裏テーマは自分の中の闇と向き合うこと(河森)
──主人公のカスミは、母子家庭で育った自分に自信の持てない女子高生という設定です。“普通の女子高生”の描かれ方は21歳の水沢さんから見て違和感はなかったですか?
水沢 現代の女の子っぽいなと思いました。考えてることを言えない子ってすごく多いですよね。私も学生時代はそうで、周りとなんとなく付き合っていることも多くて。
──河森総監督は現代の女子高生を描くにあたって何かリサーチを?
河森 たまたま知り合いに心理学関係の方やカウンセラーが多くて、自分も深層心理学に興味があるんです。鬱になったり引きこもったりするのは親と悪い関係にある学生ではなくて、親といい関係にあるが故に言うことを聞かないといけないと考える子に多いようで。いい子ほど追い込まれてしまうという話をよく聞くんです。
水沢 高校生の頃、学校になじめていない時期は、親に「学校行ってきます」とだけ言ったあとにゲームセンターへ行ってました。でも親と仲が悪かったというわけではないんです。
河森 仲が悪くないからこそ親を大事にしないといけないと思って自分を出せなくなってしまう。カスミというキャラクターはそこから生まれました。
水沢 映画で印象に残っているのはカスミが闇にとらわれてしまったところで、おとなしかった彼女のすべてが爆発したように感じて。自分の意見を主張しない子ではあるけれど、つらい思いは抱えていたんだなと気付いて心が「ウッ!」となりました。
河森 映画に登場する錬金術にはもともと興味があったんですけど、スキルとしてではなく心の錬金術に興味があって。どういうことかと言うと、深層心理学のテーマとして子供が大人になるときに心の変容が必要というのがあるみたいなんですね。これはさまざまな物語でも取り入れられていて、つまり自分の中の闇と向き合わないといけないということ。裏テーマとしてそれを表現したいと思っていました。
男の人とごはんに行くと吐いちゃうくらいひどかった(水沢)
──ちなみに水沢さんは闇と向き合った経験はありますか?
担当マネージャー (水沢は)毎日ですよ(笑)。
河森 毎日!?
水沢 確かにいろいろありますね(笑)。学生時代に友達がいないことを親に言えなかったんですけど、高校2年生の冬にお母さんと大喧嘩をしたことがあって。そこで「あんなになじめないところには行きたくない!」と言ったら、お母さんを号泣させてしまったんです。でもそれをきっかけにちゃんと話し合うようになって、「学校も仕事もがんばりたい」という結論を出すことができました。
河森 よかったね、自分を爆発させることができて。
水沢 そうですね。人に何かを伝えることの大切さを知ったというか。それまではこうやって普通にしゃべることもできなかったんです。男の人と2人きりでごはんに行くと吐いちゃうくらいひどかったんですよ。
河森 ええ!? すごい変化というか……がんばったんだね(笑)。
水沢 あははは(笑)。私も自分でよくこんなに成長できたなと思います。
河森 「お母さんにこんなこと言えない」という自分の中の闇をさらけ出せたのが鍵だよね。カウンセラーの方によく聞くのは、そのタイミングを逃した人が40、50歳になっても自分を出せずにいるということ。その歳になってしまうと親に対して強く言うことができなくなってしまう。
水沢 なるほど。私はお母さんとの大喧嘩があったけれど、何かきっかけがないと自分の闇を見せるって難しい気もします。
河森 そうだね。映画では、異世界に飛ばされて命の危機にさらされるところまでいかないとカスミは闇を出すことができない。現代の子たちは闇に向き合う前で立ち止まっちゃう傾向にある気もするんです。それが怖いことのような気もしていて。異世界に召喚されるのはもちろんフィクションですけど、カスミのように何か大きな出来事によって早いうちに闇と向き合って、それをさらけ出すことが大切だと思います。
水沢 この話を聞いたうえで映画を観るとまた違った印象を受けると思うので、もう1度観てみます!
- 「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」
- 2019年6月14日(金)全国公開
- ストーリー
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女子高生のカスミはある日不思議な声に導かれ、暗黒竜デストルークが支配する異世界バベル大陸へ召喚される。リズは「闇を封じる幻影兵」を召喚したつもりだったが、カスミはそのような力を持っていなかった。カスミはリズ、ガンナーのエドガーと一緒にレジスタンスの村へ向かうも、そこで熱を出し倒れてしまう。そんな折、闇に堕ちた幻影兵であるザイン、セツナ、メラとニクスの姉弟が“闇の魔人”とともに村を襲撃。絶望を目にしたカスミの脳裏に、あるビジョンが浮かび上がったとき、彼女の中に眠る力が目覚める。
- スタッフ / キャスト
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総監督 / ストーリー構成:河森正治
原作:今泉潤、FgG「誰ガ為のアルケミスト」
監督:高橋正典
脚本:根元歳三
主題歌:石崎ひゅーい「Namida」
エンディングソング:石崎ひゅーい「あの夏の日の魔法」
声の出演:水瀬いのり、逢坂良太、降幡愛、花江夏樹、石川界人、堀江由衣、生天目仁美、内田雄馬、今井麻美、早見沙織、江口拓也、Lynn、福山潤ほか
- 「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」公式サイト
- ゲーム「誰ガ為のアルケミスト」公式サイト
- 誰ガ為のアルケミスト公式(タガタメ)(@FgG_tagatame) | Twitter
- 「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」作品情報
©2019 FgG・gumi / Shoji Kawamori, Satelight
イベント情報
- 「河森正治EXPO」
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2019年5月31日(金)~6月23日(日)東京都 東京ドームシティ Gallery AaMo
10:00~20:00(最終入場19:30)
※6月17日(月)は19:00まで(最終入場18:30)
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2019年5月31日(金)~6月23日(日)東京都 東京ドームシティ Gallery AaMo
- 河森正治(カワモリショウジ)
- 1960年生まれ、富山県出身。大学在学中からメカデザイナーとして活動し、24歳のとき「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」で監督デビューした。押井守の監督作「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」や、「エウレカセブン」シリーズでもメカデザインを担当。ゲーム「アーマード・コア」シリーズのメカデザイン、ソニーによるペットロボット・AIBO(ERS-220)のデザインを手がけるなど幅広い分野で活躍してきた。現在、プロデビュー40周年を記念した展示会「河森正治EXPO」が東京・東京ドームシティ Gallery AaMoで開催されている。
- 水沢柚乃(ミズサワユノ)
- 1998年2月20日生まれ、静岡県出身。講談社が主催するオーディション・ミスiDでミスiD 2019に選ばれ、グラビアやゲームの仕事を中心に活躍中。TwitterやInstagramでは“10秒グラビア”と題した動画を投稿して注目を集めている。2018年に公開された「ほっぷすてっぷじゃんぷッ!」2作や「初恋スケッチ~まいっちんぐマチコ先生~」に出演した。