山崎彬

私と音楽 第48回 [バックナンバー]

山崎彬が語る銀杏BOYZ

僕らはずっと銀杏を聴くしかない

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各界の著名人に愛してやまないアーティストについて語ってもらう連載「私と音楽」。第48回となる今回は、舞台演出家・山崎彬に話を聞いた。

自身が立ち上げた劇団・悪い芝居の全公演で脚本・演出を手がけるほか、近年は「『HUNTER×HUNTER』THE STAGE」「LIVE STAGE『ぼっち・ざ・ろっく!』」といったマンガ原作の舞台の演出でも活躍している山崎。そんな彼の人生に大きな影響を与えたのが銀杏BOYZなのだとか。人生を左右するほどの衝撃をもたらした銀杏BOYZとの出会いは、果たしてどのようなものだったのか。その思いの丈を語ってもらった。

取材・/ 張江浩司 撮影 / 坂本陽

「はい、わかりました。就職しません」

銀杏BOYZを初めて聴いたのは大学生の頃ですね。それまではゆずやaiko、浜崎あゆみ、Dragon Ashとかを聴いていました。3歳下の弟は青春パンクが好きだったんですけど、「なんかガチャガチャしててうるさいな」と思ってて(笑)。みんなが好きな音楽をみんなと同じように愛する、平和な趣味だったんです。そんな中、2003年に「アイデン&ティティ」という映画を観たんですよ。みうらじゅんさんのマンガが原作で、宮藤官九郎さんが脚本、田口トモロヲさんが監督、そして峯田(和伸)さんが主演。それが峯田さんとの出会いでした。バンドマンがブームに翻弄されつつも自分の進むべき道を見つけるという内容で、ボブ・ディランの「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」という歌詞の一節(※1975年発表の「Buckets of Rain」)を峯田さんがラストに言うんです。当時、演劇をやりながら将来どうしようかと思っていた僕は、「はい、わかりました。就職しません」と(笑)。

そこからゴイステ(GOING STEADY)も聴いてみて「あ、弟がカラオケで歌ってた曲だな」と思ったり、峯田さんのブログを読んだりしていたら、2005年1月15日に「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」「DOOR」とアルバムが2枚同時に出たんです。で、そのインタビューが載っている「ROCKIN'ON JAPAN」を買って読んだら、最初に「1977年12月10日生まれ」と書いてあって。僕もね、12月10日生まれなんですよ。これは出会うべくして出会ったんだなと。みんな、好きになったアーティストは「自分のことを歌ってる」と思うじゃないですか。僕はこのときもう22歳だったけど、そう思いましたね。ちなみに寺山修司と安田大サーカスのクロちゃんも同じ誕生日です。僕も含めて「闇がありつつもサービス精神旺盛」というのが共通点な気がしています。

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そこから銀杏BOYZにすごくのめり込んで。曲はもちろん、インタビューとかブログとか、峯田さんが発信する言葉がすごくしっくりきたんです。「ありのままでいるべきだ」みたいなメッセージを受け取っていたんですよね。今だったら信じられないようなエピソードとかも書いてあるけど、過激とも違うんです。本人は過激とは思っていなかったでしょうし。「『BABY BABY』に似てるような曲はもう作れないし、新しい曲はどんどんあふれてくる」みたいなことを言うけど、そのわりには全然新しいアルバムを出さないし、たぶん曲作りから離れている時間もあると思うんです。でも、そういう人間臭いところも好きで、ずっと追いかけてしまう。2014年に「光のなかに立っていてね」を出したときは、打ち込みでポップな曲調のものが多かったから「こんなの銀杏じゃない」という声もありました。でも僕は、そのときに作りたいものを素直に作っていることにグッとくるんです。それは自分も作り手だからかもしれません。昔のガチャガチャした曲も好きだし、そのあとのキラキラした曲も好き。バンドが背負っているドラマを含めて追いかけているんだと思います。いろんなバンドも聴くけど、銀杏ほど刺さる音楽はないんですよね。結局銀杏に戻っちゃう。

山崎彬が持参した、銀杏BOYZや峯田和伸にまつわる書籍などの数々。

山崎彬が持参した、銀杏BOYZや峯田和伸にまつわる書籍などの数々。 [拡大]

「自分のためにあるんだ!」と思わせる魔力

初めてライブを観たのは2007年の「RUSH BALL」(毎年関西で開催されているロックフェス)のとき。泥まみれでグシャグシャになるし、買ったばっかりのバンドTシャツも伸びてダルダルだし、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだと(笑)。それでも、その後も大阪にツアーに来たときはほとんど観に行きました。ライブでの、お客さんとの異様な距離の近さには影響を受けましたね。「ファンサービスのために近寄っていく」という感じじゃなくて、同じ目線にいるんですよ。僕らがやっている演劇はステージと客席がはっきり分かれていて、“2時間座って静かに観ましょう”という空気がある。それはそれで素晴らしい文化だけど、音楽のライブみたいな空間を作れないかなと思うこともあるんです。そういうときは、峯田さんの映像を観て研究します。自分が書いた舞台で、ステージから客席にダイブしたときは「銀杏っぽいね」と言われたりもしました。「ぼっち・ざ・ろっく!」の舞台も、曲調は全然違うけど、僕の中では銀杏とつながっている部分があって。峯田さんも演劇が好きなので、彼自身、小劇場的な演出に影響されていた部分もあると思いますし。

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今年の7月にもZepp DiverCity(TOKYO)でライブを観たんですけど、10代から20代前半くらいであろうお客さんたちがフロアで暴れていて。その世代というと、銀杏が最初のアルバムを出した頃に生まれた子たちですよね。あの頃に比べてライブハウスもきれいになったし、パンクとかロックも丸くなったと思うんです。いろんなものがクリーンになっていく世の中で、今でも銀杏の音楽を自分事として聴いてる若者がいる。太宰治の「人間失格」みたいに、銀杏BOYZにはいつの時代でも若者に「これは自分のためにあるんだ!」と思わせる魔力があるんだなと感慨深くなりました。

でも、基本的には「銀杏BOYZが好き」と言っても周りには通じないからあまり言わないようにしています。知ってる人は当然のように知ってるけど、知らない人はまったく知らない。カラオケで何か歌わなくちゃいけない場面で「青春時代」を入れたら、みんなにポカーンとされちゃったこともありますし。だから、街中で銀杏のTシャツを着てる人を見かけると目を合わせてうなずき合っちゃいますね。「俗世とは相容れないけど、お互い信じてやっていきましょうね」と会釈を交わす(笑)。秘密結社みたいなもんです。

Seisyun Jidai

俳優・峯田和伸の魅力

演出家としていろいろな俳優さんと仕事をしますけど、普段は俳優をやっていない人って、独特のリズムがあるんです。峯田さんにもそれがあって、あの人にしかできない演技があるんですよね。演じることにすごく敬意を払っていて、歌うときと同じように心で返すような演技をしている。あれは普通の俳優には真似できないです。

それと同時に、銀杏BOYZとしてステージに立っているときの峯田さんも、ある種演じていると思うんですよ。最初は完全に衝動的だったんでしょうけど、いつからか「銀杏BOYZの峯田」を演じるようになったんじゃないかと。MCも最近は漫談みたいな、練り上げられた空気を感じますね。伝統芸能化してきているというか、落語家さんが洋服から着物に着替えて舞台に上がるように、峯田さんも「銀杏BOYZの峯田」になってステージに上がっていると思う。これはある意味、僕たちファンの責任ですよね。僕たちがこういうバンドにしてしまった。銀杏BOYZに一番呪われているのは峯田さんかもしれない。

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僕は自分の作品を利益度外視で作ることもあるし、マンガ原作の舞台を演出させてもらうこともありますけど、どっちも自分の中ではそんなに違いはないんです。マンガ原作の舞台をやっていると、普段とは違うフィールドの創作に思われたり、「なんかいろいろやって忙しそうですね」と言われたりもしますけど、オリジナル作品を作るときとモチベーションは何も変わらない。それに普段の自分にはない発想でものを作ることは好きだし、そこにも自分のイズムを入れることはできる。峯田さんもいろんなことをやってますけど、「求められているところで力を発揮することに興味がある」というのはインタビューでも言っていて。そこにも共感しますね。

そういう「周りの考えを気にせず、思いのままにやっていくぞ」という感覚も銀杏BOYZから教わっていると思います。それはもしかしたら他人の気持ちを想像できる量が減っているということなのかもしれないけれど、自分にとって大事なものは大事にして、大事じゃないものは大事にしなくていいってことなんじゃないかなと、最近特に思います。本当に、いろんなところで影響を受けてますね。もはや銀杏BOYZは、僕の表現活動の指針ですね。

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銀杏BOYZに今でも食らえるということは

ポツドールの三浦大輔さんが作・演出して、峯田さんが音楽を担当した「裏切りの街」という舞台を観に行ったときに、一度峯田さんに挨拶させてもらったことがあるんです。僕は峯田さんが人見知りだって知ってるから、あんまり会いたくなかったんですけど、舞台関係者の知り合いが「こんな機会ないんだから、絶対会っておいたほうがいい」と言うので。覚悟を決めて終演後に楽屋に伺ったら、冷ややかでしたね(笑)。「おお、やっぱり峯田だ」と思いました。あそこで「え、銀杏好きなの? ありがとう!」みたいな対応をされても戸惑ったと思うんですよ。どっちにしても微妙な気持ちになるんだから、本当に好きな人とは会わないほうがいいですね。峯田さんは推しとは違うので。でも、もし「峯田さん出演の舞台を演出してほしい」という依頼が来たら、「時が来たな」と思って受けますね。出演者と演出家になれば、やっと会話ができると思います(笑)。

銀杏BOYZが担っている役割は特殊だし、自分たちがやってきたことを次の世代のバンドに継承しようなんて思わず、これからも好きにやってほしい。そのためにも、僕らはずっと銀杏を聴くしかないというか。昔のインタビューや本を改めて読み返したんですけど、20年前も今も峯田さんが言ってることは変わってなかったんですよ。ずっと一貫してるから、銀杏BOYZに今でも食らえるということは、僕もブレてないってことなんですよね。リトマス試験紙じゃないですけど、自分を測るものでもある。今でもまったく飽きないから、これからも音源とかグッズはすべて買って、お金を払って、何があっても見守ろうと思ってます。

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プロフィール

山崎彬(ヤマザキアキラ)

奈良県生まれの脚本家、演出家、俳優。2004年に立ち上げた劇団・悪い芝居の全公演で脚本・演出を務める。2024年には新プロジェクト「愛しのボカン大作戦」を始動。また、2.5次元舞台の演出も多数手がけており、近年の脚本・演出作に「『HUNTER×HUNTER』THE STAGE」「LIVE STAGE『ぼっち・ざ・ろっく!』」「舞台『五等分の花嫁』」「「舞台『忘却バッテリー』」など。

愛しのボカン大作戦
山崎彬 AKIRA YAMAZAKI (@ymzk_akr) ・X

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ひとみ @hitomi___nyan

彬さん!!!!! https://t.co/TGsTRf0hC9

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