BUMP OF CHICKEN|メンバーとクリエイターが振り返る、互いの理解と信頼が形になったリバイバルツアーの全貌

BUMP OF CHICKENのライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」が、結成28周年最終日の2月10日に通販サイトTOY'S STORE限定でリリースされる。

BUMP OF CHICKENはメンバー全員が28歳を迎えた2008年、天文学の“28年周期”という概念からヒントを得て制作したアルバム「orbital period」を携え、全国ツアー「ホームシック衛星」を開催した。「ホームシック衛星2024」はこのツアーのリバイバルとして、バンドが結成28周年を迎えた昨年に全国のアリーナ会場で行われた公演だ。今回の映像作品にはツアーファイナルの会場となった有明アリーナ公演初日の模様を完全収録。パッケージには、ライブ映像を収録したBlu-rayに加え、音源を収録したライブCD、グッズ、ライブフォトブック(Live Photo Book)、演出ブック(Stage Videos Direction)、新旧「ホームシック衛星」ツアーのグッズをまとめたフォトブック(Merchandise Archives)、メンバーを撮り下ろしたオフショットブック(Behind The Scenes)も同梱される。

音楽ナタリーでは同作のリリースを記念し、メンバー4人へのインタビューを実施。メンバーの強い思い入れのもと行われたコンセプチュアルなツアーの裏側、映像作品の見どころやバンドの近況など、さまざまな話を聞かせてもらった。またこのインタビューにはツアーのキービジュアルやグッズ、映像作品のアートワークをデザインした8%、今回のツアーだけでなく長年BUMP OF CHICKENを撮影し、ブックレットの制作にも携わったカメラマンの太田好治氏も参加。ツアーやパッケージのクリエイティブ面にどのように関わったかも語ってもらった。

取材・文 / 柴那典撮影 / 太田好治

「ホームシック衛星2024」は幸せで誇らしいツアー

──「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024」(以下「ホームシック衛星2024」)は、バンドにとって特別なツアーになったのではないかと思います。振り返ってどんな実感がありますか?

升秀夫(Dr) 2024年にバンドが28周年を迎えるということで企画したという話はさんざんインタビューなんかでしたんですけれども、実際にツアーに来てくれる方がどういう反応を示すのかはやってみるまでわからなくて。でも、本当に温かく迎えてくれた気がします。「orbital period」というアルバムがこんなに大事にされてるんだって、ライブを通して改めて気付くことができた。本当に幸せでうれしい時間でした。

直井由文(B) 初のリバイバルツアーだったので不安もあったんですけど、ツアーが始まる前からメンバーで話しながらいろいろなことを決めてきたので。それをたくさんの人に受け入れてもらえて、共有できて、めちゃくちゃ楽しかったです。

増川弘明(G) 実際にやってみて再発見することもありました。過去にやった曲も一度分解してアンサンブルを確認しながらリハーサルをしたんです。そこから自分たちの曲にまた新しい表情を入れることができた。すごく幸せだったし、そういうことができたことも誇らしかったツアーでした。

「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」ブックレット“Live Photo Book”より。

「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」ブックレット“Live Photo Book”より。

藤原基央(Vo, G) 「ホームシック衛星2024」はバンドの28周年ということでやったツアーですけれども、そうやって28周年に特別さを見出すプロジェクトって、あんまりないと思うんですね。でも僕らにとってはそれがとても大きかった。それはわかっていたんです。こういうことをわざわざやろうとするくらいだから。もし「なんで“28”がそんなに特別なの?」と思う方がいらっしゃいましたら、このツアーの特設サイト(参照:HOMESICK EISEI 2024 | BUMP OF CHICKEN official website)に解説が載ってますので、興味が湧いたらぜひ読んでみてください。で、この「ホームシック衛星2024」の1ステージ1ステージをやり終えていくにつれて、そういうリバイバルツアーをやることの意味の重さ、大きさみたいなものの認識がどんどん強まり、深まっていった。毎回本編の最後に「voyager」と「flyby」を「Voyager,flyby」という特別なアレンジでやりましたけれど、その意味合いもだんだんわかってきた。自分たちはとんでもない瞬間の中にいるんだなと思うようになった。だから最後は「いよいよこれが終わってしまうんだ」という感じになりました。28年でひと巡りのこの周期が「じゃあ、また28年後ね」と手を振りながら行ってしまう瞬間には、もっと一緒にいたいという言葉では言い表せない寂しさもあったし、達成感もありました。やってよかったし、やりたかったし、やるべきだったし、終わるときはこんなに寂しいという。そういう気持ちがありました。

──ツアーはとてもコンセプチュアルなもので、歌と演奏だけでなく、来た人がさまざまな演出を通してその特別さを共有できる空間になっていたと思います。このツアーのクリエイティブはどう作っていったんでしょうか?

藤原 やっぱり最初は「なんで“28”なの?」ってなるんですよね。「orbital period」というアルバムをリリースしたときに“28”についてさんざんお話しする機会はあったんですけど、16年も前ですから、「知りませんでした」「生まれてもいませんでした」という人もいるだろうし。だからできるだけわかってもらいたいな、と。100%までとは言わないから、自分たちが今感じている高揚とか興奮、その理由をできるだけわかってもらいたい。そのために長い文章を書きましたし、どうやったら伝わるかをみんなで考えながらやったつもりです。

「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」ブックレット“Live Photo Book”より。

「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024 at ARIAKE ARENA」ブックレット“Live Photo Book”より。

「アップデートした今の自分たち」を具現化してくれた山田健人監督

──ツアーが決まって、まずどんな話し合いがありましたか?

直井 まずはセトリですね。セットリストから見えることも大きいので、当時のセトリを見ながら4人で考えました。ガラッと変えるのか、あまり変えないのかを話して。いろんなやり方があったんですけど、せっかくリバイバルツアーだし、今回は振り切ろう、ほぼ当時のままのセットリストでやっていこうと決まって。そこから始めた感じでしたね。

 基本はやっぱりオリジナルの「ホームシック衛星」があったうえで、それ以後にできたお客さんとシンガロングできる曲もいい塩梅で入れようと。でも、ツアーの開催時点での最新曲だった「Sleep Walking Orchestra」はやらないことにしよう、って。

藤原 大きかったのは、その時点で「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous」(2024年9月から行われたアルバム「Iris」のリリースツアー)の開催が決まっていたことですね。あれが決まっていて、「ホームシック衛星2024」でやれなかった新しい曲たちもすぐにやる機会があるのが大きかったです。あと、改めてやりたいことはやっぱり“リバイバル”だよねって。当時の曲をやることに意味と意義があるし、それを今の自分たちの力量でやるのも大きなことだし。何をもってリバイバルなんだろうという、リバイバルツアーの具体的な意味合いがそこからだんだん明確になっていった感じです。

藤原基央(Vo, G)

藤原基央(Vo, G)

──ツアーの演出を手がけたのは山田健人監督でしたが、監督とはどんな話し合いをしましたか?

直井 山田監督がすごくBUMP OF CHICKENを理解してくれていて。演出のコンセプトを4人で聞かせてもらったんですけど「すげえいいじゃん」しか言ってないし、藤くんから「PIXMOBを使いたい」というリクエストがあったくらいで、あとはメンバーからここをこうしてほしい、ああしてほしいっていうのはなかったんじゃないかな。

 最初のオープニング映像は当時のものをアップデートしたい。それくらいは言ったと思います。僕らとしても当時のままというよりは、アップデートした今の自分たちの感じでやりたいというのがあって。それを具現化してくれたのが山田監督だった。

升秀夫(Dr)

升秀夫(Dr)

藤原 音楽の内容と概念は当時と変わらないけれど、その概念と当時のセットリストを背負って今の自分たちのできることを全力でやるという感じで。映像も、当時はビジョンでの演出があまりなかったんです。でも今は映像表現もやってみたいことの1つだし、ビジョンの使い方とか、細かいディティールを全部含めて、全体の演出を山田監督にお願いすることになりました。今は自分たちの表現の幅とかやれることが増えてたり、深まってたりするので。今の自分たちがやれる全力で「ホームシック衛星」をもう1回やろうという。

──ステージでは鉄塔などのオブジェも目を引きましたが、あれも山田監督のアイデアですか?

増川 ステージのオブジェクトは全部そうです。ああいう大がかりなものは初めてで、最初はホントにはしゃぎました。写真撮りましたもんね。

増川弘明(G)

増川弘明(G)

直井 山田監督はクールな人なんですよ。俺らが「わーっ! すげーじゃん!」って騒いでても「はい」みたいな感じで。「これが下に降りてくるんで、それをメンバーが見たりするのはやめてください」とか、その程度で。

藤原 クールな素振りだから「あんまり納得いってないのかな?」と思っても、あとで「思ってた以上にいいです」とか言ったりしてて。

直井 熱かったですね。

増川 あと山田監督には「この曲では(ステージ上で)絶対この位置にいてください」と言われることもあって。たぶん、全体の流れの中での彼の思うベストポジションがあったんだろうなと。そうやって伝えてくれることは頼もしかったです。

 ステージに立ってるとわからないから、映像で見たときに「こういうことだったんだ」と思いましたね。

直井 あとすごいと思ったのは、映像がシームレスだったことですね。一度も途切れない宇宙空間の演出になっていた。彼は始まりから終わりまですべてをひとつなぎにしてくれて。で、本編最後の「Voyager,flyby」で、山田監督は「できたら曲が終わった瞬間に消えてほしい」と。

直井由文(B)

直井由文(B)

藤原 消え方はわからないけど、どうにかして消えてくんねえかな、って(笑)。

直井 4人もすごくわかるんです。あの瞬間に消えられたとしたら100点だから。

藤原 山田監督がBUMP OF CHICKENというバンドと28周年の物語をすごく理解してくれた。初めにそれがあったのがとても大きかったと思います。