Aimer「SCOPE」インタビュー|手を伸ばした先に見つける、私にとっての“真実”

Aimerが25thシングル「SCOPE」をリリースした。

「SCOPE」はテレビアニメ「天久鷹央の推理カルテ」のオープニングテーマ。天才医師・天久鷹央が警察すら手に負えない謎や摩訶不思議な病を解き明かす物語を、Aimerはスピード感のある爽快なロックサウンドで彩っている。シングルにはさらにカップリングとして、「NHK みんなのうた」2025年2月と3月の放送曲として書き下ろされたクラシカルなワルツソング「やさしい舞踏会」と、出光興産の企業CMソングとして放送中のバラードソング「うつくしい世界」も収録されている。

音楽ナタリーではAimerにインタビューを行い、3曲それぞれ確立した世界観を持つシングルの制作過程に迫った。

文 / 須藤輝

オープニングテーマ然としたオープニングテーマ

──表題曲「SCOPE」はアニメ「天久鷹央の推理カルテ」のオープニングテーマです。オープニングらしいアグレッシブな楽曲で、シングル表題曲としては「escalate」(2023年3月発売の21stシングル表題曲)以来のロックナンバーですね。

そう考えるとひさしぶり、約2年ぶりになるのかな? 自分としても「SCOPE」は、今までいろんな形やベクトルで表現してきたオープニングテーマの文脈を踏まえてできた、オープニングテーマ然としたオープニングテーマだと思っています。前作にあたる「Sign」(2024年8月発売の24thシングル表題曲)もアニメ「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」のオープニングではあったけれども、いわゆるアニメのオープニングらしい盛り上がりや勢いからは距離を置いた、優しい楽曲で(参照:Aimer「Sign」インタビュー)。それと比べると、アプローチの仕方は対照的と言えますね。

──作曲は百田留衣(agehasprings)さん、編曲は玉井健二(agehasprings)さんと百田さんですね。ブラスアレンジやコーラスワーク、何よりスピード感から、「SCOPE」は「残響散歌」(2022年1月発売の20thシングル「残響散歌 / 朝が来る」収録曲)および「Resonantia」(2023年7発売の7thアルバム「Open α Door」リード曲)のライン上にあるように思いました。

その通りです。今おっしゃった「残響散歌」だけでなく、例えば「Brave Shine」(2015年6月発売の8thシングル表題曲)だったり「SPARK-AGAIN」(2020年9月発売の19thシングル表題曲)だったり、過去に表現してきたオープニングテーマがあるからこそ、それをまた自分の中で昇華、あるいは更新するような曲を作りたいという気持ちはあって。今回はいいタイミングだったというか、アニメの制作側の方とお話しする中で、主人公である天久鷹央のテーマソングになり得る曲というリクエストをいただいたんです。そこで鷹央のパーソナリティを自分なりに観察、分析したときに、キャラクター性が非常に濃い、まさしく主人公に値する人物だと思ったので、そんな彼女に引けを取らないような、密度と華々しさのある曲であるべきじゃないかなって。

アニメ「天久鷹央の推理カルテ」ポスター画像©︎ 知念実希人・いとうのいぢ/ストレートエッジ・天久鷹央の推理カルテ製作委員会

アニメ「天久鷹央の推理カルテ」ポスター画像©︎ 知念実希人・いとうのいぢ/ストレートエッジ・天久鷹央の推理カルテ製作委員会

──おっしゃる通り、華々しさもありますね。

「SCOPE」は2025年最初のシングルで、それを狙って作ったわけではないけれど、結果としてスタートダッシュにふさわしい形になったんじゃないかな。アニメも元日の夜のスタートでしたし。

──放送開始日はおめでたいですが、アニメの内容的にはあまりおめでたくないというか。いわゆる医療ミステリーで、1話から殺人事件が……。

確かに、毎話、難事件が起きて血が流れたりする。その意味では、今までオープニングテーマを担ってきた作品も同様に、戦いや争いを描いた不穏なものが多かったんです。ただ今回は、そういう不穏さ以上に、鷹央自身が人間として放っている光に惹かれるものがあったので、自分の中にある不穏性をそこまで表に出さない曲にしようという目論見がありました。

真実は1つじゃない

──「SCOPE」の歌詞は、謎解きを主題にしていますよね。その謎を解くにあたって、あるいは歌詞にある「真実」に到達するためには、「前例」や「常識」や「定石」から自由になる必要がある。そこには鷹央のスタイルが反映されていると思いますが、Aimerさん自身もそういう考え方をするほうですか?

するほうですね。「SCOPE」は鷹央のテーマソングでありながら、自分の曲にもしないといけないと思って、彼女と自分の共通点を探ってみたんです。鷹央は端的に言って天才で、誰も敵わないようなスーパーコンピューターみたいな頭脳を持っているんですが、そこは比較にならないというか、私は彼女の足元にも及ばない。けれど、彼女が人間として持っている価値観には、相通じるものがあるんじゃないか。例えば今おっしゃったように、真実に迫りたいという無限の好奇心を抱いているとか。そういうちょっと子供めいた部分って、一種のヒーロー性を感じませんか?

──主人公らしい無邪気さ、奔放さみたいな。

そう、何にもとらわれることなく、何かを信じられる。強引かもしれないけれど、私が音楽を続けるにあたっても好奇心は絶対に欠かせないものだし、音楽を追求したい、自分にとっての真実をつかみたいといった気持ちも好奇心から生まれていると思うんです。そこに光を当てながら歌詞を組み立てていきました。

──Aimerさんにとっての真実とは、自分が表現すべき音楽みたいなことですか?

大前提として、いろんな手段がある中から何を選択して、どういう表現をすべきか、どういう歌を歌うべきかというのは常に考えているつもりです。ただ私は、真実は人の数だけあると思っていて。1つの出来事であっても、受け取る側にとってまったく違う側面を持っているし、だからこそ物事を多角的に見なきゃいけない。そういう意味で、真実は1つじゃない。であれば、自分にとっての真実は、自分なりの理解や解釈を、ちゃんと自分の中で納得できるものにすることで見つけられるんじゃないか。そういう人としてのあり方、姿勢みたいなものが音楽そのもの、表現そのものにつながっていくんだと思うようになったんです。

──そう思うようになったのは、いつ頃からですか?

特にここ数年ですね。2021年にデビュー10周年を迎えてから「残響散歌」という曲を携えてツアーを駆け巡って、自分の中の炎が燃え尽きるぐらい、完全燃焼するぐらい精力的に活動させてもらったんです。その10周年を超えて、さっき触れてくださった「escalate」あたりから、またここから1歩ずつ歩いていこうと思ったとき、自分の中に新しい火種を探して、それを燃やしていく作業を無意識下でやっていて。再び火を灯そうとする中で、自分をごまかさず、かつ自分自身だけじゃなくて自分の周りで起こることにもちゃんと向き合わなきゃいけないと気付いたんです。この先も5年、10年と音楽を続けていくうえで、それが大事なんじゃないかと。

──僕は、ちょうどAimerさんが10周年を迎えた前後はインタビューの担当から外れていて。「残響散歌」のヒットを「めちゃくちゃ売れたなあ」と外から眺めていたのですが、「あてもなく」(2023年5月発売の22ndシングル)でひさしぶりにお話を伺ったとき、この人は何も変わっていないと思いました。

うれしい。

──もちろん音楽的には変化しているんですけど。

代表曲と呼ばれるような曲を持てることはアーティストとしてのキャリア的にもありがたいことですし、「残響散歌」は自分がずっとお世話になっているagehaspringsの信頼するクリエイターと一緒に作った当時の集大成だったので、それを歌うことに対してなんの迷いも歪みもなかったんです。そのタイミングで、さっきも言ったように燃え尽きるほど精力的に活動できたおかげで、これからもひたむきに、自分のペースで歩みを重ねていくことが何より大切だと再確認できて。初心を忘れずに、かつ今までたどってきた道じゃない道を行くためには、自分の人間としてのあり方に対して真摯であり続けなければいけない。そういう気持ちが強くなりましたね。

“物差し”をはっきりさせる必要がある

──「SCOPE」の歌詞に関して、「ひた隠した声を 確かな形にして」という一文もAimerさんらしいと思いました。

自分の意思だったり胸に秘めた思いだったりをどこまで、あるいはどうやって伝えるべきかというのは、表現活動を行ううえでも日常生活の中でも、日々手探りではありますね。

──ここまでのお話につなげると、人それぞれに真実があるとはいえ、1つの真実らしきものが広く一般に共有されている状況も往々にしてありますよね。そうした中で「いや、私の真実はこうなんだけど」みたいに声を上げるのって……。

勇気がいりますよね。「天久鷹央の推理カルテ」に絡めて言うと、どんな難事件であっても解決を見れば白黒がはっきりするんです。罪を犯した人は法の下に裁かれるわけで、何が真実かを測る1つの“物差し”がある。ただ、私たちの普段の生活においてはその物差しが定まっていないことが多いし、そのせいでモヤモヤしてしまうこともあるんじゃないか。だからこそ、この「SCOPE」という曲を表現するうえでは物差しをはっきりさせる必要があって。そうすることである種の爽快感を伴いながら、各々が各々の真実をつかむ、もしくは見極めるための力を奮い立たせるのに役立つような曲にしたいという思いも込めました。

──爽快感はボーカルにもよく表れていますね。

私は隙間の多い、空間的な広がりのある曲ほどボーカルのアプローチに迷ってしまうんです。この広い空間のどこに、どうやって佇めばいいんだろうって。要はアプローチの選択肢が多くなるから迷うわけなんですが、この曲に関しては所狭しといろんなサウンドが鳴っていて、あまり選択の余地がない分、迷わずに歌えました。

──ここ2年弱のAimerさんのインタビューでは、シングル表題曲がすべてバラードだったこともあり、バラード表現の差異みたいな切り口でお話を伺ってきましたが、ロックナンバーもロックナンバーで明確に違いますね。例えば「800」(2024年6月発売のEP「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」収録曲)は内向的で、「Wren」(「Sign」カップリング曲)はクールな印象があったのに対して、「SCOPE」は荒ぶっているといいますか。

ほかの曲と比べたときに、感じ方にどういう違いがあるのかを指摘してもらえるのって、うれしいですね。やっぱりそれぞれの楽曲を構成する要素によって、例えばサウンドだったり言葉だったり、あるいはどういう作品に寄り添うかによって、自然と導き出される声というものがあって。このシングルを受け取ってくださった皆さんが何を感じてくださるのか、すごく楽しみです。