BUMP OF CHICKENの5年ぶりアルバム「Iris」藤原基央1万字インタビュー

BUMP OF CHICKENがニューアルバム「Iris」を9月4日にリリースする。

この新作はBUMP OF CHICKENにとって約5年ぶり、通算10枚目のアルバム。前作をリリースして以降、バンドは数々のツアーを行ってきた。アルバムの収録曲にはライブの場で感じたさまざまな思いが反映されているという。

音楽ナタリーでは本作のリリースを記念し、藤原基央(Vo, G)にインタビュー。楽曲制作の裏側やリスナーへの思いなどをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

自分たちの根源が歌になった「窓の中から」

──アルバムが仕上がって、ご自身でどういう印象を持っていますか?

馬鹿正直な5年間のドキュメントというか。この5年で感じたことがわかりやすく言葉になり、音になり、楽曲になり、そういう1曲1曲がちょっとずつ重なっていって13曲そろったな、という感じです。

──藤原さんは以前「アルバムをイメージして曲を作るのではなく、1曲1曲を作っていって、ある程度曲がまとまったらアルバムになる」とおっしゃっていましたが、今回もそういう感じでしたか?

まさしくそうです。「ホームシック衛星2024」(2024年2月から4月に開催)というツアーをこの間まで回ってたんですけど、それが始まる前くらいの頃に「アルバムのタイトルを考えてくれ」とスタッフに言われてハッとするみたいな感じでした。今作に限らず、昔からずっとそうです。

藤原基央(Vo, G)

藤原基央(Vo, G)

──「Iris」というタイトルは、どういうところから出てきた言葉なんでしょうか?

最初はまったくタイトルを思いつかなかったんです。僕たちは昔から1曲1曲に向き合ってきたバンドなので。アルバムタイトルって、そういう独立した13個の物語を総括するような言葉ということじゃないですか。それで改めて思ったことなんですけど、収録曲のうち「窓の中から」という曲は、自分たちが音楽活動をしてきたうえで根底にある行動原理に近いようなもの、バンドをやってきた理由、音楽をやってきた理由の近くにあるようなものが歌になって出てきたという感覚がありまして。ただ、このことを話すたびに必ずセットで言うようにしてるんですけど、この曲が特別というわけではないんです。特別という意味で言えば、どの曲も特別で、どの曲も大事です。ただ単に、曲が持って生まれた性質として、「窓の中から」は自分たちの根源的な部分が歌になった。で、13曲の総括としてはこのイメージがやっぱりふさわしいなと思いまして。

──具体的にはどういうイメージなんでしょうか?

人それぞれに日常があって、その日常のあり方はさまざま。毎日電車に乗る人、車に乗る人、自転車で通う人、徒歩で通う人、通う先は学校、職場、バイト先、幼稚園の送り迎え、いろいろあると思うんです。家から出ない人もいるし、家の中での過ごし方もいろいろある。そういう人それぞれの日常において、自分の本質というものは心の中にあって、その心に付いている窓の中から社会とつながって日常の景色を見ている。みんな自分の心に付いている窓枠を通して世の中を生きている。そういう感覚は「窓の中から」という曲を書く前から持っていたんです。窓の中から見た外側の世界に、ほかの窓枠がたくさん浮かんでいる。人通りの多い雑踏の中を歩けば、あちこちに人の数だけ窓枠が浮かんでいる。ほとんどがすれ違うばかりだろうけど、そんな中でその窓の中から見つけ合って、興味の矢印が重なり合って、そうやって人は出会う。僕は窓の中から音楽を鳴らして歌を歌って、同じく窓の中からその歌を見つけてくれた人がいる。そういう人たちがライブに来てくれているんだと思います。この人たちは窓の中から僕たちの音楽を見つけてくれた人だ、と。ライブでこの曲をやって、お客さんたちと一緒にこの曲を通してつながることによって、より一層その思いが確実なものになってきました。

“フォーカスしあう”ことを表現したタイトル「Iris」

──コロナ禍を経て、アニバーサリーや「ホームシック衛星2024」のようなツアーを経験したことで、ライブの特別さをより強く感じられるようになった面もあるのでは?

そうですね。もともと思っていたことだったんですけど、その意味合いが否応なく強まった。窓の中から歌を見つけてくれた人たちが集まるのがライブだと思うようになった。目の前にいるこの人は見つけてくれた人なんだな、と。俺もこの人に会いたかったな、ずっと探してたな、と。要するに、音楽を作るというのは、その人のことをずっと探すような作業なんですよ。その人に会いたかった。その人が受け止めてくれたという証拠を見に行きたかった。つまり、お互いに窓の中からフォーカスし合ったという。僕らの音楽を真ん中にしてお互いが見つめ合った。興味を持って目を凝らして、フォーカスしたということなんだと思います。そこから目ん玉というところに意識がいって、虹彩という言葉にたどり着いた。それが「Iris」というわけです。

──「窓の中から」という曲と、ライブの風景がイメージの出発点になった。

はい。で、「虹」という言葉は僕の書く歌詞によく登場するし、この「Iris」の収録曲の中にも「なないろ」という曲が入ってますけど、その一致もしっくりくるものでした。あと、もうちょい調べたら「Iris」の語源は神話に出てくる「イリス」という神様の名前であるらしくて。伝える神様だ、と。すげえいいなと思って、それで「Iris」に決まった次第です。

──「ホームシック衛星2024」のMCで藤原さんが「君を探してた、会いたかった」と言っていて、その言葉が印象的だったんです。そういうライブへの思いもつながっているんですね。

これもこの5年間ライブをやっていた中でどこかで改めて強く思ったことで。俺たちにとってライブというのはお客さんに会うっていうことなんだなと。当たり前だと思う人いるかもしれないですけど、ステージに立って汗だくで歌って、あらゆる感情がフル回転して、終わったあとはハニワみたいな抜け殻の状態になって、それを何日も何日も繰り返してきて、改めて思うことなんです。僕たちの音楽を受け止めてくれた人に会うための場所なんだな、って。言葉にするとめちゃくちゃ単純なんですけど、キャリア28年目にして改めてそう思うぐらいの重要なことで。

直井由文(B)

直井由文(B)

──もともとBUMP OF CHICKENの音楽にはある種の切実さがあって、それは聴いている人にもきっと伝わっていると思うんですが、それがこの5年間でさらに強まった感覚もありますか?

それは本当にそうです。年を取ったせい、と言われたらそうなのかもと思うし、バンドのキャリアのせいかもしれない。曲を作ってライブをやるということを繰り返してきて、大切なことをどんどん思い知っていくわけですよね。初めからそういうものだとわかっていたものが、どんどん大きくなっていく。結果、より切実になるし、悪い言い方をすれば、すごくくどくなっているなと思うんですけど。そういう自覚はありますし、「しょうがないかな」とも思っています。自然なことだし「そういうのが嫌だからちょっと新しい感じに変わってみよう」と思うのも嘘くさくて嫌だし、あんまりそういうことに興味も感じないし。逆に今自分のバンドに起こっていること、自分のバンドでの活動を通じて感じていることに関しては興味は尽きないわけで。リスナーのこの人はなんでこの曲でこんなに泣いているんだろう? この人はこんなに楽しそうなのに、この人はこんなに泣いているのはどういうことなんだろう?みたいな、そういう興味はまったく尽きない。どんどん深まっていきます。