歌詞を乗せなくてもいいんじゃないか
──2曲目の「花びらたちのマーチ」はAimerさん作詞、飛内将大さん作曲の、アコギをフィーチャーしたミディアムテンポのロックナンバーです。ここで空気が一変しますね。
自分でもそう思います。「同じ人が歌ってるの?」って。
──「Aimerさんが多重人格なんじゃ?」っていう。
あはは(笑)。でも、どっちも自分の引き出しにあるものだし、同時に昔だったら表現できなかった歌だと思います。
──こちらは憑き物が落ちたというか、それこそフラットに、あるいはストレートに歌ってらっしゃいますね。
うんうん。やっぱり「I beg you」は、根本的には「花の唄」と同じく情念めいたものが渦巻いている曲なんですけど、「花びらたちのマーチ」は打って変わってカラッとしてますね。この曲も歌入れする前のデモの時点でメロディラインが大好きで、「歌詞を乗せなくてもいいんじゃないか?」と思ったぐらい美しい曲だったんですよ。なので、自分にできる限りのいい声で歌おうと思って。それでいてこの「花びらたちのマーチ」は、歌詞にも表れているんですけど、「幼さ」というのを1つのテーマにしていて。
──それは、その美しいメロディから幼さを感じたということ?
幼さそのものというよりは、純粋さや、透き通った何かを感じたので、少女みたいに、かつ丁寧に歌いたいなと。あとで自分で聴いたら「どちらかというと少年に近いのでは?」とも思ったんですけど(笑)。でも、それが自分の声でもあるので。
──歌詞の内容はベスト盤の「blanc」に収録されていた「March of Time」を想起させますね。要は、春を別れの季節と捉えている(参照:Aimer「BEST SELECTION "blanc"」「BEST SELECTION "noir"」インタビュー)。
その通りで、卒業をモチーフにした歌詞をまた書きたいと思ったんです。ただ「March of Time」はちょっと寂しげで、後ろを振り返っている、もしくはその場にとどまっている感じがあったんですけど、今回は同じ「マーチ」でも、より前に進んでいける春の曲にしようと。実は今回のシングルは、「春」という裏テーマがあるんですよ。
──そういえば「I beg you」の歌詞にも「きずな結んだ遠い春の日の」という一節がありますね。
その「遠い春」を求めて、迷子になっている蝶、つまり「lost butterfly」(「Fate/stay night [Heaven's Feel]」第2章のサブタイトル)を歌っている曲でもあるんです。やっぱり「Heaven's Feel」の桜に限らず、誰もが春を目指して旅をしていて、なおかつ春を迎えればまた新たに旅立っていく。そういう春を描けたらいいなと思って。私自身も前向きに旅立っていきたいし、前向きに誰かを見送りたいし。なので「マーチ」という言葉も、「3月」という意味もあるんですけど……。
──「行進」という意味もありますね。
はい。と言ってもこの曲は全然行進曲ではないんですけど(笑)。1月のリリースなので、まだちょっと春には早いかもしれませんが、そういう季節を迎えたらまた聴いてもらえる曲になったらうれしいです。
「I beg you」と対になる「Sailing」
──もう1つのA面曲「Sailing」も、同じくAimerさん作詞、飛内さん作曲です。
またA面の曲が多いですね(笑)。
──やはりここでも空気がガラッと変わりますよね。「花びらたちのマーチ」は陽の光を感じるような曲でしたが、「Sailing」は夜のバラードという印象を受けました。
確かに。今回のシングルの収録曲はそれぞれまったく曲調が違うし、それぞれ違った歌のアプローチができたということにも満足しています。この「Sailing」は「レ・ミゼラブル 終わりなき旅路」というドラマの主題歌というありがたいタイアップをいただきまして。台本を拝読したところ、運命に翻弄されながらも前に進んでいくというのが1つの主題になっていたんですね。そういう人生観を、ドラマのサブタイトルにある「旅路」とも重ねて、ちょっとベタなんですけど「航海」に例えて。なおかつ、人生において過ちを犯してしまっても、きっとやり直せるという気持ちも込めて歌詞を書きました。
──Aimerさんはかねてから「曲の中で相反するものを表現したい」とおっしゃっていましたが、「Sailing」を聴くとAimerさんの歌声には儚さと力強さが同居しているのがよくわかりますね。
うれしいです。実際、この曲ではそれを思い切り込めました。曲自体のアレンジも紆余曲折あって、最終的にサビとそれ以外のパートでダイナミクスの幅がすごく大きくなったんですよ。だからAメロ、Bメロは息絶えそうなぐらい静かに、だけどサビはすごく力強く歌って。私の中で、このシングルでは「Sailing」と「I beg you」はある意味、対になっていると思っているんですね。つまり同じ力強さでも、「Sailing」の自分の声はちょっと太くて、一方「I beg you」はもっとドロドロしてるというか(笑)。
──力強さの質が違う。あと、Amierさんは「バックで楽器が鳴っていないとき、一番声が立つときの歌い方に執着する」ともおっしゃっていましたが、それもわかる気がしました(参照:Aimer with chelly(EGOIST)「ninelie」インタビュー)。
いやあ、ホントにそうですね。この曲の静かなパートの表現は骨を折りました。特に今回は、5曲目に「ポラリス」のリミックスを入れているんですけど、それと比べるといろいろ思うところはあります。ただ以前は、過去の自分の歌が拙くてあんまり好きじゃなかったというか、むしろイヤで、全部歌い直したいって思うこともあったんです。でも最近は段々、昔の自分の歌もちゃんと受け入れたいなっていう気持ちが強くなっていて。なので改めて今「ポラリス」を聴いて、なんか泣けてきましたね。リミックスしていただいたことで、あのときの、ああいう表現しかできなかった、でも一生懸命だった自分に対して「それでよかったんだよ」って言ってもらえてるみたいな気がして。
私のはビブラートじゃなくて、震えてるだけ
──「ポラリス」の話題は一旦置いておいて、4曲目の「Mine -Mellow Yellow ver.-」はセルフカバーです。こちらは今回のシングルの裏テーマである「春」つながり?
そうです。「Mine」も春をテーマに作った曲だったので。あと、今年の6月に、ARIA STRINGS(スロヴァキア国立放送交響楽団)の皆さんをお迎えした初めてのフルオーケストラライブで、この曲をひさしぶりに歌ったんですよ。そのときに「やっぱり、この曲いいなあ」と思って(参照:Aimer、特別なひとときをオーケストラと歌い紡いだ夜)。
──同意します。「Mine -Mellow Yellow ver.-」はオリジナルバージョンと比較して、特に高音が伸びやかですね。
ありがとうございます。この曲は、シングル収録曲の中では一番そっと歌っている曲で、オリジナルとのギャップを付けようという意図もありました。なので、聴いてもらう人にもよると思うんですけど、最近の曲にはなかった、ちょっとエアリーな感じがあるかなって。あと、フルオーケストラライブで改めてオーケストラアレンジしたときに、この曲はロングトーンが気持ちいい曲だと気付きまして。昔はそのロングトーンがちょっと苦手だったんですけど、今は思うように、自由にそういう表現ができるようになっているので、この曲の魅力をより引き出してあげられたんじゃないかと思います。
──変なこと聞きますけど、Aimerさんのビブラートって、正式な“ビブラート”ですか?
厳密に言うと、私のはビブラートじゃないです。声が震えてるだけ(笑)。
──震えてるだけ(笑)。その「震え」の効果が曲によって全然違うのが面白かったんです。例えば「Sailing」からは切実さみたいなものを感じたのですが、「Mine -Mellow Yellow ver.-」のほうはもっと柔らかくて優しい感じと言いますか。
ありがとうございます。やっぱりそれも、7年かけていろんな声色や表現の仕方を必死で身に付けてきた結果だと思います。確かに私のビブラートは本来のビブラートとは違うものなんですけど、例えば先ほども言った「I beg you」の、私が一番気に入っている2サビのあとの部分でも震わせてるんですね。だからある意味、優しく歌えば消え入りそうにもなるし、逆に強く、激しく揺らせば凶器みたいなものにもなるんですよ。それは意識的に使い分けているので、そういうのを感じていただけたのであればうれしいです。
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今回のシングルは狂ったように何回も聴いた
- Aimer「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」
- 2019年1月9日発売 / SME Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
1890円 / SECL-2366~7 -
通常盤 [CD]
1350円 / SECL-2368 -
期間生産限定盤 [CD]
1620円 / SECL-2369
- CD収録曲
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- I beg you
- 花びらたちのマーチ
- Sailing
- Mine -Mellow Yellow ver.-
- ポラリス(haruka nakamura ursa remix)
- 初回限定盤DVD収録内容
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Aimer Fan Club Tour "été"
- After Rain
- 7月の翼
- 星の消えた夜に
- Re:pray
- Ref:rain
- tone
- セプテンバーさん
- Black Bird
- 夏草に君を想う
- ツアー情報
Aimer Hall Tour 18/19 "soleil et pluie" -
- 2019年1月13日(日) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2019年1月14日(月・祝) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2019年1月18日(金) 新潟県 新潟テルサ
- 2019年1月20日(日) 石川県 本多の森ホール
- 2019年1月25日(金) 大阪府 フェスティバルホール
- 2019年1月26日(土) 大阪府 フェスティバルホール
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。以降、「夏雪ランデブー」「機動戦士ガンダムUC」といったアニメ作品のテーマソングを担当。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、1万3000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。2019年1月に劇場版「『Fate/stay night[Heaven's Feel]』II.lost butterfly」の主題歌「I beg you」を収めたトリプルA面シングルを発表した。