ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
「FINAL FANTASY」制作陣との信頼から生まれた“日常を歌う”曲
「『零式』の主題歌ができたよ、聴く?」
──バンド内では藤原さんから上がってきた「ゼロ」の原形をどう受け止めましたか?
直井 今回、聴かせてもらったタイミングがすごく面白くて。
藤原 「映画ドラえもん」の試写を観に行ったあとだったよね。
直井 そうそう。仕事の帰りに、メンバーで藤くんの家にゲームをしに遊びに行って。ふと藤くんが「『零式』の主題歌ができたよ、聴く?」って言うんですよ。こっちはまだできていないと思っていたから、「え!?」ってなって。また高めの声で(笑)。いつもだったら、CDをプレイヤーに入れて、歌詞を渡されて聴くんですけど、「ゼロ」は違って。藤くんが「そうだ、俺は昨日こうやって聴いたんだ」って、DVDをプレイヤーに入れるわけです。そのDVDというのは「零式」のプロモーション映像なんですね。その映像を流しながら曲を聴かせてくれて。
──粋な演出ですねえ。
直井 粋ですよね。僕らにとっては、藤くんから上がってきた新曲を聴くのも、「FINAL FANTASY」シリーズの新作をプレイするのも、人生にとって大きな柱のような楽しみで。そのふたつが重なることなんて一生なくても不思議じゃない。でも、それが重なる瞬間を体験したから、特別な時間でしたね。ましてやちょうど「ドラえもん」の試写を観たあとでしたし。
升 うん。数時間前までは「ドラえもん」一色だったからね。
直井 そう、だから「友達の唄」一色のムードから、数時間後には一気に「ゼロ」のムードになったんですよ。しばらく現実を受け止められなかった(笑)。「ゼロ」を聴いて「すごくいい曲だね!」って藤くんに感想を伝えて。
──ソングライターとしての藤原基央が最初に報われる瞬間。
藤原 そうですね。メンバーに聴かせるまでは、その曲が自分以外の人にとってどういうものなのかホントにわからないから。いざ曲作りのブースを出て、ギターを置くと「ホントにこの曲でいいのかな」って不安がよぎるんですよね。だから、今回も最初にメンバーに「いいね」って言われたことですごく安心しました。
直井 「FINAL FANTASY」は小学生の頃から存在しているゲームだから、好きという感覚を通り越した存在になっていて。だから、今回主題歌の話が決まったときも、僕は作曲する立場ではないので、どんな曲になるのか想像もつかなかったんですよ。どういう曲が上がってくるのか、メンバーとしてドキドキしていて。でも、イメージ映像を観ながら聴かせてもらったときにまるで当然そこに存在しているような歌だったんです。その時点ではBUMPの曲というよりも、藤原基央というシンガーソングライターとプロモーション映像で観る「零式」の世界観が一致したという感動だったんですけど。すごいなと思った。
イントロのアイデアはプロデューサーから出てきたもの
──レコーディングで、実際そこに自分の音を重ねるときはどんなことを思いましたか?
直井 しばらく演奏できない感じがあったんです。喜びが大きすぎて。でも、ひたすら曲を聴いて、いつものように「これはBUMPの曲だ」って思えた瞬間から、いつもどおりベースを弾くことができましたね。最終的には原点に立ち返って。当たり前ですけど、自分たちがやるべきことは聴いてくれる人たちに向けて曲を届けるだけだから。レコーディングに入ってからは「零式」のことは忘れていました。フレーズに関しても、プリプロの時点で音が緻密に入っていたので。自然体でプレイすることができましたね。
升 僕も最初に曲を聴かせてもらったときの感覚とイメージが大きかったので。それを素直に自分のプレイに落とし込んでいくような感じでしたね。作り方としてはいつもと変わらないです。1曲とちゃんと向き合って、その曲で自分は何をするべきなのかを感じて、ドラムを叩くという。
──アレンジに関しては?
藤原 再生したら最初に出てくるイントロのメロトロンやチリチリしてる音とかは、プロデューサーのアイデアがそのまま採用されたものです。で、ボイン、ポコポコ鳴ってる打楽器の音があるじゃないですか。
──トライバル調なリズム音ですね。
藤原 そう、トライバル調な。プロデューサーに「そういう音が鳴る楽器って何かないかな?」って言われて。で、俺の家にウドゥという楽器があったことを思い出して、それを鳴らしてみようということになって。アルペジオの弾き語りから始まって、その弾き語りにそういうトライバル調の音が入ってくるというアイデアは、プロデューサーの意見が大きいですね。
──ウドゥは藤原さんが叩いてるんですか?
藤原 そうなんですよ。これは10年くらい前の誕生日に姉がくれたもので。まさかこうして日の目を見るとはという感じですね。話を戻すと、冒頭のアレンジのイメージは、誰よりも先にプロデューサーが意見を出してくれて。あの人別に「FINAL FANTASY」をプレイしたこともないのになんでこんなにしっくりくるイメージが浮かぶんだろう?って不思議だったんですけど。あとは、2番からバンドインするんですけど、それは最初からイメージとしてありましたね。
──バンドインのタイミングも楽曲の重要な要素になっていて。それはカップリングの「Smile」のバンドアレンジにも言えることなんですけど。
藤原 それは、僕らがちゃんと曲の表情をつかみながらプレイできているということだと思います。ドラムとベースがいいプレイをしているから、バンドイン前後の対比が効果的に表れているんじゃないかなと思いますね。
──升さんは、ウドゥからリズムを引き受ける感じはどうでした?
升 面白かったですよ。ウドゥも最初の頃はただ「カッケー!」みたいな感じだったんですけど(笑)。
藤原 あはははは(笑)。
升 でも最終的には、プロデューサーが意図していたウドゥが鳴るべくして鳴る必然性がよくわかりましたね。
藤原 ウドゥはプレイするのが面白い楽器で。いろんな音が出るし、手で叩くというのはとても根源的な演奏スタイルじゃないですか。多くのミュージシャンが日常的に膝とかテーブルを無意識に叩いてると思うんですけど、その感覚がそのままプレイにつながるんですよね。その人のリズム感がすごく出やすい楽器だと思います。スタイルは根源的なんだけど、音のバリエーションも豊かで。奥の深い楽器でしたね。
CD収録曲
- ゼロ
- Smile
- ゼロ (“FINAL FANTASY零式” オープニングver.)
DVD収録曲
- ゼロ (“FINAL FANTASY零式” 特別編集MV)
- ゼロ (“FINAL FANTASY零式” オープニングver.ダイジェストMV)
収録曲
- ゼロ
- Smile
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。
その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。
2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。
さらに2012年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌として書き下ろした「友達の唄」をシングルとして、5月には東日本大震災被災者を支援する「復興支援ポータルサイト」のテレビCMソング「Smile」をチャリティシングルとして発表。10月に、PSPゲームソフト「FINAL FANTASY 零式」テーマソングとして書き下ろした「ゼロ」をシングルリリースし、12月からは約3年半ぶりの全国ツアー「BUMP OF CHICKEN 2011-12 TOUR『GOOD GLIDER TOUR』」に乗り出す。