音楽ナタリー Power Push - cero
オリジナルメンバーを交えて辿った「Obscure Ride」までの道のり
チームで大きくなっていきたい
──7人編成になってから最初の作品「Yellow Magus」を2013年12月にリリースし、2014年に入ってからアルバム「Obscure Ride」の構想を練ったり制作したりといった作業がスタートします。一方でこの年はライブ活動も目立った年でしたね。
髙城 はい。いろんなライブをしながら裏では合宿をしてアルバム用の曲を貯めるっていう生活でした。重要なライブもいくつかあって。
──スチャダラパーやSIMI LABなどヒップホップ勢との対バンや「cero×VIDEOTAPEMUSIC」名義で出演したバウスシアター「ラストバウス」での共演ライブとか?
髙城 はい。VIDEOくんはもうさかのぼれば10年くらい前からの知り合いで。ライブにもちょくちょく参加してもらってました。当時の若者たちがアイデア勝負でやっていたものをお金をかけたショウビズとして成立させようと意識し始めて。それが「ラストバウス」あたりで機能し始めて、年末のEX THEATER ROPPONGIでやったワンマン(参照:cero、六本木に作り上げた2日間の非日常空間「Wayang Paradise」)につながっていったっていう感じですね。青春期に人知れずやっていたものを、満を持して大きいところで見せられるようになった年ですね。
──VIDEOさんしかりサポートメンバーしかり、ceroの活動って新たなプロデューサーなどを迎えて新たな取り組みを、というよりも、結成当初から培ってきた人間関係のまま活動規模を大きくしていくケースが多いですよね。
髙城 はい。自分たちがラッキーだなって思うのは、早い段階から本当に才能のある人たちが周りにいたってところで。それで例えばヤナの絵をceroのジャケットを通じて知ってもらうとか、ceroをきっかけにして周りのみんなも同じように大きくなっていけば最高だと思う。ceroがそういう媒介になることに一番意義を感じます。
──髙城さんがそういう考えを持つようになったのは何かきっかけがあったんでしょうか? というのも、2013年の東京・LIQUIDROOM公演のMCで「仲間とともにceroが音楽シーンを変える」といった趣旨の発言をしていて。それを聞いたときは皆さんの柔和なイメージと違ったリーダーシップを感じたというか、率直に驚きました。
髙城 あの日は東京オリンピックの開催が決まるっていう、はっぴいえんどのときに起きてたようなことと同じようなことが起ころうとしているときだったので、その流れから今の自分たちの状況もはっぴいえんどと同じようにしていければっていう意味で言ったんですよね。
橋本 ああ、そうだった。
荒内 でも口から出任せとかその場のノリから出た言葉っていうわけでもないよね。髙城くんは昔から「チーム戦でやりたい」って言ってたし。そういう発言を表立って表明するようになったのがその頃からっていう。
髙城 うん。
柳 あと、ある意味けっこう“東京Shyness Boy”的なところもあるよね。ceroって全然知らない人と一緒にやるの苦手なんだなってときがよくあった。
髙城・荒内・橋本 ははははは(笑)。
髙城 あーめっちゃそれだわー。メッキはがされたわー(笑)。
アイデンティティを求めない
──アルバム用の曲を貯めた2014年、といえばシングル曲「Orphans」をはじめ今作「Obscure Ride」から2人と同じくソングライターとしても活躍するようになった橋本さんにとっては大きな変化があった1年と言えるのではないでしょうか?
橋本 そうですね。僕は2人よりブラックミュージックをそんなに聴いてなかったので最初は低音の作り方とかがわからなくて。あらぴーにその音の作り方を教えてもらうことで、僕のミックスでの作業量が減りました。そして合宿で楽曲を1人ずつ出すっていう作り方になって。それがなかったら曲を作らなかったと思います。
──橋本さんの楽曲は「Orphans」「Narcolepsy Driver」「DRIFTIN'」の3曲がアルバムに収録されました。
橋本 3曲のうち「DRIFTIN'」は、ピースが12曲そろった状態のアルバムに「もう1曲ポップな曲を」っていう事務所のオーダーがあって急いで作ることになったものですね(笑)。
柳 9曲目か。あれは確かに一番ポップかも。かつ名曲だと思うからアルバムの推し曲にしてもおかしくないなと感じた。
髙城 でもあれがアルバムを代表する曲ってなるとちょっとニュアンスが違うかもね。アルバムを構成する重要な歯車であることは確かなんだけど。
──とはいえ、3人のカラーが明確に出た楽曲が並んでいるのにアルバムにしてもバラバラに聞こえず、まとまった音楽として聴くことができる。そのバランスが保たれているのってすごいことだなって。アルバムの全体的なカラーはどのようにして決まったんですか?
髙城 昔からそうなんですけど、そのときそのときに興味があるものをceroの表現に咀嚼していけるか試みるっていう姿勢があるんです。今回は「Yellow Magus」あたりからブラックミュージックという消化の悪そうなものを噛み締め始め、アルバムで自分たちの血肉にしたんですよね。
柳 そういうところに関していえば、ceroはアイデンティティを求めないよね。若い人たちが陥りがちなところで、「自分の表現ってなんなんだろう」ってアイデンティティを求めて何もできなくなってしまうことが多いけど、ceroはそれがない。
髙城 確かにそういうのはないね。
勇気のいることをやった
柳 細野晴臣さんと忌野清志郎さんの対談で、細野さんが「周りのアーティストはみんなどこかで爆発するタイミングがあった」って言ってて。いろんなきっかけでポーンと頭ひとつ抜きん出た存在になるってことなんだけど……ceroって爆発しないよね。
髙城・荒内・橋本 ははははは!(笑)
柳 いや悪い意味じゃなくて(笑)。ceroは急にどうかなるんじゃなくて、なだらかな変化を繰り返す存在だなあって思う。ちなみに細野さんは「自分は爆発したことがない、ただ淡々とやってただけ」って言ってて、ceroもそっちなんじゃないかな。
髙城 それはあるのかもしれない。
──今回はブラックミュージックに寄せ、音もシャープになるという大胆な変化が見られました。この大きな舵切りにはどういった背景があったのでしょうか?
荒内 今までは膨大な選択肢があったんですけど特別絞らないまま、できることを全部やってきました。それが30歳を迎えて大人になってきて、年を追うごとにその選択肢をどんどん切って1つにフォーカスし始めたんです。
──その結果、自分たちの新しい音楽性を提示することにつながった。
荒内 新しい音楽性なり、価値観を表明したい場合は、まとまったものを1つの作品として提示したほうがいいなと考えたんです。このアルバムではそれができたんじゃないかって思う。
柳 うん。それは感じた。
橋本 そんなにごちゃごちゃしてないもの、BGMとしても聴けるようなものを作りたかったんですよね。これまで音数なりアイデアなりが多かった1stや2ndをceroの個性として評価してもらえていたけど、それを捨てるっていう勇気のいることをやったなって思ってます。
荒内 うん。YOUR SONG IS GOODが「OUT」ってアルバムを出したときに、サイトウ“JxJx”ジュンさんが「1曲だけハウスっぽいものをやっても『そういうのやってみたかったんだね』って思われるだけで終わる。大きな形で提示しないと自分のモードなり価値観なりを提示できない」ってインタビューで言っててすごく感銘を受けたんです。「Yellow Magus」単発じゃなくて、アルバムっていう大きな形で発表したいなって思ったんですよね。
髙城 そうだね。
橋本 もしかしたら今までの作品を楽しんでくれてたお客さんは「えっ」てなるかもしれないんですけど、自分たちが意識してきたものは感じ取ってもらえるのかなって思いますね。
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- ニューアルバム「Obscure Ride」 / 2015年5月27日発売 / カクバリズム
- ニューアルバム「Obscure Ride」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3400円 / DDCK-9005
- 通常盤 [CD] / 2900円 / DDCK-1043
CD収録曲
- C.E.R.O
- Yellow Magus(Obscure)
- Elephant Ghost
- Summer Soul
- Rewind Interlude
- ticktack
- Orphans
- Roji
- DRIFTIN'
- 夜去
- Wayang Park Banquet
- Narcolepsy Driver
- FALLIN'
初回限定盤DVD収録内容
「Wayang Paradise」
- ワールドレコード
- わたしのすがた
- exotic penguin night
- マイ・ロスト・シティー
- Contemporary Tokyo Cruise
- roof
- Bird Call
- outdoors
- cloudnine
- マクベス
- (I Found it)Back Beard
- あとがきにかえて
cero "Obscure Ride" Release TOUR
- 2015年7月4日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2015年7月5日(日)大阪府 BIG CAT
- 2015年7月12日(日)東京都 Zepp Tokyo
- ※終了分は割愛
cero(セロ)
2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月には2ndアルバム「My Lost City」をリリースする。2013年12月に「Yellow Magus」、2014年12月に「Orphans / 夜去」というブラックミュージックにアプローチした2枚のシングルを発表。2015年5月に3枚目のアルバム「Obscure Ride」をリリースした。