音楽ナタリー PowerPush - Curly Giraffe

高桑圭の音楽履歴書

Curly Giraffeが2年5カ月ぶりとなる新作アルバム「Fancy」をリリースした。

高桑圭のソロプロジェクトとして2005年に始動し、来年10周年を迎えるCurly Giraffe。その心地よいサウンドは多くのリスナーを魅了し、着実に広がり続けている。

今回ナタリーは新作のリリースにあわせて高桑の音楽遍歴をたどるインタビューを実施。どのような経歴を経て、自身のライフワークと公言するCurly Giraffeにたどり着いたのかを聞いた。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 上山陽介

Carpenters、Abbaに触れた幼少期

──ナタリーではこれまで何度かCurly Giraffeのインタビューを掲載しているのですが、今回は改めて“Curly Giraffeこと高桑圭”のキャリアに迫りたいなと思ってます。高桑さんがソロワークとして始めたCurly Giraffeは、来年10周年を迎えるんですよね。

高桑圭

まさかこんなにやってると思いませんでしたね、当時は。1枚アルバムを思い出作りとしてリリースして終わるつもりだったんで。

──それが今ではライフワークだともおっしゃってますもんね。以前Curly Giraffeの音楽にはご自身のルーツが反映されているとおっしゃってたので、まずはお生まれからお聞きしたいのですが。Wikipediaや過去の資料によるとオーストラリア出身とあるのですが……。

そう書かれてるんですけど、僕、オーストラリア出身ではないんですよ(笑)。

──え!?

ははははは(笑)。これにはストーリーがありまして、GREAT3を始めるときにプロフィールを作ったんですけど、3人とも東京出身で。でも全員東京出身ってつまんないってことになって、僕をオーストラリア出身ってことにしたんです。なんか信じちゃう風貌もしてるでしょ? 実際に小さい頃に住んでたし。自分としては軽い気持ちでオーストラリア出身ってことにしたんだけど、いろんなところに書かれちゃって。本人的には面白いから、まあいいやって(笑)。

──すっかり海外生まれなんだと思い込んでました。

ただオーストラリアで育ったことが、音楽を含めて自分のルーツにはなってますね。住んでた頃に、CarpentersやAbbaが流行ってて。特にAbbaはオーストラリアから人気に火がついたのもあって、一家にアルバム1枚あるくらいだったんです。そこで初めて音楽を意識して聴いた気がします。

──家で流れている音楽はご両親の趣味?

そうですね。で、父親はジャズファンだったんです。だからジャズのレコードは家にいっぱいあったんですけど、休日になると父親が1日中ジャズを聴いてて。そのおかげで僕はジャズが嫌いになっちゃった。もうお父さんが聴いてる音楽ってだけでね(笑)。だけどときどき父親がレコード屋に行って、そのときのヒットアルバムも買ってくるんですよ。その中にEarth,Wind & Fireとかビリー・ジョエルも入ってて。だいたいジャケットを見ればわかるんですよね、どういう音楽か。それで小学生のときはジャケットでポップスやヒットソングの作品を選んで聴いてました。

──帰国後は邦楽を耳にする機会もあったと思うのですが、どういう感想を抱きました?

高桑圭

ピンク・レディーだったり、日本の歌謡曲は面白く聴いてましたね。オーストラリアでは聴いたことのないタイプの曲だったんで。でも普段から父親の車でFENの番組が流れてて、土曜日はビルボードのヒットチャートを紹介してたから、海外のヒット曲もよく聴いてました。

──周りに海外のヒットチャートを聴いているような同級生はいました?

小学校のときはいなくて、中学校2年くらいでみんなビルボードチャートの番組を聴くようになって。ただ音楽の話をするような友達はいなかった。だから個人的に部屋で聴いてる感じで。中2まではビルボード少年だったんですけど、中3のときにUKの音楽に目覚めて。Sex Pistolsを好きになったんですよ。その頃に白根賢一(GREAT3)と話すようになって。賢一とは小学校も一緒だったんだけど、クラスが違うから仲良くはなかったんです。でも中3のときに同じクラスになって。そのときに、教室でマイケル・シェンカーのパンフレットを読んでるクラスメイトがいたんですよ。で、そのパンフレットの裏に「Japan来日決定!」って書いてあって。それに反応したら、賢一も「Japan好きなの? 俺YMO好きだから、Japanも好き」って言ってきて一緒に来日公演に行くことになったんです。思えば賢一が初めてできた音楽の話ができる友達でしたね。

音楽の成績は「1」

──いちリスナーだった高桑さんが、ベーシストになったのはいつ頃だったんですか?

高校入学と同時ですね。僕が小学校のときに、ビートルズ好きの姉がフォークギターを購入して。一度弾いてみたものの、10分くらいで指が痛くなって「これは向いてない!」って楽器は諦めたんですけどね。

──音楽系の習い事はしてなかった?

してなかったですね。楽器に触れるのは音楽の授業だけでしたね。今思い出しましたけど、僕、中学校2年生のときの音楽の成績が「1」でしたから(笑)。成績は悪くても音楽は好きで、バンドに対する憧れもあって。それで高校のときに何か楽器をやりたくなって、入学と同時にベースを買ったんです。

──なぜそこでベースを弾こうと思ったんですか?

周りに持ってる人がいなかったから(笑)。最初はドラムをやりたかったんだけど中学から叩いているような賢一がいるし、かぶるからやめようと。結局ベースかギターかで悩んで、ベースだったらバンドやるにあたって需要があるかもしれないと思ったんですけど……買ったあとで1人で弾いてても楽しくないってことに気付いた(笑)。でも1年くらいコツコツ好きな曲のコピーなんかして練習を重ねて、賢一の家にセッションしに行ってましたね。

──当時はリスナーとしてどんな音楽を聴いてました?

高桑圭

高校に入ったときに、テクノが好きな友達ができたんですよ。そいつの影響もあって、KraftwerkやDevo、Depeche Modeとかニューウェイブを聴きだして。だからベースじゃなくてシンセ買えばよかったってしばらく思ってた。そのあとに高2くらいでネオアコブームがきて。Aztec Cameraとかにハマって、それを好んで聴いてましたね。

──バンドを組んだりは?

学園祭に出るために初めて組んだかな。僕の高校は、学園祭に出るバンドは学校内で組まなきゃいけないルールがあって。賢一とは組めなかったんですよね。だからなんとか学校の中で楽器をできる人を探して。ギター弾いてるヤツがいたから声かけて、ドラムやりたいってヤツがいたからドラム買わせて。

──え、学園祭のために?

「欲しい」って言ってたから(笑)。それでなんとかバンドになったんだけど、ボーカルだけが見つからなくて。しょうがないから自分で歌ったんですよね、ベースボーカルで。

──すでにそこで今のスタイルができてたんですね。そのときは何のカバーを?

The Clashとかかな。

──それは今作られてる音楽からはほど遠いですね。

そうなんですよ(笑)。ジョー・ストラマーばりに激しく歌い上げてたつもりなんですけど、全然できてませんでした。あとオリジナル曲もバンドでやってましたね。

──ということは作曲活動はその頃から?

メロディは昔から頭の中で浮かんでるんですよ。それを形にするすべがなくて、実際に曲に落とし込んだのが高校のときかな。

──以前のインタビューでも(参照:Curly Giraffe「FLEHMEN」インタビュー)、メロディと一緒にアレンジを含めてすべての音が鳴ってるとおっしゃってましたよね。

ええ。僕、美術系の高校に行ったんですけど、小さい頃から絵を描くのも好きで。絵を描くのと同じ感覚で、イメージから曲も浮かぶんですよ。でも、それを表現する方法がずっと浮かばなかった。高校になってベースを始めても初心者でヘタクソだから、自分の頭の中で鳴ってる音は思うように表現できなくて。

──でもそこで諦めることなく方法は模索していたと。プロになりたいという思いは当時はありました?

いえ。高校時代は自分がプロになるなんて1ミリも思ってなくて。僕よりもうまい人いくらでもいたし、中にはデビューしてる人もいたから。自分が音楽の才能があるなんて思ってなかった。美術系の高校に行ってたし、そっちの道に進もうと思ってて。だから音楽は何よりも好きだったけど、あくまで趣味の範囲でしかなかった。バンドを組んで、ライブをやりたかったんですよね、単純に。

ニューアルバム「Fancy」/ 2014年8月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64192
[CD] 3132円 / VICL-64192

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. Fake Engagement Ring
  2. The Two of Us
  3. My Beautiful Creature
  4. Goodbye My Chocolate
  5. Not in a Million Million Years
  6. Mosman1974
  7. People Are Strangled
  8. Strange World
  9. Women Are Heroes
  10. Road
  11. Manassas
  12. Blue Ocean (Album mix)
Curly Giraffe(カーリージラフ)
Curly Giraffe

2005年10月にタワーレコード限定盤「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ノンプロモーションにもかかわらず外資系CDショップやiTunes Storeなどでロングヒットを記録した。2009年4月に3rdアルバム「New Order」をリリース。同年10月にはBONNIE PINK、新居昭乃、平岡恵子、安藤裕子、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、Cocco、木村カエラという8組の女性アーティストがCurly Giraffeの楽曲をカバーする企画アルバム「Thank You For Being A Friend」が発売され、大きな話題を集めた。作曲、演奏、録音、アートワークなどを1人でこなし、ライブでは白根賢一、堀江博久、名越由貴夫、奥野真哉といった実力派アーティストとともにセッションを展開。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。2014年8月に2年5カ月ぶりとなるアルバム「Fancy」をリリースした。