なスキルをさらに磨き上げる熟練モードに入る人も多いと思うんですけど、堂島さんや桜井さんの場合は少し違う気がして。やんちゃな部分を残したまま、謎の進化を遂げているというか。

それはね、鋭いと思いますよ。熟練を選ばないっていうのが常に自分の音楽との付き合い方で、同じ方法論を次に用いようとはしない。そっちのほうが自分がワクワクするんですよ。いい曲、いいメロディに出会うことをいいスピード感でやれているから、そう言ってもらえてるのかもしれないです。

──意識的に熟練の方向は避けていたんですね。

無意識の中の意識というか、本能的に「前と同じようなアルバムは作らない」「1回やったパターンはやらない」みたいな心理がすごく出てきちゃうんですね。落ち着けない。まがりなりにも18年プロとしてやってきた“攻め型”のポップミュージシャンだから、そういう謎の進化を遂げたんだな、とは思います。

「見たくなるような音楽」が作りたい

──1990年代のギターポップ的な音作りから比べると、一時期からコード感なども含めて一気にリッチなサウンドになった印象があります。複雑なコード展開を持つ曲が作れるようになった、コツをつかんだ瞬間というものが明確にあったんですか?

テンションコードを自分でちゃんと使えるようになったのは、アルバムで言うと「黄昏エスプレッソ」(2000年3月発売)からですね。「トゥインクル」(1997年2月発売)や「すてきな世界」(1997年11月発売)も少しそういう要素はありましたけど、テンションコードをアーバンに使うというよりは、もうちょっとスウィートな感じ。で、「黄昏エスプレッソ」の後の「サンキューミュージック」(2001年5月発売)でGO-GO KING RECORDERSというロック畑の人たち、ライブ畑の人たちに出会ったことで、ポップ畑で育った楽曲志向の人間からパフォーマンス志向へと変わってくんです。「難しいテンションコード進行でロックンロールをやる」という方法をGGKRのみんなと探って。

──まさに「サンキューミュージック」で飛び級的な変化を遂げた印象があります。

インタビュー風景

今では自然なものになりましたけど、自分の音楽をちゃんとフィジカルなものとして歌い始めた第一歩があのアルバムだったんです。最近は「見たくなるような音楽」が作りたいってよく思うんですね。そういうことをやり始めた最初で、それこそ飛び級のような、魔法がかかったような、そういう発明感のあるスタート地点だった気がしますね。

──去年の12月に発売されたオールタイムベスト「BEST OF HARD CORE POP!」は、堂島さん自身の中でもこれまでの自分の音楽史を振り返るような部分があったんじゃないでしょうか。

同時代にいいソングライターがいっぱいいますし、同世代でも才能のある人たちが多くいる中で、自分がみんなより過度に持っているのは「人を喜ばせたい」ってことだと思うんですよ。その喜ばせ方として、めちゃめちゃいいメロディラインを書くときもあれば、ポップスというくくりの中でギリギリはみ出すようなことをやったり。とにかく「こんな音楽聴いたことない」っていう衝撃をポップミュージックの名の下にやり続けてきてるっていう、そういうエッジの効かせ方は自分らしいところかなと思います。

ニューアルバム「A.C.E.」 / 2012年3月21日発売 / 2500円(税込) / IMPERIAL RECORDS / TECI-1323

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CD収録曲
  1. ギミラ!ギミラ!ギミラ!
  2. ベランダでベルリラ
  3. あのコ猫かいな
  4. バスルーム・マーメイド
  5. センタッキ!
  6. A.C.E.
  7. マイ・シナモン・ガール
  8. 境/界/線
  9. 赤と白
  10. ハヤテ [A.C.E.MIX]
  11. いいさ、おやすみ
堂島孝平(どうじまこうへい)

アーティスト写真

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2011年12月には初のオールタイムベストアルバム「BEST OF HARD CORE POP!」をリリース。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」を発表する。