音楽ナタリー PowerPush - Aimer
折り重なる必然と偶然が生み出す4つのコラボ
不穏や退廃を考察することの無粋さ
──青葉さんの詞はいかがでした? 「誰か、海を撒いてはくれないか」「廃墟の屋上にたどり着く 綿毛の囁きをかこむ」とすごく抽象的な言葉が並んでいますけど。
以前から市子さんの曲は聴かせていただいていて、特に市子さんの選ぶ言葉がすごい好きなんですけど、今回の歌詞もやっぱり素晴らしいなと思っています。おっしゃる通り1語1語、ワンフレーズワンフレーズはすごく詩的。不穏で退廃的で抽象的なワードが多いんですけど、歌詞全体を眺めてみるとすごくクリアに情景が浮かんでくる。ジャケット写真のように水面から日の光は差しているものの自分は暗い深海に佇んでいる情景が浮かび上がってきたこともあって、歌いやすかったですね。
──あっ、歌いやすかったですか。Aimerさんは以前から「ポジティブとネガティブのような相反する何かを歌っていきたい」と言っていたから、不穏な感じ、退廃的な感じに振り切った「誰か、海を。」を歌うときは表現の仕方がまた変わるんじゃないのかな、という気もするんですけど。
確かに取り組み方は変えましたね。作詞家さんに歌詞を書いていただいた曲を歌うときは、とにかく歌詞を読み込んでその意味や理由を考え抜いてからボーカルブースに入ってたんですけど、「誰か、海を。」に理詰めで向き合うのは無粋な感じがしたんです。
──「無粋」?
相反する何かについてであれば、やっぱり相反する理由や意味を考えなければならないし、考えたいんですけど、振り切れるまでに不穏で退廃的であることに理由や意味なんてないと思うので。そこにムリに理由や意味を与えてしまうと、それこそ不穏で退廃的ではなくなってしまう。なのでとにかく言葉とメロディに触発されて生まれた感情を歌声に乗せることだけを考えるようにしました。
Aimer、野獣のように歌う
──そういう新しいアプローチを模索しながらもスムーズに歌えた、と。
はい。それには情景を思い浮かべられたこと以外にもいくつか理由があるんですけど、まずレコーディングのとき菅野さんから「君はもっと野獣になったほうがいい」ってすごく印象的な言葉をいただいていて(笑)。
──あはははは(笑)。
でもその言葉を聞いたとき「あっ、この曲はそういうふうに歌ったほうがいいんだろうな」って確かにしっくりくるものがあったから、思うがままに歌えたのかなという気はしています。
──その菅野さんとのレコーディングっていかがでした?
すごく刺激的でした。「野獣のように」のひと言をいただけたことで自分の中にあったストッパーのようなものを外せた実感はありましたし、あと間奏部分の録り方がすごく印象的で。
──ソプラノからアルトまでAimerさんのコーラスがいくつも重なっていますよね。これも「誰か、海を。」の不穏な感じや退廃的な感じを強調している大きな要素になっています。
たいていの場合コーラスを録るときって、最初にスコアを渡されたり、デモを聴かせていただいたりして全体像を教えてもらうんですけど、今回は菅野さんから「じゃあこう歌ってみて」と言われるがままにそれぞれのパートを1つひとつ歌っていて。すべてを録り終えるまで私には全貌がわからないままだったんです。しかもその声の重なり方が普通じゃなかったというか(笑)。改めて完成した音源を聴いてみると、すごく斬新な響きのコーラスになっていて。「この音とこの音がこんなふうに重なり合うのか」「自分の声ってこんなふうに響かせることができるのか」って菅野さんの凄さっていうのを改めて思い知らされました。
劇伴作家の作るテーマソング
──そして、思うがままに歌えた別の理由は?
菅野さんが「テロル」のサントラを手がけている方だからっていうのも大きな影響を与えているんだと思ってます。
──劇伴作家の作るエンディングテーマは思うがままに歌える?
これは澤野(弘之)さんの作った「StarRingChild」(アニメ「機動戦士ガンダムUC episode 7 ~虹の彼方に~」主題歌)もそうだったんですけど、サントラを手がけている方がテーマソングを作る場合、そのメロディやアレンジにはアニメの世界観や雰囲気が当然含まれているので。だからボーカリストである私はそこに安心して体や気持ちを預けられる。楽曲の世界を表現することに集中できるんですよね。
──実際「誰か、海を。」はそう歌いながらも、アニメのテーマ曲として正しく機能していますよね。街では爆弾テロが絶えないし、その主犯格の男の子たちには何か過去がありそうだし、何者かが原子力開発施設から核燃料をかっぱらったらしい。明らかに不穏な「テロル」の世界にすごくハマる曲になっています(笑)。
ありがとうございます(笑)。レコーディング前のプリプロのとき、菅野さんが「この曲、すごく君に合ってるね」って言ってくださったのもアニメの世界に寄り添えた理由になっているんだと思います。そのひと言のおかげで「こういうふうに歌っていいんだ」「私の曲に対するイメージは間違ってなかった」と確信を持てたので。
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- ミニアルバム「誰か、海を。 EP」2014年9月3日発売 / DefSTAR Records
- 期間生産限定盤 [CD+DVD] 1800円 / DFCL-2080~1
- 通常盤 [CD] 1500円 / DFCL-2079
CD収録曲
- 誰か、海を。
- 白昼夢
- for ロンリー with 阿部真央
- 眠りの森(Kazuki Remix) with Yuuki Ozaki(from Galileo Galilei)
- Cold Sun(Ryo Nagano Remix)with 永野亮(APOGEE)
- 誰か、海を。(TV size)
- 白昼夢 (TV edit)
- 誰か、海を。(instrumental)
期間生産限定盤DVD収録内容
- 「残響のテロル」ノンクレジットエンディングムービー
Aimer(エメ)
女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるアクシデントの末に独特の歌声を獲得。2011年から音楽活動を本格化し、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、作曲家・澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。そして同年9月菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表。