Aimerが2019年第1弾作品となるシングル「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」をリリースした。
現在開催中のツアー「Aimer Hall Tour 18/19 "soleil et pluie"」の合間を縫って制作されたシングルは、劇場版「『Fate/stay night[Heaven's Feel]』II.lost butterfly」の主題歌「I beg you」、Aimer自身が作詞を手がけた「花びらたちのマーチ」、フジテレビ開局60周年記念ドラマ「レ・ミゼラブル 終わりなき旅路」の主題歌「Sailing」を収めたトリプルA面。中でも梶浦由記がプロデュースを手がけた「I beg you」は複雑な展開が印象に残るナンバーで、Aimerにとってチャレンジの多いレコーディングだったという。
作品ごとに進化を続けるAimerが、本作の制作では何を得たのか。収録曲の解説と共に丁寧に語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝
絶対に私が歌いたい
──「I beg you」は、「花の唄」に続いて再び梶浦由記さんプロデュースですね。「花の唄」もかなり強烈でしたが、また今回も……(参照:Aimer「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」インタビュー)。
強烈ですよね。「I beg you」は、聴いた人がどう受け取ってくれるのかがすごく気になるというか、こんなにも聴く人の反応が想像つかない曲は初めてです。自分としては、今も何回も何回も聴いてるぐらいこの曲が大好きではあるんですけど、確実に今までの自分にはなかったタイプの曲ですし、いろんな意味でまた梶浦さんが衝撃を更新してくださって。
──不穏かつどこかエキゾチックなメロディで、多様な展開もあって、ビートはダンサブルな曲です。
やっぱり「花の唄」も自分でもすごく好きで、なおかつ劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」第1章のストーリーや(ヒロインの1人である間桐)桜の心情をこれ以上ないぐらい歌い切った曲だったので、2章はどうなるのか予想できなくて。そこへ、想像をはるかに超えるデモがきてしまって……まずはそれを歌えるのがホントに楽しみでした。
──今までになかった、かつご自身の想像を超える曲を歌うことに対して「楽しみ」っていう感情が先立つんですね。不安や戸惑いではなく。
7年活動してきたことで自負というものも生まれてきたのかもしれません。「I beg you」は、おそらく今までのキャリアの中で一番歌が難しかった曲なんですよね。だからこそ逆に武者震いがしたというか、「歌いこなしてやる」という気持ちが掻き立てられたし、「絶対に私が歌いたい」と強く思いました。
取扱注意な多重人格ソング
──「花の唄」のレコーディングでは事前に設定を考えて「女性的な情念みたいなものを、マイルドに包み込むような方向で」歌われたとおっしゃっていましたが、今回は?
ホントに、今までこんな曲はなかった……って何回も言いますけど、そういう曲なんですよ。普段だったらある程度「こういうふうに歌いたいな」っていう気持ちが浮かんでくるものなんですけど、「I beg you」に関してはどうにでも歌えるというか、選択肢がありすぎて。なので、最初に梶浦さんと「どういうふうに歌ったらいいでしょうか?」とお話ししまして、そのときは「もう、この曲は十分衝撃的な曲なので、ボーカルはフラットにさりげない感じで歌ってみましょう」と落ち着いたんです。
──でも、できあがった歌は「フラット」とは正反対ですよね。
そうなんですよ。いざレコーディングが始まったら「もっと感情的に歌ってみようか」って、どんどん熱を帯びていって、最終的にもう振り切れちゃいました。なので今回は設定云々はある意味無意味で、この曲に導かれるままに歌ったらこうなった、あるいはこの曲に自分の歌を引き出されたような格好ですね。それは自分としても、表現者として興味深かったし、梶浦さんのディレクションも「花の唄」のときは「自由に歌ってください」とおっしゃっていたんですけど、今回はやり取りの中でいろいろリクエストしてくださったので、それぐらい取扱注意というか(笑)。
──取扱注意(笑)。
曲の展開にしても、予想もつかない展開をしていく曲だと自分では思ってるんです。特に2サビが終わったあとのDメロがそうで、あと間奏後のEメロからラスサビにしてもそうだし、そもそもAメロのメロディラインからして……。
──だいたい全部ですね。
あはは(笑)。とにかく面白いのが、パートごとにいろんな人格がいること。つまり多重人格なんです。だから梶浦さんのほうでも、曲の部分ごとでリクエストがガラッと変わったりして。そうやって細かくディレクションしてくださったのもうれしかったし、とりわけラスサビは「もう、泣いちゃってください」と。それに応えられた、感情的な部分を出し切れたという点でも満足しています。
曲によって引き出された、自分にとって誇らしい表現
──「花の唄」とは対照的ですね。「花の唄」はあらかじめ決めたプランに沿って歌い、レコーディング自体も「つるっと」終わったとおっしゃっていましたし。
そうですね。「花の唄」はそこに選択肢があまりなかったというか、自分の中で歌のイメージが明確になっていたんですけど、「I beg you」は規格外すぎて。まず単純に、ものすごく難しい曲なんですよ。特にAメロは、生まれて初めてレコーディングで楽譜を見ながら歌ったんですよね。そうしないと、ちょっと怖かったくらいで。
──文字通り“取扱注意”だったんですね。
それでいて、やっぱりそういう曲を歌えることはボーカリストにとって大きな喜びでもあるんですね。表現者冥利に尽きるというか。先ほど「多重人格」という言葉を使いましたけど、この曲はホントに場面ごとに引き出されるものが全然違っていて。例えばAメロは達観しつつ自分を嘲っている感じなんです。他方でサビは狂気じみたところがあって。
──なるほど。
私が一番気に入ってる表現は2サビのあとの「ひとつに溶けてしまいましょ」から始まるパートなんですけど、ここはちょっと怒っているし、あきらめてもいるし。その次のEメロはすごく美しいけれど、悲しさがにじんでいて。で、最後のサビはやっぱり狂っているんですど、私の中では“笑い泣き”っていう感じなんです。例えば神妙な顔をしている人がいきなり泣き出すよりも、「あはは」って笑っている人がいきなり泣き出したほうが怖いですよね。
──怖いです。そうやって「引き出される」ことになったのは、当然梶浦さんが書かれた歌詞も影響していますよね?
はい。歌詞については、いわゆるパワーワードが並んでいるというか。ランダムにどこか一節を切り取ってみても、それだけで字面の何十倍も想像が膨らんでくるくらいの密度があるし、その力は大きかったと思います。私は自分以外の方が書かれた歌詞に対して、その歌詞の登場人物の気持ちを想像して歌うことって実はあんまりなくて。逆に何も考えないで、言葉に引っ張られていくほうが自分には合ってるんです。そういう意味でも今回は、まったく平静ではいられなくなって。
──引っ張る力、めっちゃ強いですよね。
しかも引っ張られた結果、今の自分の持っている声や表現の仕方と波長が合うのを感じたんですね。自分がこの7年間で手に入れてきた技術や声色、その他もろもろ全部がなかったら歌えなかった曲だし、それらを詰め込めたという手応えをどの場面にも感じていました。
──最初におっしゃった通り、「I beg you」は今までAimerさんが歌われてきたどの曲とも違うけれども、Aimerさん以外の方が歌うのを想像できない曲になっていると思います。
ありがとうございます。梶浦さんも「花の唄」に関しては「Aimerの歌」という前提で作ってくださったんですけど、「I beg you」は「ちょっともうわからない。もしかしてイメージとは違うかもしれない」っておっしゃっていたんです。自分としても、今まで歌ったことがなかったという意味ではそうなんですけど、この曲によって引き出された表現が、自分にとってすごく誇らしいものなんですよね。だから、できることなら何回も細部まで聴いてほしい曲です。
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歌詞を乗せなくてもいいんじゃないか
- Aimer「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」
- 2019年1月9日発売 / SME Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
1890円 / SECL-2366~7 -
通常盤 [CD]
1350円 / SECL-2368 -
期間生産限定盤 [CD]
1620円 / SECL-2369
- CD収録曲
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- I beg you
- 花びらたちのマーチ
- Sailing
- Mine -Mellow Yellow ver.-
- ポラリス(haruka nakamura ursa remix)
- 初回限定盤DVD収録内容
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Aimer Fan Club Tour "été"
- After Rain
- 7月の翼
- 星の消えた夜に
- Re:pray
- Ref:rain
- tone
- セプテンバーさん
- Black Bird
- 夏草に君を想う
- ツアー情報
Aimer Hall Tour 18/19 "soleil et pluie" -
- 2019年1月13日(日) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2019年1月14日(月・祝) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2019年1月18日(金) 新潟県 新潟テルサ
- 2019年1月20日(日) 石川県 本多の森ホール
- 2019年1月25日(金) 大阪府 フェスティバルホール
- 2019年1月26日(土) 大阪府 フェスティバルホール
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。以降、「夏雪ランデブー」「機動戦士ガンダムUC」といったアニメ作品のテーマソングを担当。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、1万3000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。2019年1月に劇場版「『Fate/stay night[Heaven's Feel]』II.lost butterfly」の主題歌「I beg you」を収めたトリプルA面シングルを発表した。