「Technics×CIRCLE '22」特集|ceroと考える、Technicsが音楽リスナーに愛されるワケ (3/3)

それぞれのバックグラウンドがわかるレコード

──では、ここからは皆さんに“バックグラウンドがわかるレコード”をテーマにセレクトしていただいた1枚を、Technics Sound Trailerの音響で聴いてみましょう。ターンテーブルは「SL-1200G」を用意していただきました。まずは髙城さんに持って来ていただいた、小坂忠さんのアルバム「ほうろう」です。

髙城 (試聴を終えて)いやー、いいですね。気持ちいいね!

──どうしてこのアルバムを選ばれたのですか?

髙城 さっき話したエピソードと被っちゃうんだけど、両親の持ち物と自分が発見して好きになった現代の音楽みたいなものが同じ線上にあると気付いたときに、家にあったものとしてよく聴いてたのが小坂忠さんやはっぴいえんどだったんですね。で、小坂さんが先日亡くなられて。その訃報が流れたときに、スカートで以前ベースを弾いていた清水(瑶志郎)くんが「流星都市」のピアノ演奏動画をTwitterに上げていて。それを観て改めて「すごくいい曲だよな」と思ってたんですよ。小坂さんは日本語R&Bの元祖と言われているけど、“ザ・王道R&B”みたいなことをいきなりやろうとしているわけではなくて、二重三重に凝ったことを試みていたんだなと、清水くんの動画を観て感じたんです。改めてオリジナルを聴いてみると、元としてあるアメリカのR&Bとは違う手触りがありますよね。それでこの機会にこの環境で聴いてみたいと思って持って来ました。

小坂忠「ほうろう」のレコードに針を落とす髙城。この日の取材では「流星都市」を試聴した。

小坂忠「ほうろう」のレコードに針を落とす髙城。この日の取材では「流星都市」を試聴した。

髙城が持参した小坂忠「ほうろう」のレコード。

髙城が持参した小坂忠「ほうろう」のレコード。

──続いて橋本さんのセレクトは、マルコス・ヴァーリが1973年に発表した名盤「Previsao Do Tempo」です。

橋本 僕はThe High Llamasが大好きで、マルコス・ヴァーリはその流れで知ったんですよ。ブラジル音楽は好きだけどそんなに詳しくない中で、さっき聴いた「Previsao Do Tempo」はThe High Llamasと近い作り方の曲なのかなって。リリースは1970年代なんだけど、いつ聴いても飽きないくらい好きな1枚ですね。この環境で聴いた感想で言うと、実際生で聴くベースより生っぽいというか、だからと言ってベースがデカいというわけではなくて。こういういいスピーカーって箱鳴りとか生っぽさみたいなものにこだわっているのかなというイメージがあったんですけど、Bluetoothイヤフォンと同じでかなりフラットな印象で、味付けしないんだけど満足できるという感じがしてよかったですね。

マルコス・ヴァーリ「Previsao Do Tempo」のレコードに針を落とす橋本。この日の取材ではアルバム表題曲「Previsao Do Tempo」を試聴した。

マルコス・ヴァーリ「Previsao Do Tempo」のレコードに針を落とす橋本。この日の取材ではアルバム表題曲「Previsao Do Tempo」を試聴した。

橋本が持参したマルコス・ヴァーリ「Previsao Do Tempo」のレコード。

橋本が持参したマルコス・ヴァーリ「Previsao Do Tempo」のレコード。

──最後は荒内さんがインタビュー冒頭で話されていたDeep Purple「Machine Head」です。

荒内 おお。音楽的なバックグラウンドかと言うと違いますけど、今この環境で聴いて好きになりましたね。カッコいいなと思いました。本当に。

髙城 ハードロックという器がしっかり定まっていない時代のハードロックなわけじゃん。今でこそメタ化されたハードロックという器はあるけどさ、当時はそれが可塑的というか、形を揉む余地みたいなものを感じさせてくれる。

荒内 うんうん。

髙城 そういうふうに聴くと、これはのちにハードロックと呼ばれるものだけど、なんというか……そんなにヘビーでもないし。

橋本 けっこうポップだったね。聴いたことなかったんだけど。

荒内 昔、鈴木惣一朗さんが「ハードロックは大音量化された楽器で、ある意味音響派だ」ということを書かれていて。今回この環境で聴いてみると、楽曲構造はすごくシンプルだけど、ハモンドオルガンとか歪んだギターだけの情報を聴いてもすごく気持ちいいというか、カッコいいなと思える作品なんだと気付きました。

──今回、皆さんがどんなレコードを持って来るか事前にリストをもらっていて、荒内さんは「Deep Purple『Machine Head』 or 竹村延和『ほしのこえ』」と書かれていたので振り幅がすごいなと思っていたんですよ。

荒内 音楽的な影響で言ったら圧倒的に「ほしのこえ」ですね(笑)。「Machine Head」は初めて買った思い出深い1枚ということで。

Deep Purple「Machine Head」のレコードをセットする荒内。この日の取材では「Highway Star」を試聴した。

Deep Purple「Machine Head」のレコードをセットする荒内。この日の取材では「Highway Star」を試聴した。

荒内はDeep Purple「Machine Head」のほかに、竹村延和「ほしのこえ」のレコードも持参した。

荒内はDeep Purple「Machine Head」のほかに、竹村延和「ほしのこえ」のレコードも持参した。

ceroが考えるアナログレコードの面白さ

──では最後に。今はレコードブームだと言われていますけど、まだまだハードルが高いと感じている若い人もいると思うんです。皆さんがそういった人たちにレコードの楽しさを伝えるとしたら?

荒内 個人的な話になりますけど、今まで音楽をレコードで聴く頻度ってそんなに多くなかったのが、この1カ月くらいはレコードでしか聴いてなくて。というのも、現代音楽や昔の電子音楽はサブスクで聴くといつ始まっていつ終わったのかがわからなかったりするんですよ。だからレコードのようにA面、B面で区切られているだけでも、すごく音楽と向き合いやすくなる。そう気付いてから僕はレコードばかり聴いているから、そういうよさもあるよなと思いますね。あとは寝る前にAmazon Prime VideoやNetflixでドラマを1本観るみたいに、レコードを1枚を聴いてみるのも面白いかなと。日常生活の中でじっくり音楽を聴くタイミングって実はあまりないと思うので。

髙城 別のインタビューで似たようなことを言っちゃったからあれなんですけど、少し前にDJをする機会があって、レコードを何枚か持って行こうと思って家でいろいろ聴いていたときに、最近聴いてなかったやつをかけてみたら音がすごく悪かったんですよ。それはホコリやカビが原因だと思うんだけど、クリーナーを使ってキレイにしてみたら、見違えるような音が鳴るんですよね。磨いたら音がよくなるなんて、サブスクじゃ絶対にありえないことじゃないですか。そういうふうにさ、自分がその音響に直接的に関われるメディアってレコード以外に何気にないんですよね。手をかけてやれば生き返るメディアって弱いようで強い。手入れをしないと弱くなっちゃうけど、そういうふうに復活させる術がいくつか用意されているというか。アナログってそういうものだと思うんだけど、その延長線上に機材とかもあって、揉めるというか自分で関わっていけるというのがレコード以外にないよなって改めて思いました。だから今の若い子にはそういう部分も知ってもらえたらいいかな。

Technics Sound Trailerでレコードを試聴するcero。

Technics Sound Trailerでレコードを試聴するcero。

──最後は橋本さんに締めていただければと思います。

橋本 あれ、なんでしたっけ?

髙城 若い子にレコードのよさを伝えるとしたらっていう話(笑)。

橋本 そうだ(笑)。ひと言で言うとそういう時間を作れる装置ってことですかね。だって最近はそんなにちゃんと音楽を聴くことってないと思うんですよ。

髙城 うん。時間を取って聴くということ自体がね。

橋本 そうそう。TikTokとか見てるとどんどん尺が短くなってるじゃないですか。どこかで戻ってくることもあるだろうとは思うけど、そこは自由に楽しむのがいいから「レコードは音がいいから聴きなよ」みたいな説得は無理やりかもしれない。だから質問の答えになってないかもしれないけど、このトレーラーがいろんな公園とかに行って、フードカーの並びにあったら面白いですよね。そしたら普段レコードに接してない若者や、小さい子供にも何かを感じてもらえるかもしれないし。

髙城 子供はターンテーブルみたいな動く機械が好きだからね。

橋本 うん。小さい頃にそういう体験をしたら音楽に興味を持つきっかけになるかもしれない。

荒内 このトレーラーでレコードも貸し出しできたらいいよね。移動図書館みたいな感じで。

髙城 あー、それも面白いね。

cero

cero

Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

パナソニックがTechnicsブランドの移動式試聴室として開発したトレーラー。音の躍動感、歌い手の息遣い、楽器から放たれる音色、指揮者が動き出す前の緊張感など、Technicsだからこそ表現できる音楽の世界をリスナーに体験してもらうべく作られた。トレーラーではTechnicsの主要ラインナップすべてが試聴でき、試聴音源もハイレゾ音源からCD、レコードまで幅広く取りそろえている。

Technics「SL-1200G」

Technics「SL-1200G」

音楽好きにリスニング用機材として愛されている“グランドクラス”シリーズのターンテーブル。ダイレクトドライブシステムの課題を解決し安定した回転を実現する、Technicsが開発したコアレス・ダイレクト・ドライブモーターを搭載。Blu-rayディスクの制御技術が盛り込まれたことにより、回転制御がブラッシュアップされている。

Technics「EAH-AZ60」

Technics「EAH-AZ60」

TechnicsがHi-Fiオーディオ機器の開発で長年培われた音響技術の粋を注いだ完全ワイヤレスイヤフォン。音楽が持つ表現や豊かな空間を再現する高音質を実現させた。ハイレゾ音質の伝送が可能なLDACに対応することで、ワイヤレスでありながらハイレゾ音質が楽しめる。

ceroのサイン入りアナログを合計3名にプレゼント

ceroのサイン入りアナログを合計3名にプレゼント

ceroのサイン入りアナログを合計3名にプレゼント
タイトルは「WORLD RECORD」「My Lost City」「POLY LIFE MULTI SOUL」

応募はこちらから!

プロフィール

cero(セロ)

2004年に髙城晶平(Vo, G, Flute)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成されたバンド。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月に3rdアルバム「Obscure Ride」、2018年5月に4thアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」をリリース。2022年1月には1stアルバム「WORLD RECORD」の発売10周年を記念し、既発アルバム4枚のアナログ盤を再発した。同年6月には最新曲「Fuha」を配信リリースし、現在は約2年3カ月ぶりとなる全国ツアー「TREK」を開催中。