Devil ANTHEM.「a story beyond」インタビュー|過去のデビアンを超える──新体制初アルバムに刻まれた6人の決意

Devil ANTHEM.のニューアルバム「a story beyond」がリリースされた。

デビアンは昨年12月27日に東京・TOKYO DOME CITY HALL(現Kanadevia Hall)で開催した結成10周年記念ライブをもって活動を一時休止するも、今年3月に早々にカムバック。メンバーの卒業、芸能活動未経験の塩崎めいさと矢吹寧々の加入という変化を経て、6人体制の新生デビアンとしての歩みをスタートさせた。

新体制初となるアルバムのタイトル「a story beyond」は、直訳すると“その先の物語”という意味。前体制と何かと比べられる状況の中で「過去は過去、今は今とせずに向き合うことを選択して、そのうえでこれまでを遥かに超えてより大きくなる」というグループの意思が込められている。9月に行われた東京・ステラボール公演では、メンバーがファンに向けて「今までのデビアンを超えてもっと大きなグループに必ずなります」と正面から宣言した(参照:Devil ANTHEM.2度目の全編生演奏ライブ、強靭なアンサンブルと一体になった迫力のステージ)。

彼女たちはどのような思いをもってこの宣言に至ったのだろうか。アルバムの新曲や11月にスタートする全国ツアー「Devil ANTHEM. 11th Anniversary TOUR 2025 a story beyond」の話を交えつつ、それぞれの胸中を語ってもらった。

取材・文 / 近藤隼人撮影 / 塚原孝顕

活動再開後に感じた焦りや不安

──前回デビアンにインタビューしたのは、再始動ライブ前の今年2月でした(参照:Devil ANTHEM.インタビュー|活動休止を経て早くもカムバック、新生デビアンが見せる“再構築”の面白さ)。新メンバーの塩崎さんと矢吹さんがグループに合流して間もない頃でしたが、そこから新体制で半年以上活動してきて、今どのような感触を得ていますか?

竹越くるみ 活動休止する前、ファンの方から「早く帰ってきてね」「待ってるからね」という温かい声をもらっていて。年末にTDCホールで開催した結成10周年記念ワンマンをすごくいい手応えを感じながら終えられたので、活動再開したらお客さんも全員帰ってきてくれると思い込んでいたんです。活休したときの状態のまま再スタートを切れる、なんなら新メンバーが加わってさらに加速できるという気持ちでいました。でも、実際に活動を再開したら「思っていたのとちょっと違うかも」と不安や焦りを感じてしまって。

──順風満帆な再スタートではなかったと。

くるみ でも待っていてくれたファンの方たちは不安な気持ちを表に出さず、「自分にとっては期待しかない」「デビアンは絶対にいいグループだから」と声をかけてくれたので、「今ここを踏ん張らないとダメだ」と感じました。ファンのみんなが私たちを信じて応援してくれていることを身に染みて実感して、心強かったです。そこにありがたく甘えつつ、新しいデビアンの土台をしっかり固めようと思って過ごした夏でしたね。そしてステラボールでの全編生演奏ワンマンを終えて、ひと皮むけた気がします。耐えるべき時期にしっかり耐えて、逃げ出さずにやるべきことをやれたなって。ファンのみんなの気持ちと、それに応えたいという私たちの気持ちがいい相乗効果を生んで、なんだか霧が晴れた気分です。この6人のデビアンがまだ完璧じゃないのは当たり前で、力を合わせて試行錯誤をしていく感覚をやっとつかめました。アイドル1年生のようなキラキラした、なんでも楽しめる時期に入っています。

竹越くるみ

竹越くるみ

水野瞳 前回のインタビューで、新体制第1弾楽曲「REBUILD」の歌詞に書いてある通り、新メンバー2人のことを「希望」だと言ったんですけど、この半年間がむしゃらについてきてくれている2人の成長を感じるたびに、デビアンのために自分がもっとできることがあるんじゃないかと考えることが増えました。正直、楽しさよりも苦しさを感じることが多かった半年間で。対バンライブでの出番の時間帯が以前のほうがよかったり、活動休止前と同じように物事が進まないことがありました。ただ、ライブに出させていただけること自体がすごくありがたいわけで、デビアンをもう一度受け入れてもらえるようにがんばろうと思った夏でした。徐々に地を固めてきた中、ステラボールのワンマンを通してそれぞれ自分で課題を見つけられるようになり、スランプみたいなものから脱却できているなと感じて。次のステージに行くための準備運動が終わる頃なんじゃないかなという感覚が芽生えました。

橋本侑芽 再始動後すぐの対バンライブで、活休前も一緒に戦ってきたアイドルさんのステージを観て、自分たちはまだ実力が足りてないなと思うことがたくさんありました。周りと比べてしまう時期が続いていたんですけど、ライブを重ねていくうちにグループとしてのまとまりが出てきたし、ちょっとずつ成長を感じた半年間でした。ステラボールでのワンマンも、去年の生演奏ライブよりもレベルアップした感覚がありました。これから高い目標を持ってがんばっていきたいです。

安藤楓 私もけっこう焦りを感じていて。歌もダンスももっとうまくできるようにならなきゃ、新メンバー2人が入ってきてくれたからには、自分がもっとしっかりして前に進めるようにがんばらなきゃという思いがあって、ずっと張り詰めていたというか、頭がパンクしちゃうことが多かったです。ファンの方の期待も感じていたので、1つも失敗できないと思っていたんですよね。そのプレッシャーがお客さんに伝わらないようにしていたこともあって、押し潰されそうな気持ちになることもありました。だから活動を完全に楽しめない時期もあったけど、がんばった分、それだけ自信が付いた半年間で。前よりもステージに立っているときに自由に表現できるようになった気がして、この半年ですごく成長できたと思います。ダンスや歌、パフォーマンスでの立ち位置など考えることも多かったですが、今はそれが体に染みついて、何事も楽しめるようになりました。ステラボールでも自由に楽しんで表現できてよかったです。

安藤楓

安藤楓

新メンバー2人の成長と変化

──新メンバーのお二人は、この半年間を振り返ってどんなことを感じますか? アイドル活動を含め芸能活動のすべてが未経験の状態で、10年のキャリアを持つデビアンに加入したわけですが。

塩崎めいさ とにかくがむしゃらに、目の前のことを成功させなきゃという考えで頭の中がいっぱいで、「私でいいのかな」「ここにいていいのかな」という気持ちになるときもありました。10周年を迎えたグループにそれまで何も持ってなかった人が入ったら、ホントに別のグループに見えちゃうだろうなって。そう思うくらい、先輩たちとの間に差があってものすごい不安を感じていました。でもファンの方に受け入れてもらわないといけないし、期待もしていただいているからがんばりたいという気持ちもあって。不安と隣り合わせで生活していた中、「入ってくれてありがとう」と言っていただけて、その言葉に毎日救われていました。

──ファンの応援が支えになったと。

めいさ はい。ダンスも歌もいっぱいミスしちゃうし、ネガティブになっちゃうときもあったんですよ。ステラボール公演はイヤモニも含め全部が初めてで頭がいっぱいだったんですけど、着実に慣れてはきていて、“体が覚えている”という自信がちょっと生まれてきました。「大丈夫、自分はできる。ちゃんとやってきた」と自分の心に言い聞かせて、そしてやっと今、スタート地点に立てたのかなと感じています。

塩崎めいさ

塩崎めいさ

矢吹寧々 私も何もできない状態で加入したので、この半年間は周りに迷惑をかけないようにしなきゃ、みんなに追いつかなきゃという気持ちで、いろいろと悩みながらがんばってきました。最近やっと活動を楽しめるようになってきて、少しは成長できたのかなと感じています。最初はステージ上での表情がガチガチだったけど、少しずつ笑えるようになってきたり。まだまだスキル的に追いついてないところがあるので、歌の表現力やダンス、体力の面でレベルアップできるようにこれからもがんばりたいと思います。ずっと自分に自信がないので、自信を持ってパフォーマンスできるようになりたいです。

──先輩メンバーから見ても、2人の成長を感じますか?

くるみ めちゃくちゃ感じます! 成長度合いがすごすぎて。私もデビアンで活動を始めたときは未経験だったからわかるんですけど、ダンスをやったことがない子って、踊り方について何もわからないんですよ。でも2人はできないことがあっても「練習してきます!」と言って、次のレッスンではちゃんと踊れるようになっている。去年まで普通の女の子だったわけで、アイドルグループに入って急にやることが超増えて大変なはずなのに、ちゃんと練習してコツコツと積み重ねてくれるんです。それだけで本当にすごいと思います。いつかは自信満々になってほしいけど、自信が持てなくても、ちゃんとやるべきことをやってくれていることがうれしいです。

 再始動後初ライブの映像を見返すと、今の2人が自信にあふれているのがわかります。声の出し方をはじめ全部が違っていて、半年でここまで変わるなんてホントにすごいなって。2人のがんばりが伝わってきます。

めいさ 心が限界を迎えそうなとき、先輩たちは毎回素敵な言葉で励ましてくださって。それだけですべてが報われたかのような気持ちになり、次の日もがんばれます。

寧々 ホントだったらめちゃくちゃ怒鳴りつけられるようなレベルなのに……。

 そんなことないよ(笑)。

寧々 私たちが自信を持てるように、少しでも成長したところを見つけて褒めてくださって、すごく優しいです。もっとがんばろうと思えます。

矢吹寧々

矢吹寧々

──ここまでパフォーマンス面での変化が話題に上がりましたが、2人のキャラクターについても新たに見えてきた部分があるのでは?

くるみ それもめちゃくちゃあります! めいさちゃんはとにかく周りを気にしているんですよ。みんなが笑っていたら笑うし、周りが悩んでると一緒に「うーん」って言う。周りの感情に合わせて生きている感じ。自分の感情を優先していいんだよって思うんですけど、鏡越しによく目が合ったり、ちょっとした言葉を覚えていたり……ホントに敏感なんだろうなって。

めいさ 繊細すぎて、心がプリンぐらい柔らかいんですよ。

くるみ 「そこで悩んでるんだ」って驚くことがあります。本題からずいぶん手前にある、気にしなくていいことを気にしている。めいさちゃんと寧々ちゃんそれぞれに抱いていた第一印象とのギャップがあって、蓋を開けてみたら実際の2人は逆でしたね。寧々ちゃんも「私なんて」と言って後ろに下がっちゃうような子ではあるんですけど、実はすごく肝が据わっていて。神経が図太いところがあるし、天真爛漫。人をいじっているときが一番楽しそうです(笑)。

寧々 普段、友達といるときはいじられる側なので、くるみさんとかをいじるのが楽しいんです。面白い(笑)。

侑芽 あと、すごく幸せそうな顔をしてごはんを食べるのがかわいいです(笑)。

橋本侑芽

橋本侑芽

くるみ そういった面白い寧々ちゃんの姿はまだ表に出ていないので、これから引き出していきたいです。めいさちゃんと寧々ちゃんの会話が面白いんですよ。移動中や楽屋にいるときにずっと2人で話しているんですけど、まるで宇宙人がしゃべっているみたいで、何を言っているかわからない。2人だけの世界があるんだと思います。

 でも、2人ともまだ猫を被っていますね。ライブ中のMCでも。ステージから楽屋に戻ると、うるささが5割増しになります(笑)。

──この先、2人の素のキャラクターが見られることを期待しています。

くるみ でも、2年くらいはかかるかもしれない(笑)。例えば瞳ちゃんは加入したばかりの頃は「野良猫」って呼ばれていたくらい尖っていて。人にいじられて、プライドが削りに削られまくった結果、面白い部分が出てきました。

 私が変わったのはここ1、2年くらいかも(笑)。

過去の自分たちを忘れなくていい

──ステラボール公演では、くるみさんの口から「今までの自分たちとちゃんと向き合って、そして今までのデビアンを超えてもっと大きなグループに必ずなります」という頼もしい言葉がありました。ニューアルバム「a story beyond」のテーマにつながる話だと思うのですが、この言葉の裏側にはどんな思いがあるのでしょうか?

くるみ 前体制のデビアンがかなり仕上がっていた実感があって。ファンの方も「この5人が最強だ」と言ってくれていましたし、今の体制で動き始めたあとも5人時代のデビアンの亡霊がまとわりついてくることが多かったんです。「ダメだ、過去は考えない! この6人でイチから新しいデビアンを作っていくんだ」という気持ちでがんばっていたんですけど、私たち自身もファンの方もやっぱり昔のデビアンと比べてしまってた。だったら、別に忘れなくてよくない?と思ったんです。今までの10年間を忘れなくていいし、最高だって言われていた5人のデビアンを超えればいいじゃんって。そういうシフトチェンジができたのが、6月のワンマンの頃でした(参照:Devil ANTHEM.3カ月におよぶ“再構築”が完成!新体制初ワンマンでLIQUIDROOMを満員に)。それによって気持ちが軽くなりました。

Devil ANTHEM.

Devil ANTHEM.

──メンバー全員、同じように感じていたんですか?

くるみ みんな同じ気持ちだったんだなと感じた瞬間がありました。楽屋の中のバラバラの場所で、それぞれが泣いていて。全員気持ちが落ちて、心のコップに水が限界まで溜まっていたんですね。そしてみんなの涙を見たときに「同じ気持ちなら大丈夫かも」って思えたんです。それまでは5人のデビアンと6人のデビアンをまったく違うものとして考えようとしていたんですけど、過去の自分たちを忘れなくていい、しっかりと向き合って超えていこうというマインドに切り替わりました。今は、この6人の基盤を作る時期なのかなと思っています。

 活休前は「早く戻ってきてね」と言っていたのに、いざ私たちが活動を再開したら、いなくなっちゃったファンの方がいっぱいいるんですよ。

──活動休止期間はたったの3カ月ほどだったのに。

 この短期間で、今まで築いてきた絆が途切れちゃうんだって。今の私たちと前の私たちって何が違うんだろう、何をどうしたら戻ってきてくれるんだろうって考えちゃうんですよね。YouTubeのオススメに5人時代のライブ映像が流れてくると体が勝手に反応して、再生しながら当時の楽しかった気持ちを思い出しちゃう。でも、私たちがそうやって過去に囚われていることが、新メンバーの2人が「ここにいていいのかな」と感じてしまう原因の1つなんじゃないかなと思って。以前の自分たちを超えようという決意をしました。

水野瞳

水野瞳

──「今までのデビアンを超える」という宣言は新メンバーにとってプレッシャーにもなり得ると思いますが、現在どのような心境ですか?

めいさ 私も前のデビアンに対して「最強の5人」というイメージを持っていたので、現体制と比べてしまうことが多くて。先輩たちだけでステージに立ったほうが素敵に見えるのにと思うこともありました。でも佐藤さん(Devil ANTHEM.のプロデューサー兼マネージャー佐藤海人氏)や先輩たちが長い目で見てくれているとわかったときに、「ここにいていいんだ! ここが私の居場所なんだ!」と思えました。そして「今までのデビアンを超える」という宣言をお客さんにしたときに、「ついにこのときが来た」と感じました。前のデビアンを超えるにはギアを上げていかないといけない、プロ意識をもっと持たないといけないと前から思っていて。今はまだ足りない部分が多すぎるんですけど、着実にがんばっていきたいという気持ちが強いです。そうしたら自分のことをちょっと好きになれたり、自信を持てたりするのかなって。

寧々 私はデビアンのライブをよく観に行かせてもらっていたので、自分が入ったことによって全体のパフォーマンス力が下がっちゃっているなと感じていました。私も5人のデビアンと今を比べちゃっていたんですけど、6人のデビアンを受け入れて応援してくれているファンの方の気持ちに応えたいし、5人時代が好きだったという方にも認めてもらえるようにもっとがんばりたいと思っています。私たちが加入して新しくファンになってくれた方も少しいるので、そういう人をもっと増やしていきたいです。