スターチャンネルEX 特集|米大統領選挙直前!海外ドラマで知るアメリカの政治とリアル

激動の2020年 ドラマで知る“現実味がない”アメリカと米国大統領選挙 文 / 平井伊都子

左からドナルド・トランプ、ジョー・バイデン。アメリカ現地時間9月29日に行われた第1回テレビ討論会は、90分間にわたり激しい言い争いが続く泥仕合となった。(写真提供:KEVIN DIETSCH / UPI / Newscom / ゼータ イメージ)

大統領選まであとわずかだというのに、ドラマシリーズのクリフハンガー(※)のような出来事が次から次へと起きている。リアリティショー出演経験もある現職大統領のコロナウイルス陽性反応なんていうシナリオを脚本家が書いてきたら、ドラマだろうがショーだろうが「現実味がない」と言ってプロデューサーに速攻却下されるだろう。でも、そんな非現実的なことが日々起きているのが2016年から現在に至るまでのアメリカだ。

※編集部注:話の続きを期待させるような終わり方で次回に持ち越す作劇手法

政治経済や社会状況をエンタテインメントに昇華させるのはアメリカの映画・ドラマの得意技で、予備知識があればあるほどゾクゾクする面白さに取り憑かれる。1976年に制作された政治映画の名作「大統領の陰謀」はウォーターゲート事件を追う新聞記者たちの物語だが、劇中に出てくるディープスロート(情報提供者)の素性は映画の約30年後に初めて発覚している。2013年にシリーズ開始した「ハウス・オブ・カード 野望の階段」では、まるで現実を反映したかのようなリアルな政治の駆け引きが描かれ視聴者を夢中にさせたが、2016年のシーズン4と2017年のシーズン5の間にトランプ政権が発足し、現実とフィクションがひっくり返るような事態に見舞われた。シーズン5以降の急激な失速は、2017年に起きた主演俳優のスキャンダルだけが理由ではないだろう。

この9月末にアメリカで放送された「The Comey Rules(原題)」は、2013年にオバマ前大統領に指名され2017年にトランプ大統領に解任されるまでFBI長官を務めたジェームズ・コミーの回顧録を元に制作されたドラマ。2016年の大統領選を巡るロシアゲート事件にFBIが切り込んでいく様子が描かれ、今年1月に行われたばかりの現役大統領の弾劾裁判のことなどすっかり脳裏から消え去っていた視聴者を現実に引き戻した。それと同時に、「大統領の陰謀」が描いた正義は現代には通用しないという過酷な現実を突き付けてきた。

「ウォッチメン」

2020年の世界に起きていることは“事実は小説より奇なり”かもしれない。だが、ドラマで描かれている事象が現実の暗喩であることに注目すると、目の前で起きている奇怪な現実を異なる視点で見られるようになる。マルチ商法の歯車に“個人事業主”として取り込まれ搾取されていく庶民を描く「ビカミング・ア・ゴッド」の舞台はフロリダ州。巨大テーマパークを擁し、トランプ大統領が別荘を構えるフロリダ州がなぜ大統領選において重要な“スイング州(激戦州)”とされているのか、その理由を推測するようなドラマだ。コロナウイルスの感染拡大に関しても、米国の国家安全保障問題担当大統領補佐官は「中国(政府の隠蔽体質)に責任がある」と、1986年に旧ソ連で起きた原発事故を描くドラマ「チェルノブイリ」になぞらえて発言している。今年6月に全米に広がったブラック・ライブス・マター運動を理解するのに、「ウォッチメン」が描いている白人至上主義と人権問題のねじれ構造が役に立つ。

優れたエンタテインメントは社会の合わせ鏡の側面を持つ。現実社会を巧みに反映させたフィクションが生まれ、ドラマや映画を観ることによって現実に起きている問題に思いを馳せるきっかけとなる。そして、激動の2020年に起きているさまざまな事象は、近いうちにドラマや映画のリファレンスとなってエンタテインメントに昇華されていくのだろう。