ボーカリスト川島明とプロデューサー藤井隆、それぞれのインタビューから紐解く“夜の顔”

「M-1グランプリ」ファイナリストとしてお笑いコンビ・麒麟の名を知らしめたのち、ピンとしても「R-1ぐらんぷり」(現在は「R-1グランプリ」)や「IPPONグランプリ」でその圧倒的な大喜利力を見せつけていった芸人・川島明。そしていまやTBS系「ラヴィット!」の司会として国民的“朝の顔”となった彼が、今度は1人のアーティストとして初のオリジナルアルバムをリリースする。

藤井隆の企画・プロデュースによるオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」への参加を機に音楽活動をスタートさせた川島。「SLENDERIE ideal」ではフジファブリック「若者のすべて」のカバーとオリジナル曲「where are you」でボーカルとサックスに挑戦し、「麒麟です」でおなじみの“ええ声”とはまた違ったピュアなハイトーンでファンを唸らせた。このときの歌声がきっかけとなり、藤井は川島のオリジナルアルバムを制作しようと決意。既発曲を含む8曲入りのオリジナルアルバム「アメノヒ」がここに完成した。

収録曲は“夜”をテーマに大江千里、堂島孝平、中崎英也、She Her Her Hers、Le Makeupという多彩なアーティストが制作。川島が朝の顔の裏でどのような夜を過ごしているのかをイメージして作られた新曲たちが詰め込まれている。

音楽ナタリーでは川島本人と、プロデューサーである藤井にインタビュー。「アメノヒ」という作品ができるまでの経緯や、収録曲に対する感想、これから始まるリリースツアーに向けての思いなどについて、それぞれの視点から話を聞いた。

取材 / 臼杵成晃文 / 鈴木身和撮影 / YURIE PEPE

藤井隆インタビュー
藤井隆

川島くんがどういう夜を過ごしているのか

──今や日本を代表する朝の顔となった川島明さんの1stアルバムが、夜をイメージさせる穏やかさをたたえた作品になっているのが最高だと思いました。アルバムの構想はいつ頃からあったんですか?

川島くんとは「SLENDERIE ideal」(2020年10月リリースのオムニバスアルバム)に参加していただいたのが最初でした。堂島孝平さん作曲、神田沙也加さん作詞、冨田謙さん編曲のオリジナル曲「where are you」と、フジファブリック「若者のすべて」のカバーを歌ってもらったことが引き金になって、「もう一度歌ってほしい」と思ったことがきっかけですね。どうせなら録り下ろしの新曲は全部オリジナルで作りたくて、いろんなミュージシャンの方に「朝の顔の川島くんがどういう夜を過ごしているのかを一緒に考えてもらえませんか?」とお願いしました。ひと言に“夜”といっても、真夜中をイメージする人もいれば、明け方を表現する方もいて。それぞれのストーリーが川島くんから生まれたことがすごくいいなと思っています。

──アルバムを制作するにあたって、川島さん本人からは何か音楽的なリクエストがあったんですか?

まったくないです。というのも、あえて聞かないようにしているんです。せっかく僕がプロデュースさせてもらうのであれば、最初から最後まで自分が責任を取れるようにしたいと思っていて。「こういうのがいいです」とはっきりとイメージして作っています。

──楽曲が出そろったときの川島さんの反応はいかがでした?

川島くんは本当に誠実で優しい人なので、「すごくいいですね」と受け入れてくれました。いろいろ気遣ってくれて、僕が希望することをすかさずキャッチしてくれます。

──「where are you」「若者のすべて」のときはスコーンと抜けるハイトーンのボーカルが、いわゆるローボイスの“ええ声”とは違う魅力にあふれていて「川島さんってこんな歌声だったんだ!」と驚きました。

本当はもう少しキーが低いほうが川島くんにとっては歌いやすいはずなんですけど、キーが高いほうがより魅力的になると僕は思っていて。

──一方でアルバムは柔らかく抑制の効いたトーンが心地よい新曲が多数用意されていて、端的にボーカリストとして魅力的な声だなと。

夜をテーマにしたときに、優しいボーカルになるという気配はしていました。

「ラヴィット!」ファミリーの文通デュエットソング

──作家陣もバラエティに富んでいて面白いですね。She Her Her Hers提供の「D Breeze」がまず先行配信されましたが、この曲でアルバムの世界観が一気に伝わってきました。

She Her Her Hersさんの音楽はもともと妻(乙葉)が好きで、一緒に聴いているうちにどうしても曲作りをお願いしたくなってしまって。アジアツアーのお忙しい最中に2曲も頼んでしまいました(笑)。僕の中でShe Her Her Hersさんは“水”のイメージなんです。プールやシャワー室のような清涼感のある雰囲気で、濡れた前髪をパッとかき上げているみたいな。

──同じくShe Her Her Hersによる提供曲「Time Line」は、「ラヴィット!」木曜レギュラー・横田真悠さんとのデュエットソングです。横田さんにオファーした理由は?

横田さんとは以前、ドラマ(TBS「西園寺さんは家事をしない」)でご一緒したことがあるんですが、そのときに本当に素敵でかわいらしい方だなと思ったんです。彼女が笑うとみんながうれしくなるし、現場がパーッと明るくなる。それに僕は、彼女の声がとても好きなんです。She Her Her Hersさんにはおじさんと幼女やその逆でもいいんですが、年齢差のある2人の文通をテーマにしてほしいとお願いしました。恋愛の歌じゃなくて、会ってない2人が長く思い合う物語をお願いしたんですが、She Her Her Hersさんは見事にさわやかで現代的な歌にしてくださって、とても気に入ってます。

──アルバム2曲目「こんなふうに」のLe Makeupとの組み合わせも素晴らしいですね。

もう、めっちゃかわいかったです! 彼の歌詞で「こんな歳なのに」と言われるとすごくチャーミングなんですよ。

──「ねぇ いつだろう」の曖昧な発音とノンエコーの生々しい歌声が、これまで知らなかった川島さんの表情を覗いたような感じがしてドキッとしました。

レコーディングエンジニアの兼重哲哉さんが親身になってアイデアをくださったおかげです。例えば「いつだろう」の“いつ”を英語の“It’s”のように発音してみるとか、いろいろチャレンジグな提案を出してくれて、それを川島くんも恥ずかしがらずに特訓してくれました。