今までの経験をどう周囲へ還元するか “人間麹菌”斎藤工が語るドラマ「漂着者」

金曜ナイトドラマ「漂着者」が、現在テレビ朝日系で毎週金曜に放送中。TELASA(テラサ)でも第1話から最新話まで一挙配信されている。

秋元康が企画・原作・脚本を担った本作は、記憶喪失の漂着者“ヘミングウェイ”をめぐる物語。身元不明の彼が、世間を騒がせる事件の数々を解決に導いたことで、次第に人々から崇められていくさまが描かれる。映画ナタリーではヘミングウェイ役の斎藤工にインタビューを実施し、さらに自身を“人間麹菌”と表現した彼の魅力をコラムで紐解いていく。ヘミングウェイに魅了されていく新聞記者・新谷詠美を演じた白石麻衣、彼に疑いのまなざしを向ける刑事・野間健太に扮した戸塚純貴からのコメントもお楽しみに。

取材・文 / 前田かおり撮影 / 阿萬泰明

ドラマ「漂着者」はTELASA(テラサ)で最新話まで全話一挙配信中

斎藤工インタビュー

──ヘミングウェイはかなり特殊なキャラクターですが、演じてみていかがですか?

斎藤工

まだ撮影も序盤なので、どうでしょう(※取材は2021年7月中旬実施)。ただ「斎藤工が演じる」という情報すらちょっと邪魔をしてしまうかもしれないと思っています。番組を観てくださる方にはなるべく素の自分が届かないほうがいいと意識して、日々作品と向き合っています。不思議な感覚ですね。

──ビジュアルもインパクトがありますよね。ほかにも演じるにあたって意識したことはありますか?

「本当にこんな人がいるんだ!」と思ってもらえるようなところを目指したいと考えていました。それでネットを見ていたら、自分がイメージしていたような、漂着者のような方がいたんです。その方のルックを参考に、衣装さんやメイクさんにもご尽力をいただきました。漂着時の爪を長くしてみたり、本当に漂着したらどうなんだろうとちょっと海で漂ってみたり。

──漂着シーンは全裸ということでしたが……。

斎藤工演じるヘミングウェイ。

実は、今はお尻をしっかり映すと放送コードに引っかかってしまうので、スタッフさんが海パンを用意してくださったんです。ただ、そのシーンがクランクインだったので、主役としての心意気も伝えたくて全裸でやることにしました。でも全裸で海に入っていたので、すぐ陸に上がるということはできず、そのうちにヤドカリが体の溝という溝に潜り込んできて……。とても貴重な経験をしました(笑)。

──秋元康さん企画・原作の作品は「共演NG」に次いで2作目になりますが、秋元さんの作品の面白さはどこにあるのでしょう。

実はこのドラマのお話をいただいたのは、コロナ禍以前でした。僕は、秋元さんは未来が見えているある種の予言者じゃないかと思っています。「共演NG」のときも、秋元さんはどこまで先が見えてるんだろうと思いましたが、今回もドラマの示唆するものが時代に合ってきてしまった気がして、恐怖に近い驚きのようなものを感じています。

──台本はいかがですか?

最初にいただいたのはプロットだったのですが、そこにも作品自体が漂着する場所が描かれてなかったんです。でも映画と違って、結末を知らないまま関わることがプラスに働く作品だなと思いました。1話、1話、脚本が届くたびに「ウソでしょ⁉」と驚くような要素がある。しかも、一過性の刺激的な展開にするためだけのものじゃなくて、非常にロジカルな背景があることに、また驚愕するという……。そうやって物語と日々出会う衝撃が、記憶のない男を演じることとつながっているので、このまま秋元さんの手のひらで踊らされていたいですね。

「漂着者」 斎藤工

──斎藤さん自身、プロデューサー業もやってらっしゃいますが、そんな斎藤さんから見た秋元さんのプロデューサーとしての姿はいかがでしょうか。

実はまだちゃんとお会いしたことがなくて、本当に実在する方なのかわからないんですけど……(笑)。いろんな時代を築いてきた方の現在地って、過去の蓄積の上にいらっしゃるか、巨大な山をさらに登り続けているのか2つのタイプがあって。秋元さんは後者だと思うんです。秋元さんが築き上げたものって計り知れないですが、その功績を振り返らず、「秋元康」をブランドとして見ていない人たちに向けて何かを打ち出し続けている。そこがプロデューサーとして素晴らしいところだと思います。

──なるほど。ドラマの放送スタートは、東京オリンピックの開幕日というタイミングになりましたね。

一見この巡り合わせって、作品としてはちょっと不利なんじゃないだろうかと思ったんですけど、逆に言うとこの作品だからこそ、ここに漂着したんじゃないかと。

──タイトルの「漂着者」が、何か示唆しているようです。

いみじくもですね。コロナ禍で本当に今までの文法が通じなくなったという世界中が体験したことが、ヘミングウェイというキャラクターとして擬人化されたのではないかと思います。本当はこう行く予定だったけれど、この道は今、封鎖されてしまっている。でもここからまたリスタートするためには必要な期間だと思うんです。このドラマが視聴者の皆さんに必要とされるドラマになっていく、そんな必然性を感じています。

斎藤工(サイトウタクミ)
1981年8月22日生まれ、東京都出身。モデル活動を経て、2001年に俳優デビューを果たす。俳優、映画監督、白黒写真家など幅広く活動。移動映画館「cinéma bird」を主宰しているほか、ミニシアターを俳優主導で支援するプラットフォーム「Mini Theater Park」の発起人も務める。2021年公開作に「孤狼の血 LEVEL2」「CUBE」があり、齊藤工名義で企画・プロデュースした「その日、カレーライスができるまで」は9月に封切られる。公開待機作には主演を務めた「シン・ウルトラマン」も。Netflixオリジナルシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」は2022年に配信される。