滝藤賢一が語る「アイリッシュマン」|個性派俳優が見つめた名優たちの細かな芝居、目指すはジョー・ペシ

目指すはジョー・ペシ

──アル・パチーノは意外にも本作でスコセッシ組に初参戦を果たしました。

映画を観ていて一番最初に頭に浮かんだのが、今回こそデ・ニーロとアル・パチーノは同じ日に撮影しているのだろうか?という疑問でした。

──共演作「ヒート」の疑惑の件ですね。2人の顔がはっきりと映った2ショットがなく、同じ日に撮影してないのでは?という噂もありました。

「アイリッシュマン」より、アル・パチーノ演じるジミー・ホッファ(中央)、ロバート・デ・ニーロ演じるフランク・シーラン(右)。

2人が相当忙しかったのか、仲悪かったのか、理由はなんだったんですかね。「ヒート」での2人のシーンは全部カットバックだから本当に共演していたかはわからない(笑)。その2人が「アイリッシュマン」で相まみえる。デ・ニーロが主役、しかもスコセッシが監督の作品で。アル・パチーノがこの役を引き受けるのは、相当な決意があったんじゃないかと思いました。

──実は2人はプライベートでもかなり親交があったり、この映画では2人で一緒に取材を受けたりと決して仲が悪いわけではないようです。

2人はアメリカンニューシネマの頃からイタリア系アメリカ人の役者としてずっとライバル関係として見られてきたわけじゃないですか。世の中がそう思ってるから、周りがちょっと気を使いすぎてたのか。こんなに年月を経てから夢の対決なんて、やっぱり俳優だからできること。スポーツでは無理ですからね。世界中の人が痺れる共演だと思います。

──滝藤さんは本作でのデ・ニーロとパチーノ、どちらの演技が印象に残りましたか?

デ・ニーロですかね。役も演技も老け方もよかった。車に乗ったらそのまま墓場まで連れていかれるかもしれない世界なわけじゃないですか。誰も信用できないし、自分がいつ殺されるかわからない。殺すときはもう一瞬で殺してましたからね。「やるぞ、やるぞ」みたいなドラマ的なタメもなく、一瞬。デ・ニーロがすーっと歩いて銃をパンパンと撃つだけ。でもやっぱり本当に人を殺すときはこういうことなのかなと思わされました。でもまあ、アル・パチーノがいいからデ・ニーロがより引き立つわけですよね。2人とも最高っす!

──ほかのキャストはいかがでしたか?

「アイリッシュマン」より、ジョー・ペシ演じるラッセル・ブファリーノ(左)。

僕はジョー・ペシを見て、ああいう俳優になりたいと思いました。あのポジションを演じられる俳優に。

──デ・ニーロやパチーノではなく、ペシとは意外です。彼が演じたラッセル・ブファリーノは、何かとフランクの面倒を見る裏社会のドンという立ち位置でしたね。

じとーっとデ・ニーロを見つめるシーンが何度かあったと思うんですよ。特にハーヴェイ・カイテルからデ・ニーロが問い詰められるシーン。横のジョー・ペシは何も言わずに、ただじっとデ・ニーロを見てるだけ。セリフはないのに想像力を膨らませられる。セリフがあるほうが実は簡単で、ああいう言葉にしない演技はとても難しい。

──俳優引退宣言をしていたジョー・ペシは、9年ぶりの映画出演でした。オファーを50回も断ったという報道もあります。

滝藤賢一

映画では最初から最後までフランクの人生が描かれるわけですよね。だからデ・ニーロは脚本にキャラクターが導かれてるから演じやすい。僕もそうだけど、いわゆる脇役の人生というのはあまり描かれない。だからただ静かだけど、出演シーンが多いジョー・ペシが一番大変な役だったと思うんですよね。ジョー・ペシっていくつなんですか?

──現在76歳、デ・ニーロと同い歳で、スコセッシの1つ下ですね。

僕は43歳。目指すはジョー・ペシですね。言いたいですよ「僕、俳優引退した」って、50回も断ってみたい(笑)。

──ではこれから30年以上、ペシのような名バイプレイヤーとしての活躍を……。

いや、主演がやりたいですよ、もちろん(笑)。今まで主演を嫌というほどやってればいいですけど、僕はまだまだ。20代から30代が第1ステージだとしたら、40代から50代が第2ステージ、60代から70代が第3ステージ。ジョー・ペシのような人間的魅力を醸し出すために、第2ステージではとにかく主演を張れるようにがんばりたいです。

人差し指がずっと震えてる演技

──ほかにもキャストで印象に残った演技はありましたか?

やっぱり出てくる人みんな面白い。特にアル・パチーノから「イタ公」と呼ばれてキレるキャラとか。

──スティーヴン・グレアム演じるトニー・プロですね。

「アイリッシュマン」より、スティーヴン・グレアム演じるトニー・プロベンツァーノ(中央)。

そうそう、トニー・プロ。素晴らしい俳優だなと思いました。声を荒げる前から、目付きや居方でヤベえ奴だとわかる。だって刑務所でアイスクリーム食べてるアル・パチーノにキレる直前、立てた人差し指がずっと震えてるんですよ。

──まったく気付きませんでした。俳優さんならではの視点ですね。

怒りすぎてて興奮が収まらない。この人はぶっ壊れるかもと思うよね。ジョー・ペシにしろグレアムにしろ、目や指で何かアクションがあった。最近まで仕事でよく一緒にいた古舘寛治さんが「セリフには必ずアクションがある」とずっと言ってたからより細かく見ちゃいました。古舘さんには演技に嘘というか、何か1つおかしなことがあると、すぐ指摘されてました。「今、何を考えてた?」「ちゃんと俺に言って」「聞こえない」「ボソボソしゃべったらリアルだと思ってる俳優みたいなことやめて」と、はっきり言ってくるから(笑)。

──そのとき滝藤さんは?

わかった、と。だってその通りですもんね。じゃあこうする、こうしたらいい?とずっとディスカッションです。今回デ・ニーロは自分で企画を考えて、ずっと温めてきたわけでしょ。そりゃいい芝居になりますよ。僕も古舘さんと企画して、脚本ができる前から2人で打ち合わせを重ねて、クランクインの何カ月も前から本読みをして。そうすると自分の中で説得力と自信を持って現場にいられることを実感しました。感情が起きるシーンで感情を起こそうとしなくても、相手のエネルギーだけであっという間に感情が起きるんですよ。こんなに言って、いい芝居じゃなかったらどうしましょ(笑)。

──それが例えば「アイリッシュマン」だと……。

滝藤賢一

ジョー・ペシがデ・ニーロに「お前を巻き込まないとお前に阻止される」と言ったホテルでの朝食シーン。デ・ニーロは、なんとも表現できない強烈な顔をしてましたよね? ちょっとできる役者だったら涙をポロポロこぼしたり感情を起こした芝居をするんだろうけど、そんな安っぽいことはしない。あそこですべてを納得して飛行機に乗る。ああいった演技を選択できるデ・ニーロはすごい。

──本作でもっとも非情さが際立つシーンでした。滝藤さんの目にフランクの人生は、どのように映りましたか?

形は違えど僕の人生ととても似ているんですよね。共感はできるし、苦悩が見えた。僕も何もないところから誰かに見つけられて引っ張り上げてもらって。この世界で活躍する場を作っていただけた。フランクみたいに家族に不自由させないために仕事も断らず、できる限り全部受けようと思いながら生きているので、本当にフランクが歳を重ねてからは胸が苦しくなったね。

──晩年の描写は特に胸に迫るものがありました。

なんでこの人はこういう行動を?あのときのデ・ニーロはなんであの行動を?と考え出したら何回でも観たくなります。Netflixは何回でも繰り返して観られるし、いつでも観始められるし、いつでも止められる。特に家庭が戦場の女性たちはなかなか映画館も行けないし、時間的にイッキ見も難しい。もしかしたら映画もじっと座って2時間観る時代ではなくなったのかもしれないですね。あー、また映画の仕事なくなるわ……。でも「アイリッシュマン」はたくさんの人に観てほしいと思います。