ナタリー PowerPush - avengers in sci-fi
スケール倍増の新作「dynamo」誕生 痛快スペースサウンドの原動力に迫る
3ピースバンドという最小限の編成でおびただしい数のエフェクターを駆使し、人力とは思えないイマジネーティブなサウンドと世界観を表現するバンド・avengers in sci-fi。3rdアルバムとなる今回の「dynamo」では、生身で銀河系を疾駆するような、あり得ない生々しさと、古代から続くトライバルな息吹が交差。そんな風に書くと、いかにも難解そうだが、ポップソングとしての親しみやすさと、ロックバンドのダイナミズムがまず強力に押し寄せてくる。つまりめちゃくちゃ痛快なのだ。
あらゆるジャンルを感じさせながら、カオスに陥らず、スリリングな音像を作り続けるこのバンドのダイナモ=駆動機関とは何か。ギター、ボーカル、シンセサイザーを担当するフロントマン・木幡太郎に話を訊いた。
取材・文/石角友香 インタビュー撮影/平沼久奈
上等なケーブルを使うようになってトラブル減少
──今のアーティスト写真もオフィシャルサイトのトップ画像も、カッコいいというか、笑えるというか、独特なものですね。
ははは。なんか、カッコよさの向こう側みたいなものが、ちょっとありますね。過剰なものって笑えるというか。
──ベタなことを聞くようですが、ギターやベース、それぞれどれぐらいエフェクターを使ってるんですか?
ま、大体、25個前後ですね。
──エフェクターってそんなに種類があるんですね。ライブでヒヤッとしたこととかありますか? 配線とか。
だいぶ昔のことで、昼間のオーディションライブとかに出演してた時代の話なんですけど、ケーブルのどっかが断線しちゃったんですね。でも、ケーブルが多すぎてどこが切れてるかわからないんですよ。それで演奏時間のほぼ3分の2ぐらい音が出ないまま(笑)、アワアワしてたライブっていうのがありましたね。
──最近はそういうトラブルはなく?
そうですね。特別なケアをしてるというわけじゃないんですけど。昔より上等なケーブルを使おうと思ってるし(笑)。
──やってるほうは必然があるから間違わないんでしょうけど、驚異的ですよ。
でもたまに1週間ぐらい休んじゃったりすると、配線の順番がわからなくなっちゃうときがありますね(笑)。
替えがきくようなバンドにはなりたくない
──ちなみにバンドの超初期は、どんな活動をしてたんですか?
超初期はメロディックパンクのコピーバンドをやってて。
──資料にREACHの名前が挙がってますけど、メロディックパンクの中でも、どういうタイプのバンドが好きだったんですか?
う~ん、メロディックパンクの中では、あまりメロディックパンク的ではないバンドが好きだったかもしれないですね。REACHなんかは、相当、急進的なスタイルだったし、後期の頃になるとメロディックパンクとかそういう括りにはできない状態になってたんで、そういう姿勢に触発されて僕らもこういう音楽になっていったんです。
──アヴェンズっていつも、どんどん先を行ってる感じがして。今回のアルバムもポップで痛快で。他のバンドがまだ数学的で難しいことをやってる中、もう先に行っちゃったな、みたいな印象を持ちました。
そうですね。前のアルバムの焼き直しとかにしたくない、新作を作るんだったら、やっぱり少しずつでも新しいことをやりたい、変わっていきたいっていうのはあるし。単純にavengers in sci-fiの一番コアなリスナーはメンバー自身だと思っているので。一番聴いてるハズだし、それだけ密に接してると単純に飽きちゃうっていうのもありますしね、自分たちのやってることに。そうなったら自然と変わるときが来たのかなっていう。毎回新作を作るときはそういう意識なんで。
──世の中にないものを作ろうという意識は?
あー、そういうのはすごいありますね。替えがきくようなバンドになるんだったら、別にオリジナルの曲を作って活動する必要なんかないなと思ってて。自分が今までに聴いてきた音楽のどれとも違うものを作りたいって意識は、最初っからすごくあって。
──だからこそなのかもしれないですけど、木幡さんは音楽を相当聴いてますよね。
だいぶ広く浅くだと思うんですけどね。
──ひとつのジャンルを深くというよりは。
そうですね。それこそまぁ、ロック、メタル、パンク、エレクトロニック、ジャズ、どのジャンルも割と頂点の人たちをまんべんなく聴いていく、なんかそういう聴き方が多いですね。あと名盤っていわれるようなものはなるべく聴くようにしてきたし。
──それはバンドをやってるからですか? それともいちリスナーとしてもそういう聴き方?
もともと、そうでもなくて。ある特定のジャンルをひとつ究めるというよりも、もっと深い聴き方をしてました。NIRVANA聴いてるときは、もうホント1年間、NIRVANAしか聴かない時期があったぐらいで(笑)。メロディックパンクに没頭してるときは、いわゆるHi-STANDARD周辺のが主だったし。ただ、ある時期、メロディックパンクへの熱が冷めたというか、REACHなりハイスタなり、好きだったバンドが解散したりスタイルを変えていく中で、自分の中のストライクゾーンって言える音楽がなくなって、一瞬エアポケットに入ったような時期があって。それを機会になんかいろいろ探してみようかな、っていう感じでしたね。
CD収録曲
- El Planeta / Love
- Wonderpower
- Cydonia Twin
- Intergalactic Love Song
- Delight Slight Lightspeed(dynamo version)
- Before The Stardust Fades
- There He Goes
- Lovers On Mars
- Where Stars Sleep
- Caravan
- Future Never Knows
- Space Station Styx
- El Planeta / Birth
avengers in sci-fi(あう゛ぇんじゃーずいんさいふぁい)
木幡太郎(G,Vo,Syn)、稲見喜彦(B,Vo,Syn)、長谷川正法(Dr,Cho)による3ピースバンド。高校の同級生同士だった木幡と稲見に、長谷川が加わり2002年頃から活動を開始する。2004年12月に初の正式音源となるミニアルバム「avengers in sci-fi」を発表。ジャンルや形式にとらわれないスタイルと、ポップでスペイシーなサウンドを作り出すことから、そのスタイルは「ロックの宇宙船」と呼ばれている。2007年には、新人バンドの登竜門と言われる「FUJI ROCK FESTIVAL '07」の「ROOKIE A GO-GO」ステージに出演。2009年にはメジャーレーベルGetting Betterに移籍し、同年12月にミニアルバム「jupiter jupiter」をリリース。また同年、木村カエラのシングル「BANZAI」をプロデュースするなど、多方面で活躍している。