Aimerがベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を2枚同時リリースする。
「blanc」はデビュー曲「六等星の夜」をはじめ、野田洋次郎(RADWIMPS)楽曲提供による「蝶々結び」、最新シングル「茜さす」など、優しくも心に染みるバラードを中心に選曲。一方の「noir」は「StarRingChild」「Brave Shine」といったヒット曲のほか、Taka(ONE OK ROCK)楽曲提供による「insane dream」など力強くエモーショナルな楽曲群が収録され、どちらも新曲を含む全14曲入りとなっている。
メジャーデビューから5年強におよぶ軌跡を集約した本作のリリースに際し、音楽ナタリーでは彼女にとってターニングポイントとなった楽曲をピックアップしながら、そのキャリアを振り返ってもらった。
取材・文 / 須藤輝
イントロが流れるだけで「歌ってよかったな」と思える曲
──今回は、Aimerさんにとってターニングポイントになった、あるいは特に思い入れの強い曲にスポットを当てながら5年強の活動を振り返っていければと思います。まず、デビューシングル「六等星の夜」(2011年9月リリース)に触れないわけにはいかないですよね。
「六等星の夜」は、今でも私にとって一番思い出深い曲ですね。この曲で初めてAimerという存在を知ってもらえて、初めてAimerの声を「いいね」って言ってくれる人に出会えたわけですし。なので、この曲のイントロが流れてくるだけで「歌ってよかったな」って思うくらい好きな曲です。
──「六等星の夜」は「blanc」の1曲目に収録されていますから、CDを再生した瞬間、ファンの方も同じような気持ちになると思います。
そうなってくれるとうれしいですね。この曲には、自分の中にある、いい意味で厭世的な部分が色濃く出てると思うんです。今も大事にしていることなんですけれど、悲しさとうれしさを両方表現したいっていう気持ちが込められていたり、あるいは物語の終わり方をハッピーエンドと取るか、バッドエンドと取るか、聴く人に委ねていたり。そういう意味でも、Aimerの原点っていう感じがしますね。
自分が人間として一番誇れるのは、人に恵まれているところ
──この「六等星の夜」からAimerさんはバラードを中心に歌われてきましたが、澤野弘之さん作詞・作編曲の「RE:I AM」(2013年3月リリース)で初めてロックテイストの曲を歌われました。過去のインタビューでは、この曲を歌うことで「ボーカリストとして1回生まれ変われた」とまでおっしゃっています(参照:Aimer「Midnight Sun」「UnChild」特集)。
はい。それまではagehaspringsと一緒に楽曲を作ってきたのを、初めてそうではない方と、つまり澤野さんとご一緒したという意味でも、「RE:I AM」はターニングポイントになった曲です。もちろん、今おっしゃったように初めて力強い曲を歌ったという意味でも。「RE:I AM」を境に、それまでバラードを歌ってきたときとは別の何かを手に入れないと表現できないものがあるということに自覚的になりましたから、言わば新しい道を開いてくれた曲ですね。
──仮に、このとき澤野さんとお仕事をしていなかったら今どうなっていたと思います?
想像したことなかったですね。どうなってたんだろう……きっと、運命なので(笑)。
──運命ですか。
私は、自分が人間として一番誇れるのは、人に恵まれているところだと思っているんです。それくらい、出会う方々に運命を感じることが多くて、その出会いに導かれてここまで来られたという気持ちが強いんですね。この「RE:I AM」にもそれをすごく感じますし。バラードを集中的に歌っていた当時の私にしても、いずれは違った曲調にも挑戦したいっていう気持ちが芽生えていたのかもしれないんですけど、まだそういう意識がなかったころに澤野さんからお声がけいただいたので余計に。
──期せずして、運命的に力強い歌を歌うことになった。
歌っているときはですね、正直「ここから私の新しい道が始まるんだ」と思っていたわけではなくて、「いつもとはちょっと違うな」くらいの、わりとニュートラルな感覚だったんです。もちろん、歌ってみたいと思わせる、今までにない興味深い曲だなとは感じていたんですけれど、この先にある意味で苦難の道が待っていようとは(笑)。
──苦難の道(笑)。でも結果的に、この「RE:I AM」が「noir」の下地になっているようなところもありますよね。
その通りですね。「RE:I AM」から、歌詞だけでなく歌声においても、正反対なもの、例えば儚げな一面があったとすれば、それとは180°異なる揺るぎない強さも必要なんだと思ったので、そういった相反する何かを表現することが、自分の歌の足場になっている感覚はありますね。
死を前提にしているから、今を能動的に生きられる
──「相反する何かを表現する」という意味でも、「blanc(白)」と「noir(黒)」という2色は、Aimerさんのスタイルを象徴していますよね。
本当に、ベストアルバムのタイトルとして、自分でもぴったりだなって思います。音楽とは関係ないかもしれないんですけど、私は私服でも白か黒しか着ないくらいなので。
──公式ファンクラブの名前も「Blanc et Noir」ですから、かねてからその2色に思い入れがあったとは思うのですが、そもそも相反する何かを表現したいという欲求って、どこから来るのでしょう?
たぶんそれは、自分の価値観が影響していると思います。例えばある風景を観て、それを美しいと感じて涙が出てくる瞬間があったとしたら、必ずその土台には、いつか自分が死んでしまってこの景色が観られなくなるっていう、後ろ向きの感情があるんです。逆に言えば、いつか観られなくなってしまうという気持ちがあるからこそ、今この瞬間に観える景色を美しいと思えるというか。昔から、心が動かされるときには、常に自分の中に相反するもの、対立するものが存在してるなって思うんです。
──無常観みたいなものでしょうか。もうお花見のシーズンは過ぎてしまいましたが、桜を愛でる気持ちと似ていますね。
あっと言う間に散ってしまいますからね。でも、だからこそ美しさが際立つし、咲いている姿を見ておきたいと思う日本的な価値観ですよね。それと同じで、常に死を意識しているというのはすごく厭世的、悲観的なことかもしれないんですけど、逆に死が前提にあるから、今を能動的に生きられるんじゃないかって。
──Aimerさんは以前のインタビュー(参照:Aimer with chelly(EGOIST)「ninelie」インタビュー)で、「私が消えてしまっても歌だけは残ると信じている」とおっしゃっていました。
はい、そうですね。確かに。
──つまり、Aimerさんは物事が有限であることに価値を見出している一方で、歌に関しては永遠であってほしいと願っている。それもまた相反する気持ちなのですが、相反するからこそAimerさんの中では矛盾がないという、ちょっとややこしいロジックが成立するのかなと、ふと思ったのですが。
なるほど(笑)。でも記録や記憶としての歌が残る一方で、今この瞬間に発した歌声自体は、次の瞬間には消えてしまうものでもあるので、やっぱりそこにも相反するものがある気がします。
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夜の物語を終わらせることに対して不安はあったけれど
- Aimer「BEST SELECTION "blanc"」
- 2017年5月3日発売 / SME Records
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初回限定盤A
[CD+Blu-ray]
3980円 / SECL-2139~40 -
初回限定盤B [CD+DVD]
3580円 / SECL-2141~2 -
通常盤 [CD]
2980円 / SECL-2143
- DISC 1(CD)収録曲
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- 六等星の夜
- 蝶々結び
- あなたに出会わなければ~夏雪冬花~
- ポラリス
- Re:pray
- 星屑ビーナス
- broKen NIGHT
- カタオモイ
- 君を待つ
- 茜さす
- 雪の降る街
- everlasting snow
- March of Time
- 歌鳥風月
- DISC 2(初回限定盤Blu-ray / DVD)収録内容
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- 「蝶々結び」MUSIC VIDEO
- 「Re:pray」MUSIC VIDEO
- 「あなたに出会わなければ~夏雪冬花~」MUSIC VIDEO
- 「ポラリス」MUSIC VIDEO
- 「君を待つ」MUSIC VIDEO
- 「カタオモイ」MUSIC VIDEO
- 「broKen NIGHT」MUSIC VIDEO
- 「茜さす」MUSIC VIDEO
- 「雪の降る街」MUSIC VIDEO
- 「everlasting snow」MUSIC VIDEO
- 「六等星の夜」MUSIC VIDEO
- 「寂しくて眠れない夜は」LIVE from Aimer Hall Tour 2016@東京国際フォーラム ホールA(2016/11/06)
- 「夏草に君を想う」LIVE from Aimer Hall Tour 2016@東京国際フォーラム ホールA(2016/11/06)
- Aimer「BEST SELECTION "noir"」
- 2017年5月3日発売 / SME Records
-
初回限定盤A
[CD+Blu-ray]
3980円 / SECL-2144~5 -
初回限定盤B [CD+DVD]
3580円 / SECL-2146~7 -
通常盤 [CD]
2980円 / SECL-2148
- DISC 1(CD)収録曲
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- StarRingChild
- Brave Shine
- insane dream
- Stars in the rain
- 眠りの森
- LAST STARDUST
- 凍えそうな季節から -extended ver.-
- 誰か、海を。
- ninelie
- holLow wORlD
- us
- s-AVE
- RE:I AM
- zero
- DISC 2(初回限定盤Blu-ray / DVD)収録内容
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- 「凍えそうな季節から」MUSIC VIDEO
- 「Stars in the rain」MUSIC VIDEO
- 「Brave Shine」MUSIC VIDEO
- 「us」MUSIC VIDEO
- 「誰か、海を。」MUSIC VIDEO
- 「眠りの森」MUSIC VIDEO
- 「insane dream」MUSIC VIDEO
- 「RE:I AM」MUSIC VIDEO
- 「ninelie」MUSIC VIDEO
- 「StarRingChild」MUSIC VIDEO
- 「s-AVE」MUSIC VIDEO
- 「ninelie」LIVE from Aimer Hall Tour 2016@東京国際フォーラム ホールA(2016/11/06)
- 「Cold Sun」 LIVE from Aimer Hall Tour 2016@東京国際フォーラム ホールA(2016/11/06)
- Aimer Live in 武道館 “blanc et noir”
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- 2017年8月29日(火)東京都 日本武道館
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるアクシデントの末に独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化し、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以降、「夏雪ランデブー」「機動戦士ガンダムUC」といったアニメ作品のテーマソングを担当する。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2015年7月に3rdフルアルバム「DAWN」をリリース。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行う。