ナタリー PowerPush - avengers in sci-fi
スケール倍増の新作「dynamo」誕生 痛快スペースサウンドの原動力に迫る
いつも「これが最後の作品になってもいい」と思ってる
──確かに。そうそう、ブログを拝見したところ、今回は非常にネバーエンドなレコーディングだったようで。
そうですね(苦笑)。今回は悲壮でしたね。
──時間がかかった原因はどのあたりに?
今までで一番、洗練されたものを作りたいと思ってて。いちプレイヤーとしての視点というよりは、もうちょっと第三者的な視点っていうか、エンジニア的っていうんですかね。エンジニアにとってのいい音源のひとつの条件として……楽曲の良さはもちろんあるんでしょうけど、どれだけ理に適ったアレンジになってるかってものがあると思うんです。CDっていう限られた器の中で、どれだけギターなり、ベースなりドラムなりっていう素材をあるべきところに置いているか、CDっていう器をどれだけ無理なく無駄なく使ってるかっていう。プレイヤーの感覚って、言ってみれば盛り方なんてなんでもよくて、味が良けりゃなんでもいいって感覚なんです。でも、そこからもう一歩、抜け出したくて。
──もっとレベルの高い“料理”を作るぞ、と?
そうですね。そうして第三者的な立場で楽曲に接していくと、自然と洗練された方向に向かうっていうか。自然と器に対する盛り付けなんかも……一歩間違えれば型にハマっちゃって、媚びを売ったようなものになっちゃうのかな、とも思うんですけど、レコーディングに入る前の曲作りの段階から、どういう風に器に盛り付けるか? ってところまで想定して詰めてやってたんです。その結果、レコーディングでやらなきゃいけない作業や、録音する素材もすごく多くなったし。今まではあまりにも力業すぎて男の料理的な音楽だったんですよね。スタジオの狭い充満した空間だと伝わるアレンジでも、スタジオって言ってみれば異空間じゃないですか。そこから一歩抜け出して、ラジカセなりなんなり、日常空間で流したときに、スタジオに充満してた得体の知れないエナジーみたいなのを感じさせようと思ったら、レコーディングの段階で無理が生じるんですよね。でも設定したレコーディング期間が以前のままだったんで、ちょっと悲壮なレコーディングになったんですけど(笑)。
──でもこの過剰さ。盛ってますよね。
ははは。かなり。
──アレンジを決めて、演奏して、しかもこのメロディラインにこの歌詞がついて……よく投げ出さなかったですね。
そうですね。ちょっと意地になっちゃった部分もありますしね。そこまでやったからには、もうやりきってやる!っていうのもあったし。いっつもこれが最後の作品になってもいいように、っていう意識でやってるんですよね。
「dynamo」は命の旅をイメージして作った
──アルバム全体のテーマについてなんですが、今回もストーリーを感じていまして。どこかに旅立って、帰還するようなイメージがあったんでしょうか?
今回は結構、生だとか死だとか、そういうものを感じさせるようなモチーフを使いたくて。意外と旅っていうイメージは持たれるのかなとは思うんですけど、旅といっても、今回のは人が生まれて死んで、また生まれて死んでを繰り返す、そういうイメージの“旅”ですかね。
──DNAがつながっていくような?
あ、それいいですね(笑)。
──(笑)。4曲目の「Intergalactic Love Song」のイントロは神々しいし。ゴスペルのスタイルではないんだけど、ゴスペルの精神を感じるというか。
そうですね。ゴスペルって音楽そのもののスタイルというよりは、宗教的なニュアンスを感じてて。神様とつながる行為としての音楽、みたいな在り方がすごく好き。
──アヴェンズって、ゴスペルしかり、他のジャンルもしかり、あらゆる音楽の熱気をアヴェンズっていう鍋の中に封じ込めることにものすごく成功してるバンドだと思うんですよね。
ありがとうございます。
──あと、歌詞はヒップホップを通過してきた人のものかな? って思います。高度な韻の踏み方をしているというわけではないんですが。
ヒップホップを聴くようになったのはここ何年かなんです。それ以前から韻の踏み方は変わってないから、そんなに影響はないんですけど。やっぱり、韻っていうのは必須だと思うんですよね。まぁ、逆に韻を踏まないとか、メロディに対してまったくミスマッチな歌詞をつけるっていうのもひとつの面白さだとは思うんですけど、基本的には音があるんだからメロディと共存してなんぼのものだっていう意識は強いですね。
──譜割もすごく不思議ですよね。
できるだけお約束的なフレーズはしたくないというか。まぁ、僕が天邪鬼なのもあるんですけど、どっかで聴いたフレーズを使ってる人があまりにも多い気がしてて。もうちょっとカッコ悪くてもいいから自分の言い方を、自分の言葉を使えばいいのになって。そういう反感みたいな思いはすごくありますね。
今は自分のことをもっと歌いたい
──では、今回新しいことができたな、と思うところと、その理由を教えてください。
今回、歌詞の文字数を増やしたんですよ。
──自分に課したんですか?
課しました。元々、エレクトロニック的な音楽、例えばUNDERWORLDや、THE CHEMICAL BROTHERSっていう、歌はサウンドの一部っていう意味合いが強くて言葉数も少ない音楽に影響されたんで、1stの頃は、歌詞なんか1行で十分っていう意識だったんですよ。でもそれだとあまりにもループ感が強すぎて、ロックとしては展開に乏しいし、今になって聴き返すと物足りないんですよね。腹八分目でありすぎるというか。お腹いっぱいになれない感じがして、そこを改善したかったんです。
──木幡さんに言いたいことが増えたのでは?
それもあるかもしれないですね。昔は想像の世界のものであればいいっていう感覚で作っていたんですけど、最近はもっと自分のことを歌いたいっていう欲求が出てきていますね。
──しかし、このアルバムのツアーは大変そうですけど、楽しみですね。
楽しくしたいですね。準備が万端ならたぶん楽しくできると思うんですけど。これから鬼の練習が待ってるんで、はい(笑)。
CD収録曲
- El Planeta / Love
- Wonderpower
- Cydonia Twin
- Intergalactic Love Song
- Delight Slight Lightspeed(dynamo version)
- Before The Stardust Fades
- There He Goes
- Lovers On Mars
- Where Stars Sleep
- Caravan
- Future Never Knows
- Space Station Styx
- El Planeta / Birth
avengers in sci-fi(あう゛ぇんじゃーずいんさいふぁい)
木幡太郎(G,Vo,Syn)、稲見喜彦(B,Vo,Syn)、長谷川正法(Dr,Cho)による3ピースバンド。高校の同級生同士だった木幡と稲見に、長谷川が加わり2002年頃から活動を開始する。2004年12月に初の正式音源となるミニアルバム「avengers in sci-fi」を発表。ジャンルや形式にとらわれないスタイルと、ポップでスペイシーなサウンドを作り出すことから、そのスタイルは「ロックの宇宙船」と呼ばれている。2007年には、新人バンドの登竜門と言われる「FUJI ROCK FESTIVAL '07」の「ROOKIE A GO-GO」ステージに出演。2009年にはメジャーレーベルGetting Betterに移籍し、同年12月にミニアルバム「jupiter jupiter」をリリース。また同年、木村カエラのシングル「BANZAI」をプロデュースするなど、多方面で活躍している。