映画「静かな雨」 PR

「静かな雨」仲野太賀×中川龍太郎×梅原英司|目の前にいる人をいかに愛せるか “行き止まりを生きる世代”に向けた現代の寓話|精神科医・和田秀樹の感想も

仲野太賀と衛藤美彩がダブル主演、中川龍太郎が監督を務めた「静かな雨」が2月7日に公開される。先天的な障害で片足を引きずって歩く行助役を仲野、事故によって新しい記憶を保てなくなってしまうこよみを衛藤が演じ、劇中では一緒に暮らすことになった2人のささやかな日常がつづられていく。

映画ナタリーでは2016年公開作「走れ、絶望に追いつかれない速さで」でもタッグを組んだ仲野と中川に加え、脚本を担当した梅原英司を招いて鼎談を実施。行助とはまったく違う人間だと語る仲野の役作りや、中川が初めて手がける原作ものとして「静かな雨」を選んだ理由、1行のテーマをもとに書くという梅原の脚本術について話を聞いた。また記憶が題材になっていることから、映画監督としての顔も持つ精神科医・和田秀樹へのインタビューも掲載している。

取材・文 / 小澤康平 撮影 / 入江達也
仲野太賀:スタイリング / 石井大 ヘアメイク / 高橋将氣

4、5年で得たものをぶつけ合いたい(仲野)

──仲野さんと中川さんは2016年公開作「走れ、絶望に追いつかれない速さで」以来のタッグですね。今回中川さんが監督を務めるにあたり、最初にプロデューサーにお願いしたのが「主人公は仲野太賀で」ということだったと伺いました。

中川龍太郎 「走れ、絶望に追いつかれない速さで」はダイレクトに自分が経験したことを描いた作品なんです。そこで一緒に仕事したこともあり、自己投影したキャラクターを演じてもらうなら太賀というイメージを持っていて。「静かな雨」の行助は足を引きずって歩いていて、ちょっとしたコンプレックスや不全感を抱えて生きているキャラクター。そういう意味では自分の分身であるし、僕らの世代の象徴でもあると思ったんです。だから行助役を太賀にやってもらうのは自分の中で必然だったのかもしれない。

──仲野さんはオファーがあったときどんな心境でしたか?

仲野太賀 中川監督が初めて原作ものを手がけるということで、力になれればと思いました。「走れ、絶望に追いつかれない速さで」のときは若かったので僕も監督もがむしゃらで……今でも若いんですけど(笑)。それ以来お互いに歩みを進めていって、この4、5年で得たものをぶつけ合いたいなと。

左から仲野太賀、中川龍太郎、梅原英司。

──久しぶりに一緒に映画を制作してみて、関係性に変化はありました?

中川 いや、関係性は同じだったよね?

仲野 変わらなかったね。

──映画について相当議論を重ねたと聞いたのですが、喧嘩はなかったですか?

仲野 喧嘩はないですけど、衝突というか。激しめのディスカッションはしました。

「静かな雨」

中川 いいね、その言い方。激しめのディスカッション(笑)。1つ覚えているのは、こよみ役の衛藤(美彩)さんのよさを引き出すには即興で演技をしてもらうほうがいいというプランが出てきたとき。“ザ・役者”の太賀と衛藤さんの即興を生かすというのは、最初なかなか食い合わせがはまらなかった。

──それはどう解決したんでしょうか。

仲野 ……とにかくがんばる。

中川 ははははは! 激しめの議論した意味あるのか(笑)。

1行のテーマに則って書く(梅原)

──脚本は梅原さんと中川さんが共同で執筆されています。どのように進めていったんですか?

梅原英司 中川さんのこれまでの作品は感性や演出の部分が際立っていることもあり、プロデューサーからは物語の土台を底上げしてほしいと言われたんです。なので、ストーリーの骨子がしっかりした初稿を上げて、それ以降は中川さんに任せる形でした。

中川 原作が詩的な世界観だからこそ、僕が考える詩的なものと実は掛け合わせがよくないんです。だから原作をもとに梅原さんに起承転結のある脚本を書いてもらって、それを僕が打ち壊してアンチテーゼとして完成形を生み出す必要がありました。

──ストーリーの骨子とは何になるんでしょうか?

梅原 基本的には1行のテーマに則って書くんです。ログラインですね。今回は、原作者の宮下奈都さんが「恋愛小説というより行助がこよみをどう愛するかの物語」とおっしゃっていたので、それを切り口にして。行助がこよみを愛していることを表現できる要素は全部入れたし、邪魔になる描写は間引きました。

中川 めちゃめちゃ理知的ですよね。僕みたいにスリップして、撮りたいシーンだけで話が暴走していくこともない。ちゃんと大人。

梅原 ちゃんと大人って(笑)。

仲野 梅原さん含め、今作では映画のことをよく知っているスタッフが多かったから、中川監督が監督業に専念できていた気がします。今までは脚本を自分で書いて、実体験も引っ張り出して、背負うものがあまりにも多かったと思うけど、今回は演出や表現に特化できていた。

「静かな雨」

中川 確かにその余裕ができたのは大きかった。あと極めてよかったのが、太賀にカメラマンの塩谷(大樹)さんを紹介してもらったことです。「君が君で君だ」とか松居大悟さんの映画に参加している方なんですが、彼に撮影を担当してもらったのが作品のトーンを決定付けたと思います。

仲野 そうだね。

中川 歩く行助の姿を手持ちカメラで捉えていくうえで、塩谷さんの参加は必要不可欠でした。太賀自身も写真を撮っているからこそ、塩谷さんという発想が出てきたんだと思います。

──今話を聞いていて、仲野さんと中川さんは役者と監督であると同時に、映画人としていい関係を築いているように感じます。

仲野 (中川監督は)生き物として珍しいタイプなんです。

中川 (笑)

梅原 確かに出会ったことがないタイプではある。

──どんなところに珍しさを感じるんですか?

仲野太賀

仲野 4年くらい前に初めて仕事をしたときは、いわゆる表現者って僕の周りには俳優しかいなかったんです。20代で映画を撮り続けられる人は少ないですし、同じ表現者ではあるけど違う職種というのが新鮮でした。

中川 そうかもしれないね。

仲野 映画監督って年齢を重ねると脂が乗ってくるものだと思うんです。そういう意味では早い段階で出会えたなという思いがあります。

──梅原さんは中川さんに対してどんな印象を?

梅原 お酒の場であれだけ思想の話になるのはなかなか……。

一同 ははははは!

仲野 俺言わなかったのに!

中川 反省してるんです(笑)。映画の話より政治の話が多いですよね。

仲野 僕は半分(中川監督を)政治家だと思ってます(笑)。