Aimer「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」インタビュー|歌声の向こうに見える景色 (2/2)

奥行きのある世界で音楽を作ってみたい

──続いて「End of All」はゲーム「原神」のオンラインイベント「原神新春会 2024」の歌唱曲で、また雰囲気がガラッと変わります。作曲は吉田育子さん、編曲は玉井さんと大西省吾さんですが、吉田さんも初めてご一緒する方ですよね?

そうです。実はまだお会いしたことはないんですけど、今おっしゃった「原神」のオンラインイベント用の楽曲を制作することが決まってから、この曲を作ってくださって。ただただメロディが美しくて、私もすごく素敵な曲だと思ったし、「原神」チームの方も「この曲がいいです」と喜んでくださったので、ありがたく歌わせてもらいました。

──アレンジも含めて勾配があるというか、サビに向けてどんどん盛り上がっていく、ものすごくドラマチックでスケールの大きな曲ですね。

「原神」チームの方とお話ししたときに、A、Bメロとサビの緩急が激しい曲をご所望されているような感じがして。過去の曲で言うと「LAST STARDUST」(2015年7月発売の3rdアルバム「DAWN」収録曲)みたいな、すごく静かなところから、サビでバンって開けて熱くなるようなイメージでアレンジしてもらいました。

──歌詞が全編英語なのは、英語のほうが言葉を乗せやすかったから?

「原神」はワールドワイドなゲームなので、英語の歌詞が望ましいというリクエストをいただきまして。歌詞の内容も「原神」の世界観に沿っているというか、先方からいただいたいくつかのキーワードをもとに組み立てていきました。ただ、そうしたリクエストに応えつつ、さっきの「800」じゃないですけど、なんとなく自分自身の物語にしたくなって。捉え方によっては前向きにも悲観的にも見えるという、そういう意味では今までと変わらず、相反するものを感じてほしいなと思いながら作りました。

Aimer

──僕はゲームをまったくやらないので、「End of All」の歌詞がどの程度「原神」に沿っているのかはわからないのですが……。

やってみてください。

──あ、Aimerさんは「原神」やっているんですか?

私もゲームは全然詳しくなかったんですけど、今回お話をいただいてきちんとやってみたところ、すごく面白いです。

──面白いですか。

私、びっくりしたんですよ。映像もめちゃくちゃきれいだし、世界観やストーリーの作り込みも緻密で、キャラクターも立っていて、操作も楽しくて。とにかく私はそこに奥行きを感じて、そういう奥行きのある世界で音楽を作ってみたいという気持ちになりました。ジャンルで言えばファンタジーなので、いろんなカルチャーが混じっているんですけど……。

──僕は「End of All」から、そこはかとなくヨーロッパを感じました。

本当ですか? 私としてもヨーロッパの、どちらかといえば大陸的なサウンドを目指していたので、その感想はうれしいです。そういう世界の一端を音楽で担うのは面白そうだし、「原神」のプレーヤーは「旅人さん」と呼ばれているんですけど、“旅”というものにもイマジネーションをくすぐられました。

──「End of All」のボーカルは、「遥か」のそれとは逆で、“Aimerらしさ”に振っている?

まさに、リスナーの皆さんがなんとなく「ああ、知ってる知ってる。この感じ」みたいな感覚になってくれたらいいなと思いながら歌っています。レコーディングでもプロデューサーの玉井さんが「Aimerっぽい、Aimerっぽい」と言ってくださったので、心の中で「よし」と。自己評価ですけど、サビ頭のあたりで、細かなビブラートが入りつつ勢いよく声が伸びている感じは、かなり自分らしいんじゃないかな。とはいえ、私もいろんな楽曲を歌ってきて、それら楽曲に導かれてボーカルも変わっていくので、一概には言えないんですけど。

──「800」のボーカルもAimerさんらしいと思いましたが、「End of All」は「800」ほど内向的ではなかったりして、やはり違いますもんね。

英語の曲を歌うときって、発声がちょっと変わるんです。その点に関していうと「End of All」は、なんて表現したらいいのか……わりと鼻の中の発声がメインになっていて。

──鼻の中の発声。

口か鼻かでいえば鼻の比率が高くなっているんですよ。だから全編通して裏声成分がちょっと多くなっていて、それが「800」との違いを生んでいるというか、ボーカルがより外向きに聞こえる一因ではないかと思います。

──Aimerさんの声の話、いつも面白いですね。

面白いですか? 「需要あるのかな?」って、いつも思うんですけど(笑)。

今年のツアーはまた違った歌い方で回ろうと思っている

──最後の曲「Ref:rain -3 nuits ver.-」はセルフカバーですが、なぜ「Ref:rain」(2018年2月発売の14thシングル「Ref:rain / 眩いばかり」収録曲)を選んだんですか?

まず、6月から約5年ぶりの海外ワンマンライブツアーがありまして、それに「3 nuits tour 2024」というタイトルを付けたんです。そのツアーのセトリを考えていたときに、アジア圏では「Ref:rain」がものすごく愛されていて、数字の上では一番人気らしいというのを知ったんです。私はてっきり、アニメのオープニングテーマになるような、勢いと疾走感のある曲が人気なのかなと思っていたので、それは大きな驚きであり、喜びでもあったんですよ。私にとって「Ref:rain」はとても落ち着く、自分のスタイルの原点に通じる曲であるし、ちょうどこのEPがリリースされるのは梅雨時でもあるので、せっかくだからツアータイトルを被せて再録しようということになりました。

──原曲と比較すると、「Ref:rain -3 nuits ver.-」はしみじみと、大事に歌われている印象です。リアレンジの方向としてもより落ち着いた感じで。

うれしいです。「Ref:rain」は曲名の通り雨がテーマなので、原曲ではしっかり雨が降っているんですけど、「Ref:rain -3 nuits ver.-」ではワンコーラス目は霧雨ぐらいで、2番サビあたりから本降りになるようなイメージで歌いました。例えばライブで野間康介さんのピアノだけをバックに歌うときも、けっこう声を抑えたりしていたので、そういうことをレコーディングでもやりたいなって。あと原曲のアレンジは、TD(トラックダウン)とかのバランスもあるんですけど、ずっとリバーブがかかっているというか……。

──けっこう華やかでしたよね。コーラスも厚くて。

そう、広いところで音が鳴っている感じなんです。それに対して「Ref:rain -3 nuits ver.-」は、大まかな方向性は同じなんですけど、部屋の中で歌っているような、生身の人間がそこにいる感じにしたくて、訥々と歌いました。

──ライブで何度も歌ってくうちに別のアプローチを試したくなることは、「Ref:rain」に限らずあるものですか?

ありますね。最近だったらファンクラブツアー(2023年10月から11月にかけて行われた「Aimer Fan Club Tour "Chambre d'hôte"」)でライブハウスを回ったり(参照:“あなた”がいてくれたから…Aimerがファン1人ひとりに歌で感謝を伝えた5年ぶりFCツアー)、その前のアリーナツアー(同年3月から5月にかけて行われた「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」)ではストリングスを入れたりしていて、そういう場で歌うと「もっとシンプルにしたい」という願望が生まれるんです。「ストリングスとピアノだけでやったらどうかな?」とか。やっぱり音源は足し算で作ることが多くて、結果、音数も多めになるので、そこからの引き算を考えたくなるというのはあります。

──先ほどAimerさんの声の話は面白いと言いましたが、「Ref:rain」リリース時のインタビューでも面白いお話をされていたんです。

何をお話ししましたっけ?

──自分の声には好きな成分と嫌いな成分があるけれど、「Ref:rain」ではあえて嫌いな成分も入れて歌ってみたと(参照:Aimer「Ref:rain / 眩いばかり」インタビュー)。

そんなことを言っていたんですね。サビかな?

──忘れちゃいました?

忘れました。でも今、すごく面白く感じています。というのも最近、いろいろ歌い方を試していて……いや、試すこと自体は常にしているんですが、今年のツアーはまた違った歌い方で回ろうと思っているんですよ。私はずっと、いわゆるミックスボイスみたいな、地声と裏声の境界が曖昧な声で歌っているけれど、ミックスの中で鼻にかける部分と口にかける部分の比率をちょっと変えようかなって。近年は、鼻にかけすぎると自分の嫌いな成分が出てくるので口のほうを多めにしていたんですけど……この話、いりますか?

──ください。

今年は原点に立ち戻って、鼻多めでいきたいなと。きっと誰にも伝わらないんですけど、今作っている曲でも当然いろいろ試している最中で。ただ、今作っている曲が皆さんに届くのはずっと先になってしまうんですよね。このEPの収録曲も、タイアップ曲は進行が早いので「Ref:rain -3 nuits ver.-」以外は去年作っていて。そのタイムラグが毎回歯がゆいんですが、歌についてマニアックに考えているときは本当に楽しいので、いろんな試みを1つずつ形にしていきたいです。

ツアー情報

Aimer 3 nuits tour 2024

  • 2024年6月15日(土)上海 Mercedes-Benz Arena
  • 2024年6月16日(日)上海 Mercedes-Benz Arena
  • 2024年6月22日(土)台北 NTSU ARENA
  • 2024年6月23日(日)台北 NTSU ARENA
  • 2024年7月9日(火)香港 ASIA WORLD EXPO HALL 10

Aimer 全国ホールツアー(タイトル未定)

  • 2024年10月25日(金)千葉県 市川市文化会館
  • 2024年10月26日(土)千葉県 市川市文化会館
  • 2024年11月2日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年11月3日(日・祝)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年11月30日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年12月1日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年12月6日(金)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2024年12月7日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2024年12月14日(土)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
  • 2024年12月15日(日)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
  • 2025年1月12日(日)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年1月13日(月・祝)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年1月25日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年1月26日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年2月1日(土)群馬県 高崎芸術劇場
  • 2025年2月21日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年2月22日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年3月8日(土)東京都 東京ガーデンシアター
  • 2025年3月9日(日)東京都 東京ガーデンシアター

プロフィール

Aimer(エメ)

幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。2022年12月には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年3月にアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマ「escalate」、5月にアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマをシングルとしてリリースした。7月に7thアルバム「Open α Door」を発表し、10月よりファンクラブツアー「Aimer Fan Club Tour "Chambre d'hôte"」を行う。12月にNHKドラマ10「大奥Season2」の主題歌「白色蜉蝣」をリリースした。2024年6月に新作EP「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」を発表し、5年ぶりの海外ツアーを実施。10月より国内10会場を回るホールツアーを行う。