「ゾッキ」竹中直人×山田孝之×齊藤工|1人でも欠けたら成立しない、“運命共同体”の3監督をつなげた映画への愛と希望

2人をチラ見させていただきました(山田)

「ゾッキ」より安藤政信演じる道場の師範代。

──安藤さんご自身、今回はちょっと変わった道場の師範代役で出演されていますね。今回はCharaさんが、主題歌の「私を離さないで」だけでなく作品全体の音楽監督も初めて務められていて。決して出すぎないけれど的確な音楽使いも素晴らしかった。ところで共同監督をするにあたり、クランクイン前に何かすり合わせなどは?

竹中 最終的なスタッフ打ち合わせはあったけれど、すり合わせみたいなものはなかったです。統一感を出す必要はないと思ってたし。

山田 それに、監督は3人いてもスタッフさんは共通ですからね。パートごとに出演者の顔ぶれも変わるし、何より同じ蒲郡で撮っているので。演出のリズムが多少変わっても、そこまでチグハグにはならないだろうって計算もありました。

──ご自分の監督パート以外には?

「ゾッキ」メイキング写真。手前左から山田孝之、竹中直人、齊藤工。

竹中 僕は立ち会ってませんね。ただ最初にお話ししたように、今回はところどころ3人のパートが重なり合うシーンがあるんです。例えばラストシーンには、僕が撮った「秘密」、孝之の「Winter Love」、工の「伴くん」の主要俳優が出てくる。そういうときは必然的に、現場に3人そろうことになりました。

山田 あのラストシーンはたしかクランクイン初日に撮ったんですよね。スタッフさんは微妙に緊張したんじゃないかな。「いったい、誰が現場を仕切るんだ!」ってね。

齊藤 確かに(笑)。ちなみに僕も、現場にいたのは自分のパートだけです。もちろん竹中監督、山田監督がどんな演出をされるのか興味はあったけれど、実際は自分の仕事で手一杯で。

山田 撮影期間中、工くんはずっと“割り”をしてたよね。

竹中 それはまったく知らなかったな(笑)。

山田 撮影が終わって居酒屋に行ったりすると、けっこうスタッフ同士で顔を合わせるんですよ。そんなとき、工くんは台本片手にふらっと入ってきてね。1人で黙々とカット割り作業に没頭していたと。スタッフさんの目撃談をよく聞かされました。そのうわさを聞いて俺、「すげーな」と思って。

齊藤 せめて雰囲気だけでも出しとかなきゃと思って(笑)。山田さんはかなり立ち会われたでしょう?

山田 はい。プロデューサーとして何かあったときには現場にいなきゃいけないですし。もともと裏方のサポートが性に合ってるんですよ。あと、今回のスケジュールはざっくり齊藤組、竹中組、山田組の順番だったので。お手伝いをしつつ演出を見て、2人がどんなふうに「ゾッキ」を切り取っているのかチラ見させていただきました(笑)。

山田監督のセンス恐るべしと(齊藤)

──すり合わせなしで、1本の映画としてここまでまとまっているのはすごいと思います。ちなみにご自分のパート以外で、特に印象的だったシーンを挙げるとすると?

「ゾッキ」より松田龍平演じる藤村。

竹中 うーん、どこか1つ切り取るのは難しいなあ。孝之の「Winter Love」はとにかく役者たちが粒立って魅力的で。自転車であてのない旅に出る青年の物語だけど、(松田)龍平の佇まいに圧倒されましたね。ただいるだけで絵になってしまう……。孝之との信頼関係なんだろうな。

山田 うれしい……。

竹中 工の「伴くん」はかなり変で切ない。こちらは少年2人の物語で、その2人のキャスティングが素晴らしかったです。齊藤監督のまなざしが深く伝わってきましたね。とても愛のある作品です。お二人とも自分の世界をしっかりと築き上げていて、僕は嫉妬しかなかった(笑)。でも本気で嫉妬しつつも、この作品だけで終わらせず、再びこのメンバーで次は何ができるだろう……ってそんな思いも抱きながら観てましたね。

──山田さんはいかがでしょう?

「ゾッキ」より左から竹原ピストル演じる父、倖田來未演じる足立の女房。

山田 そうですね。細かい部分で恐縮なんですが、齊藤監督の「伴くん」だと、語り手の牧田と親友の伴くんが、教室のカーテンの裏側でじゃれ合っているカット。逆光の具合が美しくて。あそこは映像としてバチッと焼き付いてますね。竹中監督の「父」では、竹原ピストルさん演じるダメ親父が倖田來未さん演じる足立の女房に会う直前に、公衆電話をかける後ろ姿かな。

竹中 え? それだけ?? でもあれは絶対撮りたいカットだったんだ。

山田 すみません(笑)。でも、あの特異なシーンを成立させるうえで、黄色い公衆電話の可愛いシルエットがめちゃめちゃ効いてると思ったんです。僕は今回、基本的にはありのままの蒲郡を撮ればいいと考えていたんですが、そこに1つ美術を飾り込むだけで全体の雰囲気がガラッと変わる。そうか、こういう使い方があるんだって学びました。

「ゾッキ」より満島真之介演じる旅人。

齊藤 僕も全編好きなシーンが目白押しなんですが、特に山田監督の「Winter Love」の前半。松田龍平さんと満島真之介さんが自転車で張り合うところが大好きですね。

竹中 あそこもいいよね! 満島くんの表情がたまらない。

齊藤 はい。あのロードレースもどきが、実は映画全体のリズムを作ってくれている気がしますし。あとは、音の演出が最高でした。自転車のチャリンチャリンという効果音が、だんだんバックの音楽と混じり合って。シーン全体のグルーヴを作っていく。

山田 あれはロケハン中、脳内で作曲してました。けっこう思い付きだったけれど。

齊藤 でも、シーンとして完璧に成立してましたもんね。山田監督のセンス恐るべしと。あと竹中組の「父」では、車内で交わされる親子の会話が最高でした。竹原ピストルさん演じるどうしようもない親父が、自分の通ってた高校に息子を乗せていって、夜の校庭に忍び込む。そこでとんでもない恐怖体験をしちゃうわけですが、行きの車内ではさんざん粋がっていたのが、帰りはまるでテンションが違うんですね(笑)。話してる内容は終始たわいないんですが、狭い空間だからこそ2人の距離感が際立って、本当の親子にしか見えないリアリティがある。あそこの演出は、本当に見事だなと。

「ゾッキ」

──「父」では誰もいない部室で、竹原ピストルさんがサンドバッグをたたくカットも鮮烈でした。昨今の日本映画ではあまり観られない、生っぽい身体性を感じさせる描写で。

齊藤 あのシーン。めちゃくちゃいいですよね。

山田 うん、あれは本当に素晴らしかった。決してキレキレじゃない、ちょっと鈍ってる部分や、息子の前で調子に乗ってるところも含めて、ちゃんと生身の男がそこにいるって感じがするんだよな。途中、明らかにハンガーで足を滑らせちゃったり。

齊藤 そうそう(笑)。

山田 アクシデントがリアルさを増している。いろいろよかったですよね。

竹中 ピストルが、ボクシングやってたのはまったく知らなかった。なので現場でたたいてもらったら本当にびっくり! これは絶対長回しだって思ったんだよね。それからピストルには赤いサンドバッグをたたいてほしかった。いい色合いのサンドバッグが見つかって本当にうれしかった。

撮影中ずっとニタニタしてたよって龍平くんに笑われました(山田)

──山田監督の「Winter Love」では、國村隼さん演じる漁師のオヤジさんが、圧倒的な存在感を放っていましたね。松田龍平さん演じる主人公・藤村が、とにかく捉えどころのないキャラクターなので、そのコントラストもおかしかった。現場の演出で、何か特別に意識されていたことはありますか?

「ゾッキ」より國村隼演じる漁師のヤスさん。
「ゾッキ」よりピエール瀧演じる漁師の定男。

山田 いやあ、特に演出らしい演出はしてなかったと思います。今回、大好きな俳優さんたちに声を掛けたら、皆さん快諾してくださったので。監督としては、その姿を見ているだけでただただうれしかった。実際、脚本をしっかり読まれて役が体に入っているので、現場に立ってもらえば芝居が成立する感じだったんですね。なので、なるべくテイク数は少なめにして。その佇まいをパッパと撮っていくことを考えてました。

──じゃあ、龍平さんにもあまり細かい演出はせず?

山田 うん。僕、昔から松田龍平の大ファンなんですね。10代からの友達で、「いつか共演したいね」ってずっと言い続けてきたんですが、今までチャンスがなかった。なので今回、彼が主演で出てくれたのが本当にうれしかった。こんな至近距離で龍平の芝居が独り占めできるわけですからね(笑)。撮影中ずっとニタニタしてたよって、あとで龍平くんに笑われました。

──なるほど(笑)。齊藤監督の「伴くん」では、なんと言っても伴役の九条ジョーさんが圧巻でしたね。まるで原作マンガから抜け出てきたような実在感で。

竹中 うん。

山田 確かに!

「ゾッキ」より左から森優作演じる牧田、九条ジョー演じる伴くん。

齊藤 ありがとうございます。竹中監督、山田監督のお二人がかなり早い段階で錚々たる俳優たちのキャスティングを決めてくださったので、「伴くん」の主人公2人については逆に冒険できたというか、思いきって選べた気がします。九条さんとは、別作品の宣伝でフジテレビの深夜番組に出させていただいた際、たまたま出会ったんですね。「コウテイ」というお笑いコンビでネタを披露されていたんですが、九条さん、本当に独特の佇まいをお持ちなんですよね。なんだろうな……初めてピータンを食べたときに似たモヤモヤ感っていうか(笑)。

竹中山田 はははは。

齊藤 とにかく見た瞬間に、伴くん役にはこの人しかいないと。自分の中で、揺るぎない確証みたいなものはありましたね。

──近年の日本映画はどうしてもマーケティング主導で、わかりやすさや伝わりやすさが過剰に重視されがちです。映画「ゾッキ」はそういった風潮へのカウンターという印象も強く受けました。「ゾッキA」「ゾッキB」には未映像化の短編もまだまだありますし、3月5日には3冊目の作品集「ゾッキC」も発売されています。本作を通じて何か、未来につながる手応えのようなものがあれば、最後に教えていただけますか?

齊藤 満足感、充実感はものすごくありました。ただ映画というのは、お客さんに届いて初めて完成するものだと思うので……。

山田 確かに。ボールは今、僕らの手の中にある状態で。まずこれを、なるべく多くの方々に届ける努力をしたい。今回「ゾッキ」という映画に初めて監督としても関わらせていただいたことが、自分にとってものすごくいい経験になったのは間違いないですから。それをいい形で、未来につなげていければなと。

竹中 本当にそうだよね。公開してからも、この3人でいろいろイベントとかも展開していければと考えているので。本当にうまく届けたい。きっとその先には面白い未来が待っている。なんとなく、そんな予感はしてるんですよ。

左から山田孝之、竹中直人、齊藤工。