音楽ナタリー Power Push - cero

オリジナルメンバーを交えて辿った「Obscure Ride」までの道のり

たくさん時間をかける必然性

──4人体制で唯一のアルバムは「WORLD RECORD」ですが、あの作品を作り始めたのはいつでしたか?

荒内 大学を卒業するあたりですね。みんな就職するかしないかってときに。髙城くんとはしもっちゃんが率先して作り始めて、僕はそこに乗っかったんです。

橋本 そうだったね。

髙城 自分も作ろう、とは思ってなかったの?

荒内 卒業後も音楽をやろうとは思ってたけど、ほかでもいろいろやってたからceroメインでやろうとは思ってなかったんだよね。

──アルバム収録曲は結成当初からストックしてきたナンバーですか?

髙城 はい。ああ、そうか……結成からレコーディング開始まで5年ぐらい経ってるのか。「なんか形にしないと」って思ったんだろうなあ。

橋本 うん。

 あの頃からいろいろやってはいたけど、当時のceroは何かをフィックスさせたことがなかったよね。楽曲もライブやるごとにアレンジがどんどん変わっていったし。

髙城 なかなか定着しない感じだった。本当にふわふわしてるバンドだったもん。

柳智之

 でもバンドにいて思ったのは、ceroがたくさんの時間をかけたのは決して悪いことじゃなかったって。みんなアイデアをたくさん持っていたからこそ「これもいいしそれもいい」みたいな状況になってたわけで。例えば「大停電の夜に」も最初はけっこうテンポの速い曲だったけど、はしもっちゃんが違うアレンジでやりたいって言って、結果的に今のバージョンが残って。

髙城 それぞれの楽曲が何パターンも存在してたよね。

橋本 レコーディングだけで1年かけたけど、それはいろんなアレンジの中でどれがいいかを選ぶための時間みたいなものだった。

髙城 うん。あと僕らは鈴木慶一さんとレコーディングできるチャンスがあったし、ほかにもそういう機会があったわけだけど、どうも生かしきれなかったっていうか。大人の人たちに「お願いします」「やっぱこうしたいです」とか言えなかったしね。だから時間をかけてでもはしもっちゃんがエンジニアやってくれるほうがよっぽどいいやってことで自分たちでやり始めて。結局制作には2年ぐらいかかった(笑)。

全然脱退してなかった

──「WORLD RECORD」は2011年の1月にリリースされましたが、その年の5月には柳さんが脱退します(参照:ceroのドラマー柳智之がバンド脱退、絵描きに専念)。

荒内 ヤナはアルバムが出た頃にはもうすでに絵の仕事をしてたんです。2010年には賞を獲ったり、個展をやったりもしていて。

 そう。そしてceroもアルバムが出てライブも増えて、これから確実に忙しくなることが見えてたんですよね。まだやろうと思えばできたけど、引きずると近い将来に大きな迷惑をかけることになるだろうなってのはわかってた。

左から髙城晶平(Vo, Flute, G)、橋本翼(G, Clarinet, Cho)。

髙城 当時僕らは25、6歳か。ヤナは自分の人生を考える岐路に立ってて、タイムリミットギリギリだったんだね。

──髙城さんとしては柳さんにバンドに残ってほしくて、引き止めるべく「大洪水時代」という曲を作ったとか。

髙城 はい。「ここから船出しよう!」っていう内容の曲なんですけど、僕はそういうつもりで歌ってました。でもヤナの行こうとしている道を応援したいっていう気持ちもありましたね。

──最終的に柳さんはバンドから離れることを選び、“3人のcero”になりました。でもほかのバンドのメンバー脱退と違って、柳さんは今もイラストなど本業でceroの作品と密接に関わっているという。

髙城 そう。しかもヤナはその年の10月に出したアナログシングル「武蔵野クルーズエキゾチカ」でドラムを叩いてる(笑)。

荒内佑(Key, Cho)

荒内 「武蔵野」は最初3人で「ライブの感じそのままじゃなくて音源映えするものを作ろう」って作り始めたんですけどいいアレンジにならなくて。それで「もう凝ったものやめよう」って4人で作ったんだよね。それにヤナはこの年のWWWでのワンマンで配布した来場者プレゼントCDの中でラップもしてる。

髙城 全然脱退してないじゃん(笑)。

荒内 まあ結局参加できないのは単純に時間の問題だけだったから、機会さえあればやらない理由はないんだよね。

──なるほど。

 あと「FUJI ROCK FESTIVAL '11」にceroが出た日、僕はこっちで高尾山に登ってたんです。なんか3人より緊張してたんじゃないかな……そわそわしちゃった結果、1人で登山してた。

髙城荒内橋本 ははははは(笑)。

髙城 「うまくいけ!」ってお祈りしてたんでしょ、すげえいい話だよね(笑)。

バンドを捨てたんだな

──2ndアルバム「My Lost City」のアナログ盤とCDの内ジャケットのイラストは柳さんが描いたものです。発注の際にceroからはどんなオーダーが?

 いや、特に何も言われなかったですね。

「My Lost City」ブックレットのアートワーク。

髙城 そうだっけ(笑)。逆にヤナからはいろんなアイデアをもらったよね。(掛けてある絵を指しながら)そこに飾ってある、アブストラクトなタッチのイラストもそうだし。

 うん。いろいろ描いてみたけど、最初に描いた船の上に街が乗ってるイラストになったね。

髙城 「WORLD RECORD」だけじゃなくて「My Lost City」の曲も、やってないもののほうが少ないってくらいヤナと演奏してきたからね。一緒にやってた人間だからこそ「My Lost City」のコンセプトについて立体的な理解ができてた。

──ceroは「My Lost City」でガラリと音楽性を変えました。柳さんはその変化をどう感じていましたか?

 ceroは常に流動的なので変化自体には驚きませんでした。逆に言うと毎回驚かされるのでそのこと自体には驚かないという。けど「Obscure Ride」の完成度の高さは想像を軽く超えていて驚愕しましたね。また、今のceroのサポートを入れて7人編成っていう規模自体は僕がいたときもやったことがあったんですけど、ボトムをメンバーが担当しなくなったことで「ああ、ceroはバンドというフォーマットを捨てたんだな」と気が付きました。

髙城 そうですね。今の編成になるまでは3人とあだち麗三郎くん、MC.sirafuくんをサポートに迎えながら僕が無理くりベースボーカルをやって「今の人数でなんとかバンドを回さなきゃ!」っていう感覚だったんですが、そこから解き放たれました。

──実際のところ今ceroがバンドだっていう意識はありますか?

髙城 いえ。自分たちのことは「バンド」というより「グループ」「集まり」って言うことが多いですね。

荒内 そこはヤナの脱退がきっかけになったというか。結局この3人が正式メンバーとしてあり続けたことで編成をスムーズに切り替えられる今の自由を獲得した結果になってる。例えばヤナのあとでサポートとしてドラムを叩いていたあだちくんを正式メンバーにしていたら、僕らはそのままバンドとして活動することになってたと思う。

ニューアルバム「Obscure Ride」 / 2015年5月27日発売 / カクバリズム
ニューアルバム「Obscure Ride」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3400円 / DDCK-9005
通常盤 [CD] / 2900円 / DDCK-1043
CD収録曲
  1. C.E.R.O
  2. Yellow Magus(Obscure)
  3. Elephant Ghost
  4. Summer Soul
  5. Rewind Interlude
  6. ticktack
  7. Orphans
  8. Roji
  9. DRIFTIN'
  10. 夜去
  11. Wayang Park Banquet
  12. Narcolepsy Driver
  13. FALLIN'
初回限定盤DVD収録内容

「Wayang Paradise」

  1. ワールドレコード
  2. わたしのすがた
  3. exotic penguin night
  4. マイ・ロスト・シティー
  5. Contemporary Tokyo Cruise
  6. roof
  7. Bird Call
  8. outdoors
  9. cloudnine
  10. マクベス
  11. (I Found it)Back Beard
  12. あとがきにかえて
cero "Obscure Ride" Release TOUR
2015年7月4日(土)愛知県 DIAMOND HALL
2015年7月5日(日)大阪府 BIG CAT
2015年7月12日(日)東京都 Zepp Tokyo
※終了分は割愛
cero(セロ)

cero

2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月には2ndアルバム「My Lost City」をリリースする。2013年12月に「Yellow Magus」、2014年12月に「Orphans / 夜去」というブラックミュージックにアプローチした2枚のシングルを発表。2015年5月に3枚目のアルバム「Obscure Ride」をリリースした。